金魚水槽の病原菌のレベルを低く保つ
これまでのコラムで、色々な細菌や寄生虫などによる病気についてお話し
てきました。イカリ虫やダクチロギルスなどの高等寄生虫はショップで買っ
てきた金魚や水草などから“輸入”されることが多いのですが、その他の病
原性生物(プランクトンや細菌)は、通常、知らず知らずのうちに皆さんの
水槽に侵入し、機をみて一気に勢力を拡げてきます。金魚を飼い始めたほと
んどの方が経験するのが、プランクトンでは繊毛類である白点虫(通称イッ
ク)、細菌ではカラムナリス菌、そして、アエロモナス菌となります。これ
らの生き物は、「常在菌」という呼ばれているとおり、ありとあらゆる水に
棲息しており、私たちの水槽とて例外ではありません。特に、アエロモナス
菌などは水中だけでなく、金魚の体内に常在していることでも有名ですね。
「そんな病原菌なんて“常在”してもらいたくない。根こそぎ駆除する方法
はないのか?」
と思われる方は多いでしょうが、こればかりはどうしようもありません。病
原菌の存在もひっくるめて、微生物の世界というのは「大自然」が作り上げ
た精密無比なシステムであり、特定の種類だけを優遇して他を排除すること
は、非常に設備の整った培養容器でない限り、ほとんど不可能だからです。
それでは金魚水槽は永遠に病気とは縁を切れないのではないか、という考
えが頭をもたげてくるでしょう。ある意味それは真実だといえます。実際、
長年飼育をしていると、大小交々なイベントが水槽を襲います。それが季節
の変わり目にありがちな水温の大幅変化であったり、ポンプの故障やフィル
タの詰まりであったり、あるいは、餌の与えすぎであったりと、その内容は
様々ですが、いずれにせよ、金魚が寿命を全うする日まで病原菌が力を得る
機会というのは数限りなく存在するといっても過言ではありません。
しかし、だからといって対策がないわけではありません。既に申し上げた
とおり、常在菌の数をゼロにすることは現実問題として不可能ですが、その
レベルを常にきわめて低く保つことは我々サラリーマン飼育者にも可能です。
それは善玉菌である“硝化菌”のバランスを維持することを大前提としつつ、
飼育水をできるだけクリーンに保ってやることです。具体的には次の方法で
す。
(1)部分換水を1週間に1回行う。
水換えの本来の目的は飼育水の物質バランスを整えることですが、同時に
病原菌レベルを下げる意味で、やや高い頻度(1週間に1回)で行います。
今まで「2週間に1回、1/2の換水」をしていたとしたら、トータルの換水量
は基本的にそのままで、「1週間に1回、1/3程度の換水」に変更します。こ
れは平たくいうと、長期間放置しておいてドンと換水するのではなく、トー
タル量を小分けにして、頻繁に換水を行うことを意味します。ちょっと不思
議に思われるかもしれませんが、これによって病原菌数のピークを低く抑え
ることができるのです。その理由はイメージとしてはおわかり頂けるかと思
いますが、要するに、細菌の増殖は指数関数的であるということ、それから、
ある日増殖を開始した病原菌の「若い芽」が頻繁な換水によって早々に摘ま
れてしまう確率が増えるということが関係しています。
飼育者としては、水槽に悪い菌が増えていようがいまいが、とにかく1週
間に1回、何がなんでも換水します。繰り返しになりますが、この機械的か
つ事務的な(笑)定期換水によって、常在菌の絶対数は自然と低いレベルに抑
えられるでしょう。さらに、物質バランス――いわゆる水質の是正という意
味においても、少量ずつの頻繁な換水というのは金魚にとって福音となりま
す。
ちなみにこの方法は、何らかの原因で菌が増えてやしないだろうか?・・・・
などとびくびくしながら硝酸塩の試薬結果や金魚の様子を見ながら、次の水
換えのタイミングについて頭を悩ませる「知的飼育」に比べ、ほとんど頭を
使わずに金魚の罹病を激減させることができ、飼育者を不要なストレスから
開放してくれるという素晴らしいメリットがあります。私はこれを「Hincon
流−痴的水換え法」と命名しています(笑)。名前の格好悪さはさておいて効
果のほどは実証済みですので、私としましては広く一般の方に積極的にお勧
めしたいところです。
(2)不要有機物を適宜除去する。
菌やプランクトンの異常繁殖の温床となる有機物のデトリタスを除去する
ことです。除去しすぎて大事な“バイオフィルム”(←これについては別コ
ラムをご覧ください)を全部破壊してしまいますと大変ですが、かといって
全然掃除をしないと「餌もやっていないのに硝酸塩がどんどん上昇していく」
というオカルト的な現象も起こりかねません。
ただ、これは(1)で申し上げた水換えの際、常に底砂から水を吸い上げるよ
うにすれば、おおむねオーケーです。あとは2〜3週間に一回(水温によっ
ても違いますのでご注意くださいね)、コケ掃除を兼ねて、普段吸い上げを
していない箇所――たとえば、投げ込み式やスポンジフィルタに隠れた場所
や水の吸い込み口近くなどを狙って上手に掃除してやることになります。
ちなみに、物理フィルタの掃除も必要です。実際やってみるとわかります
が、物理フィルタというのは物凄く汚れていて、アンモニアの継続的発生箇
所となっている場合が多いです。これによって食われる酸素の量を考えると
恐るべきものがあります。少なくとも底砂と同じ頻度で清掃(あるいは交換)
しなければなりません。
(3)餌の量は少量――これを厳守する。
(2)との兼ね合いですが、掃除が面倒な方はこちらを重点的に考えることに
なるでしょう(笑)。適量は色々と説があります。5分で食べきれる量、とか、
3分で食べきれる量とかいわれていますが、本当のことをいうと金魚が食べ
る速さはどちらかというと二の次かもしれませんね。もっとも大事なことは
「水槽中の硝化バクテリアが処理できる量」以上を与えないことです。餌を
与えるということは、すなわち、窒素化合物という“毒のもと”を与える
ことと全く同一です。これをゆめゆめ忘れてはいけません。
窒素化合物は水槽中の生物代謝のプロセスの過程で、人間にとって青酸カ
リにも匹敵するアンモニアになり、さらに亜硝酸となります。たとえばニト
ロソモナス属が不足しがちな立上げ初期の水槽では、餌の与えすぎは即、ア
ンモニアと亜硝酸のスパイクに結びつきます。このスパイクは微小ではあっ
ても少なくとも金魚を病気にさせてしまうでしょう。
金魚飼育をしていると、前頭葉ではわかっていても、金魚の要求に負けて
ついつい「窒素化合物の過剰投与」をしでかしてしまう傾向があります。こ
の誘惑に打ち勝つのは、実のところ、金魚を可愛がる気持ちが強い方であれ
ばあるほど難しくなってきます。まったくもって腹が立つくらい皮肉な構造
になっているのですね(笑)。
ですので、飼育する側としては、(私も含めて)“餌は毒物である”という
認識を常に持っていることが必要です。今までHPでこんなことを書いた管
理人はいないでしょうが、思い切ってこう割り切ってしまうことが、金魚の
健康を守ることになります。ちなみに金魚は1、2週間やそこら餌を与えな
くても、底砂のバイオフィルムをなめたり、コケをついばんだりして、結構
楽しく生きていきます。餌の与えすぎで死んだという例は数限りなく知って
いますが、金魚が餓死したという話はいまだかつて聞いたことがありません。
(つづく)
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