ココアの効能
正直申し上げて、完全に我田引水のコーナーです(笑)。
ココア浴という耳慣れない言葉が、日本の金魚飼育者のあいだを嵐のように
駆け巡ったのは2003年4月のことでした。金魚革命というホームページがココ
ア浴の発祥です。もちろん日本は広いですから、それより以前にもココアの効
用に気付いておられた方がおられるかもしれませんが、少なくともそれを実践
し奇跡的な治療効果を世間に知らしめたのは、金魚革命の管理人である、こく
りゅうさんが初めてだと思います。「本邦初」というよりも「世界初」ではな
いでしょうか。日本以外の国でココア浴が行われている話は未だに聞かないか
らです。
私自身、ココア浴を行った経験は過去に1回(ただし匹数にして10匹くらい
・・・(笑)。)しかありませんが、それでも当時その劇的な薬効には目から鱗が落
ちたことがあります。お話したいことは山ほどあるものの、ここではそれをぐ
っと抑えて、淡々とココアの効能について述べたいと思います。
タンパク質
まず「純ココア」の成分ですが、意外や意外、タンパク質がしっかりと含ま
れています。大体20%くらいですね。普通の金魚の餌がおおよそ40%ですので、
普段の飼育でもちょっとした疑似餌?くらいにはなりそうです。疑似餌といえ
ば、私の場合、金魚の様子を見て何となく体調不良のサインを感じたとき、い
つもの浮き餌を心持ち控えめにして、純ココアの粉を耳掻き一杯くらいパラパ
ラと与えます。すると金魚は餌と一緒にココア粉を摂取しますが、こうするこ
とで少なくともアエロモナス系の病気を回避することができます。(結構お勧
めの小技ですヨ(笑)。)
少し話がそれました。タンパク質が含まれるということは餌代わりになると
いうことを申し上げたわけですが、気をつけなければいけない点もあります。
それは、タンパク質の存在はとりもなおさず水換えの必要性につながるという
点です。ココア浴をしたまま放っておくと、タンパク質が好気性従属栄養細菌
の働きによって、あっというまにアンモニアに変化してしまうでしょう。計算
したわけではありませんが、おそらく3日に一回程度の水換えは必要ではない
かと思われます。
ポリフェノール
植物中に大量に含まれている有機物質で、最近では老化や発がんにいい影響
を与えることで有名です。しかし、これらの効果は抗酸化物質としての働きで
あって、ポリフェノールには実はこれ以外にも素晴らしい効用があります。
その一つが整腸効果です。ポリフェノールを摂取すると、腸内の悪玉菌を減
らし、善玉菌を増やすといわれています。“化学的な整腸効果”といえるでし
ょう。また、ポリフェノール分子は通常、複数個集まってリグニンと呼ばれる
高分子化合物を形成しています。これは一種の食物繊維で、腸内の便をひとま
とめにして腸管の先へ先へと押し出す働きをします。いわゆる“物理的な整腸
効果”です。この二つの効果が車の両輪のようになって、凄まじいばかりの整
腸作用を発揮するわけです。当然人間にも効きますので、便秘でお悩みの方は
是非お試しください(笑)。
カリウム
ココアの特徴として次に驚くべきことは、カリウム(K)の含有量がすこぶ
る多いという事実です。純ココア 100グラム中なんとカリウム元素はおよそ3
グラムも含まれており、これより多い食材といえば、ヒジキや海苔などの海藻
類くらいしか見当たらないくらいです。
このカリウムはナトリウム(Na)とともに生物のエネルギー代謝の根幹を司
る非常に重要な元素で、どんな効果があるのか?と問われても、たくさんあっ
て俄かには答えに窮してしまいますが、関係しそうなところをひとつだけご紹
介しますと、カリウムには腸の蠕動(ぜんどう)運動を著しく促進させる働き
があります。これはポリフェノールとはやや毛色の違った整腸作用で、特に便
秘の症状に対しては強烈な排泄効果が期待できます。ココア浴をすると水槽は
糞だらけになりますが、これはポリフェノールとカリウムの効果が複合的に合
わさった結果だと思われます。
もちろんモノには限度がありますので、カリウムの過剰摂取は色々な悪影響
を及ぼします。ですが、金魚に限らず人間でも、カリウムというものは大抵の
場合不足しがちで、程度の差こそあれ常に欠乏状態であるといわれています。
たとえば、毎日ヒジキを 100グラム、あるいは1日中緑茶をがぶ飲みしている
方というのは滅多にいませんよネ(笑)。水槽中の金魚にしても同じことだろう
と推測します。たまにはココアでも与えて積極的にカリウムを補給をすること
はかなりのプラス効果が期待できるのではないでしょうか。
オレイン酸
これが病気治療という観点では一番わかりやすい物質です。オレイン酸とい
うのは油脂に含まれる不飽和脂肪酸の一種で、オリーブ油やカカオ豆などに多
く見られます。細かい話をすると、一般に油脂というのはグリセリンに脂肪酸
がいくつか結合した状態で存在していますが、ココアの場合、カカオ豆から製
品化する過程でそれらが結合が解けバラバラになっています。それらの一つ一
つは遊離脂肪酸(FFA;Free Fatty Acid)といわれており、身軽になったF
FAは結合していたときよりも様々な働きを見せるようになります。そのうち
の一つが遊離オレイン酸です。
オレイン酸は悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロールを増やすと
いう理想的な働きをする唯一の脂肪酸として知られているほか、近年、ある種
の細菌を死滅させる強力な力があることが明らかになりました。その細菌とい
うのは新聞やテレビでおなじみですが、ヘリコバクター科ピロリ属、いわゆる
ピロリ菌です。この細菌は人間の胃や十二指腸に寄生して、潰瘍を起こす大き
な原因となっていることが今では常識となっています。
ココアに含まれるオレイン酸は、ピロリ菌体が産生する一種のバリアを潜り
抜け、さらに菌体の細胞膜を突き破ることによって、ピロリ菌にダメージを与
えます。そして損傷を受けたピロリ菌はもはや胃などの内壁にしがみ付いてい
る力を失い、消化器官を通して体外に排泄される――これが現在考えられてい
るメカニズムです。なお、オレイン酸のほか、ココアに含まれるリノール酸に
ついても、こうした殺菌力があるといわれています。
この殺菌メカニズムは人間を対象に想定されていますが、金魚の消化器、す
なわち腸に寄生した細菌についても同様の効果があり得るものと思われます。
アエロモナス菌とピロリ菌
さてピロリ菌にココアが効くことは上の話でご理解いただけたかと思います
が、アエロモナス菌にはどうでしょう。これについては私の知る限り未だ研究
はなされていません。しかし、細菌による消化器官への寄生という共通点から
類推するに、アエロモナス菌についてもピロリ菌に対する効果と同じような効
果が期待できる可能性があると思います。そして実際に金魚飼育の世界におけ
る数多くの治癒事例がそれを裏付けているのではないでしょうか。
ピロリ菌ではないですが、ビブリオという種類の細菌が存在します。これは
数%くらいの濃度の塩水を好む細菌で、具体的には腸炎ビブリオやコレラ菌な
どです。コレラ菌についてはいうもがなですが、腸炎ビブリオについても昔か
ら食中毒を起こす代表選手といわれており、猛烈な下痢などの腸疾患を誘発す
る病原菌として有名ですね。実はこのビブリオ感染の予防や病後の治療におい
て、ホットココアの摂取が有用との報告があります。これなどもピロリ菌の場
合と同じような殺菌メカニズムが働いていることを示唆する話だと思います。
また、アエロモナス菌は最近でこそ「アエロモナス科アエロモナス属」とい
う分類ですが、少し前までは「ビブリオ科」に分類されていました。研究者に
よっては未だにビブリオと同じ科(family)として扱っている方もおられるよ
うです。いずれにせよアエロモナスはビブリオときわめて酷似した細菌である
ことは否定できない事実です。つまり、ビブリオにココアが効くのであれば、
ほとんど区別のつき難い同系統菌であるアエロモナスにも効いて不思議はない
ということです。
ココア浴がなぜ効くか
最後に私の想像をまじえながら、ココア浴がアエロモナス症になぜ効くか、
そのメカニズムをお話いたします。
アエロモナス菌は常在菌で、通常どんな淡水にも存在しています。水道水で
すら例外ではありません。特徴をいくつか挙げますと、まず、「通性嫌気性」
です。これは普通は酸素の少ないところで活動するが、酸素が存在するところ
でもそれなりに勢力を増やせるという性質です。「従属栄養」細菌でもありま
す。つまり、有機物レベルの多い水を好むということですね。水換え頻度が少
ない水槽では、アエロモナス菌の含有レベルは高くなります。
こうした特徴を持つアエロモナス菌は、金魚の体内(金魚自体も巨大な有機
物の塊ですね)を終(つい)の棲家にしようと虎視眈々と狙っています。です
が、金魚には免疫システムがあってアエロモナスを含めた寄生生物と常時闘っ
ています。金魚も水槽も健全なら免疫側の勝利に終わりますが、次の二つのこ
とが起こったとき、勢力バランスが崩れます。
・水槽中の有機物、ひいてはアエロモナス菌の数がステップ状に増えたとき
・何らかの原因で金魚の免疫力が下がったとき
いずれが先が後かは鶏と卵の関係でしょうが、こうしたときは免疫側が負け、
アエロモナス菌の体内侵入と繁殖を許してしまうことになります。
アエロモナス菌の寄生・繁殖は、通例、糞などの有機物がふんだんに存在し
ている“腸内”を中心として生じます。ビブリオと同じですね。その状態で、
純ココアを投入すると、次のようなメカニズムが働くと思われます。
@腸の内壁に着床したアエロモナス菌に、オレイン酸、リノール酸がアタック
する。菌は細胞膜を破られるなどの損傷を与えられる。
A腸の内壁にクリング(しがみ付き)する力を失い離れていく。
Bココアに含まれるポリフェノール、カリウムの働きによって、糞と一緒に体
外へ排出される。
ピロリ菌の場合と同じですね。@でオレイン酸などがアエロモナスにどの程
度ダメージを与えることができるのか、については私の想像が入っています。
しかしながら、この殺菌力がゼロだと仮定すると、ココアの効果というのは単
に腸内清掃の働きしかなく、消化器官自身に寄生した細菌はそのまま残ってし
まうことになりますので、これまでの斯界の治癒事例の多さも考え合わせると
その仮定はあり得ないのではないかと考えています。
最後に
私自身がどういうふうにココアを利用したかについて、注意点をまじえなが
らご紹介します。箇条書きにしました。
・ココア浴自体はあまり経験がないので、ちゃんとしたやり方は「金魚革命」
などをご覧になって下さい。ちなみに私が昔試したときは、100ppmくらいの
濃度(10リットルにつき1グラム)で、2〜3日に1回の全換水を行いまし
た。もちろん濃度変化はストレスを溜めないように段階的に行います。なお、
水温は低めの温度で一定制御させました。(具体的な温度は失念)
・ココアのほかは塩も抗菌剤も使いませんでした。使わなくても快方に向かう
のが認められたからですが、標準的なやり方では「30リットルの水に対して
ココアが小さじ1杯+抗菌剤規定量」となるようです。当時これを採用して
いればもっと早く治ったかもしれません。
・ココア浴といえどもきれいな水を使うのが治療の成否を分けますので、1〜
2日エアレーションをした汲み置き水を用いました。もちろん、これはココ
ア浴だから特別というわけではなく、私の場合、大抵の治療にはこうした水
を使っています。
・本水槽に直接ココアを入れようかとも思ったのですが、思いとどまりました。
ココアに含まれるオレイン酸が硝化菌を殺すかもしれないからです。もっと
も、以前ご紹介した方法(ろ材を別バケツに取り出してアンモニア水などで
生かす方法)を使えば本水槽でココアを使うことができます。
・これまで何度か金魚の様子が若干おかしいかナ?と感じたことがありました
が、このときは耳掻き一杯くらいのココアパウダーを浮き餌と一緒に入れて
やりました。3日間くらい連続です。少量であればろ材の硝化菌も大丈夫だ
ろうという推測に基づいた措置でしたが、後から正しい判断だったことが判
りました。なお、ココアを入れた週の休日には物理フィルタの洗浄を行いま
した。(ココアがかなり付着していましたネ)
ココア浴というのは私にとって相当不思議な治療体験でした。通常、アエロ
モナス病の治療というのは免疫が相当低下した状態から始めることが多いため、
技術的にも難しい上、完治までかなり日数がかかります。また、長期間の治療
環境の維持管理がとても面倒なので、サラリーマンの場合、途中で残業や出張
が入って次の治療ステップに移るタイミングを逸してしまうと、それだけでゲ
ームオーバーとなってしまいがちですネ(笑)。
これに対してココア浴というのは信じられないくらい簡単な方法です。それ
でいて、従来のやり方と同等かあるいはそれ以上の効果を期待できるわけです
から本当に不思議です。アエロモナス・ハイドロフィラという“水槽の死神”
にも天敵がいたということでしょうか(笑)。
(終わり)
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