『太った狼!』

著者:まきしゃ



「中島くん今日の体育でバスケのロングシュート決めたんだって?
男子たちが凄かったって言ってたけど、私も見たかったな〜」
「い、いやぁ、それほどでも…」
「………」 ムッス〜

某日、多摩川河川敷のサイクリングロードでデートしている中島くんと赤城さん。
ついでにサイボーグ犬零式(ゼロ)の散歩も兼ねている。

ぐいっ! 中島に嫉妬して赤城の引き綱(リード)を引っ張るゼロ。
「なによっ。そんなに急かさなくてもいいでしょ?もっと連れまわしてあげるからっ!」
「千鶴どのっ!自分は明日からまた任務に戻るでありますっ!
ですから、疲れを残さないよう本日の散歩はこれにて終了したいでありますっ!」
「じゃ、じゃあ帰ろうか?」

「気を使わなくてもいいわ、中島くん。こいつはもっと運動させなきゃダメなのよ。
陸曹長さんからも体重が増えすぎないよう十分管理して欲しいと言われてるしね。
ゼロっ!今日の散歩のノルマはあと5Kmだからねっ!」
「自分のジェット装置を使えば1分で到達できるでありますが…」

チリチリリン! 自転車の音に気付いて後ろを振り向く中島。
「あれ? なんか凄いスピードの自転車がこっち向ってるよ?」
「え?」
バッヒューンっ!
「そこの人たち〜、危ないから脇に寄って欲しいでござるよ〜! ワンワンワ〜ン!」
「こらシロ、スピード出しすぎだっ! 少し落とせ!」

「ほんとに危なそうね。中島くん、どきましょ。」
「そうだね。わっ?」
ドンっ! ふらふらら
ゼロに押されてロードの真ん中に出てしまう。

「中島くんっ!?」
「ぶつかるでござるっ!?」
「わわっ?」
キキィ〜〜〜! 土手! しりもちをついてしまった中島。
「大丈夫っ!? 中島くんっ!」
「えっ、ああ。自転車の人が上手によけてくれたから…」

「先生、大丈夫でござるか?」
「まあ、スピードをだいぶ落としてたからな…」
こちらは中島をよけるため自転車ごとロード脇の草むらに突っ込んでしまった横島。

どうやら全員無事なことがわかって、ほっとした雰囲気になる。
ゼロはと言えば、フンフン鼻歌うたいながら知らん振り。
そんな中、横島に謝る赤城さん。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「え? カワイイ? もちろん大丈夫ですっ! もしよければ名前と携帯の… うっ!」

「はうっ!?」
どぐしゃっ! ゼロを踏みつける千鶴!
「バカでぐーたらで大食らいでわがままなバカ犬のせいで、
危険な目にあわせちゃって本当にごめんなさいっ!」
ペコリ! 横島に頭を下げる千鶴。 ぐりぐりぐり… 足はゼロの上に置いたままである。

「あ、いや、犬のやったことだから… シ、シロ、散歩続けるぞ?」
「そ、そうでござるな、先生。」
バッヒューンっ! 冷や汗をかきながら走り去っていく横島たち。
いつものようにシロが横島の自転車にくくりつけた引き綱(リード)を引っ張りながらだ。

しばらく走って横島に話しかけるシロ。
「先生、拙者あの犬が可哀想だったでござるよ。」
「まあな、あのお仕置きは美神さんレベルだよな〜」
「なんかあの人の言葉も棘があったでござるし…」
「そりゃおまえに当てはまりそーな言葉だったからじゃねーのか?」
「そ、そんなこと無いでござる! 先生、ひどいでござるよ〜!」
ひゃんひゃんひゃん!
「でも今にして思えば、あの男ひいとけばよかったなっ!
あんなカワイイ女の子と河川敷で犬を連れてのデートだなんて許せん〜!」
「先生…、拙者もカワイイ女の子なんでござるが…」

てくてくてく… サイクリングロードを走りきり、
緑の生い茂った山のふもと道をのんびり散歩しているシロと横島。
「先生、思ったより早くついたでござるなっ!」
「信号がないぶん飛ばせたからな。」
「車にはねられる心配もないし最高のコースでござるよ。」
「ああ、3回しかこけなかったし…って、他の自転車とぶつかりそうな走り方するんじゃねー!
小学生抜くときやカーブを曲がるときはスピード落とせと何回言えばわかるんだっ!?」

「そ、それなりにゆっくり走るようにしてるんでござるが…
それより先生、まだ時間に余裕があるでござろう?」
「まあ、夕食までに帰ればいいからな。で、どうしたいんだ…?」
「せっかくでござるから、この山の中を散歩…」
「アホかぁっ! 事務所から往復100Km走らされたあげく、
自転車モトクロスをやれってかっ!? 俺の身体がもたんわっ!」
「そ、そうでござるか。残念でござる…」

チリチリリン。結局、川沿いの道をのんびり走ることにした二人。
「先生、これだけ静かだと川のせせらぎの音が気持ちいいでござるな。」
さらさらさら… コケコッコー!
「ニワトリの鳴き声も田舎ならではだな。」

「ちょっとうるさいけど都会の喧騒とは比べ物になんないでござる。」
コケッコー! コケコケコケー!! バサバサバサ!
「ニワトリの喧騒も、かなりあれだが…」

「で、でも、人間の喧騒と比べると…」
「こんバカ犬どもがっ! とっとと山に帰れ〜〜〜っ!!」
ズゴゴゴゴォ〜〜〜〜! ワンワン、キャンキャン!
オバハンの怒鳴り声と野良犬の鳴き声が山道にこだまする。
「人間で一番うるさい種族のオバハン登場か。何があったんだ?」
「うう、せっかくの静けさが台無しでござる。」

声のした方に向って走ってみると、竹箒を片手に仁王立ちしたオバハンがいる。
「おばさん、どうかしたんスか?」
「ん? あんたたち、旅行者かい。あの野良犬たちにエサなんか与えてんじゃないだろうねっ?」
「そんなことしてないっスよ。」
「エサが有るなら拙者が食いたいでござる。」
「なら、いいんだけどね。ったく…」
ふぅ〜、深いため息をつくオバハン。

「あの野良犬たち、ニワトリを狙ってたんスか?」
「ああ、そうだよ。あいつら、この近所のニワトリを毎日狙ってやがるんだ。
それなのに週末あたりに旅行者が来ると、シッポを振ってエサをねだってね。
地元じゃほとほと困ってるのに、週末は人気者さ。
あんな奴らとっとと捕まえて保健所にぶち込みたいんだけどねっ!」

「で、でも、まああいつらも元はといえば捨て犬だろうし…」
「兄ちゃん、甘すぎだよ。ここは見ての通りの大田舎ですぐそばに山があるだろ?
野ネズミや野ウサギなど野良犬のエサになる小動物は沢山いるんだ。
私らと共存したいなら、そいつらを捕まえればいいだけの話だね。
泥棒をかばう必要なんかこれっぽっちもないのさっ!」
「うっ…、たしかに…」
「野生のプライドを無くしてるんでござるな…」
「あんたらも、まだ学生だろうけどいつまでも親の脛かじってんじゃないよ?
ここの野良犬みたいに表は人に媚びて裏で泥棒するようになったら終わりだからねっ!」
「うっ…」

言うだけ言ってすっきりしたのか、ニワトリ小屋の方に戻っていくオバハン。
「迫力のあるおばさんだったでござるな…」
「あー、なんかお袋思い出しちまったよ…」
「ところで先生、拙者トリ肉が食べたくなったでござるよ?」
「野ネズミにしとけ。あのオバハンに竹箒で殴られたいのか?」
「拙者、野良犬ではないでござる。ちゃんと調理された肉が食いたいんでござるよ。」
「あと2時間で事務所に帰って夕食だから、それまで我慢しろ… うっ…」
ぐぅ〜 きゅるるる〜
横島におねだりするように鳴り出したシロのおなか…

もぐもぐもぐ…
「ふぇんふぇー、やふぁしー」
「だから、食いながらひゃべるんひゃねー」
長い散歩の帰り道、どこぞのバーガーショップに立ち寄ってチキンバーガーを食べている二人。

「おまえの里では野ネズミとか食ってんのか?」
「主食は鹿とイノシシでござるよ。昔は数が少なくて狩るのに苦労したそうでござるが、
禁猟区が増えて猟師が減ったんで、最近は食いきれない程いるでござる。
だから、野ネズミや野うさぎみたいな小動物は子供が狩の練習にするぐらいで
大人になったら見向きもしないでござる。」

「ふーん、じゃあ山で野良犬が生活するのも厳しいってわけじゃないんだな。」
「狼なら簡単でござるが、野良犬だと怪しいでござるな。
狩は親から教わるものなので、元飼い犬がすぐ出来るようになるとは思えないし、
しょせん犬は野生のプライドを捨てて人間に媚びることで生き永らえて来た動物でござる。
野良犬になって山に住んでもすぐ人里に下りてくるから、人間に迷惑をかけて嫌われるんでござるよ。」

「おまえ自分のこと言ってるみたいだな。」
「ちっ、違うでござるっ! 拙者、GSの修行のために人里に来てるだけで
そのへんの飼い犬と一緒にしないで欲しいでござるっ! 先生、ひどいでござるよ〜〜!」
ひゃんひゃんひゃん!おお慌てて横島に媚びるシロ。 ああ、野生は遠くなりにけり…

「まあ、飼い犬と違っておまえの狩の能力はたいしたもんだからな。」
「そうでござろう? 狼のプライドは高いんでござるよっ!
あと先生…、チキンバーガーをもう1個食べたいんでござるが… くぅ〜ん…」
「ったく、人の財布を狩る能力もたいしたもんだな… おまえ、そんなに食ったら
河川敷で女子高生に踏まれていたデブ犬みたいになっちまうぞ?」
「あそこまで太るのはタマモ並みのぐーたらでないとムリでござる。
最近ちょっと太り気味ではござるが、散歩してるから大丈夫でござるよ。」
「タマモはおまえほど食べねーけどな。」

バッヒューンっ!
日暮れも近づいてきて高速で事務所に帰ることにした二人。
「早く帰んないと夕食のおかずが一品減らされるでござるっ!」
「おまえがチキンバーガーのおかわりなんかすっから遅くなったんだぞ?
まあ、このペースなら夕食には十分間に合いそうだけど。」

「ハッハッハっ! 先生、次の角を右に曲がるでござるよっ!」 ぐいっ!
「えっ? このスピードじゃ曲がりきれな…いっ?」
キキー! どてっ! グワッシャーン!
自転車ごと横転し、路上の電柱に激突してしまった横島!

「先生! 大丈夫でござるかっ!?」
「てめー、あれほど曲がるときはスピード落とせと言ったのに… うっ!」
ズキンっ!
「先生、左手首が…」
「うわあぁっ? 折れてるっ!?」 ぶし〜〜〜っ!

白井総合病院
「で、横島くん。2週間前のケガを今頃治療しにくるとはどういうことかね?」
「いえ、ですからついさっき、路上で転んだばかりなんスけど…」
「そんなはずはないっ! 見たまえ、これが君の左手首のレントゲン写真だっ!
ぱっと見ただけで左手首周辺の骨折は8箇所あったようだが、いずれも治りかけている。
現代医学の常識から言えばもちろんのこと、
いくら自然治癒力の異常な君でも、ここまで早く治るはずがないっ!」

「その…、俺の文珠とシロのヒーリングで…」
「ふん、またオカルトの力だと言いたいのかね?まあ、いい。
よその医者が2週間適切に治療しそのあとを引き継いでいる、ってことにしておこう。
ギブスで1週間手首を固定しておけば、あとは勝手に治るはずだ。」
「あんたなぁ〜…」

シロからの電話で病院にやってきた令子とタマモとおキヌちゃん。
治療を終えた横島が待合室の令子たちの前に現れる。
ぷるぷるぷる…
「す、すんません…」
「あんたねー、労災だったらしょーがないけど散歩でコケて骨折しただとー!?
1週間あんたを仕事で使えないってだけでも痛いのに、言うにこと欠いて
ここの治療費が払えないから立て替えてくれ、だって…? この、わ・た・し・にっ!?」

「そ、その、お袋に電話すれば払ってくれるはずなんスけど、でもお袋にケガがばれると
いろいろうるさいし、下手したら仕事やめろと言われかねないんで…」
「ま、汚れる仕事をさせられるのは横島クンしかいないから立て替えてあげるけど、
きっちり働いて利子つきで返してもらうからねっ!」
「へ〜い…」

「でも横島さん、シロちゃんからの電話を受けたときの美神さんの表情は…」
「え?」
バキャーっ!
「うああっ? 折れた手首がまた折れた?」
「あああ…、ああ…」

パコーン!
「うっ! 拙者も…?」
病院のスリッパで令子に頭をはたかれたシロ。
「当たり前よっ! あんたが大泣きしながら電話してきたせいで勘違いしちゃったからねっ!」
「そ、その、慌ててたでござるから…」
「あと、シロっ!」
「うっ…!」
「あんたのせいで横島クンがケガしたんだから、お仕置きとして1週間散歩禁止っ!
仕事以外では事務所の外に出ちゃダメ。一歩でも外に出たら檻の中に閉じ込めるからね!
それ以降も、あんまり横島クンを引っ張りまわすんじゃないわよっ?」
「うう、わかったでござる…」
さすがのシロも責任を感じて大人しく言うことを聞くことにしたようだ。

数日後のお昼前、令子の出勤前の事務所。
たったったった! ヴーン。 散歩の代わりに事務所内でルームランナーを使っているシロ。
「うう〜、さすがに飽きたでござるよ〜」
「てゆーか、よくそんなつまんないことが出来るわねー」
「散歩は拙者の生甲斐でござるからな。でも、タマモしか居ないところで走っても
ちっとも面白くないでござる。先生の横で走れれば楽しいでござるのに。」
「横島はケガが治るまで出席日数稼ぐために授業と補習に出てるんだっけ。」
「夜は拙者が先生の代わりに荷物持ちの仕事でござる。
時間が合わないせいで、先生にちっとも会えないでござるっ!つまんないでござるよーっ!」
「あー、うるさいわねっ! 自業自得でしょっ?」

令子も出勤してきて、事務所のランチタイム。
ばくばくばく〜! お昼ごはんを食べまくるシロ。
「あんた…、朝食も沢山食べたくせに、毎日よくそんなに食えるわね…」
「拙者の生甲斐は、散歩と食事と先生と一緒に遊ぶことでござる。
この1週間、我慢しなくてもいいのは食事だけでござるからな。」
「でも、おキヌちゃんが今月の食費の予算がオーバーしそうだって嘆いてたわよ?」
「タマモ、心配いらないわ。ちゃんと対策たててあるから。
シロ、あんた沢山食べたいんならこれにしなさい。あんたの里ではご馳走でしょ?」
「うっ!」
ドーン! シロのために用意されたクズ肉100%のドッグフード・激安カリカリ君の大袋
(業務用20Kg入)が事務所に届けられていた。

そんなこんなで一週間、横島の退院・復帰祝いの夕食会が事務所でささやかに開かれている。
コキコキコキ… 骨折していた左手首を軽くまげてみる横島。
「横島さん、具合はどうですか?」
「まあ、痛みはないんだけど、まだ握力は半分ぐらいしか出ないかな?」
「それだけ出れば十分よ。明日から、しっかり働いて借金返すのよっ!」
「うーん、どれだけ働けば返せるのか見当もつかないんスけど。」

「横島さんならすぐに返済できる金額だと思いますよ?
私は幽霊のとき、美神さんにユリ子さんを助けてもらうようお願いしたんですけど、
死神さんを祓うために精霊石を使ったので借金が4億円ほど残ってて…
現世では払いきれないので、おそらく来世かその次までに払えたらなぁと…」
「そーいえば、そんなことも有ったな…」
「しっ、心配しなくても大丈夫よ、おキヌちゃん?
無利子無担保、あるとき払いでいいって言ってるわよねっ?」
「あんた、チャラにする気は無いんかい…」

ばくばくばく〜! こちらは勢いよくお肉を食べているシロ。
「うまいっ、うまいでござるよ〜〜〜!!」
「あんた、カリカリ君も毎日食べてたくせに、よく食えるわね〜?」
「あれはお菓子みたいなもんで別腹でござる。やっぱりディナーは高級肉に限るでござるよっ!」
「でも確実に太ってるわよ?」
「散歩禁止でござったからな。でも明日から解禁だからあっという間に元に戻るでござるよ。
先生、明日の朝、散歩に連れてってくれるんでござろう?」

「明朝は勘弁してくれ。ようやくケガが治ったばかりだっつーのに、
夜明け前からパワー全開のおまえに引きずり回されたらたまらんからな。」
「え〜? じゃあ、いつ連れてってくれるんでござるのか?」
「しばらくは、と言いたいとこだけど連れてかないとうるさく纏わりつくんだろ…?
明日は午前で早引けすっから、ここに来るのは1時だな。
美神さん、仕事の予定はどうなってるんスか? 余裕が有るなら散歩連れてってやりたいんスけど。」
「そおね、2時に事務所を出発する予定だから、それまでに戻ってくるならいいわよ。」
「ということだ、シロ。」
「わかったでござる。拙者も先生に合わせて事務所に戻ってくればいいでござるな。
それまで6時間ほど1人で散歩してくるでござるよ。」
「午前中、ずっと散歩する気かよ…」

「明日、先生と一緒に散歩できるとわかって嬉しいでござる。おキヌちゃん、おかわりっ!」
「シロちゃん、またぁ?」
ぱくぱくぱく、げぇっぷ。 ふぅ〜〜、ぽんぽこポン。軽くおなかを叩くシロ。
「あ〜、食った、食った。」
「あんた、いくらなんでも食べ過ぎじゃない?」
「どーせ明日、おもいっきり走り回れるんだから、しっかりエネルギー補給してるんでござるよ。」
「そんなに膨れた下っ腹じゃ、かえって走りにくいと思うけどね。」
「い、一時的に膨らんでるだけでござる。いちいち言わなくてもいいでござろう?」
「まあね… えっ?」

ピっ! ひゅ〜ん コンっ! ころころころ…

「うっ…!」
「あああ…、これってシロちゃんのウエストボタン…」
「………、すさまじいわね…」
膨れたシロのお腹に耐え切れず、飛んでしまったジーンズのウエストボタン。
皆が見守るテーブルの上を、音をたてながらころころと転がっていく…

たらぁ〜…(汗)
「ま、まずいでござる〜! ここまで太るなんて思ってなかったでござる〜!
先生〜、明日から毎日、一緒に散歩するでござるよ〜!?」
ひゃんひゃんひゃん! ジタバタ、ジタバタ!
「アホかぁ〜!おまえの食い過ぎにいちいち全部つきあってなんかいられね〜ぞ?」
「このままデブってるようじゃ、里の長老からクレームがくるわね〜」
「あああ、シロちゃん…」
「………、バカ犬…」


翌日、事務所の朝〜
「タマモちゃん〜、朝ごはんが出来たわよ〜?」
「………、は〜い…」
ムニャムニャ… 眠い目をこすりながら食卓につくタマモ。
「あれ? シロは?」
「もう散歩に出かけちゃったわよ?」
「もう? 朝食抜きで?」
「食べて行ったわよ?カリカリ君をちょっとつまんだだけだけど。
やっぱり少し太っちゃったことを気にしているみたいね。」
「ふーん、今更って気がしないでもないけど。ま、うるさいのが居ないから気楽でいいわ。
美神さんが来るのも遅いし午前中はゆっくりテレビでも見てるわ。」
「えっと、さっき隊長さんから電話があって、
午前中会議だからその間ひのめちゃんを預かって欲しいって。」
「えっ? ひのめを? 私1人で?」
「大丈夫、タマモちゃんならちゃんと出来るわよっ!」
「うう、シロと二人で相手してもキツイのに…」 どよよ〜ん…

はっはっはっ…
こちらは、あっという間に多摩川サイクリングロードを高速で走りきったシロ。
「もう、ここまで来たでござるか。でも…」
歩みを緩めて自分のわき腹をつまんでみる。むにゅ〜
「うう〜、簡単に痩せれるとは思ってないけど、ちっともへこんでないでござる…
朝飯を少なめにしたのに、なんかむなしいでござるよ。」

ぶくつさ言いながらも走り続け、やがて山道にさしかかる。
「うーん、やっぱり整備された道路を走るより、山の中を走った方が痩せるでござるよな…
まだ時間もたっぷりあるし、決めたでござるよっ!」
そう言って道端のお地蔵さんの裏に回って穴を掘り始める。
ざっざっざ! ぽいっ。 ボヒュン!
どうやら精霊石を穴の中に隠したようだ。

『これで身軽になったでござる。やっぱり山の中はこの姿の方がいいでござるな。』
たったったー! 狼姿になって軽快に森の中を駆けて行くはずだった。けど、
『うう、この姿だと余計に下腹の出てるのが気になるでござるよ…』
お腹が下草に当たるのを気にしながら山の中を駆けて行く… ああ、みっともない…

キラキラリン!
上空では一羽のツバメがじっとシロの様子を見つめている。
その鋭い眼光は獲物を狙う狩人のそれであったが、
そんなことにはちっとも気付いていないシロであった。

『うー、ただ走り回るだけじゃあさすがに飽きてくるでござるな。
せっかくだから狩でもするでござるよ。この山には野良犬の臭いがあちこちにするのに
野ネズミ、野うさぎがほんとに沢山いるでござる。
怠け者の野良犬たちに、本当の野生がどんなのかを見せつけてやるでござる。』
野生の本能が目覚めて狩りを始めたシロ。
がばぁ! なんとか数匹のネズミを捕まえてはみたものの、やっぱり身体が重い。
『うう〜、元に戻るのに何日かかるんでござろうか…?』

そんな調子で遊んでいたが、やがて不審な追跡者の存在に気付く。
『どうやら拙者が縄張りを荒らしてるように思ってるんでござるな?
拙者の周りをうろついている犬ッコロ2匹っ! 隠れてないで出てくるでござるよ!』
がさごそごそ… シロの言葉に反応し、茂みの中から目だけをシロに向ける一頭の犬。
『さすがはC国間諜犬、よくぞ我らの追跡を見破ったなっ!』
『へっ? C国? 間諜犬? なんのことでござるか?』


少し前のこと、山中の空き地に集合している防衛隊。
「陸曹長どのに敬礼!」
ザっ!
「ご苦労さま。」
「直れ、おすわりっ!」
ペタ! ゼロ犬佐の号令の下、一斉におすわりをする防衛隊所属のサイボーグ犬隊。

「ゼロ犬佐、本日の演習目的を復唱しなさい。」
「はっ! 本日の目的はこの山中に逃亡したC国間諜犬を捕獲することでありますっ!」
「よろしい。ただしその目的はあくまでも仮想です。
実際の作戦行動は、この山域に生息する野犬の全頭捕獲です。
具体的な行動はゼロ犬佐に任せます。 以上、何か質問は?」

「よろしいでしょうか? 陸曹長。」
「はい、なんですか? ピンシャー犬尉。」
「その、捕獲された野犬はその後どうなるんですかね… 部下の士気にもかかわりますので。」
「犬尉っ! 我々軍犬はいかなる理由があろうとも上官の指示を確実にこなせばいいのであり…」
「ゼロ犬佐! 質問を許可したのは私です。」
「はっ、失礼いたしましたっ!」

「軍犬の心がけとしては、ゼロ犬佐の言うとおりです。でもピンシャー犬尉の質問も
犬の立場からすればもっともであり、軍事上秘匿しなければならないことでもありません。
少し長くなりますが全体の経緯を伝えておいたほうがいいでしょう。
まず野犬を捕獲するのは、地元民の農畜産物に被害が出ているからです。
広範囲な山林を移動する野犬の捕獲は保健所の手に負えるものではないため、
防衛隊が演習を兼ねて担当することになりました。捕獲後は通常ならば保健所に引き渡して
終了するのですが、当部隊の性格を考慮し、捕獲した野犬は飼い主の有無を確認したあと
里親センターに引渡し新たな飼い主が現れるまでそこで過ごしてもらうことになります。
また、その中に軍犬の素質の有る者がいれば、当部隊にスカウトすることも有り得ます。
説明は以上ですが、納得しましたか? ピンシャー犬尉。」

「はっ!詳しい説明をしていただきまして、ありがとうございます。」
「うむ。ではゼロ犬佐、部隊の指揮を任せます。」
「はっ! ピンシャー犬尉、柴犬尉、ビーグル犬尉、自分の前に集合せよっ。」
ゼロ犬佐の周囲に集まる犬尉たち。
「作戦を立てる前に、まず最新情報の確認を行う。
偵察鳥・飛燕、こちらゼロ犬佐、当山域における野犬分布状況を報告せよ。」
「こちら飛燕、1時間前からのデータをナビシステムに送信します。」
「了解。 通信終了。」
飛燕の情報をノートパソコンの液晶画面に映し出すゼロ。

ぼそぼそぼそ… 新米犬尉のビーグルが柴犬尉に問いかける。
「あの…、飛燕は長距離偵察向きで、こういった地域限定偵察の役目は
隼に任せたほうが良いと思うのですが…」
「それはもっともなんだが、ゼロ犬佐は中島が嫌いでな…」
「はい?」
「もっと言えば犬佐は自分を手がけた三菱しか信用していないのだ。
でも偵察鳥は中島飛行機の流れを汲む隼と川崎飛行機の飛燕の二種しかないので、
嫌いな中島の隼よりも少しはましな川崎の飛燕を選んでいる、というわけだ。」
「そ、そうなんですか…」

液晶画面を指差すゼロ。
「諸君、見たまえ。野犬の群れがこの一帯にいる。
あと、少し離れた所に、はぐれ犬が一頭いる。
そこで我々は本隊と分隊の2隊に分け、それぞれ別々に捕獲を担当する。
まず群れの方だが柴犬尉、君に本隊の指揮を執ってもらうつもりだ。」
「はっ!」
「ビーグル犬尉は柴犬尉の指揮下に入ってもらう。
またピンシャー犬尉の部下の犬曹犬士たちも柴犬尉の指揮下に入ってもらう。」
「はっ!」
「自分とピンシャー犬尉は二頭ではぐれ犬一頭の捕獲を行う。
以上だ。各自の奮闘を期待する。」
「ははっ!」

早速部隊をまとめにかかる柴犬尉に声をかけるゼロ犬佐。
「柴犬尉、今回の活躍いかんによっては佐官への昇進も夢ではないぞ。
コロネル・シバと呼ばれるよう頑張りたまえ。」
「ははっ! 義和団事件での柴五郎中佐の活躍は特筆すべきものでありますっ!
自分も同じ柴を名乗る者として、目標にしておりますっ!」
「うむ。では任せたぞ。」
そう言って柴犬尉の元を離れたあと、ピンシャー犬尉と共に森の中に入っていくゼロ犬佐。

「犬佐どの、本隊を柴犬尉に任せてしまってもいいのですか?
自分はてっきり犬佐どのが指揮を執られるものだとばかり思っていたのですが。」
「ん〜? 今回の演習目的を忘れたのか?」
「いえ、仮想目的はC国間諜犬の捕獲ですが… あっ!」
「その通り。単独行動をとる間諜犬を捕らえるのが主目的だ。
雑魚は柴犬尉に任せて、我々は大物を狙うのだ。」
「問題は、我々の狙うはぐれ犬が大物かどうかということですね。」
「それはまあ、時の運だな。」

飛燕の情報を元に、はぐれ犬の風下から近づいていく二頭。
カシャン! 目を望遠仕様にして様子を伺っている。
「犬佐どの、見えますか?」
「ああ、どうやらメス犬、それもまだ若いようだな。」
「そうですが、自分のデータベースによるとあれは犬より狼の特徴を
持っているように見えるのですが。」
「一匹狼とでもいう気か? そんなことはない、日本狼はずいぶん前に絶滅しておるわい。
せいぜい柴やシベリアンハスキーの雑種あたりであろう。
それに良く見てみろ、あの下ッ腹の出方は怠け者の証拠だ。
野生の太った狼が、比較的都会に近い森の中に居ると思うか?」
「たしかに状況を考えれば狼がいるとは思えませんが。」
「そうであろう。あれを狼だと判断して大物扱いしたい気もわからんではないが、
しょせんは野良犬の小娘である。あれじゃあ手柄にもならん。とんだ雑魚だったわい。」
「ではやさしく声をかけて、ついてきてもらいましょうか?」
「さすがにそれでは演習目的を逸脱してしまう。
手筈どおりに行動し、威嚇すればあっさり捕獲できるであろう。」
「了解。」

てなわけで、はぐれ犬(?)シロの捕獲を試みるゼロたちであった。

手筈どおりそっとシロを尾行していたのだが、尾行がばれたので
藪から抜け出しシロの前に姿を現すゼロ。
『ふん、間諜犬がとぼけるのは当然だな。我々の尾行を見破られた以上、隠れる必要もない。』

『あっ! おまえは以前河川敷にいたデブ犬っ?』
『なっ!? デ、デブと言うな〜、デブとっ! 
貴様、わしのことを見て丸っこくておちゃめで可愛いコーギーちゃんとか呼べんのかっ?』
『はあ? 何言ってるんでござるか? デブ犬はデブ犬でござる。』
『下ッ腹を膨らませたメス犬にデブと言われる謂れはないわぁ〜っ!』
『せっ、拙者の腹のことを言うな〜! こんな腹、すぐに引っ込むでござる〜!』
わんわんわん、きゃんきゃんきゃん。

『それはともかく、我々防衛隊は貴様を捕獲するのが任務である。
首に引き綱(リード)をつけるから、大人しく従えっ!』
『任務? 防衛隊? おまえ、もしかして真性のバカ犬…?』
『バ、バカと言うな〜、バカとっ!
くっ! 小娘だと思って優しくしてやったらつけあがりやがってっ!
今ここで貴様を強制捕獲してやるっ! なーに、大人しくしてればケガはせんっ!』
『冗談じゃないでござる。おまえみたいな鈍そうなデブ犬を倒すなんぞ
野ネズミ狩るより簡単でござるが、バカを相手にしたくないでござる。
一人で好きなだけ吠えてればいいでござるよっ!』

くるっ。向きをかえてゼロから遠ざかろうとするシロ。でも…
『うっ…!』
『お嬢さん、信じられねぇかもしれんが犬佐どのの言ってることは本当だ。
間諜犬ってのは仮想だが、里を荒らす野犬を捕獲するのが現実の任務でしてね。
あっしも同じ任務で、おめーさんを捕獲しなきゃなんないんでさぁ。』
ギロリ! 後ろに回っていたピンシャー犬尉に睨まれるシロ。
『バカ犬の言葉だけだと信じる気にもならなかったでござるが、
おまえの言葉はまんざらウソでもなさそうでござるな…』
『信じてもらえてありがてぇな。大人しく我々についてきてくれねぇかい?』

ちょっと考え込むシロ。
(ほんとに防衛隊だとしたら人間の上司がいるはずだから、拙者が人狼であることを
伝えれば、別になんの問題も起きないはずでござるな。でも、こんなところで
時間を食ってると、先生との散歩の時間に間に合わなくなるでござる…
ん〜、こっちの犬はいかにも軍用犬って感じがするし、それなりにやりそうだから
やっぱりデブ犬を倒してそのまま走り去るのが一番手っ取り早そうでござるな…)

ちらり。再びゼロの様子を伺うシロ。
『ふっ! その顔は、どうやら逃げる算段をしているようだなっ!
だが、これを見れば諦める他ないことを悟るであろうっ! 捕獲モードにチェーンジっ!』
『へっ?』

カチ! カシャン! ギュゥーン!
ゼロの腹や背中から飛び出してくる鋼鉄製のアームや捕獲ネット。
『どうだ、これがわしの真の姿だっ! 観念するがよいぞっ!?』
『こいつ、マリアどのみたいなロボットだったんでござるか…
でもロボットなら簡単に再生できるから、おもいっきりぶった斬れるでござるなっ!』

カッ! シャキーン!
狼姿の口から霊波刀を繰り出し、ゼロに斬りかかろうと構えるシロ!
それを見て慌てるピンシャー犬尉!
『何っ!? あれは犬神族の血を引く者だけが扱えるという伝説の霊波刀っ!?
チッ! 雑魚どころか超のつく大物だぜっ! このままでは犬佐が危ないっ!』

『貴様、これを見ても歯向かう気かぁ!?』
一方ゼロはシロの霊波刀を気にもせず、鋼鉄製のアームで掴みかかろうとする。
バキー!
でも、アームをシロにあっさり切り落とされてしまう。
『わわっ?』
『そんなに鈍いと拙者を捕まえるのはムリでござるっ!
もっと性能の良い機械に作り直してもらうでござるよっ!』
そう言いながらゼロに斬りかかるシロっ!

バッヒューン! シロの鼻先でピンシャー犬尉の放った弾丸が破裂する。

『くっ… 不覚…』 パタン… 倒れてしまったシロ。
『犬佐どのっ! 急いで鼻をふさいでくださいっ! 催眠弾です!』
『き、貴様、わしの手が短くて鼻に届かないのを知っての言動かっ?』
『いえ、顔を下げて鼻先を大きなお腹に押し付ければよいかと思い…』
『おお、その手があったか! でも…、もう遅いわい…』

くかー スピー
仲良く、そしてだらしなく眠りこけてしまった2匹の太った犬…


う〜ん… むにゃむにゃ… はっ? がばぁ!
「こっ、ここは?」
真っ暗な部屋の中で目を覚ましたシロ。あたりの様子を伺ってみる。
どうやら見慣れた事務所の屋根裏部屋のようだ。
「拙者、自分のベッドで寝てたんでござるか…?
ってことは夢…? う〜ん、でもそれにしてはリアルだったでござるし…」

もう一度あたりを見回してみる。
隣のベッドで、くーすか寝ているタマモ。たいした物も置いてない殺風景な部屋だけど、
1つだけいつもと違う物がテーブルの上に乗っている。
「あっ、拙者の精霊石… 埋めるときについた土もついてるし、
やっぱり拙者が寝ている間に、いろいろあったんでござるな?」

自分のベッドから抜け出して、タマモを起こしにかかるシロ。
ゆっさ、ゆっさ、ゆさ。
「タマモ、タマモ! 起きるでござるよ! 拙者に何が有ったか話すでござる!」
「ん〜…?」
「起きたでござるか?」
「あぁ〜? あんた、今頃目ぇ覚ましたの…?」
「タマモ! 拙者に何が有ったか話すでござる!」
「………、明日にしてよ…」
「タマモ! 起きるでござるよ!」
ゆっさ、ゆっさ、ゆさ。
「ったく…、美神さん、おもいっきり怒ってたわよ! 終わり!」
ビクゥッ! ワンワン、キャンキャン!
「せ、拙者、ようやく散歩が解禁になったばかりでござるっ!また散歩禁止になったら嫌でござるっ!
タマモ、タマモ! 美神さん、何でそんなに怒ってるんでござるか? 拙者に教えるでござるよっ!?」
「うう〜…、どうやらあんた、話すまで寝させてくれそうもないわね…」


午後1時を少し過ぎたあたりでの美神事務所での出来事。
「シロちゃん、どうしたのかしら… あんなに横島さんとの散歩を楽しみにしてたのに…」
「調子に乗って遠くまで行き過ぎて、遅くなってるだけじゃないの?」
「う〜ん、そうかしら…」
「俺は昼飯を食べる時間が削られなくてほっとしてるんだけどな。」

トゥルルルル… トゥルルルル…
「はい、こちら美神除霊事務所… ええ、私が所長の美神令子ですが… えっ?防衛隊?」
「はい。私は防衛隊で軍犬隊を指揮している者です。
本日、奥多摩で野犬狩りをしていた所、霊波刀を使う犬を捕獲しました。
かなりの戦闘能力が見込まれますので当隊に入隊させる予定ですが、あいにく我々には
霊波刀に関する情報が不足しております。そこでGS協会に伺った所こちらを紹介されました。
美神さん、ご協力の程よろしくお願いいたします。」

「ちょっ、ちょっと待ってよっ! たしかにうちは霊波刀を使う犬を飼ってるんで
情報ぐらいはあるけどね。 その捕まえた犬って、毛の色は白?」
「はい、そうです。おそらくシベリアンハスキーの雑種で、まだ若いメス犬です。
全体の体毛は白ですが頭頂部には茶色がかった毛があり、やや腹部が肥満気味…」
「まちがいない… それ、うちの犬だわ…」


「あの犬たちの言ってたことは本当だったんでござるか。でも、それだけなら拙者は
美神さんを怒らすようなことをやってないでござるよ?どっちかというと被害者でござるし。」
「あんた、サイボーグ犬のアームぶった斬ったでしょ。」
「うっ…、そういえば…」
「その弁償もあるし、昨日の仕事キャンセルになっちゃったしね。」
「せ、拙者を迎えに来ただけなら、そんなに時間かからなかったはずでござろう?
それでもキャンセルになっちゃうんでござるか?」
「あんたの隠した精霊石を探すのに手間取ったからね。」
「うっ…、でもよく見つけたでござるな…」
「防衛隊の偵察情報があったから。 シロ、もういいでしょ?
私は寝るからね! あんたは、ゆっくり言い訳でも考えてなさい!」
ばさっ! シロに背を向け毛布にくるまるタマモ。
結局シロは、そのままなんとも落ち着かない一夜を過ごすことになる。

翌日のお昼前、令子が事務所にやってくる。
お仕置きを恐れてビクビクしながら待っていたシロが令子の様子を伺う。
「その…、美神さん…、拙者…」
「ん、シロ。昨日はさんざんだったわね〜」 にこにこ
「あれ? その美神さん…、怒ってないんでござるか?」
「まー、最初はあんたの尻拭いに腹を立ててたけどね。
でも、あんたのおかげで有力なコネが出来んだもの、じゅうぶんお手柄よっ!」
「そ、そうでござるか。助かったでござる。」
「じゃあ、早速今日の仕事に取り掛かるわよ。ついて来なさい。
いい運動になるから、あんたの腹もすぐに引っ込むはずよ!」
「わかったでござるっ!」


「偵察鳥・飛燕、こちらゼロ犬佐、索敵状況を報告せよ。」
「こちら飛燕、残念ながら未だ発見できません。藪にうまく身を隠している模様。」
「柴小隊、こちらゼロ犬佐、追跡は順調に行ってるか?」
「こちら柴小隊、小川で臭いを消されてしまいました。現時点では足取りはつかめておりません。」
「くっ! あの小娘一匹に我が隊が振り回されるとはっ!
ピンシャー犬尉、なんとかならんのかっ!?」
「元々知能が高いうえに陸曹長から入れ知恵されてますので、簡単にはいきません。
再度、作戦を練り直した方が良いかもしれません。」

一方、防衛隊のテントで雑談している陸曹長と令子たち。
「美神さん、防衛隊へのご協力ありがとうございます。
知能も運動能力も高いシロさんとの演習は、当部隊にはとてもよい訓練になります。」
「いえいえ、こちらこそ。アームの修理代をチャラにしてもらったうえ、
いいアルバイトにもなりますし、あのコもダイエット出来ますからね。」

「う〜ん、たしかにダイエットにはなるだろーけど…」
「私だったら、絶対に断る仕事だわ。」
「あああ…、シロちゃん…」

その頃、独りで山の中を狼姿で逃げ回っているシロ。
『拙者、狩るのは得意でござるが、狩られるのは慣れてないでござる。
先生〜〜! 拙者を助けて欲しいでござる〜〜! ワオォ〜〜〜ン!』

そう言いながらも、おやつ代わりに野ネズミ狩って食べてるシロではあった。
もぐもぐもぐ…



    END
TOPへ》 《戻る》    《前の作品へ》  《次の作品へ