■水作りの方法――タンパク源の選び方(3)
1.マグロを買うとき
前回の最後にマグロはトロではなくて赤身にしてくださいと申し上げま
した。マグロという魚は、脂質の蓄積場所という観点からいうと、驚くほ
ど単純な構造になっています。大きく分けて、“背”と“腹”に分かれま
す。魚の中心を走る柱のような骨の上部が背で、下部が腹です。ハラ身は
背に比べて脂がのってとってもまろやかで、お値段も高くなっています。
それに比べて背のほうは脂身はほとんどありません。これが本当に不思議
でもあるし、わかりやすくもあるのです。
また、ハラ身は尻尾に近づくほど脂が少ないという傾向があります。古
くから日本では、頭の付け根から尻尾に向かって順番に“カミ”、“ナカ”、
“シモ”といって区別してきました。カミのなかでも「腹カミ」あるいは
腹ナカの一部?が、いわゆる大トロですね。とろけるような柔らかさと、
それでいて、しゃっきりとした気品のある歯触りは一度食べたらサーロイ
ンステーキの比ではなく、ほとんど病みつきになってしまうほどの味わい
です。じゅる…。
さて、今は水作りの話です。
水作りに最も適している肉は、脂肪が少ない部分であります。牛肉でも
豚肉でもそういった部位――牛ではランプ、豚ではヒレ――を選んで検討
してきました。では、マグロはどうかといいますと、それは“背”の肉で
あります。背の肉はカミでもシモでも脂ののりはいずれも少なくあまり違
いはありません。ですから、背カミあるいは背シモ、いわゆるマグロの赤
身といわれている値段の安い部分が、金魚業界では最高級のマグロ肉であ
ります。ちなみに、背は背でも背ナカは意外と人気が高く、比較的高価で
すので、私の場合は対象から除外しています(笑)。
次にマグロといっても色々と種類があります。どの種類の赤身を買えば
いいのでしょうか? これははっきりいって赤身であればどれでも大差は
ありません。この表をご覧ください。
(ちなみに前回と同様、この表を見るときもブラウザのバックボタンをご
利用ください。お手数おかけしちゃってどうも・・・)
表によれば、どのマグロであっても脂質の量は少ないですし、タンパク
質の含有率もほとんど同程度といえます。寿司屋さんでしかお目にかから
ない、高価な「くろまぐろ」(いわゆる本マグロ)であってもタンパク質
の含有量は他の種と大きく変わりませんね。
これもマグロの素晴らしい点の一つです。わざわざ高いものを買わなく
ても、スーパーでよく陳列されていて値段もリーゾナブルなメバチやキハ
ダの赤身で充分水作りができてしまうのですね。なお、ビンナガ(別名、
ビンチョウ、トンボ)は通常、缶詰で使用するくらい安い魚なのですが、
スーパーなどで切り身売りしているビンナガは何故かトロ身が多いのです。
トロ身では脂が多すぎて、マグロで水を作る意味がありません。なにはと
もあれスーパーへ足を運んで、白い点々(微細な脂質の塊)がない、安
いマグロの赤身 が店頭で売られていれば、それを購入されて、水作りに
使用なさると間違いなく最高の飼育水が出来上がります。
2.マグロを使うとき
これはマグロに限った話ではありませんが、食材には多くの場合“食品
添加物”が使われています。流通や保管過程における酸化を防いだり、色
ツヤを整えて見栄えをよくするための化学物質のことですね。非常にたく
さんの種類がありますが、過度の摂取による人体への毒性も懸念されてい
ることから、食品衛生法によって使用量が厳しく制限されています。
マグロの切り身などの生鮮食料品はどうかというと、もちろん例外では
ないでしょう。赤味の場合は亜硝酸ナトリウムなどの発色剤、あるいは、
酸化防止剤(エリソルビン酸ナトリウムなどが有名?)が使われている可
能性があります。これらは当然のことながら、人体への影響という観点か
らは法律で定める許容量以下だと思われますが、金魚に対してどうかとい
うとこれは別問題ですね。
ですので、マグロを使う前には丁寧に水洗いを行うことをお勧めします。
もちろん、それをやらなかったからといって出来あがった水に問題がある
という意味ではありません。ただ、影響の度合いがよく分からないものは
可能な限り水槽からは排除するというのが自然な考え方だと思います。も
っとも仮にそれらが魚毒性が強い物質であったとしても、銅や亜鉛などの
重金属と同様、2回の水換えで十分薄められますので問題となることはな
いでしょう。
さて、水洗いの際にちょっとしたテクニックがあります。一般的な話で
すが、食品添加物というのは、食材に含まれている水分に溶け込んでいる
場合が非常に多いので、これをあらかじめ排除してやればいいわけです。
もし添加物の影響が気になるという方は、食材を分割して冷凍庫に入れる
前に次の方法をお試し下さい。
・まず、500mlの計量カップに水を入れ、ニ、三分割した切り身をそこ
に漬ける。
・それを冷蔵庫に入れ、半日くらい放置する。これによって食材中の
水分の一部が溶解している添加物とともに回りの水に浸出・拡散し
ていきます。(なお冷蔵庫に入れるのは腐敗防止のため)
・その後、カップを取り出し、ボールなどに入れた水のなかで、切り
身を揉み洗いします。ぎゅっと押して残りの水分を搾り出すような
感じです。力を入れすぎると切り身がブチッと押し切れてしまいま
すので気をつけてください(笑)。
以上のやり方で相当量の食品添加物が除去できると考えます。本当は煮
沸したいところですが、熱を加えると食材の栄養素が変質しますので私は
やっていません。
2.過酸化脂質の心配
脂質というのは巨大分子で、いくつかのパーツで構成されており、その
うちの一つが脂肪酸と呼ばれる物質です。脂肪酸をさらに分類すると、飽
和脂肪酸と不飽和脂肪酸とに分けられます。(この言葉の意味を知っても
金魚飼育には全く役に立ちませんので割愛します。)
とにかく、マグロを含め、魚類には“不飽和”脂肪酸の含有量が多いの
が一般的です。大まかにいいますと、魚類の場合、不飽和脂肪酸、特に多
価のもの(より酸化しやすいものとお考え下さい)は、豚ヒレの2倍相当
の多さになっています。
不飽和脂肪酸という物質は元来体には非常にいいものなのですが、前に
もお話したとおり、酸化が進むと過酸化脂質(別名、脂質ラジカル。語感
通り過激です!)という物質に変わり、魚体に悪影響を及ぼしますので、
一通りの注意が必要です。しかし、マグロを使った水作りを行う際には、
次の理由から心配には及びません。
・魚類の“多価”不飽和脂肪酸の割合が多いとはいっても、脂質総量の
高々2、3割程度にすぎず、また、そもそもマグロの赤身に含まれる
脂質の総量が全重量の1%程度と他の食材に比べて少ないため、水槽
に投入される多価不飽和脂肪酸のトータル量は実際ところ少ない。
・Hincon流のフィッシュレス法では、食材を3日程度で常に新しいもの
と交換することにしているため、脂質のすべてが切り身という母体か
ら分離し水中に留まり続けることはほとんど考えられない。また、母
体に結合したままの脂質は、3日という短い日数で水槽から引き上げ
られるため、変敗が進んで過酸化脂質に変わるだけのだけの十分な時
間がない。
・仮に何かの拍子で発生してしまったとしても、Hincon流の大型換水2
回によって、その濃度はまったく無視できるくらいに下げられる。
以上のことから、マグロの不飽和脂肪酸についてはまったく問題となり
ませんので、ご安心ください。
3.マグロ以外に優れた素材は?
今までの話を総合すると、世の中にたくさんある食材を水作りという観
点から優劣をつけるとすると、次のようになります。
マグロ赤身 > 皮無し鶏肉 > イカ、タコ、エビ > 豚ヒレ肉
これ以外の、皮付きの鶏肉、牛肉、ヒレ以外の豚肉、全ての貝類、そし
てマグロのトロ身は残念ながら不合格です。
では、これ以外の食材で何かいいものはないのでしょうか。
実は面白いことに、タンパク質の多さ、脂質や重金属の少なさ――これ
らの条件をマグロ以上にクリアしている食材がひとつあります。
それは鶏の卵白です。いわゆる“ゆでタマゴの白身”ですね。もちろ
ん卵白を使ったからといって、硝酸塩のゼロダウンが早まるわけではあり
ませんが、出来上がった水は、マグロで作った水か、あるいはそれ以上の
品質を持った水となるでしょう。
ただし、一つ欠点というか、注意点があります。
鶏卵の白身にはマンガンが非常にたくさん含まれているという事実です。
生物濃縮の悪魔(笑)といわれている“貝類”に匹敵するほどの量になりま
すので、これが酸化して二酸化マンガンになったりすると、もうシャレに
ならないくらいの毒水になってしまいます。したがって、卵白を使う場合
は次の事項を必ず守ることが重要です。
・「Hinconの水換え」を忘れずに実施する。特に、金魚を入れる前の水
換えは思い切って2/3くらいは換える。(←念のための措置)
・古いゆでタマゴは酸化している割合が多いので、絶対に使わないこと。
できれば、作ったばかりのものを使用するのが一番安心です。
以上の2点に注意すれば、乾燥卵白はフィッシュレス・サイクリングに
測り知れない利点を発揮してくれるはずです。
次のコラムでは今まで触れてこなかった問題、「リン」についてお話し
ます。
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