道案内

暇そうだから。

話しかけても問題ない普通の人に見えるから。

知っていそうに見えるから。

地元の人みたいにみえるから。

なぜなんだろう。どこを歩いていても道をたずねられる。日本でも比較的きかれやすいのだが、外国に行ってまでそうだ。ところが、私と来たらこれがものすごい方向音痴なんである。

特にパリにはいくたびに誰かに道をきかれるが、まともに答えられたのはほとんどと言っていいほどない。


1

橋の上でスペイン人のカップルに道をきかれる


セーヌの上には橋がたくさんかかっている。川沿いを歩き、気に入った橋を渡って向こう側をまた歩く。そんなことを繰り返しながら、時々橋の上から景色を見たり、近くの美術館に入ってみたり、少しそれて知らない道を歩いてみたりするのは、とても楽しい。ただあんまりそれを繰り返すので途中で自分がどちら側を歩いているのか、どっちに向かって歩いているのか、よくわからなくなる。

そんな散歩の途中、橋の上でスペイン人らしいカップルの女性の方に道をたずねられた。わからないくせに「地図を持っています」と言っておもむろによれよれの地図を取り出し、見はじめたまでは良かったけど「この橋はこの地図で行くとここだけど...」と、目的地がいくら探してものっていない。

男の方は私があてにならないことがわかり、早く行こうと彼女をせかす。が、彼女はせっかく地図を見てくれてるのに、と私と一緒になって探していた。

が、しばらくして私はあることに気がついた。私が見ていた地図は逆さまで、探している方角はまるで逆だったのだ。男はあきれかえり、彼女はそれでもこんな私にお礼を言ってくれた。



2

シーフードレストランの前でフランス人観光客に道をきかれる


たまにはわかったものを食べたいと、写真入りメニューのあるレストランで食事をし、出たところで靴のひもがほどけているのを発見。しゃがみ込んでむすび直していると上から声がふってきた。どうやら道をきいているらしい。フランス語だ。立ち上がると、旅行者らしい初老のマダムが立っていた。

彼女は話しかけたのが外国人(しかも東洋人)だったと言うことがわかってびっくりし、あら、ごめんなさいね、というようなことを言って立ち去った。どのみち、きかれても答えられなかったから手間なしだったが、あのびっくりした様子はちょっと笑えた。



3

マレの路地裏でかっこいいパリジェンヌに道をきかれる


近道?でノートルダムに向かっていた。たしかに観光客はあまり通らない道だ。向こうからくる、どう見てもフランス人のタバコ片手のかっこいい女の人に「○○通りはどこ?」と声をかけられた。

聞いたことのない通りの名前、彼女は旅行者でなく少し急いでいるようだったので、すぐに「ごめんなさい、知らないです」というと「わかったわ、ありがとう」という身ぶりをして、そのままスタスタと歩いていった。

相手が日本人だなんていうことは気にせず、普通に道をたずねてくる。そういうところが私がパリを好きな理由の一つだ。



4

サンジェルマンで謎の中国人?グループに道をきかれる


サンジェルマン界隈で道がわからなくなった。年中道に迷っている私はもうなれっこで、小さな広場のベンチにこしかけ、地図をまるで日曜日の新聞みたいに大きく広げた。自分のいる場所を探してみるが見つからない。そうこうしていると、中国人ふうのグループが近づいてきた。

女が一人と男が二人のそのグループの、片方の男がまず口をひらいた。「DO YOU SPEAK CHINESE ?」どう考えても彼のこの質問は妙だった。中国語が話せますか?とききたいのなら最初から中国語で話せばいいのだし、私がどこから見てもアメリカ人ならこういう聞き方もアリだろうが、それはない。

きょとんとしていると、もう一人の男がおもむろに口をひらいた。

「ニホンジン デスカ」彼は日本語がわかるらしい。そうですと答えると、「ララマチ ハ ドコデスカ」という。

「ララマチ?」

「ララマチ ヲ サガシテイマス」

「ララマチ」とはいったい何なのか。「ララマチ」は「ララ街」なのか、「ララマチ」という通りの名前なのか、建物なのか、いくらきいても彼らは「ララマチ ニ イキタイノデス」「ララマチ ハ ドコデスカ」と、くり返すばかり。さっぱりらちがあかない。

結局「わたしもみちがわからなくて、さがしています。ごめんなさい」というと、彼らは去っていった。

それにしてもなぜ、彼らはその広場の中にいるたくさんの人たちのうち、もっとも道がわからなそうな地図を広げている私をわざわざ選んで声をかけたのか、なぜ「DO YOU SPEAK CHINESE?」と英語で聞いてしまったのか、いったい彼らはなに人なのか、そして「ララマチとはいったい何なのか」ナゾだらけだった。

ひとことも言葉を発せず、少しはなれた場所で妙にイバッテいたあの女の存在も気になる。男たちはまるで、お付きのもののようだった。

できることなら私もついていってナゾを究明したかった。が、うっかりついていくと、ちがう次元にでも吸い込まれてしまいそうな、そんな空気をただよわせるナゾのグループであった。



5

アニエスbで日本人の若者にプラダへの道をきかれる
(ただしくは「プラダへの道をきいてくれと言われる」)


店の中で、ペンダントを見せてもらっていた。すると、後ろでなにかずっとしゃべっている人がいる。気がつくとそれは日本語で、私に話しかけているらしい。振り向くと、若い男が立っていた。「あの、プラダってどこにあるのか聞いてくれませんか」あまり深く考えずに、私は一緒についてくれていたお店のおねえさんにきいてみた。

どうやら、説明するのがちょっとむずかしいらしかったが、おねえさんはとても感じの良い人で、イヤな顔もせず私のさしだした地図で一生懸命場所を探してくれた。ところが店のある通りは私のかんたんな地図にはのっていないようで、最後には外を指さし「ココの道をこっちの方にまっすぐ行って、で、○ブロックいったところで誰かに聞いてみて、すぐわかると思うわ」といった。私がそれを若者に伝えると「ほぉんとですかぁ〜?」と彼は言った。

そりゃあ私の英語(このときはほとんどフランス語は話せなかった)は彼から見てもあやしかっただろう。でも、私は別にプラダに行きたいわけでもないのに、見ず知らずの彼のために一生懸命聞いてあげていた。なのにその言いぐさ。しかも彼は私とお店のおねえさん二人が懸命に地図を見てあれこれ言っているときに、少し離れたところからそれをただ「見物」していた。本人は地図さえ持ってない。あげくに「プラダってフランス語でなんていうの」なんておバカな質問までぶつけてくる。

私の通訳があやしいと思うんなら自分で聞けばいいのだ。彼はおねえさんには作った笑顔でおや指を立ててみせ、私にはなんのお礼のことばもなく出ていった。彼女に対しても、私に対しても失礼きわまりない。相手が同じ日本人なら自分のためになにかしてくれて当たり前とでも思っているのか、「ありがとう」のひとことも言えない人間が海外に出まわってしまうのは同じ日本人として恥ずかしいことだ。

そのあと歩いていたら偶然プラダの店を発見、見ると店の中はほとんど全員日本人の男の子たちだった。



6

サントノレで日本人のおばさん二人組に待ち伏せされ
道をきかれる


サントノレをプラプラ歩いていると、とってもオシャレな店があった。ディスプレイされたものが見たくて中に入ろうとするとドアが開かない。施錠されていたらしく、私を見ると中にいたおにいさんが鍵を開けてくれた。

あれこれ選んでプレゼント用に包んでもらったりしていると、そとに日本人のおばさんが二人いることに気がついた。入ってくるでもなく、立ち去るわけでもなくそこにいる。が、彼女たちの興味のあるような店ではない。

やや不思議に思いながら、会計をすませてドアを開けるなり待ちかねたように、しかもまだ外に完全に出ていないうちに「すみません、オペラはどこですか?」ときいてきた。

とりあえず外に出させてもらい(私の行く手を阻むようなかっこうで彼女たちは立っていた)、念のため地図を出し指さしながら「この道は地図で言うとココになりますから、このままこの方向にまっすぐ少し行くと右側にそれらしいのが見えてきますよ」と教えてあげた。

彼女たちはほっとしたらしくとても喜んだ。わたしもやっと道を教えることができてとてもうれしかった。団体旅行のフリーの日なのか、二人だけのおばさんを見るのは珍しい気がする。

「ありがとうございました、たすかりました」パリの街でみた日本人のおばさん達の深々としたおじぎはなんだかちょっとかわいらしかった。





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