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| 改訂 2003.6.25 初版 2001.11.8 |
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| 『俺は朝はよわいんだ……ミスしそうだなー』 『そんな弱気でどうすんの〜……』 『試験……ていうとだいたいうまくない……緊張するんだなー』 『スキーで少しはやってるでしょう、その感じで滑ればいいのよー』 『……雪は痛くない、こっちは目から火が出るほど痛い!!』 『横丁の坂を滑ってる感じを思い出して……いい!!』 『……ふー!!』 |
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| 初めて競技に | 初めて競技に出場した2000年11月23日のこと。相馬パパのHPによると、当日は”早朝はあやしげな空模様でしたが、いつの間にか快晴。思わぬスケート日和になりました。スラローム、ホッケー、ロードレース、インラインスキーと4つのセクションに分かれて、熱い戦いが繰り広げられました”とあります。マサドンは競技のその日の朝は冷静ではなかった、だから相馬パパのようには当日の気象がどんな状況だったのか全く憶えていない。バタバタと準備に追われて気がついたら豊島園の駐車場の中に立っていたのだった。 | |
![]() Collage - YOSHINO masaki 2001 |
まず、どんな服装がいいかが判らない。前の晩から荷物は次第に増えていった。あれもこれもと車に積み込んだ。タイツも積んだ、これはいくらなんでも恥ずかしくてしまったままになった。暑いとかなわないのでTシャツを何枚か入れた。厚手のトレーナーも入れた。靴下は3足、下着は大汗かくから3通り、タオルが何本か。寒いと辛いのでウィンドウブレーカーの上下、念のためスキーウエアーの上着。なにしろ忘れっぽいマサドン、とにかく初めての競技に臨んでなんでも二つ以上持つことにした。膨れる一方の荷物だ!これじゃーまるで、ノミを潰すのにブルドーザー!といういでたちとなってきた。 | |
| ビリ志望 | 当然、ブーツも持っている全て。といってもハードブーツのローラーブレードを2足。まずこれなら何か突発的なアクシデントがあっても……まあー安心という次第だ。いつのことだったか、あまりにも長い時間ブーツをはき続けていたら、汗でインナーがぐしょぐしょになった経験があった。プロテクターも二組にした、どこかに置き忘れる危険があると判断したからだ。ずいぶんと構えたものだ、マサドンの緊張はなかなかのもの。 こんな大騒ぎをしたところで、優勝を狙おうというわけでもないし、狙えるはずもない。ただひたすら出場することだけだ!まあービリ志望というところ……そう自分に言い聞かせてみても、この有様なのだ。入れたり出したり、あたふたとする自分がなんとも可笑しかった。 |
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| だが、こんなマサドンに負けず劣らずの人がうちのカミさんなんだ!……愕くなかれ、給食のオバサンを自称するのはいいのだが、正月がもう来たのかと錯覚しても不思議ではないような煮しめ、漬け物、おにぎりを量産しているのだわ。それに果物と菓子類……一体誰がそんなに食べるんだ? | ||
![]() Collage - YOSHINO masaki 2001 |
……待てよ?!……そうか!……もしかして、家内が考えていたのは……そうだ!! へまなマサドンが失敗したときにこれが効き目をもつかもしれない。これまでにも競技と限らず、あらゆる場面で沢山のへまをやらかしてきたマサドン、時間を間違える、順番を狂わせる、旗門を見失う、帽子を飛ばす、忘れ物をして迷惑を掛ける、などなどの心配がつきものだった。 | |
| そんなとき、きっと役に立つのがこれ、食い物だ!!機嫌を損ねた審判員、後に続く選手の不機嫌な顔。待たされてグッと堪えている面々。そんな顔々……思い出されますなー小学校1年生の時のことを……野球部に入れてもらったけど、球拾いしかさせてくれなかった、それでもちゃんと拾えれば文句なかったのだが……お前が拾うとかえって手間暇かかって野球にならねーと言い渡されたっけ。 | ||
| この競技では恐らくマサドンの十八番”笑って誤魔化せ自分の失敗オジサン”は通用しないだろう。ならば、おにぎりやお菓子で?という考えが湧いてきた。迷惑料……いや賄賂!……うーん!……だんだんダーティーになるねー。もともと笑って誤魔化せという策略それ自体が暗いものに根差している。そう、自分の失敗を誤魔化せというのだ、その論理的な演繹の結果は明らかであろう。 | ||
Collage - YOSHINO masaki 2002 |
”常に悪を欲して、しかも常に善を成す、あの力=賄賂の一部です”これが聞こえたかな、メフィストフェーレスの謎の自己紹介の言葉が。ファウストの心の中に住み着いた悪の分身”メフィストフェーレス”とは”笑って誤魔化せ自分の失敗オジサン”が進化したものだったのかも知れない?ここんところを少しばかり突っついておこうか。 | |
| 聖少年派作家の稲垣足穂は「男性における倫理」のなかで、サマセット・モームを引き合いに出して、「人間の精神力は彼がたっぷり御馳走を食べ飲んでいる時に最もよく現れる」。生涯にわたって稲垣足穂はこのことをことのほか強調した”食い物のことを言うな!”が口癖だったとも。この人間悟性の生物的、生理的な一面が真実であることは、あなたが夜の銀座へゆけばこってりと実証されるだろう。マサドンも永年これとはつきあってきた。タクシー業界とは因果な商売だ!! | ||
| この精神世界の真理が及ぼす事態は当然なことに”徹底追及他人の失敗オジサン”を標榜するファウストに波及する。悟性の達人を自認する彼の深い内面の独白をちょいと覗いてみようか。 | ||
| ファウスト 夜の場 |
「ああ、これでおれは哲学も、法学も、医学も、また要らんことに神学までも、容易ならぬ苦労をしてどん底まで研究してみた。それなのにこの通りだ、可哀そうにおれというアホが。昔よりもちっとも利口になっていないじゃないか。やれ叡智ある者だ、ドクトルだの、学者だ坊主だのと自惚れた連中よりはましだろう。だが、その私自身マギステルだの、ドクトルなどと名のって、もうかれこれ十年ばかありのあいだ、……情けない、おれはこの牢獄の中に縮みこんでいるのか。」(ゲーテ「ファウスト」夜の場) | |
Collage - YOSHINO masaki 2001 |
悪の化身でありファウストの分身であるメフィストフェーレスは、この変身オジサンの実体を半ば自覚しているファウストに向かって口お極めて攻撃する。「この馬鹿者の飲み食いするものは、地上のものじゃない。胸から沸き立つものが、こいつを遠方へと憧れさせる、そして自分の気違いめいたことも半分は気がついている」。 確かに!「知っちゃいるけど止められない」、植木等の哲理はメフィストフェーレスにおいても了解のことであったのだ。正義の味方であるはずのドクトル・ファウストはそこいらのオジサンとたいして違わないことになってくる。 メフィストフェーレスの言葉はやけにきつい、だが、これもまた真実であろう。そして、この馬鹿者とはファウストその人なのだ!こうしてわれわれは”徹底追及他人の失敗オジサン=ドクトル・ファウスト=この馬鹿者”という同定式を見事に得ることとなった。 |
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| ……会場は明るく華やかだった。一通り場内を巡ってどこで何が?と思いながら見て回った。阿波踊りじゃないが、どうせ馬鹿なら踊らにゃそんそん!失敗オジサンはとんだ迷惑を周りにかける馬鹿者=マサドンである。そんな連れ合いが競技者や関係者から愛想をつかされないように、カミさんは気配りに勤しんだ。こう考えないとどうも収まりが悪かろうというもの、この明るい空気は暗い気分を一転させるものだ。やはりマサドンの邪推であったか、ごめん! いずれおにぎりの行方はそっとお教えしましょう。 | ||
![]() Collage - YOSHINO masaki 2003 |
あちこち見ている内にスキー競技に集中できなくなっていた。どれを見ても面白そうだ、いやーあれもいい、これもいい……!会場を見て廻っているうちに、やっと落ち着いてきた、選手の服装に目がいった。な〜んだ、みんなそっけないほど薄着で華やかだ。マサドンももっと派手にすればよかったか、残念、こっちは厚いトレーナーに地味なフリースのベストか。 | |
| まず参加しようと決めたとき、マサドンは迷わず”インラインスキー”を競技種目にえらんだ。何故スキーなのかはということのこれまでの経緯は、いずれ『一年中雪のある西荻南!その謎はスキーとインラインスケートの相似の中にあり』(制作中)を参考にしていただきましょうか。 | ||
| 九州から来たという寺田君は、えらくかっこいい明るい若者だった。長い足にレーシングタイツ姿のきまったところなど見惚れてしまうほどだ。格好いい若い男をことのほか好きなうちのカミさんは早くもこの若者に目を付けた。彼はホッケーを除く全種目出場という離れ業をやってのけた。スキー選手の全員は彼のために多少の遅刻を許しましたね。こういうのをフェアプレーと言うのかな?それとも、これは日本的な甘さかねー?マサドンはどっちにしてもいい気分だったよ。 | ||
| まあ中高年がちらほらというインラインスキーは他の競技に比べたら独特の雰囲気だったことは否めない。そりゃそうそうさ、若者の活きの良さはただただ羨ましいだけで、マサドンや中高年の選手にはそんな気力も体力もありませんでしたねー、それに足も短いか。まあこういうのが諦めの境地というのだろう。「若さには敵わねー!」……がでそう、つづいて、もしこれをやったら「年寄りの冷や水と言われるなー!」……というのがこういう時のマサドンの悔し涙のセリフですわ。 | ||
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