金魚の病気を治そう(その8)

アエロモナス病の治療手順


 真水を用意して病魚を入れるところまでは省略させて頂きます。なお、水
は塩素抜きした水を使うのは当然ですが、アエロモナス治療の場合はさらに
1日程度エアレーションした方が治療効果が上がります。理由はわかりませ
んが、おそらく塩素以外に水道水に溶解している有機性物質などが長時間か
けて揮発するからでしょう。
 まずは金魚が比較的弱っていない場合の初期治療についてお話します。あ
とで申し上げますが、これはあくまで病気があまり進んでいない場合の治療
の仕方ですので実際のところあまり使われることはないかもしれません。
 なお、アエロモナス菌もカラムナリス菌と同様、鰓に付けば鰓病となりま
す。水槽内でじっとしていたり鰓の動作に異常が見られる場合は、イソジン
を用いた鰓病治療を参考になさってください。ここではあくまでもアエロモ
ナス菌独特の症状を呈している場合の治療についてお話します。

@薬浴水槽にはアエロモナス菌に効く薬を入れます。前述したサルファ剤、
 フラン剤、オキソリン酸----何でもいいかと思いますが、やはりアエロモ
 ナス専用といっていい合成抗菌剤であるオキソリン酸がまず第一候補でし
 ょう。商品名でいうとパラザンDとかグリーンFゴールドリキッドがそれ
 で、少々高価ですが広く一般に使われています。
  ただしアエロモナス・ハイドロフィラといっても様々な強さや種類があ
 りますし、オキソリン酸は一般家庭だけでなく金魚ショップとかでもトリ
 ートメントや病気治療に頻繁に使われるので、オキソリン酸の耐性菌が存
 在するという報告があります。オキソリン酸による薬浴で効果がなさそう
 でしたら他の薬(エルバージュやグリーンFゴールド顆粒など)でトライ
 することになるでしょう。

  土曜日にまず治療を開始するのであればとりあえずフラン系のエルバー
 ジュで24時間浴させて次のオキソリン酸浴につなげるというのも効果的な
 治療手順です。ただ、その“つなぎ”の際の水作りや水温・水質合わせを
 いい加減にすると病魚の体力が無意味に損なわれることになり逆効果です。
 つなぎ作業はくれぐれも慎重に行って下さい。

Aまず最初に必要なことは金魚を薬浴水槽の水質に慣れさせることです。前
 にもいいましたが、拙速に次の治療に移ったりしてはいけません。治療は
 金魚の体力と相談しながらじっくりと進めた方が効果があがります。なお、
 水質に慣れさせる時間は特に決まっているわけではありませんが、最低で
 も1〜2時間程度を目処にしてください。

B様子をみて金魚の動作にプラスの変化があるようであればそのまま薬浴を
 次の週末まで継続します。この辺が他の病気と違うところです。
  ここであせって塩をごっそりと入れたり、温度を上げたり、他の薬も投
 入したりと、ごちゃごちゃとやってしまうと金魚の体力があっという間に
 切れてぽっくり逝ってしまいます。治療経験の少ない方に多い、いわゆる
 “いじり過ぎ”による斃死ですね。環境、特に水温や水質に変化を与えた
 時は金魚がそれに慣れるための十分な時間を与えてあげること------これ
 が大事だと思います。
  特にビブリオとかと同じく、アエロモナス・ハイドロフィラは腸を中心
 として体内でたくさん繁殖する菌ですので、魚の抵抗力を奪う行為はその
 ことだけで命を縮めることになります。


 ところで妙な話ですが、通常アエロモナス症(運動性アエロモナス症候群
といいます。)がこれだけの治療で完治することはむしろ稀だと思います。
 細菌性の微小な充血とかを運良く発見できた場合のごくごく初期の段階で
あれば@〜Bでもきちんと治るのは私自身も経験したところでありますが、
見ただけで赤班病とか松かさ病だなーという状態にまで進んでしまうと簡単
な薬浴だけではまず治りません。信じられないかもしれませんが不思議なほ
ど薬が効かなくなってしまうのです。色々と考えてみるに、おそらく病気が
進んでくると、体表面に寄生した菌よりもむしろ体内のアエロモナス菌が相
当増殖してきて病気をコントロールするからではないかと思われます。この
場合、体表を薬の水に浸すくらいでは腸まで十分届かずほとんど薬効が期待
できないというわけです。
 もし仮にかなり進んだ赤班病や松かさ病を@〜Bの手順で治療を進めたと
しましょう。
 体表で増殖した細菌は薬浴によってほとんど死滅しますが、薬の成分は通
常体内にまで及びにくいので、体内に寄生している菌が薬効によって減少す
る速さよりも増殖スピードの方が勝り、時間が経てば経つ程、体内の菌は増
えてしまいます。さらに、治療は通常餌抜きの状態で行いますから闘病の体
力も徐々に衰え、さらに薬浴自体により金魚のストレスが蓄積していき、病
魚は日一日と弱っていくでしょう。
 そして治療前は比較的元気だった魚が、次第に薬負けしてきて、水槽の排
水部近くに静止しがちになったり、水底に沈んで何時間も動かなくなったり、
ひどいときには水槽内の水流に任せて死んだように揺らめくようになってき
ます。要するに自分の力で泳ぐ体力すらなくなってきているわけで水棲動物
としては“機能停止”の一歩手前ですね。

 こういう時はあれこれ考えず薬浴を即刻中断します。「明日にはひょっと
したら回復の兆しがあるかも……」といった希望的観測を持ちたくなるのが
人情ですが、それはやはり甘い期待というもので、明日まで待ったら金魚が
お星様になっている可能性が高いです。
 もちろん中断だからといって治療を放棄することではありません。金魚の
治療に慣れない方は、金魚がくたくたになって水槽内を浮遊しているような
可哀想な状態を目にすると「これはもはや助からないだろう」と決めつけが
ちですが、これは少々早計です。上手にフォローアップしてやれば元気を取
り戻し病気と闘えるようになるまで体力が回復することも少なくありません。
ただ、現状のままではいけませんので、ストレスのかかる薬浴を中断し、ま
ず弱った体力をリカバーすることが大事です。

 それが塩水浴です。前にもお話したと思いますが、魚病薬を規定量溶かし
た水にさらに大量の塩を加えてしまうと水質変化が著しくなり金魚に大きな
ストレスを与えてしまいますが、治療の途中で薬負けした時や治療開始前の
トリートメントに単独塩水浴を行うことは何の問題もありません。むしろ塩
水浴は病気で弱った体を整え体力を回復してくれますので病気の魚に測り知
れないプラス効果を生み出します。

 次に塩水浴を中心としたアエロモナス病の治療法をご紹介します。私の場
合、比較的軽症かなという印象を持った病魚には先にお話した@〜Bの単純
薬浴で完治させることをまず考えますが、2、3日して病状に変化がないか、
あるいは悪化の兆しが垣間見えた時にはこの塩水浴の方法に移行するように
しています。
 最初の発見が遅れて病気が進んでしまっている時にはまず体表の殺菌を目
的として半日〜1日程度@〜B(ただし使う薬はエルバージュ)の薬浴を施
し、体力が温存されているうちに速やかに塩水浴治療に移ります。

(1) ここで最終的に金魚を受け入れる飼育水槽(本水槽)の殺菌消毒につい
 て先にお話しておきます。病魚を薬浴水槽でエルバージュ浴させている時
 間を利用してこの作業を行っておくと時間の無駄がありません。
  まず健康な金魚が水槽に残っている場合は当然のことながらバケツなど
 にしばらく退避させておきます。そして、上部フィルタのポンプを止めて
 水槽から取り外し、器具自体をイソジンの薄め液で念入りに洗浄しましょ
 う。
  フィルターですが、一番上にかぶさっている物理フィルタはアエロモナ
 ス菌の温床になっていますので廃棄処分します。その下のリングろ材など
 は硝化バクテリアを落としてしまわない程度の大雑把さで軽く洗浄します。
 その後、小さなバケツなどに入れ、完全に塩素抜きした水道水(2リット
 ル程度)で浸し、そこにオキソリン酸を含む魚病薬を規定量よりやや多め
 に添加します。これによりアエロモナス菌は壊滅的なダメージを受けるこ
 とになります。もちろん、硝化菌もオキソリン酸によってその数が減少し
 ますが、短時間であれば全滅することはありません。
  次は底砂の殺菌です。まず素手やスコップを使って底砂を思い切りかき
 まぜます。これは底砂の中の有機物(病原菌のフロックが付着している。)
 を底面から離脱させ水中に浮遊させるためで、その真っ黒な濁り水はきれ
 いさっぱり捨て去ります。そして底砂全部をバケツなどに取り出し、水道
 水(塩素入りでOK)を使って米研ぎの要領で念入りに洗浄した後、最後
 に熱湯消毒(60〜70℃)を行います。

  ここまで終りましたら、フィルタや底砂などをセットし直した後、塩素
 を抜いた水道水で飼育水槽を冠水します。そしてフィルタやエアレーショ
 ンのポンプを起動し、金魚の餌などを紅茶パックなどに入れたままそのま
 まにしておきます。これによって発生したアンモニアにより硝化菌の分裂
 ・増加が始まり、消毒・清掃のせいで激減した数が回復の方向へ向かいま
 す。ヒーター(もしあればの話ですが)を27℃程度にしておけば1日くら
 いで硝化菌はその勢力を取り戻すでしょう。

  本来はろ材も含めて水槽を完全にリセットしてしまうのが手っ取り早い
 のですが、それをやってしまうとフィルタにせっかく定着した硝化バクテ
 リアも捨ててしまうことになり、またセットアップするのに1ヶ月かかっ
 てしまいます。背に腹はかえられないというわけですね。もっともエロモ
 ナス菌は通常どの水槽にも存在する常在菌で完全に駆除するのは絶対に無
 理ですので、病気を出した後の殺菌消毒としてはこの程度で十分です。
  なお、病魚を戻す前には二分の一程度の大型換水を行い、できるだけ真
 水に近い状態にし、さらに水槽の温度をエルバージュ浴の水温と± 0.1℃
 の精度で合わせ魚を迎える準備をしておきましょう。

(2) 次は塩水浴を行うための準備です。まずエルバージュ浴の水を少しずつ
 真水に換水してやります。薬水から真水への換水は魚体にそれほど負担を
 かけませんのが、やはり水質ショックはありますので、ご注意下さい。
  バケツ水の換水率がニ分の一〜三分の二程度になったら、しばらく様子
 をみます。30〜1時間くらいで結構だと思います。

(3) 新しい環境に慣らした後、いよいよ塩を少しずつ添加していきます。最
 終的な塩水濃度は0.5%が適当でしょう。 1リットルあたり5グラムです
 ね。小さい金魚であれば若干少なめにして下さい。塩を入れると、死んだ
 ようになって動かなかった金魚は浸透圧の原理によって物理的に?息を吹
 き返し、しばらくすると回復の兆しが見えてくると思います。
  金魚の様子にまったく変化が見られない場合は駄目元で少し塩分を追加
 して0.6%程度の濃度にしてみて下さい。無条件に 0.6%以上に上げるのは
 慣れないうちはやめた方がいいかと思います。

  ここまでが塩水浴のやり方です。注意しなければいけないのは、塩水浴
 はあくまでも体力回復や維持を目的として行うのであって、病気治療の主
 たる立役者ではないということです。ワキンのような強い品種であれば、
 このままにしておいても自力で治ってしまうこともないとはいえませんが、
 通常はジリ貧の状態となります。本当の意味でアエロモナス菌に打ち勝つ
 ためには塩水浴だけでなくプラスアルファの積極治療が必要です。それを
 次にお話します。

(4) 前述しましたが、アエロモナス症は進行すると体内で繁殖して薬浴が効
 かなくなると申し上げました。そこで、薬浴ではなく、体内に(半ば強引
 に)薬効成分をねじ込んでやることが必要となります。それがすなわち薬
 餌を施すということです。薬餌というと色んな材料を買ってきてすり鉢で
 ごりごり作るというイメージがあるかもしれませんが、ラクラク飼育の私
 Hinconのやり方はごく簡単です。
  まず、真水 100cc(塩素抜きは不要。)にオキソリン酸を含んだ薬を少
 々添加します。グリーンFゴールドリキッドですと1ccが目安でしょうか。
 そこに小粒の合成餌(大粒なら半分位に砕いたもの)をぱらぱらと入れて
 しばらく薬液に浸します。30分程度で餌表面に薬効成分が付着するか、あ
 るいは粒内部の空隙部に薬効成分が吸収されますので、それを皿か何かに
 移して乾かせば立派な薬餌のできあがりです。ちなみに30分以上浸すと餌
 が溶け出してきてほどよく色づいた“液体餌”が出来上がってしまいます
 のでご注意ください(笑)。それとフレーク状の餌ではやったことありませ
 んが、ぬるぬるしてしまってちょっと扱いにくいかもしれませんね。

(5) そうやって作った薬餌をとりあえずほんの少しでいいので病魚に与えま
 しょう。量は魚の大きさにもよりますが親指程度の大きさなら1匹あたり
 小粒の薬餌1〜3粒で十分です。塩水浴をしていると塩の効果で腸の動き
 が活発になっていますので餌食いはおそらく十分だと思います。また、薬
 餌を作ってすぐに与えたいときは、粒が濡れてぐにょっとなったままで与
 えても一向に構いません。なおオキソリン酸を使った薬餌は米国などで一
 部のマニアが行っている方法で、私もこれに倣っていますが、それ以外の
 薬でもいいかもしれません。グリーンFゴールド顆粒などでも一定の効果
 があるはずです。

  薬餌を与えれば病状は必ずいい方向へシフトされます。ある程度餌食い
 のある病魚であればこれだけで体内のアエロモナス菌の多くが死滅し、あ
 とは自らの抵抗力でみるみるうちに完全体へと回復していくでしょう。薬
 餌を与える頻度は最初は隔日くらいで構いませんが、回復とともに欲しが
 る餌の量も日に日に増していきますので、様子を見て頻度と量を調整しま
 す。こうなればもう完治は近いです。赤斑病や(部分的な)松かさ病であ
 れば数日〜2週間程度で治ると思います。
  ただし、鱗がすべてめくれ上がり、一部が剥げ落ちたような重度の松か
 さ病や、腹水病を併発しているようなかなり進行の進んだアエロモナス症
 は回復まで時間がかかります。薬餌を作る際のオキソリン酸の濃度を上げ
 てみるなどの工夫が必要でしょう。
  なお腸機能がやられて餌をまったく欲しがらないような最悪の状態です
 と薬餌治療によっては回復は望めません。そのときは次の治療を行います。

(6) 純ココアを入れます。30リットルにつき小さじ一杯だそうです。さらに
 オキソリン酸の薬を規定量の半分程度添加します。これはずいぶん昔「金
 魚革命」という名前のホームページに載っていたやり方ですが、餌を食べ
 ない個体には薬餌と同じくらいの効果を発揮します。詳しくはHPを見て頂
 けるとよいのですが(すみません。あまりに昔のことでHPのアドレスと
 かは忘れてしまいました…。)、要するにココアに含まれているポリフェ
 ノールが効果を発揮するという旨の説明だったかと記憶しています。
  私もこのココア浴は昔1〜2度試しましたが、松かさ症状を持った病魚
 には確かによく効きます。たったの数日で立鱗が治ってしまってびっくり
 したことがありました。ただ、鰓病を併発した赤斑病の病魚にココアを投
 入したところ逆に病魚を弱らせて死なせてしまった記憶があります。今と
 なっては赤斑の原因がアエロモナス菌だったのかどうかもわかりませんし、
 鰓病に不可欠なエアレーションが十分だったのかどうかも覚えていません
 ので何ともいえないのですが、少なくとも万能薬というわけではなさそう
 です。しかし驚天動地の新治療法であることは間違いないと思います。私
 の場合も、病魚の症状から判断して必要な場合にはココアを投入すること
 にしています。(詳細は拙コラム「不思議なココア浴」をご覧下さい。)