溶存酸素に絶えず気を遣うこと
金魚水槽を維持していくために一番大事なことは何か?――誰かからもしこんな質問を
されたら皆さんはどうお答えでしょうか。
私のHPをたまにご覧頂いている方なら“水換え”という回答が思い浮かぶかもしれま
せん。もちろんそれはそれで文句のつけようはないのですが、実はもっともっと大事なこ
とがあります。
それは溶存酸素を増やすこと、つまりエアレーションです。
水換えを怠って硝酸塩を増やしてしまったとしても金魚はすぐには死にません。免疫が
やられエラの増生(Hyperplasia)が始まり、そして最後には常在菌であるアエロモナス・
ハイドロフィラの攻撃に負けて死ぬのが典型パターンですが、速攻というわけではありま
せん。その点、溶存酸素は金魚が生きていくための必須アイテム?ですから、ちょっと少
なくなるだけで速攻死につながるという意味でとても重要なファクターとなります。
ところが非常に多くの飼育者はこの溶存酸素について意に介さないのが普通です。水草
のない水槽でたまたま外部フィルタを使っておられる方は、酸素不足の心配を解消するた
めにブクブク(エアレーション装置)をつける例が多いでしょうが、上部フィルタの場合、
酸素は一応水槽中に供給されるというのが一般的な知見ですので、ブクブクはあえて付け
ないのがむしろ主流ではないでしょうか。特に40cm以下の小さい水槽ですと、水槽中に設
置するスペースが少ないという物理的事情もあります。
もちろん上部フィルタでブクブクなしでも、飼育している金魚の数が少ない場合は大き
なトラブルにはならないかもしれません。しかし金魚が成長していくにつれて溶存酸素の
必要量は徐々に増えていくことを忘れてはいけません。また、夏祭りや何やらで、金魚の
数が一気に増えたときは、飼育者としては最も慎重に対応すべきです。
「夏祭りの金魚を追加した途端、水槽中の金魚がばたばたと死んだり、病気に罹ってしま
った。やっぱり夏祭りの金魚が病気を持ち込んだのでしょうか?」
というご質問はいつどこでも聞かれるます。夜店の金魚のせいにしてしまうのは簡単だし、
金魚ショップの店員さんであればたぶんそういうアドバイスをするのでしょうが、実際の
ところ、そうではない例が多いのではないかと思っています。金魚飼育を行うための根本
的な問題――つまり溶存酸素不足でなかったかどうか?を是非点検するようにして欲しい
と思います。
夏には注意。溶存酸素不足の水槽
夏場は金魚水槽の水温もぐっと上がります。水温が上がると水槽中に溶け込むことので
きる酸素の量もガクッと減ります。これは夏場の金魚飼育を唯一難しくしている根本原因
になります。こうした状態の水槽に、夜店でゲットした金魚をポチャポチャ入れてしまい
ますと、一気に酸素不足の状態になり、金魚は生死の危機に直結した猛烈なストレスのな
か、病気になったり、ひどいときには頓死してしまったりするでしょう。
ヒーターを使って定温飼育をなさっている場合も同じです。新しい金魚を追加するとき
などは水温調整を上手にしてやらないと、せっかく今まで育てた古株の金魚の命を奪って
しまうことになります。
金魚が酸素不足になると“鼻上げ”をするというのが一般的な知見ですね。これはもち
ろん事実なのですが、これを逆手にとって、「鼻上げしていないということは酸素は一応
きちんと行き渡っている証拠である」と考える方がほとんどではないかと思います。しか
し逆は必ずしも真ならず、です。
水槽中の溶存酸素が減ると金魚はエラの細胞を変化させるなどして、酸素の少ない環境
でも何とか生き延びようと必死の努力をします。ある種の適応応答ですが、これによって
継続的な酸素取り込みに成功していたとしても金魚には大きなストレスがかかっているこ
とは間違いありません。そして、こんな状態のまま酸素不足がさらに高じてくると、金魚
はもはや自力救済をあきらめ最後の手段である“鼻上げ”をするようになるわけです。
つまり、鼻上げという行為はもはや金魚自身の力では生きていけないという物凄く深刻
な状況を意味しているということですね。飼育者としては金魚が鼻上げをするようになる
前にエアレーションの強化等、適切な処置をしてやらなければなりません。
水槽水に酸素が取り込まれる仕組み
なかに何もない水槽に水を張ったところを想像してください。そのとき空気中の酸素は
“水面”から水槽内に拡散しながら取り込まれることになります。容易に想像できるかと
思いますが、水量が同じ場合、水槽の面積(=縦×横)に比例して酸素の取り込み速度が
決まります。つまり、ツボのような容器とタライのような容器を比べると、タライのほう
がはるかに酸素を取り込みやすく、金魚飼育により適しているということですね。日本古
来の金魚鉢をご存知だと思いますが、あれは上部のほうでスクイーズされたような形状を
していて水と空気との接触面積が小さくなっています。この意味で金魚鉢というのは実は
金魚飼育には不適な容器なのです。
次にこの水槽に金魚を入れ、エアレーション装置を設置するとします。装置からは気泡
がブクブクと出ていきます。この気泡をクローズアップしてみてみますと、気泡の表面積
がすなわち“空気と水との接触面積”になります。泡の数が多ければ多いほど合計の表面
積=接触面積が増え、酸素の水への拡散が進むという理屈になります。エアレーション装
置の基本的な原理はこういうことです。
つまり通常の金魚水槽では、水面の面積とすべての気泡の表面積とを足し合わせた数字
が空気と水との接触面積になり、この値が大きければ大きいほど酸素リッチな水槽水にな
るということがいえそうです。
しかし気泡における酸素拡散問題というのは実はもう少し複雑です。なぜなら気泡とい
うのは浮力によって常に上へ上へと運ばれ水槽中に留まる時間が非常に短いからです。酸
素の拡散というのは時間がかかりますから、せっかく気泡ができて表面積が増えても、あ
っという間に上昇して消えてしまっては十分に溶け込む時間がありません。水面という接
触面が半永久的であるのに対し気泡の接触面は寿命が短いということです。
安価な投げ込み式フィルタを使っておられる方は多いと思います。商品名は控えますが、
どれも似たような構造で、フィルタリング機能(物理ろ過、化学ろ過、生物ろ過)に加え
てエアレーション機能を兼ね備えたものと謳われていますね。
少しショッキングなことを言うようですが、実をいうと、この投げ込み式フィルタのエ
アレーション機能はほとんどないに等しいというのが事実です。モノを実際にお持ちの方
はご存知でしょうが、投げ込み式フィルタが作る気泡は非常に大きなものです。気泡が大
きいということは浮かびあがろうとする力が強く、発生したらそれこそ速攻スピードで上
昇し水面で消滅してしまいます。米国のある研究者が、投げ込み式フィルタを入れた水槽
の酸素取り込み量を測定してみたら、水面からの取り込み量がほとんどで、投げ込み式フ
ィルタの気泡による効果は全体の5%未満にすぎなかったという結果があります。
では気泡をいくら作ってもエアレーションはよくならないかというと、もちろんそんな
ことはありません。投げ込み式を2つ入れてもほとんど効果がないのは上で申し上げたと
おりですが、エアレーションを飛躍的に向上させるテクニックは存在します。
エアレーションの機能強化を図る
気泡によるエアレーション効果を上げるためには、まずはできるだけ細かい泡を作る
エアストーンを使うことが必要です。気泡が小さくなれば物理の法則で浮力も小さくな
り、水面へ到達するまでの時間が長くなります。この間に酸素が取り込まれる量もグンと
増えるでしょう。また、エアポンプが1分間に送り出すことのできる空気の量は一定です
から、泡を細かくして数を増やすことによって、大きな気泡のストーンと比べ気泡表面積
の合計値も大きくなります。
この二つの効果によってエアレーション機能を飛躍的に高めることができます。こうし
た目的にぴったりなエアストーンを製造販売している会社はいくつかありますので、ネッ
トなどで検索してみては如何でしょうか。
次に水面からの取り込み量を倍増させる方法です。結論からいいますと、何らかの方法
によって水面を波立たせることです。これは“アジテーション”といわれるテクニックで、
これによって水面からの溶存酸素取り込み速度が著しくアップすることが研究の結果明ら
かになっています。
具体的には、たとえば上部フィルタやスポンジフィルタの排水口を水面と同じ高さか、
あるいはやや上のほうにセットし、循環水を吐き出す力によって水面に擾乱(じょうらん)
を与えるようにします。これによって水表面は絶えず細やかに動くようになり酸素拡散が
促進されるというものです。注意しなければいけないのは、あまり派手にドボドボやらな
いことです。水槽内に強い水流ができると金魚にストレスを与えてしまうからです。水面
が軽く揺らめく程度で十分です。
ちなみに先ほど投げ込み式フィルタの大きな気泡はエアレーション効果がないと申し上
げましたが、気泡による間接的な効果はあります。それがこのアジテーションです。大き
な気泡は水面に浮上したとき、また、パチンと消滅するときのエネルギーが大きいですか
ら、水面を揺らめかせるのにプラスになるという理屈ですね。もちろん、こうした気泡に
よる間接的アジテーションは付随的な役割でしかないことはいうまでもありません。
エアレーション装置の秘密兵器?
エアストーンから出てくる気泡は通常水中をすみやかに上昇し水面で消滅します。酸素
の拡散(空気中⇒水中)はこの短い間に行われるのですが、この時間が長ければ長いほど
優れたエアレーション装置ということになります。
私は昔、この滞留時間を長くしようと考え、一種の改良型エアレーション装置を作った
ことがあります。名前はすごいですが実は恥ずかしいほどカンタンなものです。
【Hincon式エアレーション装置――貯金箱編】
1.まず、百円ショップで(できれば内部の仕切りが多い)貯金箱を買ってきます。
2.上部のお金挿入口からエアチューブを差し込み、底のお金取り出し口から出し、小さ
なエアストーンと接続します。
2.底のお金取り出し口から細かい砂利またはろ材を混ぜ、適当な密度で詰め込み、最後
にエアストーンを収納します。
3.底のフタを閉め、貯金箱を水槽に沈めて完了です。
説明の必要はないかと思いますが、これはエアストーンから出てきた気泡を貯金箱内の
砂利などによって上部の差込口まで到達しにくくするという装置です。少しでも気泡の滞
留時間を長くしようという意図が見え見えですネ(笑)。時間のある方はいろいろと工夫を
して楽しんでみてください。
ちなみに上で作った装置は、さすがに格好悪いので今は本水槽からは取り出しましたが、
病気の治療をするときに隔離水槽またはバケツなどで使ってみると驚くほど治療効果が上
がることがわかりました。理由のひとつはもちろん溶存酸素が効率的に確保できているか
らだろうと思います。そして、もうひとつは、治療バケツ内での水流がかなり抑えられる
ということです。病魚にとってエアレーション装置による強い水流はタブーですから、そ
ういう点でも貯金箱はバッファとして十分な効果を発揮しているのでしょう。
改良型エアレーション装置は市販品として入手できるものはほとんどありませんが、唯
一、totto(トット)という会社が作っているバブルストッパーという商品があります。
夏場はもちろん溶存酸素確保の観点から威力を発揮してくれますし、冬場などの気泡によ
る水の蒸発が多い時期はこれを使用すると“差し水”の量を大幅に抑えることができて非
常に重宝します。一般にはあまり知られていないかもしれません。定価1500円とちょっと
高めですが関心のある方は一度お試しください。
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