6日目

by まお


 だだだんっ、というノックの音は、予定よりも何と1時間も早く5時に我々を起こした。ヘ? なんで? と考える余裕もない寝ぼけ眼のうちに、おっさんはベッドをしまいにきて朝食を運んできた。後で聞くところによると、これはこの車両だけだったらしい。担当のおっさんの次ごうってやつだ。っだく。朝食はパン3個とティで、ASAとまお好みのものであった。狭い部屋の中で各自準備を整えているうちに、電車は7時30分にまだ涼しいカイロに到着した。最後のチップを貰ってやっとこおっさんは愛想のいい笑顔を見せたとさ。

 ホテルで各自部屋に荷物を入れてから、すぐバスに乗り込んで市内の3大モスク観光に。ちなみに今日はガイドの研修ということで、カイロに済んで1年になるというK青年が同伴している。最初にイヴン・トゥールモスクに行ったんだけど、まだお祈りの時間ということで門前払い。先にスルタン・ハサンモスクのほうに行った。靴を脱いで入ると、なんだか不思議と心が真っ白になる空間に入り込んだ感じ。ころんと寝転がっていると気持ち良さそうだった。今まで石造りの遺跡を見てきた目には、装飾や建物の繊細な作りがきらびやかであった。続いて先ほど寄ったイヴン・トゥールモスクに。塔にのぼってカイロの街並みをキャアキャアと見回す我々の中で、1人怯えていたのはMAAである。とうとう1番高いとこまで行けなかったもんね。
 最後には1番大きいムハンマド・アリモスクに。ボクシングの人じゃないよ。オスマントルコの支配下時代にエジプト近代化の基礎を作った人だ。ここはさすがに大きい。観光客がごちゃっといた。オベリスクと交換にフランスから貰ったという時計塔があった。2本のミナレットのある外観もそうだけど、内装の綺麗さには感嘆もの。大きなシャンデリアとたくさんのランプ、ステンドグラス。幻想的な光の空間である。アラブ系の親子連れなんかの観光の人や、幼稚園みたいな子供達もけっこういて、なんとなく微笑ましくなってしまった。
 バスで少し郊外にいって、野外レストランで昼食。ここではみんなせっかく…ということで鳩料理を頼む。ところがどっこい、こりゃ大失敗さ。それは当然とでも言うべく、そのままの姿で出てきたのであった。「ひゃあ、だめえ」と天敵に恐れおののき泣きながらナプキンを被せる映。しかし地獄の責め苦のように周りの人間の皿にも鳩は載っているのであった…。ちゃんちゃん。どこに肉があるのか、という筋肉質のその体を1番まともに食べることのできたのはMAA。やはりスズメが美味しいという奴は違う。

 午後はまずメンフィスに向かった。野外に点々と像や石棺なんかが並んでいて、なんだか不思議な公園、て感じのところであった。ナイル川に半分埋まっていたというラムセス2世の像は、横たわって間近に見ることができたんで、その大きさと筋肉の盛り上がりもちゃんとある滑らかな表面に改めて感心。こんなんを川で見つけた人って…びっくりしただろうね。
 そしてそして、とうとう最後の観光地サッカラへ。いま地震がきたら崩れちゃうだろうという階段ピラミッドと、死者の書、ピラミッド・テキストが綺麗に残っているウナス王の崩れピラミッドを見る。ヒエログリフが本当に綺麗に残っていて、これを読めたら…という思いが強まってしまう。とりあえずウナス王の名前は覚えやすいマークが入っているんで、すぐに分かった。小高い丘にのぼったら、あ、砂漠だあ、と改めて思える景色が広がっていた。今までは砂漠と言っても、すぐ隣に街やナイルや山の見える景色が多かったのだ。でもここはほんとに砂漠。砂粒にすべて埋もれてしまいそうな地平線ならぬ砂平線が広がっていた。変な話だけど、これら見てきた遺跡たちが日本になくって良かったなあ、と思う。あんな地震王国にあったら、みんな崩れて、ただただ砂粒と石のかけらしか、我々は見れなかったかもしれないんだものね。

 最後に市内に戻ってお土産屋さんに入った。ここで、来れなかった友人のお土産にと探していた白いガラベイヤを見つけて映が買う。裾上げに、店員のおじいさんはにこにこと「1 minute, 1 minute」と答えた。が、おーいとんでもないぞ。何分かごとにできたか聞いてんのに同じ答えを返すんじゃないっての。一方、宝石を見ていて未加工のものを危うく買おうとしてしまったまおは、ASAや周りの方の助言で買うのをやめようとしたんだけど、おじさんは納得してくれないという事態に。見習いK青年に、これこれこうなので何とかうまく言ってくれないかと頼むと、彼は大きく頷き、おもむろにまおを指さして一言だけ言ってくれた。「She is poor!」……フォローもへったくれもないが、反論の余地のない事実であった。
 ホテルに戻ったら、そこでホサム氏は「ここで私のガイドは終わりです」と言って帰ってしまった。お疲れのご様子。もう本当にお世話になって楽しませていただいて感謝感激あめあられだっていうのに、バスを降りながら握手したぐらいで、ろくなお礼も言えなかったのが心残りである。もう、本当にありがとうございましたっ!
 少し時間ができたので、スーツケースと3日間持ち歩いたサブバックとの荷物整理を少しして、映とまおの部屋(この日の組み合わせは、あとASAとMAA、ミネりん)に集まって、お金の貸し借りの精算。LEを円に換算して、1円単位で四苦八苦。なんとか決着をつけてからUNOをする。順位は相変わらず。

 ホテルのロビーで集合してから、エジプト側の旅行社の方の先導で、バスに乗り込んでスフィンクスと3大ピラミッドの音と光のショーに出かける。早速昨日貰ったガラベイヤを着てエジプシャンしてる人もいた。7時半の予定が、前のアラビア語のショーが長引いて30分くらい待った。人がいっぱい待ってるな、と思ったけど、いざ席に着くと空いてること空いてること。カルナック神殿の時とは全然違う。椅子の背もたれの上に座っちゃったりしてくつろいでしまったよ。暗やみに浮かび上がるスフィンクスやピラミッドの姿は幻想的で素晴らしいものの、内容はやっぱり英語で分かんない。しかし、その間カルナック神殿の時のように眠ることができたのはMAAただ1人だった。少し寒いし、なんといってもこの日に限って虫よけスプレーするのを忘れた残り4人は虫に刺されまくり、終わったときは「あ、やっと終わった……」という気も多々あったように思う……。
 帰ったあと、ホテル内のシーフードレストランでようやく夕食。食器が黒で統一されてたりして、今までになかったお洒落さ。大きなお魚の形をしたお皿に載った料理を食べる。ナンとご飯、魚やイカのフリッター、エビなんかがどどっと載っていて、味は美味しかったんだけど、あまりの量に残念ながら食べきった者は誰もいなかった。デザートも、甘さのオンパレードお菓子で同様。こんなことはこの旅行中はじめてだったかも……。部屋に戻る途中、いったい何事!?とおののいてしまいそうな大音響と人の波に会う。なんとこんな夜に結婚式。賑やかで綺麗でした。その様子をスタッフぽい人がビデオに撮ったりしてた。一応、格上のホテルなので、ある程度有名でお金持ちの人だったかもしれない。

 部屋に戻って、荷物整理に追われる。と言いつつ、もらったガラベイヤを着て、キャピキャピとみんなで記念撮影会なんかしちゃった。「無表情だとエジプシャンらしいぞっ」なんて言ってね。これは寝間着にグッドである。TVをつけると、たまたまアカデミー賞の授与式をやっていて、おおおっと日本でも見るアメリカンスターに見入ってしまった。そしてその日はちょうどサマータイムになる日で、12時になる前に、1時間早まるよーという時計の画面が出ていた。これは日本にはないので不思議な感じ。日本でいきなり1時間早まる、なんてのがあったら、システムの変更やなんかでめちゃくちゃパニックしちゃうんじゃないかなあ。1時間も失うなんてもったいない、とかね(事実、我々の睡眠時間は1時間減ったわけで、ああもったいない、の境地であった……)。
 そしてエジプト最後の夜は1時間縮まって更けていくのであった。[まお]


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