金魚の病気を治そう(その9)

イカリムシの治療手順


 イカリムシというと“怒り”虫と勘違いする方がいらっしゃいますが、本
当はそうではありません。イカリはいわゆる船の碇ですね。突き刺さると抜
きにくい形をしていることからこのように呼ばれています。色は透明あるい
は白ですが、赤〜黒の体色を持ったものもあります。(血を吸いすぎて血の
色?になっているだけかもしれません。)
 感染ルートとしましては、一般的に外部からの持ち込みによって発生し、
池や水槽で一度大発生すると完全に駆除するのはきわめて難しいといわれて
います。後でお話しますが、中途半端な駆除をするよりは、思い切って水槽
をリセットしてしまうのが手っ取り早いかもしれません。
 このイカリムシには私Hinconもほとほと手を焼いた経験がありまして、ピ
ンセットで金魚の体から抜いたイカリムシの数はおそらく二百匹を下らない
でしょう。私にとっては心の底から「怒り」を感じてしまう寄生虫です(笑)。
 
 イカリムシは金魚の体のありとあらゆるところに頭(イカリの形をした部
分)を食い込ませて、そこから血とか体液を吸って育ちます。最初は一匹か
二匹くらいですが、放置していると無数のイカリムシが体表にとりつき、ハ
リネズミのようになってしまいます。イカリムシが食い込んだ部分は概ね出
血していることが多いので体中が出血痕に覆われ、遠望するとエロモナス菌
などによる赤斑病か?と思ってしまうくらいの悲惨極まりない状態になりま
す。こんな状況ですので金魚もさぞかしよれよれになっているだろうと思わ
れる方がいるかもしれません。ですが不思議なことに金魚は意外と元気に泳
いでいるものです。本当に不思議なくらい。これは何故でしょうか?

 それは病気扱いせずに定期的に餌を与えているからです。こう書くと何だ
か変な印象をもたれる方がいるかもしれませんね。病気の金魚に餌を与える
というのは通常は金魚飼育の常識に反するからです。
 他の病気では治療には一般的に“餌抜き”が原則です。つまり塩水浴や薬
浴の最中は腸機能の保全や回復、水の汚れ防止などを目的として徹底的に絶
食させるのが基本だといわれています。しかしイカリムシに感染した病魚に
は絶食は逆効果です。イカリムシは全身から血や栄養分を吸うだけですので
特にそれが原因で腸が悪くなったりはしませんし、ムシが一旦繁殖プロセス
に入ってしまうと水質をよくしてもあまり抑制効果がありません。むしろイ
カリムシに奪われた栄養を餌によって補ってやることが金魚にとって必須だ
といえます。このあたりは細菌による病気と少し違うところですね。もし病
魚に寄生した虫をそのまま放置し、かつ、餌を与えなかったらどうなるか? 
これは容易に想像がつきますね。体から日一日と栄養分が失われ、そのうち
に衰弱死してしまいます。人間でいうと栄養失調か餓死といったところでし
ょう。
 ではイカリムシの治療手順についてお話します。


【イカリムシの治療手順】

@最初はやや大きめで白い腫瘍のようなものがぽつりとできます。こう書く
 と白点病か? と誤解されてしまいそうですが、白点虫の粒とは全然違いま
 す。イカリムシのほうは、皮膚の内側から盛り上がっているような感じで
 腫瘍の周りはおおむね出血している場合が多いです。この腫瘍の正体はイ
 カリムシの幼虫です。皮膚下に潜り込んでいるので腫瘍のように見えるの
 ですね。発見したら、即、取り除きたいところです。

  方法としてはピンセットでその部分をちょいと摘み潰すような感覚でや
 ります。最初にピンセットの先でちょいちょいとこすってやると皮膚が破
 れて作業がやりやすくなります。ただし皮膚を傷つけることになりますの
 で慣れていない方にはかなり難しいでしょう。通常は面倒なので成虫にな
 るまでしばらく放置しておきます。成虫の場合は割合駆除しやすいです。

A成虫になると、イカリムシのしっぽが皮膚の外へ伸びてきます。私も含め
 てほとんどの方がこの段階で「ありゃりゃ。やられたー」と気付くことが
 多いようです。イカリムシの治療のポイントは、

   発見、即、抜く。

 ですね(笑)。引き抜き用の器具としては毛抜きを使っている方が多いよ
 うですが、手元になければ、ピンセットでも構いません。ただし、先が尖
 ったものはイカリムシの体をうまくつかめませんので、ピン先が四角にな
 ったものを使うと便利です。なお毛抜きを使うと力が入りすぎてやわらか
 いイカリムシの体をぷつんと切ってしまい、頭が体内に残ってしまうこと
 があるので、私は後者のピンセットを愛用? しております。

  まずよく洗った左手(左利きの方は右手)を腕まくりし、病魚の入った
 水槽にずぼりと突っ込みます。
  そして病魚をつかみますが、この時、イカリムシを抜きやすい方向でつ
 かむようにして下さい。ある程度思い切りよくつかむのが効率的ですが、
 あまりに乱暴につかむと金魚が暴れたり、体表を傷つけたりしますので、
 「まったり」と覆い包むような感じでつかみましょう。ちなみに目を隠す
 ようにして覆うと金魚はあまり暴れなくなります。

B次に病魚をつかんだ左手を水面近くまで持ってきます。ここで注意ですが、
 水面より上に出す必要はありませんし、また、空気中に出してしまうと色
 んな意味で治療が困難になります。理由を次に書きます。

  ・水中ではムシの尻尾がよく見えますが、一旦水から出してしまうと体
   表にくっ付いてしまってよくわからなくなってしまう。
  ・空気中で作業をしていると、掌の温度がだんだんと上がってきてしま
   う。人間の体温というのは金魚にとっては灼熱地獄のようなもので、
   作業をしているうちに病魚がショック死してしまう場合がある。

 ですから作業は全部水中で行う必要があります。
  順序としては、左手を水に浸けたまま、ガラス水槽の側面などからイカ
 リムシが刺さっている位置を確認し、ピンセットを水に浸けてムシの体を
 むんずをつかみ、ゆっくりと引き抜きます。一気にやると体が千切れて頭
 の部分が体内に残ってしまいます。そうなるとイカリムシの尻尾が再生す
 るのを待たなければなりませんね。

C引き抜いたイカリムシは、あらかじめ用意しておいたコップ水に入れると
 便利です。箸を洗う要領です。引き抜きに際して注意点をいくつか申し上
 げておきます。

  余程力を入れても取れないものがあります。鰭の根元などの複雑な構造
 の筋肉に食い込んでいる場合にそういうケースが多いです。無理やり引っ
 張りますと、へたをすると鰭ごと抜けてしまう可能性があるので、そうい
 う時はひとまず作業をやめて、まず小筆の先にイソジンうがい薬をちょい
 ちょいとつけ、イカリムシの体とその周りの皮膚に塗ってやります。する
 とムシの力が一時的に弱まり引き抜きやすくなります。それでも抜けない
 場合はとりあえず引き抜き治療は諦めて下さい。

  なお、絶対に抜いてはいけない箇所があります。それは目の近くです。
 これをやると目がとれてしまうケースがかなり高いです。私も昔よく目玉
 ごと引っこ抜いてしまったことがあって驚きました。(金魚のほうが驚い
 たでしょうが・・・)また、鰓(えら)にムシが食い込んでいる場合は要
 注意です。これをうっかり抜いてしまうと、同時に鰓内部の組織が破壊さ
 れ、金魚は確実に死にます。ムシの大きさにもよりますが、抜いた瞬間に
 鰓内部でかなり大量の出血が起こっているのが観察されます(←ナゼ、シッテイ
 ル???)。あとは死亡まで一直線です。大まかにいえば、金魚の鰓から頭に
 かけてムシが刺さっている場合は引き抜くを諦めたほうがよいということ
 ですね。

  引き抜いたあとは、その部分に(小筆を使って)イソジンを薄めた液を
 塗布しておくと細菌(カラムナリスやエロモナス)による二次感染を防止
 することができます。ただし、イソジンを塗る際にはエラに入らないよう、
 くれぐれも注意して下さい。高濃度のイソジンがエラに入ると金魚は頓死
 します。私Hinconはこのイソジン塗布が面倒なので実をいうとほとんどや
 ったことがありませんが、その代わり、イソジン浴で代用しています。

  体中にムシがたくさん寄生している場合でも、できるだけ数多く取り除
 いてやって下さい。この面倒な引き抜きをしっかりやっておくと後の治り
 がとても早いです。

D次に病魚を別の水槽(あるいはバケツ)に移します。移し方の注意は以前
 からお話しているとおりです。もちろんエアレーションを忘れずに。
  さてこれからがちょっと工夫が要ります。
  イカリムシというのはとにかくしつこくて、しかも生命力旺盛な寄生虫
 で、一度この虫が湧いてしまった飼育水槽はその先もたびたび異常発生に
 見舞われることになります。たちの悪い病魔にとりつかれてしまったよう
 なものですね。ですから、もし可能であればその飼育水槽は完全にリセッ
 トしたほうが今後のためだと思います。

  もし皆さんの家に2つの飼育水槽があって、片方の水槽でイカリムシが
 大発生したとします。そうした場合はもし私なら迷わず病槽を完全リセッ
 トします。リセットとは何かというと次のようなことになります。

  ・水は全部捨てる。ろ材も捨てる。底砂も捨てる。要するに消耗品の類
   はすべて廃棄する。
  ・水槽や器具は念入りに洗浄し薬やイソジンを使って完全消毒する。さ
   らに天気のいい日を選んで日干しをする(紫外線消毒)。つまりは購
   入した状態にできるだけ近い状態にまで戻すということですネ。

  そうしておいて、リセットした水槽にもう一つの水槽の水(ろ過バクテ
 リアをたくさん含んでいる水)を三分の一くらいもらい再度立上げます。
 なお、ろ材は新しく買ってきますが、1/3くらいはもう一つの水槽のろ材
 (ろ過バクテリアをたっぷりと培養した優れもの)をもらってきます。ま
 た底砂は新しく購入したものをそのまま使います。(←もちろん砂の洗浄
 は当然必要ですヨ)そうしておいて、マグロあるいは金魚のエサを水槽に
 入れ、エアレーションを十分行ったまま一日かそこら水を回しますと、バ
 クテリアは倍々ゲームで増え、すぐに新たな水槽を立ち上げることができ
 ます。これだけのことでイカリムシと縁が切れるのなら安いものです。

  ですがもう一つの水槽も何となく金魚が病気がちで今ひとつその水を使
 いたくない場合とか、そもそも飼育水槽を一つしか持っていなくてそれが
 寄生虫の大発生に見舞われた場合とか、そういう時は完全リセットはまず
 できません。もしあえてリセットしてしまうと、要するに今飼っている金
 魚は以前お話した“パイロットフィッシュ”となってしまいます。
  パイロットフィッシュがいかに悲惨な境遇を送るかは既にご存知だと思
 いますが、飼育している方もそうです。亜硝酸の嵐に巻き込まれ、頻繁な
 水換えと次々と襲い掛かる病気の治療で苦悩の日々を送った後、一ヶ月後
 にようやく硝化サイクルが根付き平穏が訪れる、ということですネ(笑)。
 そんな選択は多忙な現代人、特に宮仕えのサラリーマンがとれるはずがあ
 りません。通常はイカリムシを引き抜いたあとは、水槽リセットなどは思
 いもよらず、リフィッシュなど、寄生虫に効く薬を入れることで対処する
 のが一般的です。あとは二週間に一度薬を補給してやり、これでひとまず
 は寄生虫のイベントが終りますが、これで根絶されたと考えるのは早計で
 しょう。薬の量や水槽の温度にもよるでしょうが、相当数の卵は薬物から
 の攻撃を逃れ、ろ材の片隅、水槽器具の隙間、底砂の奥深くなどで、じっ
 と次の機会を狙っているのが普通です。 

  私Hinconも水槽を一つしか持たなかった時代があり、その時は上のよう
 な中途半端なやり方でやってきましたが、その後もことあるたびにイカリ
 ムシが発生するのに腹をたて、あるとき、たった一つの水槽しかなくても
 イカリムシを根絶する方法はないかと思い立ちました。