資 料 日教組教育研究全国集会日本語教育分科会のとりくみ



    日本語教育の課題〜あたらしい教育課程編成へのてがかり〜
 

  1.最近の日本語教育(「国語」教育)をめぐる環境 

 これからの「ことばの教育」のありかたをめぐるさまざまな提案が,各方面から,だされている.「新しい学力観」「生きる力」「表現と理解の関連する指導」「音声言語教育」「言語技術教育」など,さまざまなことばが,とびかっている.現在の「国語科」という教科のありかたの論議と同時に,「記号科」「情報科」「コミュニケーション科」「日本語科」など国語科の廃止論や改変論も多様にでてきている. 

 こうした論議のなかで,国語教育における「言語技術」志向が,ひましに,つよまりつつあることは無視できない.「言語技術」を志向する主張の問題点を概略してみると,つぎのような点があげられる. 

 @ 「言語」を伝達手段としてしかとらえない.「言語」が人間の活動における認識・思考の重要なてがかりになっている点を無視している.

 A 日本語の正書法の確立を否定する.「音声言語」を偏重するあまり,言語活動における「文字言語」のもつ意 義をただしく位置づけない.

 B 文学の教育を否定する.「あらゆる文学形式の丹念な読解」を「厳選」の対象とすると称して,文学作品のていねいな読みを否定する.読み手にとってあたらしい認識をひらき,新鮮な発見につながるような体験からひきはなそうとする.

 C 戦後の平和教育・教材を否定する.自由主義史観などと歴史観・教育観を共有し,これまでの平和教育・教材は自虐的であるときめつける.

 このような主張にたいしては,「ことばの教育」というものが,学校教育のカリュキュラム全体のなかで,どのように位置づけられるのか,原点にたちかえってとらえなおし,これからの「ことばの教育」のありかたを積極的に提案する必要がある.
 そこでは,@教科の本質・目標・名称,A教科構造,B学習内容・教材,C学習方法・指導過程などの全面にわたる,といなおしと,それへの回答がもとめられる.
 過去40年間にわたる日教組教育研究全国集会(全国教研)の日本語教育分科会での討議のつみかさねは,こうした,といなおしへのひとつの回答であり,あたらしい教育課程編成への重要なてがかりとなるものである.
この資料では,これまでの日教組全国教研日本語教育分科会で確認されてきた「分科会名称」「日本語教育の目標」「教科構造」などについて整理してみた.あたらしい教育課程編成へのてがかりなるとさいわいである. 

2.日教組教育研究全国集会のいままでの経過のあらまし 

(1)教育内容確立の必要性の提起 【1960年代】
  1957年第6次教研から教科別分科会が設置され「国語教育分科会」が開始された.1960年代をとおして,教研の場では,教育内容確立の必要性が提起されていった.

   @ 1958年版学習指導要領の技術主義・道徳主義傾向への批判が底流にあった
   A 国語科の目標・教科構造を明確化にした=すぐれた日本語のにないての育成
   B 国語教育の実践と理論をよりたしかなものとしてつくりあげる場として機能した
   C 「目の前の子どもたちの現実」と「体系的・科学的な認識」をつなぐことで国語教育の内容を創造していった
   D 民間教育運動の成果を交流する場であった
   E 地方での地道な教育実践のすがたの紹介の場でもあった
   F 実践と理論の現場への環流をとおして,全国の教師の財産になっていった
 
(2)体系的な教育内容にまとめる 【1970年代】 
  1960年代の教研でつちかった体系的・科学的な教育課程のプランを整理し,まとめた.この時代に提案されたプランは,現在の教育課程編成講座の内容にいかされている.

   @ 「教師の力量を高めるための自主編成講座」の開始(1974年)
全国教研での実践と理論の現場への環流をめざした

   A 『教育課程改革試案』の発表(1976年)
国民教育の創造という観点からの体系的なプランに整理した

   B 『国語・文学の教育』の刊行 (1978年)
全国教研の到達点と自主編成講座の内容を整理しまとめた
 
(3)日常的実践を深化させる   【1980年代】                  
  1980年代は,校内暴力,非行,不登校などの問題が全面にでてきて,学校という体制そのものが問われる時代になった.全国教研の内容も,そうした状況に対応できる質がもとめられた.                            @ 現代という時代とそのなかを生きる子どもたちの現実によりそった実践の報告があいついだ
 A 教育内容,指導過程・教育方法の反省・吟味・検証がつねにもとめられた 
 
(4)ことばの学習の本質を確認する【1990年代】 
 人権,平和,地球環境,国際化など現代的なテーマが,「ことばの教育」の基盤にあることを確認し,それをひろく,ふかくさぐる実践の交流がはかられた.また,国際化のなかでの「国語教育」のありかたも検証の対象となった.

 @ 分科会名称を「日本語教育分科会」に改称した(1990年)
 A 編成講座の名称も「日本語」にあらためた (1991年)
 B 人権教育指針の提起をうけその具体化をはかった(1991年)
 C 現代の状況をきりひらき,人と人とをむすびつけるようなことばの学習の実践の交流をすすめた
 D 国語教育における言語技術の指向がつよくなってきた傾向にたいして,教育の技術・方法は,教育の思想であることを強調した
 E 平和教育における加害責任を射程にいれた実践の創造を追求した
 
(5)全国教研の意義と現段階での到達点 
 @ 分科会名称と研究対象を再確認した.日本語教育分科会は,日本語による「ことばの教育」の実践を対象とした研究の場である. 
 A 教科の本質・目標をつねにといかけてきた.ゆたかで,たしかな日本語のにないてをそだて,子どもたちの認識・思考をふかめることをめざしている.同時に,それは「言語技術教育」とのちがいをあきらかにしていく過程でもある.
 B 「ことばの教育」の教科構造を明確に位置づけた.「言語の教育」と「言語活動の教育」の接点を位置づける実践の創造をめざしている.
 C 教材論では,価値ある教材の選択を重視している.
 D 最近の言語学の進展に照応した科学的体系的な「言語教育」の創造を追求している.「学校文法」をこえる文法教育を実現している.       
 E 指導過程においては,教員自身の主体的なはたらきかけが大切であることを再確認している.
 F はなしことばの教育は,集団思考の学習の場であり,主体的な学習の成立をめざしている.
 G 「ことばの学習」がひとりひとりの生きる力を確認する体験となるような実践が,つぎつぎに提案されている.

    参考文献
     1.『私たちの教育課程研究 国語教育』日教組編.1968年.一ッ橋書房
     2.『教育課程改革試案』日教組中央教育課程検討委員会報告.1976年. 一ッ橋書房
     3.『国語・文学の教育』自主編成講座.日教組編.1978年. 一ッ橋書房
     4.『豊かな日本語の力を』改訂学習指導要領批判と私たちの課題 bQ 国語科編.
      日教組教育課程検討委員会編.1989年.アドバンテージサーバー
     5.「21世紀の日本語教育をめざして」『学びの原点に近づく−これならいける学校5日制』教育総研第2委員会      <学校5日制と教育課程> 最終報告 「教育総研理論フォーラム」bV 1993年 アドバンテージサーバー

 3.分科会の名称について  

 分科会名称は「国語」でなく「日本語」に
 日教組教育研究全国集会では,教科別の分科会がはじめておかれた第6次教研から「国語教育」分科会という名称をとってきたが,1991年1月の第40次教研でのいくつかの分科会構成の再編を機に,名称を「日本語教育」分科会とし,現在にいたっている.
 日教組教育課程編成講座も同時に1991年8月の第10回講座から「国語」を「日本語」にあらためている.
 全国教研「日本語教育分科会」の発足にあたって,「国語教育」を「日本語教育」とすることについては,つぎのような説明がある.     

  日本語教育分科会
 @ 国際化の進むなかで,日本語を母語としない子どもたちもかなり多くなってきている.こうした現状の下で「国語」はそれぞれの国の言葉であり,日本語とするには無理がある.日本の学校で学ぶすべての子どもたちに,「ゆたかな日本語の力を」つちかう教科と考えたい.
 A 戦前,日本史のことを「国史」といっていた.「国語」とか「国史」といういい方は,戦前の日本の体制の尾をひきずっている言葉である.
 B 諸外国で自分の国の言葉を教えるときに「国語」などとはいわないで,「イングリッシュ」とか「フレンチ」とかいいその意味でも「日本語」が適当である.
     (「第40次教研分科会構成についての考え方補足」日教組中央執行委員長 大場昭寿.1991年1月23日) 
  4.日本語教育のねらい    

 日本語教育の4つの目標    
 第10次(1961年)の全国教研では,9次までのつみあげと,いくつかの県の提起とを総合して,つぎの4目標を明確にした.
 @ 日本の文字,日本語の発音,単語と語い,文法,文,文章の部分,文章などについての意識的な自覚をたかめ ,その知識を豊富にし,読む力,書く力,話し・聞く力などの能力をのばす.
 A ことばと結びつけて認識諸能力(感覚・知覚・観察・記憶・想起・表象・思考・想像などの力)をのばす.
 B 言語作品(文章,話し)を教材とし,また,それを表現,創造させるなかで,正しくゆたかな物の見方・考え方・感じ方(事物に対する見解,正しい価値意識・感情・信念・意志・世界観形成の基礎となるもの)を身につけさせる.
 C 日本語について自覚的に学ぶ過程で,ごく自然な民族意識をたかめる. 
                                 (『国語・文学の教育』日教組編・自主編成講座.1978年)
  5.日本語教育の教科構造
 @ 広い意味での日本語の教育
 学校での学習活動においては,教師はつねに日本語の使用について指導している.それぞれの教科学習で,ある内容を子どもたちに身につけさせるときでも,教科の内容にふさわしい専門語や熟語を理解させるときでも,日本語についての正確な理解をぬきにして,それを獲得させることはできない.教科外での自治活動の場でも,話し合いや討議のなかで話しことばの指導が,行為,行動にうらづけながらおこなわれる.集団的な行動計画をたてたり,行動などの反省やまとめをするときにも,適切な話しことばや文章についての具体的な指導がおこなわれる.これらは,「話 す,聞く,読む,書く」という言語活動のなかでおこなわれる,ことばの教育である.これは,広い意味での日本語の教育である.
 A 教科としての日本語の教育
 日本語教育の目的を達成するためには,日本語教育を対象とする教科において,言語教育と言語活動の教育との両面にわたる体系的指導を,計画的におこなわなければならない. (『豊かな日本語の力を』1989年)
      
              ┌─言語教育      日本語そのものについての教育  
     日本語教育─┤                          
              └─言語活動の教育  日本語をもちいてする諸活動の教育 

  日本語教育の教科構造                         
 教科としての「日本語教育」の教科構造(内容領域)を図示すると下のようになる.
                                  (『国語・文学の教育』日教組編・自主編成講座.1978年) 

                        日 本 語 教 育                
                             │                    
                             │                    
              ┌─────────┴─────────┐          
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  │         言語教育         │    │      言語活動の教育              
  └───────┬───────┘     └───────┬───────┘  
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  │ 言 語   │   │ 文 字   │ │つづり方・  ││読み方教育││話しことば │
  │        │   │        │ │ 作文教育 ││        ││  の指導 │
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    ア イ  ウ     ア  イ  ウ  エ             ア     イ        
    発 語  文      か 漢  ロ  表             科  ◎  文 ◎ 
    音 い  法      な  字 |  記             学→評  学→文
                     マ                 的  論  作  学
                     字                 説  の  品  教
                                      明  読  の  育
                                      文  み  読 
                                      の  方  み 
                                      読  指  方 
                                      み  導  指 
                                      方     導 
                                      指        
                                      導


       注@ →印は,あたらしく内容領域を明確にしつつあるものをしめす.        
         A ◎印のものは,上位下位の位置づけはしめしていない.