金魚水槽の水質悪化とはなにか?
水質悪化は金魚の敵だとよくいわれますが、一体具体的に何が悪いのか?
すらりと答えられる方は意外と少ないかもしれません。そもそも“水質が悪
化した水”というのは、どんな状態を指しているのでしょう。
ブレーンストーミングしてみると色んな意見が出てくると思います。PH
、溶存酸素、微生物バランス等など――思い当たることが多すぎてどう定義
づければいいのか頭を捻ってしまいますが、一般には、「有機物レベルが高
くなって、硝酸塩が蓄積された状態」というのが意見として最も多くなるで
しょう。
ですが、この定義は正確ではありません。というより、水質の悪化という
状態を“甘く”見すぎているきらいがあり、大いなる誤解を生む危険性をは
らんでいます。
答えを先にいってしまうと、水質が悪化した状態というのは、すなわち
「水中に溶存している物質の組成が、
適正なバランスから外れてしまった状態」
のことです。私のコラムだけでなく一般の飼育マニュアルを紐解いてみます
と、金魚飼育では硝酸塩の蓄積量が危険レベルにならないように水換えを行
うことが推奨されています。このことから、“硝酸塩蓄積イコール水質悪化”
であると誤解されている方も多いのではないかと思います。たしかに硝酸塩
は慢性毒物であり、水質悪化のひとつのバロメーターであることは否定でき
ない事実ですが、水のなかには硝酸塩だけでなく、もっといろいろな化学物
質やイオンが無数に含まれており、その一つ一つが金魚の体内の生化学的反
応と密接に関係しているという点を忘れてはなりません。硝酸塩だけが正常
レベルを示していても他の物質のひとつが異常な増減を示していたとすれば、
間違いなく金魚にネガティブな影響を与えます。ですので、理想論をいうと、
水換えのタイミングや換水量は、水槽中のすべての化学物質量をモニターし、
その増減のレベルを常に監視することによって決定しなければならないこと
になります。しかし、理想は理想であって、こんなことが三畳一間の玄関先
で現実に行えるものでないことは子供にでも判ることですね。
そこで登場するのが硝酸塩です。硝酸塩は時間とともに少しずつ増加して
いく性質を持っているとともに、その変化量も他の物質と比べて相当大きく、
測定しやすい物質です。また、有機物のレベルにもおおむね比例しています
ので、飼育水自体の“古さ”の程度――すなわち、水槽中のあらゆる物質の
アンバランス度――を知る上で、硝酸塩の量というのは実に都合のよい物差
しとなるわけです。
ここで強調したいことは、硝酸塩レベルは水換えのタイミングや量を決め
るための目安として選んでいるだけであって、水換え本来の目的は、あくま
でも「減ったものを増やし、増えたものを減らす」ことです。もちろん慢性
毒物である硝酸塩の怖さは別コラムで紹介させて頂いたとおりで、水換えに
よってその量を減らすことは病気予防の上できわめて重要ですが、それだけ
が全てではないわけですね※。
※ この話は、水草水槽などの水換えの難しさを物語っています。な
ぜなら水草は硝酸塩をかなり吸収しますので、飼育水中の硝酸塩濃
度は、他の物質のアンバランス度とは関連性が少なくなっているか
らです。特に、水草や青苔が非常に多い水槽の場合は、PHや硝酸
塩がほとんど変化を示さないことが多いため、水換えをあまりなさ
らない傾向があるかもしれません。ですが、硝酸塩以外の物質の組
成は時間とともに着実に崩れていくことは厳然たる事実ですし、飼
育水を長く放置させることはプランクトンの活性を高め、悪性微生
物の増殖の機会を増やしてしまうことになります。したがって、P
Hや硝酸塩のレベルが異常を示していなくても、定期的に底砂の掃
除や水換えを行って、偏った水質を整えてやることが必要です。な
お、その場合の水換え頻度ですが、米国などでは、水草を大量に入
れた水槽の管理として最低1ヶ月に1回、できれば2〜3週間に1
回の部分換水が推奨されているようです。
さて、ここまでお話して、既に気付かれた方もいらっしゃるかもしれませ
ん。つまり、硝酸塩レベルというものは、すべての物質のアンバランス度を
“そこそこ”代表していますが、種々の水槽の条件や運用によっては、硝酸
塩の代表性が失われる場合があるという点です。たとえば、水換えはほとん
どしないけれど底砂や物理フィルタの掃除は毎週欠かさずやっているという
場合――これなどは典型的な例ですね。この場合、硝酸塩の蓄積はちょっと
した水草水槽に匹敵するくらい少なくなるでしょう。ですが、水草水槽と同
様、金魚の体内を含め水槽内で無数に生じている化学反応によって、他のイ
オンや微量元素などは着実にそのバランスを失っていきます。ここで「硝酸
塩が溜まっていないから水換えは不要」などと決め付けて換水を怠りますと、
「硝酸塩は正常なのに、その他の物質バランスは滅茶苦茶・・・・」という妙な
状態が出来上がるわけです(笑)。
硝酸塩などの慢性毒物だけでなく、あらゆる溶存物質のアンバランスが水
質の悪化という定義に含まれます。そして、水質が悪化すると、金魚は必ず
といっていいほどストレスを感じます。一見、元気に泳いでいるようにみえ
てもストレスという刺激が金魚の体内を駆け巡り、結果的に金魚を“生”か
らじわりじわりと遠ざけることになるのです。
水質の悪化が免疫を弱くする
「病気の元を断つ」シリーズの前2つのコラムや「飼育のあれこれ(その
11)硝酸塩と水換え」でお話したことから、水質悪化によるストレスに特化
して端的にまとめますと、ストレスというものは金魚に次のような生理学的
影響を及ぼします。
・水質悪化というストレスによって刺激を受けた視床下部(に相当する器官)
からの信号を受けて、副腎組織からホルモン(コルチゾール)が産生され、
免疫機能の最前線を受け持つマクロファージの機能が失われる。
・水質悪化の代表的なパラメーターである“硝酸塩”が増えてくると、生殖
腺や粘液分泌などの身体的機能が阻害されるとともに、成熟白血球数の減
少など、免疫細胞の数バランスに病理学的変化が現れ、免疫機能が著しく
低下する。
これらを総合すると、要するに、水質悪化は身体機能の異常につながるだ
けでなく、病原菌と闘うための免疫システムという致命的なメカニズムを無
茶苦茶にしてしまうものであるといえます。
このことは実は普通に考えるよりずっとずっと深刻な話だということを皆
さんはお気付きでしょうか? つまり、金魚自身の防衛システムがガタガタ
にされるだけならまだしも、水質悪化というものは、通常、病原菌や寄生プ
ランクトンの発生や増殖を飛躍的に促進するファクターだからです。
「防御兵器の弾丸が使えなくなるだけでなく、敵の勢力が一段と増大してく
る」
これこそが「水質悪化」というものが作り出す状況です。いうまでもなく、
金魚にとってあまりにも不利な状況といわざるを得ませんね。ちなみに、こ
のような状況を作り出すのは非常に簡単です。毎日多めの餌を与え、十分な
水換えを行わなければすぐに実現できます。私Hinconなどは、昔、こういう
のが大の得意でした(笑)。
次のコラムでは水質悪化が引き起こす影響として、上でお話したものとは
違う、比較的新しい知見を紹介させていたします。(つづく)
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