金魚がウチにやって来たとき
夜店の金魚を子供が持ち帰ってきた――これは親にとっては何と表現してい
いのか戸惑うくらい微妙な感情を引き起こしますね。「金魚、かわいいね」な
どと子供にゴマをする一方で、「これから先、どうすればいいのか?」という
現実的な問題に直面するからです。このコラムではこうした緊急時対応(笑)の
やり方についてお話したいと思います。
ショップで金魚を買う場合は、別のコラムで既に紹介しました。買いに行く
前に必ず水槽をセットアップし、水を作っておくということです。既に水槽を
お持ちの方はその水換え時の不要水やろ材や砂利の一部などを利用して新しい
水槽を速攻で立ち上げればいいでしょうし、金魚飼育が初めての方は、少々時
間はかかりますが、私がお勧めしているようなフィッシュレス・サイクリング
法で水を作っておけば、その後の飼育が格段にラクになります。
ですが、実際の話、金魚はいつ自宅にやってくるか判りません。特に夏祭り
のシーズンになると、場合によっては1週間に1、2匹が自宅に「強制導入」
されることになります。導入されたところが、きちんとした金魚水槽がある家
庭であれば何の問題もないのですが、「金魚飼育は初めて」という方は意外と
多いのではないでしょうか。こうした方に対して、とりあえずマグロで水を作
ってください(笑)などと助言するわけにもいきません。
そこで、私Hinconとしましては、非常時に限り利用可能な“即席フィッシュ
レス法”を紹介したいと思います。これは、金魚飼育が初めてで、ご自宅に金
魚や熱帯魚の水槽をひとつも持たない方のための方法です。即席に水ができあ
がる代わり、いくつか欠点もありますので、時間に余裕のある方はもちろん、
夏祭りシーズンの1〜2ヶ月前から、標準的なマグロ漬け法によって、きちん
とした飼育用の水を作っておくことを強くお勧めします。
さて、即席フィッシュレス法ですが、まず、夜店の金魚を子供が持ち帰ると
ころから始まります。夜店の金魚は通常、数百ccの水が入ったビニール袋に
放り込まれます。即席法では、夜店でもらった、このわずかな水を利用します。
とりあえずは、バケツに水道水を入れ、カルキ抜きをします。突然のことで、
カルキ抜きの薬がないという場合はあり得ますね。そして、こうしたときは通
常は夜ですので、カルキ抜きを買いに行くわけにもいきません。(ただし、そ
れが可能な時間帯でしたら是非スーパーなどに足を運んで“コントラコロライ
ン”などのカルキ抜きを購入されることが一番です。)
水道の蛇口にたとえば簡易浄水器が付いている場合は儲けものです。トレビ
ーノとか色んな種類がありますね。簡易浄水器というのは、中空糸膜などの細
密フィルタを使って塩素などを除去するための道具です。もちろんワンススル
ー(1回しかフィルタに通さないこと)ですので、バイパスリーク――つまり、
フィルタと器具の隙間などを通り抜けてしまう水が混じっています。ですので、
塩素が完全に除去されているわけではありませんが、水道水の原水を使うより
は比べ物にならないくらい塩素成分が少ない水となっています。
次に、バケツに溜めた水道水を物理的なやり方で塩素抜きをします。もうひ
とつ、きれいなバケツを用意します。そして、水の入ったバケツをできるだけ
高い位置にかかげ(水をこぼさない程度の高さから)、空のバケツをめがけて
滝のように水を落としてやります。ゴボゴボ、バシャバシャーという感じで、
できるだけ泡立つように行います。これは曝気(ばっき)といわれる昔ながら
のテクニックで、水に溶けている塩素などの揮発性成分がサクサクと空気中へ
移行されることになります。もちろん、1回の滝落としで全ての塩素が抜ける
わけではありません。何回やれば抜け切るのか――は議論のわかれるところで
はありますが、10リットルの水であれば、おそらく10回は曝気したほうが安心
です。なお、曝気のいいところは、塩素が抜けるだけでなく、逆に空気中の酸
素が可溶限界まで水に溶けてくれることです。この酸素がとりあえず金魚の命
を救ってくれます。
こうして作ったバケツの水に金魚の入ったビニール袋を浮かべます。このと
き、ビニール袋内の水はバケツの水に入らないようにしてください。数十分経
って水温が同じになれば、今度は水合わせです。バケツの水を少しずつ十分な
時間をかけてビニール袋に入れていきます。この時、ビニール袋の水をバケツ
に移すことはありません。ビニール水はあとで使いますので、通常の金魚導入
の場合と違うことにご注意ください。あくまでもビニール袋への“足し水”で
す。
数十分かけてビニールに足し水し、金魚がバケツ水に慣れた頃、ようやく金
魚をバケツに放してやります。“手”を使います。つまり、素手でビニール袋
に手を突っ込み、金魚を優しくつかんだら、さっとバケツに放す――とにかく
優しく優しく、が大切ですね(笑)。
金魚をバケツに入れ終わったら、次はビニール袋の水の処理に移ります。こ
れは金魚の糞や硝化菌が含まれている“種水”ですから大事にしないといけま
せん。まず、前述と同様、曝気によって塩素を抜き、酸素がたっぷり溶け込ん
だ水を作ります。5リットル程度で十分です。その水の入ったバケツにビニー
ル袋の水をじゃーっと注ぎます。とりあえずはこれでOKです。具体的な水作
りは次の日以降に始めることになります。
なお、面倒だからといってビニール袋の水をそのまま一晩置いておくと、腐
敗菌の働きにより溶存酸素があっという間に切れて、十中八九、嫌気性細菌が
発生します。こうなったら水作りは(不可能ではありませんが)かなり難しく
なりますのでご注意ください。
ここまでが応急措置です。この後はできるだけ早い時期に金魚ショップへ足
を運ばなければならないことになります。とはいっても、お仕事をお持ちの方
はそうはいかないでしょうから、夏祭りで金魚をもらってきたのが日曜日だと
すると、大抵は次の土曜日にようやくショップに行けることになりますね。こ
のあいだ、金魚を何とか生かし、かつ、種水の硝化菌を生かすことが重要です。
金魚のほうは、次の日にはバケツ中の糞を全て除去し、完全曝気水で2/3程度
の換水を行います。エアレーション装置(ブクブク)のない状態を想定してい
ますので、やや多めです。次の日から1週間程度は1日おきに完全曝気した水
を1/2程度換水して金魚の命の長らえます。エアレーション装置を晴れて購入
するまでの我慢ですね。金魚の様子をみて、塩を入れてやりたいところですが、
これを入れるとバケツ水の溶存酸素がガクッと減ってしまいます。ブクブクの
ない状態ではかなり危険ですので絶対に避けてください。
種水のほうも酸素を供給してやる必要があります。ただし、これは換水をし
てはいけません。具体的な供給方法はいくつかあります。一番わかりやすいの
は、もうひとつバケツを持ってきて、滝落とし曝気をすることです。あるいは、
その時間のない人は手軽な方法があります。割り箸や攪拌器具などを使ってバ
ケツの水を数十分間ゴボゴボと泡立ててやることです。さらにもっと効果的な
方法は、扇風機を近くに持ってきて、バケツの水面に当ててやることです。こ
うすることで、バケツ内の溶存酸素レベルを大幅にアップさせることができま
す。
そして土曜日が来たら、アクアショップへ行き、水槽、投げ込み式フィルタ、
エアレーション装置(2つ)、底砂、カルキ抜きなどを購入してきます。つい
でに金魚を買ってきても構いません。金魚が入ったビニール袋の水には硝化菌
がたくさん含まれていますので、先の夜店の水と合わさって、水作りがさらに
加速されると思います。
帰宅したらすぐに金魚のバケツにエアレーション装置を入れて酸素を供給し
てやります。この装置、通称“ブクブク”は意外と非効率的な酸素供給装置な
のですが、フィルタ装置の補助あるいはバケツの酸素補給などの用途で使う分
には非常に優れています。もちろん扇風機があれば併用して利用なさるといい
でしょう。これで金魚の命のほうはとりあえず安心です。なお、餌は1週間後
くらいからなら、少しだけ与えてもいいでしょう。ただし、与えた次の日はバ
ケツ内のアンモニア濃度が急上昇しますので、必ず大型の換水が必要です。そ
して、糞の除去を毎日しつつ、隔日に1/2 の換水を行いましょう。硝化菌のな
い水ですから、これはどうしても必要ですね。
水作りのほうも用具が揃えば飛躍的に進展します。まず水槽に底砂を洗った
り投げ込み式フィルタ装置を底砂の上にセットしたりして形を整えます。そし
て、今まで保存していた“種水”5リットルを注ぎます。そしてフィルタ装置
をオンにすると、晴れて本格的な水作りとなりますね。上部フィルタをセット
した場合はポンプヘッドが立たない場合がありますので、その場合は水を増や
してやる必要があります。いずれにしても、虎の子の夜店の硝化菌があれば、
通常よりも早い時期に亜硝酸のゼロダウンが達成できるでしょう。
ここで、タンパク源として何を入れるかです。マグロでも構いませんが、と
にかく硝化菌だけをターゲットに可能な限り早く水を作りたいわけですから、
もっと効率的なものが相応しいと思います。既に気付いている方もいらっしゃ
るでしょうが、それは「アンモニア水」です。これは米国のフィッシュレス・
サイクリングで用いられているもので、ゼロダウンが非常に早いことでは右に
並ぶものがありません。
通常であれば、私Hinconとしてはあまりお勧めしません。というのは、本来、
金魚水槽で必要な細菌は硝化菌だけでなく、もっと色々な種類があると思われ
るからです。たとえば、好気性従属栄養細菌は簡単に増殖しやすいものといわ
れており、物凄い多くの“種”が存在していますが、クリアな金魚水槽の水に
本当の意味で最適なものは数種類に限られるのではないかと思っています。ま
た、金魚の餌に含まれる脂質や炭水化物を小さな分子に分解する細菌も必要で
すし、水質浄化に関係が深い原生プランクトンが若干量存在していることもレ
ベルの高い水槽水の条件といえるでしょう。こうした微生物群というものは、
マグロのような“有機物の塊”からしか発生し得ず、有機質をまったく含まな
い「アンモニア水」では駄目です。そして、これらが増えないということは、
理想的な微生物バランスを持った飼育水とはいえないわけです。
ですが、金魚水槽を成立させるための重要度からいえば、硝化菌は8割から
9割を占めるものです。硝化菌以外に必要なものは、金魚を入れてからじっく
りと培養しても特に金魚を死に至らしめることはないだろう――というのが、
米国流のフィッシュレス法の考え方なのだろうと理解しています。ですので、
今お話しているような状況下でこの「アンモニア水」を利用しないのは、むし
ろ片手落ちといえるでしょう。
アンモニア水は何でもいいというわけではありません。通常、アンモニア水
は虫さされの薬として使いますから、アンモニア分子以外の添加物がたくさん
含まれています。「キンカン」などはいい例ですね。塗るとスカッとしますが、
あれは特殊な物質の効果です。フィッシュレス法で使うアンモニア水は、絶対
といっていいほど、不純物が混じっていてはいけません。「日本薬局方」のブ
ランドが付いているもので、成分をきちんと確認してから使うようにして下さ
い。日本の薬局で一般に売られているアンモニア水は普通は10%の薄め液です。
フィッシュレス法では大量のアンモニアが必要ですので、できれば 500mlくら
いのボトルを購入した方がいいでしょう。
さて、このアンモニア水を薬局で買ってきたらどうするか――水槽にどれだ
け入れればいいのかという問題ですが、これは一気にいきましょう。水槽の水
が5ppm になる量を添加します。たとえば水槽水が5リットルだとすると、ア
ンモニア正味の量で25mg必要です。10%の薄め液ですと、250ml程度をドバッと
入れるわけですね。これで夜店金魚の水に若干含まれていたニトロソモナス属
の硝化菌が「得たり」とばかりに繁殖を始めるはずです。そして、亜硝酸をど
んどん産生し、それを餌とするニトロスピラ属があとに続くでしょう。2、3
日はそのまま放置し、その後は毎日少しずつ(数滴〜数十滴)アンモニアを滴
下していきます。この米国流はゼロダウンが早いです。夜店金魚の水が前提に
あるというのもありますが、ひょっとすると1週間以内で達成することもあり
得ます。これは何故かというと、硝化菌の競争相手がいないからですね。普通
は有機物を餌とする好気性の腐敗菌と勢力争いをしますので、硝化菌はなかな
かトップをとることができないのですが、餌がアンモニアだけですから、これ
を主食としている硝化菌だけが誰からも邪魔されず勢力拡大することができる
わけです。
水槽水がゼロダウンしたら、一度全換水を行い、水温、水質をしっかりと合
わせて金魚を導入します。もちろん、この際は5リットルといわず、きちんと
規定の水量を入れてやります。硝化菌以外の微生物はこれからですが、しばら
く週1回の部分換水などの水槽管理をきっちりと行えば、徐々に水が安定して
くるでしょう。
以上、緊急時の金魚受入れのお話を致しました。もっと効率的に進めたいの
であれば、金魚を売っている夜店の業者から水を少し多めに分けてもらうとい
いです。ビニール袋の水は多ければ多いほどいいと思います。
ただし、この方法の欠点は、病原菌を持った水であるかもしれない、という
危険性があることです。普通はショップで買った場合も含めて、ビニール袋に
入った水は廃棄するのが基本です。上でお話しているのは、緊急避難的なテク
ニックですから、当然のことながら、できるだけ事前に水を用意しておくに越
したことはありません。時間の余裕がある時は、私がお勧めしている「脂のな
い赤身マグロ」を買って来て、じっくりと時間をかけ、そして、がっちりとし
た“本物の飼育水”を作るようにしてください。
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