金魚の病気を治そう(その4)

水カビ病の治療手順


 白点病は一通りお話しましたが、ついでに水カビ病の治療について少しお
話したいと思います。これは白点病の二次症状として見られる病気といって
よいかもしれません。白点虫に寄生された個体はその部分が「かゆい」のか?
なんだかよくわかりませんが、放置しておくと金魚は底砂とか水槽の側壁に
体をこすりつけるようになります。すると体表にすり傷ができます。傷がで
きるとその部分に水カビがとりついて、体表から栄養分を吸い取るようにな
り金魚を徐々に弱らせるわけです。
 水カビ病は青い色の魚病薬なら大抵効果があります。メチレンブルーがそ
の典型例ですね。また水カビはクリーンで冷たい水を好む生物で、25℃以上
の高温では生きられないといわれています。ですので、普通は白点病の治療
でメチレンブルーを入れて昇温治療をしているうちに水カビ病もいつのまに
か治癒してしまいます。
 ただし白点病でなくても何かの拍子で金魚が傷を負って、しばらくそれに
気付かずにいると水カビ病が単独で発生することも当然ありえます。その時
はきちんと治療してやらないとどんどん悪化して、全身が綿をかぶったよう
になり死んでしまいます。(←ここまで放置する飼育者は普通いらっしゃら
ないとは思いますが)

 治療方法は基本的に白点病と同じ感じです。前述したように薬浴用プラケ
ースに治療水を作り、病魚を移した後、水温を25℃以上に徐々に昇温します。
温度の上限は前述のとおり飼育槽の水温+5〜6℃ですね。そしてメチレン
ブルー規定量を(少しずつ)加えますが、水カビ病の場合はさらに塩を少々
入れてやると回復が早いです。
 通常金魚の表面には粘膜のようなものが分泌されています。これは、体表
面やエラの細胞壁と共同で、魚体の外部から内部に向かって働く「浸透圧」を
支える障壁の役割をしています。例えば話を塩分に限定すると魚体内部の塩
分濃度は通常 0.7%程度といわれていますが、周囲が真水(濃度 0%)です
と、その差分に相当する特殊な圧力のような力が金魚の細胞その粘膜などに
かかっているのですね。これが浸透圧といわれるものです。
 ところが、体表に水カビが付くとこの粘膜や体表の細胞壁の一部が破壊さ
れ、障壁としての力が低下し、例えば濃度差 0.5%分の浸透圧しか対応でき
なくしまいます。この状態で魚体内で 0.7%の塩分を保持することは物理的
な意味では不可能で、浸透圧の原理により外部から体内へ水が流入し(それ
とともに金魚の生理的プロセスにより体内の塩水が排泄され)、最終的に魚
体内は 0.5%濃度となるでしょう。元々体内で 0.7%必要だった塩分が物理
の法則によって 0.5%に減ってしまうのですから金魚の健康にとっては大ダ
メージですね。もちろん、金魚にはこうした不都合を修正する力を持ってい
ます。「浸透圧調節(Osmoregulation)」といわれていますが、エラを通し
て必要な物質を能動的に取り込んだり排出したりする機能がそれです。これ
についてはまた機会があれば紹介致しますが、いずれにしても、粘膜などを
やられた金魚には大きな負担がかかることは間違いありません。

 こうした状態を緩和してやることが水カビ病の治療のポイントとなります。
具体的には周囲の水(治療水)の塩分濃度を少し上げてやるわけです。例え
ば0.2%濃度にしたとすると、魚体の体表表面にかかる浸透圧差は0.7−0.2=
0.5%濃度相当になります。この浸透圧であれば水カビでやられた粘膜や細胞
壁でも障壁としての機能を充分に果たすことができますので、魚体内の塩分
濃度も減ることもなく、とりあえず金魚を安全圏に置くことができるわけで
す。(*)

 (*) 前に岩塩のメリットがよく判らないと書きましたが、ひょっとして浸
  透圧に関係しているのかもしれません。上の話は塩分に限ったことです
  が、魚に必要なミネラル(カルシウム、鉄、カリウム、リンなど)についても粘膜や
  エラを障壁としてある程度の浸透圧平衡が成り立っているはずです。で
  すから病魚の治療水のミネラル濃度を上げてやれば病気で機能低下した
  粘膜でも魚体内で必要なミネラルが排出されることなく体内で保持でき
  るのではないかと――。ミネラル豊富な岩塩の利点というのはひょっと
  したらこんなところにあるのかな、などと都合のよい憶測をしてみたこ
  とがあります。ただ、この理屈だと普通の食塩に加えて、ミネラルウォ
  ーターでも入れればいいことになりますが、そんなことしてる人は未だ
  かつて聞いたことありませんよね(笑)。愚かしい閑話休題でした。

 さて治療水に入れる具体的な塩分濃度ですが、水カビ病の場合0.1〜0.2%
程度で十分でしょう。他の病気もひっくるめて金魚の病気には『0.5%濃度』
が最適と昔から呪文のようにいわれていますが、実際問題として魚病薬(今
の場合はメチレンブルー)と併用して使う場合は特に、塩の入れ過ぎはNG
となる可能性が高いです。理由は飼育水から治療水への水質変化が極端にな
り過ぎるからです。あまりにも高いハードルに金魚の適応能力がついていけ
ないのです。
 そもそも魚病薬というのが元々単独使用を前提に作られた相当強い薬であ
るという事実を再認識することが必要です。例えば水カビ病の薬としてマラ
カイトグリーンという化学物質を使ったものがありますが、あれなどは劇薬
の代表選手みたいなもので、正しく使えば即効性を期待できる反面、用量を
間違えると頓死につながることもあります。こうした魚病薬に薬漬けにされ
ているだけでも環境適応のための体力を相当費やされている上、さらに(海
水魚じゃあるまいし)塩漬けにされるわけですから金魚が感じるストレスは
並み大抵のものではありません。
 薬や塩は病気を治すために使うものです。しかし本来体にいいはずのもの
であったとしても生存環境の変化をもたらすものである限り、金魚は一生懸
命それらの変化に適応しようと精一杯の体力を使い、少しずつストレスを溜
めているのです。そうした環境の変化量がある限界を越すと、ストレス過剰
による適応障害かあるいはショック症状を起こして病状をどんどん悪くして
しまいます。それが生来弱い個体であったりすればなおさらですね。治療の
名目のもと何をやっているのか判りません。浸透圧云々とかの理屈をいう以
前にもっと大切な臨床的問題があることを忘れてはいけません。もちろん塩
が金魚にいいことは万人が認めるところですが、使い方には十二分の注意を
払う必要があるということです。

 さてここまで塩の注意を申し上げたついでに塩の入れ方についても私なり
のやり方を紹介致します。例えば5リットルの薬浴用バケツですと5〜10グラムぐ
らいの塩を入れることになりますが、それをバケツにそのまま投入すると金
魚が餌と間違えて口にしてしまうことがあって危険です。
 やり方としてはまず 500mlの計量カップ(百円ショップでたくさん販売さ
れています。)で薬浴用バケツの水を汲み上げ、そこに必要量の塩を完全に
溶かしこみます。そうしておいてそれを少しずつバケツに注ぎこんでやるの
です。この時も一気に入れるのではなく2時間くらいかけてじっくりと濃度
を上げるようお勧めします。(*)

  (*)塩の使い方は上でも少し言及しましたが人によって随分と違います。
   私の知り合いは「0.5%くらいの濃度であれば一気に添加しても平気
   だし、それ位濃い塩分でないと効果も少ない。」という人もいます。
   生まれつき強い個体(種類でいえば例えばワキン)やある程度飼育月
   数を経た金魚、あるいは塩水浴の経験が度々ある金魚であれば、ご指
   摘のようにかろうじてストレスを乗り越えて自らの免疫力で病気を治
   すかもしれません。しかしそれは確実な話ではなく、また、ありとあ
   らゆる金魚に適用できるものではありません。そのことは昔 0.5%の
   塩水と薬品との複合混浴によって数々の魚を★にしてきた私Hinconが
   自信をもって証言いたします(笑)。

 つい塩話が長くなってしまいました。これについてはまた別途本格的にお
話させて頂きます。