金魚飼育のあれこれ(17)

バクチャー考察


 「飼育水用の市販バクテリア」というと眉をしかめる金魚愛好家が多いかもしれません。
何を隠そう、私Hinconもどちらかというとその部類です。微生物というのは、個々の水槽
が持つ環境上の特性にしたがって、事実上水槽自体が生み出し、そして年月をかけて育ま
れていくものであって、カンフル剤のごとく外部から導入されたものは遅かれ早かれ淘汰
されてしまうものだからです。微生物世界というのは、変な言い方ですが、いわゆる"神
の領域"に近いものがあると思うわけです。

 しかし、市販品のなかにはメーカーが技術の粋を尽くして開発したものもたくさんある
ことは事実で、ただ盲目的に市販品を全否定するのは誤った態度ではないかとも思ってい
ます。また、金魚飼育において明らかにプラスの効果が認められるものもあり、私自身、
非常に興味深いものを感じています。
 ここでは、発売以来、私がずっと注目してきた製品「水質浄化活性石バクチャー」を
ご紹介します。この商品は、岡山県津山市のRBCコンサルタントという会社が開発され
たもので、池や河川の浄化において数々の実績を重ね、金魚飼育用としてアイドールとい
うグループ会社から販売されている商品です。


バクチャー水槽の微生物世界
 バクチャーの原料は、美作市で採取した土が素となっているそうです。本商品の特許公
報【特許番号 2903359号】によると、多孔質の火山礫と黒土の混合物を酸化処理により殺
菌したものとされています。

 同社が実施した池の浄化実験によると、バクチャーを投入した池には、ワムシやミジン
コといった多種多様な動物性プランクトンが増加します。特に、水質浄化の専門家といわ
れる原生動物――ボルティケラ(つりがね虫)が、バクチャー投入後24時間で生息が確
認されることは注目に値するでしょう。
 こうした原生虫が多様に生息する水槽は、私が以前ご紹介した"バランス水槽"(水槽
で活躍する細菌たち)と一脈通じるものがあります。というより、微生物レベルを数ヶ月
〜1年かけて徐々に上げていくか、あるいは、外来の微生物セットを一気に投入するかの
違いであって、コンセプトは同根だといえるかもしれません。いずれも動物プランクトン、
特に、水の汚れ(浮遊粒子)や雑菌などを食べるボルティケラが発達した水槽ですので飼
育水は輝くような透明感を持つようになります。


バクチャー水槽の目指す微生物ループ
 バクチャーは野生の動物性バクテリアの塊といえるかもしれません。動物性バクテリ
アは水をきれいに保つとともに、金魚などの小魚の貴重なタンパク源となりますので、魚
の健康にとって必ずプラスの効果を与えるはずです。
 一方、緑藻、珪藻、クロレラなどの植物系の微生物群はどうなるのでしょうか。これに
ついてはなかなか興味深い結果が報告されています。バクチャー投入によって、植物系バ
クテリアが"非常に多かった"池の原水が、"非常に少ない水"に変化したということです。
一言でいうと「激減」といっていいかと思います。

 この理由はおそらく発達した動物プランクトンが植物系を捕食するからでしょう。だと
すると、この実験池では「植物プランクトン⇒動物プランクトン⇒金魚」という微生物ル
ープの一部が達成されていると想像できます。これは驚くべきことです。また、植物系微
生物の勢力にこれほど大きな変化(=激減)を起こさせたという事実によって、バクチャ
ーが産み出す動物性プランクトンのパワーの大きさを窺い知ることができます。


バクチャー水槽の注意点1
 バクチャーに限らず、どんな市販バクテリア類でもそうですが、アンモニアを亜硝酸に
換えるニトロソノナス属はだいたいどんなバクテリア製品にも含まれていて、水槽を立ち
上げると速やかに増殖を始めます。
 しかし亜硝酸を硝酸塩に変換するニトロスピラ属のほうは、現在のところ乾燥状態で保
存する技術はありませんので、使用開始時は当然のことながら"ニトロスピラ≒0"の状態
のはずです。これはバクチャーとて例外ではないでしょう。
 したがって、私がオススメしたい安全策は、バクチャーを投入する前に、あらかじめフ
ィッシュレス法によってニトロスピラを増殖させたろ材を用意しておくということで
す。少し時間はかかるかもしれませんが、これによって導入初期の水質不安定を完全に回
避することができるはずです。

 ただし(これは想像ですが)バクチャーを導入したばかりでニトロスピラがほとんど育
っていない状態であっても、「亜硝酸がほとんど検出されない」ことがあり得るのではな
いかと考えています。これはなぜかというと、バクチャーの大元の素材が"土壌系"だか
らです。土壌の中には水系のニトロスピラは全く存在できない代わりに、同様の硝化作用
をするニトロバクター属が生息していることがあります。
 ニトロバクターは水環境下ではニトロスピラに勢力を奪われ最後には消滅してしまいま
すが、周りに餌(=亜硝酸)がある限り、ニトロスピラとの生存競争の過程で劣勢に立た
されながらも細々と硝化作用を続けるものと思われます。したがって、もし仮にバクチャ
ーの中に、このニトロバクターが大量に含まれているとしたら――少なくとも水系のニト
ロスピラと完全に勢力交代するまでのあいだ、亜硝酸を硝酸塩に変える働きを代替してく
れる可能性は十分あると思います。

 いずれにしても土壌を活躍の場とするニトロバクター属に、水槽中で大きな硝化作用を
期待するのは無理があります。でき得るなら先に申し上げたとおり、ニトロスピラを前も
って繁殖させておくか、あるいは、水槽立上げからしばらくの間は餌を極端に減らし金魚
への負担を極力なくしてやるのが安全なやり方でしょう。


バクチャー水槽の注意点2
 バクチャーのうたい文句は「1年間水換え不要」です。賛否両論のあるところですが、
この問題には二律背反の側面が潜んでいると思います。

 まずひとつ――バクチャー水槽というのは一種のバランス水槽ですから、基本的に水換
えをしてしまうと値千金のプランクトンも一緒に捨ててしまうことになります。これは微
生物ループを目指した、そもそもの水槽コンセプトと矛盾します。せっかく確立したルー
プを人為的に(一部)破壊してしまうからです。つまり、"バクチャー水槽"はできるだけ
水換えをしないほうがいい、という結論になります。

 では水換えをしなければどうなるか? これは簡単に想像がつきます。答えは「硝化サ
イクルの最終生成物である硝酸塩がどんどん蓄積する」ということです。
 硝酸塩については私の硝酸塩のコラムにやや詳しく書きましたが、決して安全な代物
ではありません。アンモニアや亜硝酸と比べると危険性は格段に下がりますが、硝酸塩の
濃度が高くなってくると明確な毒性を示します。通常の金魚飼育で水換えを行う理由のひ
とつは、この硝酸塩の濃度を薄めてやることです。
 ではバクチャー水槽でも通常の水槽と同じように硝酸塩濃度は逐次上昇していくものな
のかどうか――これは餌の量や金魚の数にもよりますので一概にはいえませんが、増加し
ていくことは間違いないと思います。事実、バクチャーの特許出願情報【特開平10-23025
2】によれば、60リットル水槽で熱帯魚3〜5匹を飼育した場合、硝酸性窒素+亜硝酸性窒
素の濃度は2ヶ月で約70ppm、半年で約300ppmにまで上昇していることが明記されています。
亜硝酸はほとんどゼロと考えて硝酸イオン濃度に換算すると、2ヶ月で約300ppm、半年で
約1300ppmになります。これは相当の高濃度です。

 硝酸イオンが金魚に与える悪影響のうち代表的なものは"免疫の低下"です。そのしきい
値について定説はありませんが、一般に60〜100ppmくらいの濃度で免疫低下の影響が出始
めるといわれています。また、1000ppm 近くなるといわゆる免疫不全という状態になり一
気に罹病率が上がるというデータが報告されています。
 ですので、私の予想ですが、バクチャー水槽を立ち上げ、半年くらい水換えなしに放置
していると、金魚の免疫システムはほとんど機能しなくなり、非常に病気に罹りやすい状
態に陥るのではないかと考えています。そうした状態で最も気をつけなければいけない病
気は、いわずとしれた水槽の死神――アエロモナス病になるでしょう。

 つまりバクチャー水槽は、できるだけ水換えをしないほうが良い水槽であると同時に、
硝酸塩(≒硝酸イオン)を除去するために"ある程度"水換えをしなければならない水槽で
ある――という二律背反のジレンマを持っているのではないかということです。


バクチャー水槽の注意点3
 硝酸イオンを除去するために水換えをすると申し上げましたが、具体的にはどの程度の
頻度で行うべきなのでしょうか?――一番悩むのが硝酸イオンの上限をいくらに設定する
か、ですが、これは非常に難しい問題です。これ以下であれば大丈夫という基準がないか
らですね。前述の特許出願情報データを基にすると、大まかにいって、1ヶ月に一度、半
分くらいの水を換水すれば、常時400ppm以下には抑えられるでしょう。これでも相当高濃
度ですが、バクチャーによって硝酸塩以外の水質が理想に近い状態で維持されていること
を考えると、金魚が1年のあいだ十分耐えていける濃度ではないかという気がします。
(もちろんあくまで想像ですヨ)

 さて、水換えだけに依存するのはバクチャー水槽の利点を発揮する上で片手落ちだと思
います。硝酸塩の増加をできるだけ抑えるために次に考えられるのは、「毎日与える餌の
量をできるだけ少なくする」ということです。そもそも硝酸塩の大元は餌に含まれるタン
パク質(高分子窒素化合物)ですから、この供給量を控えることは直接的な対策となりま
す。

 また、硝酸塩を積極的に吸収する"水草"を利用することも効果的です。水草を導入され
た経験をお持ちの方はご存知でしょうが、この水草というのは硝酸塩を非常に効率的に吸
収してくれます。水草水槽は水換え要らず――完全な真実ではありませんが、そこそこ
正しい事実といえます。ただし、問題点がひとつあります。それはバクチャー水槽の飼育
水というのは、「硬水」であるという事実です。要するにカルシウムやマグネシウムが多
い水ということですね。半年放置すると硬度が1,000mg/L近くになるようですから、こ
れはもう驚嘆すべき“硬さ”になります。

  注:一般的には、硬度100mg/L未満は軟水、100mg/L以上で中硬水、300mg/L以上で
    硬水と分類されています。日本や米国での硬度の定義は、炭酸カルシウム換算量
    といわれており、「硬度=Ca量×2.5+Mg量×4(mg/L)」となっています。

 ご存知の方は多いと思いますが、水草というのはほとんどの種類がCaやMgの少ない
「軟水」を好み、硬度が極端に高い水環境で育てられる種類はかなり限られてきます。一
切水換えをしたくないという方は、そうしたものを探してきて大量に植え込むか、あるい
は陸生の植物をろ過槽などのスペースを利用して栽培するか――などの工夫が必要でしょ
う。

 しかしバクチャー水槽であっても、ある程度水換えを行えば硬度の上昇を抑えることが
できます。前述の特許出願情報によれば、硬度の上昇は1ヶ月につき150mg/L程度になっ
ていますので、適切な間隔で水換えを行えば、「中硬水」くらいのレベルで推移させるこ
とも可能でしょう。これであれば育てられる水草の種類もかなり広がるはずです。 

 ちなみに、コケ、特に緑藻類は(水草ほどではないですが)かなりの硝酸塩を吸収しま
す。水槽に緑ゴケが付いたら除去せずに増えるにまかせる(もちろん鑑賞用の窓となるガ
ラス面だけは別ですが・・・・)、といったことも硝酸塩低減に役立つと思います。いずれに
しても、バクチャー水槽では時間とともに硝酸塩が増加していきますので、ある段階から
水槽はコケだらけになると推測されます。


■硝酸塩の多い水槽――やってはいけないこと
 今までコラムや掲示板で何度か取り上げたかと思いますが、硝酸塩の多いバランス水槽
で気をつけなければいけないことを改めて書いておきます。バクチャー水槽にも共通の話
だと思いますので、ご参考になさって下さい。

◇毎日の餌の量をなるべく少なくしましょう。

 餌の量と硝酸塩の蓄積速度は比例する話は既にいたしました。また、バランス水槽では
微生物ループが一部成立しており、プランクトン自体が金魚の餌にもなりますので、ある
程度の期間エサを与えなくても金魚が餓死することはありません。

◇差し水は忘れずに行いましょう。

 水槽で水をぐるぐる回していると、特に冬場などの乾燥する時期は水が蒸発し、水量が
どんどん減っていきます。普通の飼育でも「差し水」は必要ですが、硝酸塩の多い水槽で
は特に大切です。蒸発によって濃度が短期間でグンと上昇する危険性があるからです。な
お、少量の差し水とはいっても、浄水を使ったり汲み置きしたりと、なるべくカルキ(塩
素)を抜いたものを用いるのが基本に忠実なやり方だと思います。

◇水換えのときは少しずつ段階的に行いましょう。

 水換えといっても3週間〜2ヶ月に1回という感じになると思いますが、このとき、水
を一気に換水してしてしまうと、金魚はいわゆる水質ショックを受けます。金魚というも
のは、硝酸塩濃度のゆっくりとした増減には何とか適応できるのですが、濃度が一気に増
えたり、一気に減ったりする急激な変化には対応できないからです。
 全体として「1/2の換水」を行いたい場合は、たとえば「まず1/4の換水を行い、次の日
に1/3の換水を行う」というようなやり方をとります。詳しくは別コラムをご覧下さい。

◇新たに金魚を導入するのはできるだけ避けましょう。

 上の話と同じです。新しい金魚は高濃度の硝酸塩には慣れていませんので、いきなりバ
ランス水槽へ放り込むと適応障害を起こしてしまいます。どうしても導入したい場合は、
別水槽を用意し、徐々にバランス水槽の水を混ぜて2、3週間かけて慣らしていきます。

◇【特にバクチャー水槽について】商品の交換は適切に行いましょう。

 バクチャーの場合、交換の目処は1年とされています。交換を行う場合は、古いものと
新しいものを一気に取り替えるのではなく、しばらく両方を入れておく期間を設けるとす
んなりと移行できるかと思います。こうした製品の場合、新品が本格的に機能するまでし
ばらく時間がかかるのが一般的だからですネ。


■さいごに
 バクチャーの利点と欠点を私なりに考察し、分かる範囲でお話してきました。予想され
る欠点をあえて申し上げたのは、すべてをひっくるめてご理解された上で、これから購入
してみようという方に最良の使い方をして欲しいと考えたからです。要するに、私として
は、それだけバクチャーという製品に将来性を感じていて、同時に大きな期待をかけてい
るということに他なりません。

 巷にはバクテリア商品は溢れていて、ビギナーの方はいろいろと買い漁ったりするかも
しれません。そうした方々に共通の気持ちは「できるだけラクに水槽を立ち上げたい」と
いうものだと思います。気持ちは痛いほど理解できます。
 「金魚を死なせない」かつ「できるだけ安価な」飼育法を広めたい私Hinconとしては、
"米国式フィッシュレス・サイクリング法"でじっくりと水を作り、少ない餌やりと頻繁で
慎重な水換えを中心とした「ラクラク飼育」を一番にオススメしたいところですが、「ど
うしても水作りの時間が待てない方」や「新たな飼育方法にもチャレンジしてみたい方」
が多数いらっしゃるのも否定できない事実です。
 そうした方にとって、どうせ購入するのであれば「バクチャー」がダントツに優れてい
ると思いましたので、コラムとしてまとめてみました。近い将来バクテリア商品の購入を
ご検討の方々に少しでも参考になれば幸いです。