世界史学と共に
吉田悟郎



ソ連の絵本(英語版)『メルゲンとその友達』表紙・裏表紙

 私の東北アジア史の探検は、北方民族の民話の絵本から始まった。ハバロフスクのホテルのキオスクに残っていた『メルゲンとその友達』という北方の少数民族,ナナイ族の民話の絵本だった。
最近は中学の教科書でも江戸時代のいわゆる鎖国を破る外の世界との交流として、アイヌ族はじめ北方の民族を仲立ちに毛皮その他さまざまな商取引が行われたことが書かれるようになり、その交易が山丹(サンタン)交易とよばれたことも知識になった。アイヌ族もナナイ族もサンタン人である。
 
 絵本を開いてゆくと、若者メルゲンが、スサノオノミコトのような英雄なのだが、狩にでかけ,雄大なアムール河に出る。なかなか獲物が見つからず、密林(タイガ)の王者アムール虎の住む密林の奥深くまで入ってゆく。「モミや松の林を抜けて」という一行がある。
(<北方史を描く愉しさ>第二話)
ナナイ族が生活し活動している土地にある「松」というのはどんな松なのか? 疑問が湧いた。

 北方史に興味をもって読書してゆくと、間宮林蔵の記録にぶつかる。今の写真のようにリアルなスケッチ入りの林蔵の記録には、以前は小学校の国語教科書にちゃんと書いてあったことだが、北海道沿岸に流れつく流氷の故郷である大アムール(黒龍江ともいう)河を遡り、中流のサンタン交易所のあるデレンまで踏査しているが、その途中でナナイ族から軽くて丈夫な舟艇を購入している。その舟はどんな舟でどんな木材で作られているのか? この疑問は前の疑問と重なってくる。

 こういう風にして私の<朝鮮五葉松への旅>が始まった。それは主としていろいろな本、文献を探し当て、その中の朝鮮五葉松らしきものを見つけてゆくという探偵のような読書遍歴であった。昨年の2000年11月以降はネットを通じての探偵作業に変わってきている。これは文章にするつもりだ。そういう変わった世界史=日本史勉強(私は日本史は世界史であり、世界史は日本史であると思っているし、わたしたち一人一人のなかにそれぞれ違った世界史=日本史が生きていると思っている、世界史は外国史ではなく又暗記物でもない)のモデルは、故鶴見良行さんの、名著『なまこの眼』(筑摩書房)である。

 これは変わった面白い「足で歩く世界史」の模範で、あの目鼻のないような海底に棲むなまこの眼で東北アジアを中心に全世界と世界史を裏から見事に描いている。容易に真似など出来ない勉強である。もう一つヒントになったのは、イタリア人の画家と文人が書いたマルコポーロに始まり北極探検に終わる六冊の世界史の絵本である。これはコロンブスやマゼランを決して個人的な英雄扱いしていない、世界史のなかのさまざまな人々、民族のひとり、群像の中に描いており、元帝国の皇帝にあうポーロ一家のわきをネコが横切ったりする。(『マルコポーロの冒険』以下六冊の絵本,評論社)。こうして国家や民族、階級に囚われ縛られた既存の<世界史・全体史>を、西洋主義・近代主義で化石化した従来の<世界史>をひっくり返して、自由闊達で多種多様多元多層の、相互の<自立と共生>を支えるような、未知の世界史の大海へ 漕ぎ出ていこう と夢見ている。




略歴
1921年2月8日 
:石川県金沢に生まれる。
1940年 :東京帝国大学文学部 独逸文学科入学
1941年 :独逸文学科から西洋史学科へ転科
1942年 :学徒出陣の二回目で繰り上げ卒業
1946年 :日本評論社出版部入社.出版編集者
1951年 :病気理由により日本評論社退社
1952年 :都立広尾高校社会科教師 主に世界史担当(’81まで勤務)
同年 教科書『高校世界史』
(上原専禄監修/実教出版=後の岩波書店『日本国民の世界史』)編集に参加
1953年 :NHK「ラジオ学校放送中学校<時の動き>」担当(3年間)
1954年 :歴史教育研究所評議員(2000年まで)
1959年 :NET(現テレビ朝日)で「時代の歩み」(中学歴史)担当
1965年 :NHK 教育テレビ 通信高校講座『世界史B』担当
1971年 :日本女子大学文学部史学科で『世界史の方法』年間講義(同’75年)
1976年 :中央大学法学部一般教育『史学』、成蹊大学法学部教職『世界史概論』『社会科教育法(歴史)』
など担当。両大学の講義は1990−1996年まで続けられた
1980年 :ブカレストで第十五回国際歴史学会議歴史教育部会出席 日本側報告を代読報告
1982年 :比較史・比較歴史教育研究会発足
1983年 :第一回日米歴史学会議(都立大)歴史教育部会「日米におけるヨ―ロッパ史教育」組織委員
「日本における西洋史教育」報告
1984年 :跡見学園女子大学で『世界文化史』講義を担当
1984年 :第一回東アジア歴史教育シンポジウム(駒場東大)
「世界史における東アジア―自国史と世界史―」報告
1991年 :韓日歴史教育セミナ―(ソウル大学)
発題講演「二十一世紀を臨む歴史教育における自国史と世界史―学と知転換の場としての
世界史学―」
(記録―西川正雄編『自国史を超えた歴史教育』三省堂 1992 )
1992年 :韓日歴史教育学術大会(ソウル大学)
1996年 :成蹊大学法学部『世界史概論』終了(75才定年)
2001年 :前年度からワープロ独学と、図書館通い。
2001年自らのWeb発信基地「ブナ林便り』を立ち上げる。
比較史・比較歴史教育研究会は多くの成果をあげてきており、
同会第4回「東アジア歴史教育シンポジウム」の記録は2001年中に未来社から刊行予定。



主な著書・編書:
『教師のための世界歴史』河出書房
『世界歴史物語』全八巻(河出書房)
『少年少女おはなし世界歴史』(のち『お話世界歴史』と改題)全二十四巻(岩崎書店)
『社会科図解事典・日本と世界の歴史』(平凡社)、東洋経済『世界史講座』第八巻『世界史の理論と教育』に参加、
『世界歴史地図』(旺文社)
『社会科指導資料事典』六・七・八・九・十の五巻(平凡社)
カラ―スライド『資料世界史』全六巻、同『埋もれた王国』全三巻(学研)
上原専禄監修『日本国民の世界史』、上原・江口朴郎監修
ネルー『父が子に語る世界史物語』(あかね書房)編纂。
『歴史認識と世界史の論理』勁草書房
『歴史認識と世界史教育』青木書店
『足で歩く世界史学習のすすめ』〔実教出版『高校世界史』指導書 1978〕 /地域、身辺で世界史の発見フィ-ルド学習 
『歴史地理教育』254、255号「地図はなぜ必要なのか―それなのになぜ地図はあまり使われないのか―」
『歴史地理教育』251-267 号「体験的世界史遍歴抄―アメリカとの出会い―」(未完)
『世界史の小径―世界史学習小論―』実教出版
『パレスチナ人とユダヤ人―日本から中東を見る視点―』三省堂
記録−『自国史と世界史―歴史教育の国際化を求めて―』未来社
『世界史の方法』青木書店
『自立と共生の世界史学ー自国史と世界史ー』青木書店
『世界史学講義―上下』(御茶の水書房) ほか、教科書を含め多数



著者のひとこと
ネルーの「父が子に語る世界歴史物語」は先輩の大山さんの完訳をもとにしてまとめた作品です。
イタリアの画家と作家の作ったマルコポーロ以下の探検・冒険の旅シリーズは原作がいろいろな点でよくできていて、これこそ「世界史の絵本」として自薦できる六冊です。
あとは、私のWeb「ブナ林便り」で拙稿を掲載してあるので興味がある方は、読まれるとよいでしょう。
<朝鮮五葉松への旅>全六話だけは大変重く編集も未熟な作品ですが、ぜひぜひゆっくり読んでいただきたいものです。
それから「比較史・比較歴史教育研究会」は、四回の東アジア歴史教育シンポジウムをそれこそ手弁当・自弁で試みてきており、そこの記録のひとつ「黒船と日清戦争」は静かなベストブックスにあげられていることは嬉しく思っています。

吉田悟郎のWeb『ブナ林便り』http://members.jcom.home.ne.jp/goloh/



いま流れている曲『彷徨』はこの随筆をイメージして
 kumi Fujino先生に書き下ろしていただいたオリジナルテーマ
 ミュージックです。
KumiFujinoのWeb「Bujino's Amusement Park」
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同人社 2001年5月中掲載され、2001年5月30日同人社からここに収録の許可を得た。              HOME表紙・目次へ戻る