2001年6月度
   
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その他借り物

『ギャラリーフェイク』22巻  細野不二彦 ビッグコミックス

美術界という底なしの森を、裏も表も自在に歩く、美術商フジタの活躍を描いたシリーズ22巻目。ここ数年は、はっきり言ってマンネリですが、この巻の「現代アート」と「オタク文化」をテーマにした話は、某所でも話題になっておりました。

どうみても、どこぞのアニメ絵そのものである「作品」を「現代アート」と称して発表する、フジタ氏いわく「パクリ屋」。モデルとなったらしいアーティストの記事を新聞で見たことはありましたが、なるほどねえ。

さて、このシリーズ、いつまで続くのかなあ。
Novelsそ他
『水滴』 目取真 俊  文春文庫

これも、minatoさんからの借り物です。沖縄出身の著者によって描かれた、沖縄の物語。短編が2編と、著者の「オキナワン・ブック・レビュー」が収録されています。表題作の「水滴」は、第117回芥川賞受賞作だそうです。

島で起こる、ちょっとシュールで幻想的な出来事。しかし、その背後にあるのは、あの太平洋戦争の悲劇が島に落とす暗い影。「オキナワン・ブック・レビュー」は全部は読まなかったのですが、かなり、はっきりしたイデオロギーの持ち主なのかな?この人。ま、たまには、こういう視点もいいか。
『ちょびっツ』2巻  CLAMP ヤンマガKC

美少女型「パソコン」が、街にあふれる世界で、超可愛いパソコンを拾ってしまった主人公。全くの初期化状態であったパソコン「ちい」と暮らす本須和くんの、ウハウハな日々を描いた2巻目です。

いやー、「人造人間」、人間そっくりな機械のジレンマというテーマは、アトム,キカイダーの頃からもう、手アカつきまくってますし、美少女型パソコンという設定もまた、若い男性の願望そのもの!で、なんのひねりもない。しかし、そのことは作者も、百も承知のようです。むしろ、小細工なしに、「ちい」をいかに可愛く可憐に描くかだけに心血を注いでいるようで、いっそすがすがしい。ここまで徹底すれば、後は実力派のCLAMPのこと。ちゃんと読み応えが出てくるものです。

機械が相手のラブストーリーは、今時の流行のようです。確かに、今時、献身とか、無償の愛とかを期待できるのは、相手が機械の場合だけなのかもしれない。生身の人間や、動物に、そんなものを期待するのは、あまりに都合がいいような気がしてしまうから。

丸ごとの相手をいとおしむには、人間は互いに、あまりに複雑な代物に成り果ててしまったのかもしれない。時に、機械の愚直さ、もしくは単純さに、癒されることってあるものねえ。
Novels図書
『時計を忘れて森へいこう』 光原百合 東京創元社

『遠い約束』でハマった光原さんの、自然豊かな森を舞台にしたミステリー。主人公は、近くに南アルプスをいただく避暑地、「清海」(バレバレでんがな)に住む高校生、翠(みどり)。彼女は、近くにある「シーク協会」で、自然解説指導員(レンジャー)として活動している人たちと知り合い、「シーク」に入り浸りながら、自然豊かな森が垣間見せる多くの顔に触れていく。

翠が「シーク」の活動や、学校で出会うささやかな事件。それをときほぐす探偵役は、レンジャーの1人、護さん。本当にいい人ながら、人間に対する洞察力は並々ならぬ護さんを、翠ちゃんはほとんど崇拝しちゃってます。

読み終えて、おもしろかったかというと…。すみません、あまりに綺麗すぎて、ギブアップでしたm(_ _)m。いや、なぜか謝りたい気分になってしまった。
主人公は、純で可憐な高校生。護さんは人間離れした超弩級の「いい人」。清海の自然は、四季折々に夢のようにうつくしい。それはとってもよく分かる。美しい自然の中で、人もまた、ありのままの自分をとりもどしていく。折々にこぼれる護さんの含蓄ある言葉も、上滑りにならず説得力がある。それは確かなのですが…。

しかしなから、そこがあまりに浮世離れした世界に思えて、息がつまってしまいました。しょせん私は哀しい俗物なのさ。
『風光る』9巻 渡辺多恵子 小学館フラワーコミックス

新選組青春グラフティ、第9巻目。禁門の変より後、大胆な組織改変を行った新選組。おセイちゃんは、「総長」の山南さん付きになり、沖田さんと行動をともにできなくなって、へこみ気味です。

なので、あまり歴史的大事件もなく、恋愛模様がメインの少女漫画的展開。しかし、この巻の山南さんは、本当にいい人なのがせつないです(泣)。

『Home Sweet Home』6巻 五十嵐浩一 少年画報社

マイナーながら楽しみにしていた、ホームコメディ。終わってしまったので完結記念に一言です。結局、やもめの土屋氏は、だれともくっつかずに、元妻の思い出と、元同級生達との友情と子供達を支えに、強く生きていくようです。

やはり、永遠に年をとらない死者は、ある意味最強なのかもなあ。
『イソップ扁桃腺』 坂田靖子 潮出版社

よく知られているイソップ寓話を元ネタにした、坂田靖子の短編集。坂田さんの作品集では以前、西洋おとぎ話を忠実に漫画化した『ビーストテイル』などがありました。『ビーストテイル』は、あらすじは本当に、おとぎ話の通りなのに、あまりに違和感がないので、つい、坂田靖子のオリジナルのように思えてしまう、不思議な1冊でした。今回はそのイソップ版なのかと、思っていたのですが。

どちらかというと、イソップ寓話に含まれる教訓を取り上げ、それを一ひねりした感じのオリジナル短編集でした。ちょっと意地の悪いひねり方が、坂田靖子らしくてなかなか良い。最後の方に収録されていた、平安時代の下級役人の話も、オチはないですが、雰囲気がいいです。
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『媚薬』 図子慧  角川ホラー文庫

ホラーが読みたくなるシーズンとなりました。まずは皮切りにこの1冊。図子さんは初めて読みましたが。うーむ、イマイチ。だって、怖くないんだもん(^^;)。

不気味な雰囲気だし、物語全体の構成としてはうまくて、一気に読めた。しかしながら、やはり細部が甘い。ホラーは、演出力が勝負です。すみずみまで手を抜いてはいけません。

ジャンルは一応、バイオホラーなのですが、貴志祐介あたりと比べると、断然ネタに対する掘り下げが浅いし、そのウンチクが分かりにくい。せっかくのネタは、もう少し読者に分かりやすく明かさないと、もったいないです。

なにより、インターネットで手に入れた怪しげな薬を、何も考えずに飲むような○○が、どんな末路をたどろうと、もうそれは、読者と関係ない世界の話なのでした。恐怖は身近にあってこそ怖いのであって、自分と関係ないバカが、愚かさ故にドツボに填るのは、ただの自業自得というものでありましょう。

謎解き役の主人公は、なかなかがんばってくれましたが、結局彼は最後まで安全圏にいて、傍観者だったからなあ。
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『遠い約束』 光原百合 創元推理文庫

凍月さんのところでおすすめだった、光原さん。このたび古本屋で、本当に呼ばれたかのように、ふと見つけました。読んでみて、大当たり!でした。いやー、おもしろい。王道な日常ミステリもののシリーズなのですが、ネタも文章もキャラも生き生きしていて、感覚がぴったり合う感じ。これは、拾い物でした。

このたび晴れて浪速大学(なんだい)の学生となった、主人公の桜子。彼女はさっそく、かねてよりの悲願を果たした。それは、大学の「ミステリ研」の一員となること。ミステリ研は桜子の他に、男ばかり3人の先輩がいるだけであったが、その3人はいずれ劣らぬ生粋のミステリマニア。彼女は先輩たちと、あちこちで遭遇する事件の謎に挑みながら、大学生活を謳歌するのだった。

ミステリ研の先輩3人は、美形、なごみ系、ワイルド系と、3者3様、個性的。彼らと、同好の士だけに許される濃ゆい会話を満喫する桜子。うーむ、これが正しい大学サークルのありかたよね、と、つい、うらやましくなってしまいます。

表題作の『遠い約束』は、他界した桜子の大叔父が残したはずの遺言状を、なんだいミステリ研のメンバーが探す話。回想に登場するこの大叔父さんがいいです。孤高のミステリマニアであり、死期を予感してからは自分の美学を貫いた人。彼は、親しい人たちへの最期の贈り物として、遺言書の隠し場所に一世一代の謎を仕掛けたのでした。この結末には、じんと来てしまった。

話の通じる仲間と巡り会うこと、同類が近くにいてくれることの幸福感が伝わってくる、そんなシリーズでした。この感覚は、きっとミステリだけでなく、あらゆるマニアに共通だと思います。そして、桜子と先輩達とのスタンスが、恋愛に行かず、あくまでも「仲間」なのもいいです。

この人のもう一つの作品も、探してみよう。このシリーズも続き出ないかなあ。
Novels
そ他
『ゆめこ縮緬』 皆川博子 集英社文庫

『死の泉』で弾みがついた皆川博子さんのおすすめを貸していただきました。minatoさん、どうもありがとうございます。

さて、こちらは日本の、おそらく戦前の昭和初期くらいを舞台とした短編集。幻想的にして鮮烈なイメージの短編が8編収録されています。『死の泉』とかなり雰囲気が違いますが、こちらの方がどうやら、皆川さんの本領のようです。

物語で描かれているのは、その時代の、経済的には割合恵まれている人々の日常が多いです。豪奢なお屋敷と、アンティーク。どこかモダンで少女趣味な華やかさ。それでいて、そこには、常に足下からじっとりとした湿気が這い上ってくるかのような、くすんだ陰影があります。

物語で描かれるその日常が、見ている間に揺らぎほころびだす。その狭間から、異界やタブーや秘め事や。そして濃密な死の気配が漂い出てくる。こちらはそれを垣間見ながら、あっけにとられて、ただ、幻惑されているしかないのでした。障子越しに、得体の知れない何かの影が浮かび上がる。特にどこがどうというわけではないですが、なまじっかなホラーよりコワイです。

たとえば、同じ時代を幻想的に描いても、泉鏡花だとひたすら透明で綺麗です。このエロスや毒を内包した、生々しい湿っぽさは、さすがに女にしか描けないものかもしれません。
『陰陽師』10巻 岡野玲子/夢枕貘  白泉社JETSコミックス

第5回手塚治虫文化賞、マンガ大賞受賞作。おめでとうございます。あのNHKの連続ドラマはなかったことにするにしても、次は映画化が進行中。その最新刊、やっと出ました。

しかし、すごいボリューム。圧倒的な、めくるめくイメージ。象徴的なビジョンと言葉の乱舞。そして、すごい難解(^^;)。

前巻で炎上した内裏。それはなにやら、都にとっての必要な通過儀礼であったらしい。その仕上げとして、晴明は、都に天と地と人とのことわりを通すという、壮大な呪(?)を行うべく、いろいろと画策しております。それも、他人を動かす前に、嵌められて(何にだ?)、彼自身が、安摩という強力な舞を舞うことになったらしい。

1回読んだ時点で、かろうじて分かるのはそこまででした。その間ずっと、物事にに対して、誰にも理解不能なモノローグでつっこみ続ける晴明様が、ちとコワイ。よく分からないが、命を賭して踊る陰陽師。傍らで泣いている真葛ちゃんが、不憫でした。

で、結局何がどうなったんだろう?はい、続き読みたいです。
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『きみにしか聞こえない 〜Calling You』 乙一  角川スニーカー文庫

乙一氏、スニーカー文庫2冊目。珠玉の短編が、3編収録されています。ネット上での評判は、あちこちですごぶるいいです。たしかに叙情的で、思春期の読者の共感を集めているのはよく分かります。ただ残念ながら、私は入り込めませんでした。

何というか、登場人物の性格の後ろ向きさと、話の救いのなさが、どうもなじめませんでした。そう、私の好みは、あくまでも、ハッピーエンドなのです。最後の「華歌」も、ちょっと渋い雰囲気で、「おっ」と思いましたが、やっぱり暗い。いえ、不幸な事故に遭って、希望をなくした主人公が暗いのは当然のことなのですが、「歌う花」の正体もあまりに救いがないです。

「お花さん」の「母親」であった女、甘ったれるな。「父親」であった男、気の毒というには、あまりに情けない!そしてなにより、主人公がドツボにいる理由って、愛する者を失ったためではなくて、単に、「いけないことをして、お母さんに怒られるのがこわい」だけなんじゃないのか?

ミステリーな部分も、だまされましたが、だからといってそれがどうした?という程度にしか感じられませんでした。

なので、乙一氏については、しばらく静観したいと思います。

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