高所恐怖症のふたり

帰国の途、フランクフルトからパキスタンまでのフライトの時のことだ。行きに一緒だった友人は先に帰り、一人きり。となりにはドイツから里帰りするパキスタン人が座っていた。彼もやはりひとりで、何年ぶりかで一時帰国するのだとうれしそうに語っていた。

しばらく何事もなく過ぎたあと、トイレに入っている時に突然飛行機が大きくゆれはじめた。サインがつき、あわてて両側の席につかまりながら席に戻ると、その彼は青い顔をしてシートベルトをしっかり締めている最中だった。

私も急いでベルトを締め、緊張した。高いところは本来苦手なのだ。しかし、ゆれはいっこうにおさまらず、かえってひどくなってきた。そのうちジェットコースター、と言うよりフリーフォールと言った方が正しいかも知れない、すとんと落ちたかと思うとふわっと上がり、それを何度もくりかえした。

こんな状態であったにもかかわらず、私は意外と冷静でいられた。なぜなら里帰りの彼の恐がり方が尋常ではなかったからだ。彼は完全にパニックに陥っていて、まわり中のありとあらゆるところにつかまっていた。

いや、つかまっていたのではない。ゆれる飛行機を自分の手でおさえようとしていた。前の座席や自分の肘かけや座席、窓、かべ、いたるところをおさえながら、もう二度と飛行機にはのらない、今度は列車で帰る、と、なんどもなんどもくり返す。

その様子をみていたら、なんだかちょっとおかしくて、自分の恐いのなんて忘れてしまった。彼が先にそうなっていなかったら、わたしが先に同じようになっていたかも知れない。私はその彼に妙な親近感をおぼえた。

ゆれがおさまり、彼はとてもつかれきった様子でもう一度、今度は列車に乗る、と言った。往復の長い航路のなかで、あんなにゆれたのはあの時きりだった。

あれからずいぶんたつが、彼はあれ以来、その言葉どおり列車に乗って里帰りしているのだろうか。





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