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<大好きなものたち・4>

〜ミレニアム奈良2〜

 

5 苦悩の決断(笑)

 

さてさてこれからが正念場。
室生口大野駅に帰り着いたのは1時45分頃。
あまりの本数の少なさに内心不安だった電車は、なんと数分待てば来るではないか!まあ、運がよいこと(=^^=)。
乗り込んだ電車は雨に霞んでほとんど何も見えない中を桜井、八木へと戻っていく。
そうだ、行きにこの車窓を見て思ったんだった、このあたりの小山は生きている・・・なんだか吐息すら感じる。
山々に守られて暮らしていると信じただろう古代人の気持ちがわかってくる。

そして帰りにこの歌を思い出した。

「春霞 いよよ濃くなる真昼間に 何も見えねば 大和と思へ」(前川佐美雄)

大和を歌った私の最も好きな歌・・・春じゃないんだけど(^^;。
見えないからこそ強まる存在感・・・霞に閉ざされていればこそ浮かぶ歴史の重み・・・そんなことを考えながら八木へ向かう。

ところで、賢明なる読者諸氏ならば(誰もいないって(笑))、ここで私がお昼をいったいどこで食べたか?という疑問に突き当たることであろう(突き当たらないって(爆))。
答えは室生寺から戻って電車を待つ間、室生口大野の駅のホームで家から持参したチョコチップクッキーをかじり、八木から喫茶店がわりに西大寺まで乗った特急車内でコーヒーをすすって終わった(笑)。
98年の奈良記にも書いたように、いつもこうなってしまう(^^;。
昼の時間なんかとれっこないので携帯食は必須なのだ。
だから何度奈良へ行ってもガイドブックに載ってるような美味しいお店には縁がない。

大和西大寺に戻りついたのは2時47分、これなら充分正倉院展に行けるわ・・・と、ここで私は考えた。
帰りののぞみは京都発6時10分。奈良からは5時の近鉄特急に乗ればよい。
となると正倉院展は4時半すぎに切り上げる必要がある。今から行っても奈良博到着は三時過ぎ。
ここは当然できるだけ早く奈良博へ!・・・と思うべきところを、やっぱりどうしても唐招提寺に行きたいっ!行きたい行きたい!絶対行きたい!(わがまま(笑))。
でも、どうやって?・・・チャカチャカチャカ ←思考中(笑)、ピーン!と貧弱な頭からはじき出されたのが、西大寺駅からタクシーでもって唐招提寺経由で奈良博へ、という金捨てコース(^^;。手持ちが底を尽きていたので西大寺で駅前のキャッシュコーナーに飛び込んだ(笑)。
実際には駅前にタクシーがいなかったことと、見るからに道が混んでいたため、3時5分の電車で西の京まで戻って唐招提寺までは走り(笑)、唐招提寺前でちょうど休憩に入るために止まったタクシーの運転手さんを拝み倒して奈良博まで乗せて貰ったのだが。

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6 唐招提寺爆走

 

そんな経緯で雨の中走り込んだ唐招提寺。
掲示板で聞いていたようにものの見事に改修中で、門を入って目の前にいつもおおらかに広がるあの屋根がない、柱がない、白壁がないっ!
工事用ネットに覆われた「そこ」は、向こう側がすけて見える有様だ!
ところが驚いたことに、その有様が地の底がうずくような奇妙な感動を与えてくれた。
ないことによって、一層強烈にあの御堂の姿を空間に刻んでいたから。
工事用ネットから透けて見えた白い空は、たぶん生涯忘れられない。

実は工事中だということで是非寄りたかったのだが、これほど感動するとは自分でも予想していなかった。
中学の修学旅行の時、東大寺の大仏殿がちょうど改修中で全体が覆われていてがっかりしたのだけれど、ある先生に「普通の大仏殿ならいつでも見られるけれど、修理中の大仏殿を見られるのは何百年のうちのたった数年ですよ」と言われて目から鱗が落ちたのを忘れられず、改修という言葉を聞くと妙に見に行きたくなるのだ。

とりあえず、今日の目的は唐招提寺のトルソーと呼ばれる半壊した菩薩像だ、ぐずぐずしてはいられない、工事中の金堂を迂回するために左方向に「順路」の指示が出ているが、新宝蔵は右よっ!と皆人とは逆に走り出した。
横から見る金堂裏手には巨大なクレーン車が雨に濡れて動かない。
こんな違和感そのものの存在も、どうしてか自然に抱き込んでその一部としてしまうような、底知れぬ力がここの境内にはあるのを感じる。

とりあえず息せき切って新宝蔵に駆け込んだ。と、ところが、ない!ないのである、あのトルソー!(悲鳴)。
いやあ(;;)、ここまできて見られないの?掲示板には常時展示とあったのに?・・・半泣きで係員さんに問い合わせたら、あらら(^^;、金堂改修中は講堂のほうにお出ましなんだとか(^^;。
「途中で通ったでしょう?」と言われ、逆回りで走ってきたとは言い出せなかった(^^;、順路は守るべし、なのね(笑)。

気を取り直して宝蔵内を見渡すと、おやおや、とても素晴らしい眺めである。
トルソーなどが講堂に出ている間、初登場の仏像たちもここに並ぶのだそうだ。
右からものすごい存在感の仏頭がみっつ、小さいけれどとても整ったお姿の釈迦如来座像、一刀両断された梵天像、いずまいの正しい帝釈天や十一面観音、中央には巨大な仮住まいの大日如来座像が余裕しゃくしゃくの表情でちょろちょろする観光客を見下ろしている・・・などなど。
いずれも重文、奈良時代か下っても平安の作だそうだ、なんと贅沢な空間か。長居が出来ないのが悔しいが、そのぶん印象に残った。

そしてまた走る。
講堂まではすぐなのだけれど、靴をはいたり傘をさしたりがもどかしい。
やっと飛び込む。
うっわーーー!これよお!この空間こそ私が望むものなのよ〜っ!
・・・と、人気のない秋雨の午後、既に境内は薄暗く、まして自然光だけが頼りの講堂内はとっぷりと日暮れ状態でほとんど何も見えないのだ。
そこにいつも通りでっかい弥勒が持国、増長二天を従えて真ん中にどかんと座し、左右にいつもはいない古仏がぽつぽつと立つ。
わずかな説明版の他はライトも装飾もないそっけなさ。
じっくり目を凝らし、届きそうで叶わないその仏たちの息づかいを感じ取る静かな時間。
なんて幸せなの(=^^=)。ここまで来てよかった・・・否、生きててよかった。

すべてとゆっくり触れあうのは無理なので、目的のトルソー、暗闇でひときわ揺らめいて見えるトルソーとの対話に力をつぎ込んだ。
顔も手足もない完全な壊れ仏なのに、多くの人の心を捉えて離さないというその噂通り、妖しすぎる魅力を放っている。
じっと、じっとじっと、息を殺して見入っていると、どこからともなくざわざわと供の者を引き連れた高貴な夫人の姿が現れた。
私などは勿論、ここに居るどの仏像にも目などくれずにあでやかに笑い去った。
あなたは・・・?

けれど、この姿を見せてもらえれば、もう満足しなければ。
私はこれから奈良博へ行く。
そう思ってもう一度講堂内を眺めやると、共に並ぶ等身大の太めの薬師如来立像が白目を剥いてこちらを見ていた。ごめんなさ〜い、今度はちゃんと時間配分考えて来ます〜(^^;、スタコラ。

唐招提寺のトルソーについてはとっておきの仏像たちを見てください。

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7 超スピード正倉院展

 

結局もと来た方向へ走りだし、売店でお寺と所蔵品のちょっとしたカタログを買い求め、とにかく急いで門を出た。
土産物屋でタクシーを呼ばなければならない。
寺に入る前に呼んでおきたかったのだが、土産物屋のおばちゃんに先に呼んでおくことはまかりならん、出てきてから呼べと言われたのだ、やっかいな。
時刻は既に3時45分。
そして門を飛び出た私の目前に、一台のタクシーが止まった。
運転手さんが出てきてそのまま煙草に火をつけながら土産物屋に入っていく。
・・・迎車かな?と、室生口大野でも思った疑問が頭をかすめたけれど、ままよ、突撃!
ちょっと迷惑そうな運転手さんが「どこまで?」と聞くのでどうしても入館時間に間に合うように奈良博まで行きたいと答えると、突然愛想がよくなった(笑)、西の京駅や薬師寺あたりまでだったら拒否されてたのかな(^^;。
お陰で待ち時間なしで乗れたし、この運転手さんが混んでる一般道を避けてすれ違うのも難しいような農道を突っ切ってくれたお陰で、4時すぎには正倉院展の会場に飛び込めた。

この時もそうだし、室生寺へ行く時も感じたが、こういう偶然を、私はとても大切に思う。
どうしても行きたい!という気持ちを、仏様だか神様だか信仰のことは知らないけれどとにかく人智を越えた何者か様(笑)が、くみ取ってくれたとしか思えないから。

これでやっと、今日の最終目的地の正倉院展だ。
夕方は人が少ないと聞いていたが、あまりにその通りで拍子抜け。
初日だというのに人はまばらだったので、超特急ながらゆっくり見ることが出来て嬉しい(^^)。
人にもみくちゃにされながら背伸びを繰り返して、それでもよく見えずにうろうろしなきゃならない昼間よりずっといいかも!(笑)。

正倉院展のことはとっておきのお宝たちに書きたいけれど、時間がとれない時のことを考えて心に残ったひとつだけ書いておく。
それは雉羽箭(きじのはや・22−1)。後尾に二枚羽のついた竹製の「矢」だ。
横に明治時代の模造品も置かれている。
この雉の尾羽根で出来た矢羽部分が、原品もホゲホゲで根本だけがわずかに残るのみだが、明治時代の模造品も既に輪郭を失いボロボロなのだ。
千数百年の時を追い真新しく作ったはずが、わずか百数十年で既に追われるものとなっている姿を見た時、朽ち落ちた羽根にくっきりとおしよせる時間の力を見た。

こうして4時半すぎには奈良博を飛び出し近鉄奈良駅めがけて走った・・・と言いたいが、既に運動不足の私の足は棒、両方の小指は爪がはがれそうに痛い(^^;、しかも奈良博からは長い坂を下る・・・ほとんど競歩状態でヘコヘコ歩いて、それでもちゃんと途中の平宗で柿の葉寿司をゲットして5時の近鉄特急で京都へ戻った。
また、来年も来れるかな・・・。

振り返ってみれば、「見えないことで存在をより明瞭に刻むもの」それがこの日のいくつもの出会いの鍵だった気がする。
奈良博から近鉄の駅まで戻る途中、登り大路が急にストンと勾配を険しくするその頂点で、目の前に茫洋と広がる奈良市街を見て、生まれ変わったら飛天になって、この街の上を飛びたいなあと思った。
もう見えない古代を見ながら・・・。

おしまい

  

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