フィッシュレスで水作り(その7)

タンパク源の選び方2


水作りの方法――タンパク源の選び方(2)

 これまでタンパク源の必要条件についてお話してきました。これだけ条
件が揃えば、最適な素材はおのずと決まってくると思います。そこで今回
は、日本食品標準成分表を基に、水作りに必要な食材の重量と出来上がる
であろう水の重金属元素の含有率を表にしてご紹介します。これは以下よ
うな仮定を使って計算したものです。なお、仮定にはほとんど根拠のない
ものも含まれていますので(笑)、「当たらずとも遠からず」程度の感覚で
ご覧になるのがいいかと思います。

 ・水槽は60cm水槽(52リットル)とし、飼育する金魚は姉金(7グラム)
  が5匹で、体重の2%に相当する餌[7×5×2/100=0.7g]を毎日与
  えるものとします。その際、与える金魚の餌のタンパク質含有率は市
  販の代表的な商品で大体40%くらいですので、毎日約 0.3グラムのタ
  ンパク質を与えることになります。
       ※ 適切な餌の量として昔からいわれている数字です。
         実際は個体差もあるし水温によっても違います。

 ・さて、水作りの段階では、金魚の餌の代わりにマグロなどの食材を水
  槽に与えることになりますが、その量としては、上で求めた「タンパ
  ク質として0.3グラム/日」を満たすように食材量を決めてやります。
  たとえば、食材のタンパク質含有率が23%だとすると、与える食材の
  量は、

           0.3/0.23=1.3グラム/日
  となります。

 ・水作りにかかる日数はちょうど30日と仮定します。すると、上の結果
  より、水作りに必要な食材の量は39グラムであることがわかります。

 ・では、食材として39グラム用意しておけばいいのか?ということにな
  りますが、答えはおそらくノーでしょう。というのは、現実の手順で
  は細かく分割した食材を数日毎に交換しながら行いますので、食材に
  含まれる全てのタンパク質が腐敗菌(好気性従属細菌群)によって数
  日間のうちに消費し尽くされるということはどう考えてもあり得ない
  からです。よって、ここでは腐敗菌による消費割合を仮に33%として
  おきます。「水槽に入れたタンパク質の1/3 が腐敗菌に割り当てられ
  て、残りは使われずにゴミ箱行き!」という想定ですね。この条件で
  すと、
          39/0.33=約120グラム

  の食材が必要となってくることになります。

 ・水槽に投入する食材量が 120グラムということは、重金属の含有量も
  おのずと計算できます。たとえば、ある食材の銅(Cu)の含有率が
  食材100グラム当たり 0.5mgだとしますと、食材120グラム中の含有量
  は、
          120×0.5/100=0.6mg
  です。

 ・この銅の含有量のうち、10%が水中に溶出してくるものと仮定します。
  このあたりはちゃんとした実験設備でもない限りわかりませんが、私
  の水作りだと食材を3日程度で交換しますので、3日のあいだに重金
  属が自然に溶け出してくる割合としては多めにみてもこんなものかな?
  ……という程度の憶測、すなわちエイヤーです(笑)。さて、水槽の水
  量は52リットルと仮定しましたから、結局のところ、水槽中の銅の濃
  度は、
        0.6×0.1÷52=0.0012mg/リットル(=約0.0012ppm)

  となります。

 ・銅の濃度でいわれてもピンと来ませんので、水質基準との比で表記す
  ることにしました。金魚用の水質基準は日本には存在しないと思いま
  すが、ここでは仮に養殖魚を対象とした「水産用水基準―2000年版」
  (S58.03初版、H12.12改正、日本水産資源保護協会)に基づいて、次の
  値を使います。
          ――――――――――――――
            金属の種類  基準(ppm)
          ――――――――――――――
             鉄      0.1
            亜鉛     0.001
             銅      0.001
                    マンガン※   1
          ――――――――――――――
     ※ マンガンは酸化すると恐ろしい物質に変わります。ここで
      は銅と同じ値(0.001)を使うことにしました。

   銅の基準値は0.001ppmですので、「出来上がった水の銅濃度は、基
  準上限値の約1.2倍である(=0.0012/0.001)。」となるわけですね。

 以上のやり方で、食材の所要量と出来上がる水の重金属濃度(基準との
比)を計算してみたのがこの表です。
(注意:表が現れてから、このページに戻るときはブラウザのバックボタ
ンをクリックしてください。)

 さて、ようやく準備が整いました。上の表をもとに、水作りに最適な食
材を探していきたいと思います。

1.獣肉(牛、豚)

 獣肉の特徴は何といっても脂質が多いことで、脂身付きの豚肉や牛肉は、
脂質がタンパク質と同程度も含まれています。もし、水作りに使用したい
場合は脂身を丁寧に除去してやる必要があるでしょう。ただし、牛や豚の
場合は、素材全体に脂質がまんべんなく分布している場合がほとんどです
ので、それらをきれいさっぱり取り除くことは至難の技――というよりほ
とんど不可能です。
 栄養素の含有量は体の場所によって大きなばらつきがありますが、牛、
豚の場合はどの部位にも脂質が相当量含まれています。それでも、この中
からあえて選ぶとすると、豚の場合は赤身のヒレ肉、牛の場合も赤身のヒ
レやランプ肉(腰のあたりの部位ですね)がいいでしょう。これらは海産
食品と比べるとやや脂質が多めですが、これ以外にはちょっと適材が見当
たりません。ちなみに表中の牛ランプのデータは少しでも安いものがいい
と考え、輸入牛の数値を使用しています(笑)。

 牛ランプで水作りを行った場合、実は問題点がひとつあります。それは
牛という動物の肉は一般に“亜鉛”がかなり多いことです。表をご覧にな
ればわかりますが、牛ランプで水を作った場合の亜鉛濃度は、水産用水基
準の10倍近くの濃度となってしまいます。これだけの高レベルになります
と、金魚を投入する前にちょっとやそっと水換えを行ってもなかなか濃度
は下がってくれません。結局は全換水してマグロに切り替え、さらに延長
してフィッシュレスを続行するなど――はなはだ非効率的な方針変更をし
なければいけなくなります。

 豚ヒレの場合も基準の4倍程度の高濃度ですが、こちらのほうはHincon
流のフィッシュレス法であれば大丈夫です。というのは、私のやり方です
と、20日めくらいに一回、そして硝化システム完了段階で一回、合計2回
の大型換水を行うからです。この手順を忘れずに行えば亜鉛も含めた重金
属濃度は十分低いレベルまで下がります。

 以上のことから、四足の獣肉であれば「豚ヒレ肉」がまずまずのお勧め
といえるでしょう。

2.獣肉(鶏)

 鶏も獣肉の一種ですが、これは牛や豚と違って、脂質の大部分が皮に集
中しているという特徴があります。ですので、皮無しの鶏肉を使えば水作
りに使えることになります。購入した鶏肉が皮つきの場合は手で剥いて下
さい。もちろん皮は捨てるか、あるいは、焼いたりして自分で食べてしま
いましょう。
 鶏肉ではむね肉、もも肉、あるいはささ身といった選択肢がありますが、
ここでは、むね肉のデータで検討しています。むね肉は輸入物が出回って
いて値段が安いし、脂質の少なさという観点でも申し分ないからですね。
 重金属の濃度はどうかといいますと、これまた問題ありません。表の試
算ではたまたま亜鉛濃度が1をわずかに超えていますが、これはHincon流
の水換え手順を忘れずに実行すれば何の不都合もありません。

 以上のことから、「皮は絶対に使わない」という条件付きで、鶏肉は合
格です。なお、他の素材もそうですが、水作りに使うのは必ず“生肉”に
して下さい。ゆでたり焼いたりすると、せっかくの栄養素のバランスが一
気に崩れてしまい、脂質や灰分の含有率が多くなる場合があります。

3.魚類以外の海産食品(タコ、イカ、エビ)

 これらは脂質の少なさからいうと、文句なしの合格点です。とりたてて
悪臭に悩まされることもなく、スマートな水作りができるでしょう。
 ただし、これも豚ヒレと同様、亜鉛濃度が3〜5倍とかなり高いことが
注意点としてあげられます。また、銅の濃度がやや高めになることも特徴
の一つです。
 その意味では水換えが必須の条件となります。水換えが需要という点で
は前述の豚ヒレと同じなのですが、タコ、イカ、エビの場合は豚ヒレより
も脂質が少ない分だけ素材としては優れているといえるでしょう。なお、
いうまでもないことですが、エビの殻や足は必ず取り除いて使用してくだ
さい。丸ごと入れてしまいがちですが、それをやると水槽中のカルシウム
濃度が突出してしまい、金魚にとってきわめて不自然な水が出来てしまい
ます。

4.貝

 貝を使うのであれば、入手のし易さや身の扱いやすさを考慮すると、あ
さりが一番だと考えました。しかしながら、貝類というのは意外とタンパ
ク質が少ない生物で、あさりであれば可食部の6%を占めるにすぎません。
これは実は致命的な欠点です。つまり、所定量のタンパク質を水槽に供給
してやるために、大量のあさりが必要になるということです。ちなみに、
表の試算によれば、可食部だけで約 400グラム以上も購入しなければいけ
ないことになります。貝殻を含めた重量に換算すると相当な重さになるこ
とは間違いありません。
 さらに、貝殻もエビの殻と同様、不要な部分ですので、除去すべきです
が、貝殻を取り払うためには通常“砂抜き”という手続きを踏む必要があ
ります。そしてその砂抜きの後には、もっともっと大変な仕事…すなわち、
一つ一つチマチマと貝殻を切り離してやるという流れ作業が待っています。
ほとんどホビーの域を超えていますよね(笑)。このように、貝を水作りの
素材として使うためには、前処理作業が膨大なものとなります。
 これだけでも素材としての適性を欠いているといえますが、付け加えれ
ばやはり重金属の問題もあります。一般的に海に棲む生物はミネラル成分
などを自分の体内に大量に溜め込む性質を持っています。生物濃縮と呼ば
れています現象です。貝類ではこの濃縮力がかなり強いので蓄積される重
金属量も多くなります。特に亜鉛が多くて、試算結果では基準の8倍もの
濃度の水が出来てしまいます。牛ランプのところでもお話しましたが、ち
ょっと高すぎて部分換水程度では対応できそうにありませんね。
 また、貝の場合は表であげた元素以外にも数多くのマイナー元素を選択
的に濃縮させる性質を持っています。いちいちあげればキリがありません
が、はっきりいって色んな意味で、貝類は水作りには不適です。

5.金魚の餌

 せっかくですからこれも検討項目のひとつに入れてみました(笑)。飼育
者にとってはある意味一番手軽な素材かもしれません。タンパク質の含有
率もほかの食材とは比べ物にならないくらい高いので、少ない量で効率的
に硝化サイクルを完成させることができます。
 ですが、表でおわかりのように、金魚の餌は金魚の口に入ることを前提
として成分調整されていますので、体を作るための脂質やミネラルがたっ
ぷりと含まれています。詳細なデータは持ち合わせていませんが、重金属
についてもそれなりの量が存在していると考えるのが自然ですね。
 したがって、メインの素材として金魚の餌を使うことはできるだけ避け
たほうがいいと思います。私Hinconの場合は、金魚の餌を補助的な材料と
して使っていました。つまり、用意したマグロの量が少なすぎた場合に、
不足分のタンパク質をこれで補ってやるわけです。金魚の餌はタンパク質
含有率が高いため使用量はわずかで済みます。このことから、重金属類な
どの濃度が多少上昇したとしてもHincon流の水換えによって簡単に低減す
ることができます。

6.マグロ

 さて、そろそろマグロの出番が来ました。表をご覧ください。マグロは
タンパク質が豊富に含まれていますので、水作りに必要な所要量は百グラ
ム程度ですみます。また、重金属類も全体的に突出したものはなく、亜鉛
や銅といった、金魚にとって最も危険な物質についても基準値以下に抑え
られています。表の数字は既にお話したとおり、いくつかの仮定に基づい
た推定値ですので、基準値以下になっているからといって、そのまま鵜呑
みにすることはできませんが、少なくとも他の食材との比較においては、
充分意味のある数字だと思います。いずれにしても、私の方法の場合、水
作りと水換えはセットになっていますので、都合2回の水換えによって、
有害物質の濃度はほとんど無視できるくらい低下してしまいます。
 以上のことから、マグロは、水作りの素材として欠点がほとんど見当た
らない「優等生」であると考えられます。もし、これからフィッシュレス
をやってみようという方がいて、どの素材にしようか迷っている方がおら
れるとしたら、私としては迷わずマグロをお勧めするでしょう。

 ちなみに、マグロは赤身を使わなければなりません。その理由はもうお
わかりだろうと思います。トロ身はおいしいけれども水作りには最悪の素
材となります。その辺りの話を含めて、スーパーでマグロを選ぶときの注
意点、それから、マグロより優れた食材はないのかどうか――という点に
ついて次のコラムでお話したいと思います。