コミックマーケット78新刊


たくさんの出会いと、出来事を積み重ねて。

気付けば随分遠くへと来ていた。

今までも、そしてこれからも。

彼女は、空を飛び続けていると、誰もが思っていた。


だが。


ある、夏の日。

高町なのはは、消息を絶ってしまった。


誰もが諦めていた中で。

娘だけは、彼女の生存を、信じて疑わなかった。


求めるのは、母への手掛かり。

従姉の月村雫と共に、世界各地を股に掛け、彼女は今日も走り続ける。


高町ヴィヴィオ、16歳。

地球にて、トレジャーハンター、やってます!!













presented by 矢鴨食堂

魔法少女リリカルなのはVS Episode.9

純白の輪廻
〜Pure-white Reincarnation〜


サンプルテキスト


1/少女達の過去と現在を繋ぐモノ

 

 

 

 

   

「「うわわわわわわっ!?」」

 ドガン! ズガン! ドゴン!

 崩落した天井が、次々と通路を砕いていく。石造りのダンジョンのお約束とも言える光景に、少女二人の背筋を冷や汗が伝う。

黒髪黒目、背中に束ねた髪を尻尾のように流した黒ずくめの少女と、緑と赤のオッドアイに金髪をサイドテールにまとめた防護服(バリアジャケット)姿の少女。ハイティーンの彼女達の周囲は、時に忘れ去られ、ひっそりと存在し続けてきた古代遺跡。しかし、それも全て無に帰そうとしている。当然、中にいる彼女達ごと。

「ヴィ、ヴィヴィオッ! あんた、魔法少女なんでしょうが!? どーにかしてよ!?

「雫ちゃん、その呼び方だけは勘弁してー! と言うか、クリス、現状打破出来る魔法ないのー!?

 金髪の少女の叫びに、彼女の後頭部に張り付いていた兎のぬいぐるみがふるふると首を横に振る。表情はないが、焦っているのは十分に伝わってくる。

 二人とも、常人離れした敏捷性で、崩れ落ちる通路を疾走してゆく。不安定極まりない足場の筈なのに、陸上トラックを走るかのような軽さだ。

「いつもみたいに天井吹っ飛ばすとかしてよ、もう!」

「無理無理! ここ、どれぐらい地下だと思ってるの!? 少なくとも、五秒は脚止める必要あるって!」

 物騒なことを言い合う少女達の目前に、一辺が大人二人分はあろうかという巨石が落ちてくる。天井の崩落に先回りされてしまった。このまま行けば、押し潰される。かといって引き返す道もない。絶体絶命としか言えない状況。だが。

「「邪魔ッ!!」」

 黒髪の少女の、腰に帯びていた二振りの小太刀が。

 金髪の少女の、拳に灯った虹色の輝きが。

 一撃で、巨石を粉砕する!

 粉塵を突き抜けて、ぺっぺっ、と口の中に入り込んだ砂埃を吐き出す二人。その耳に、コール音が届く。

『ヴィヴィオお嬢様。雫お嬢様。生きていますか?』

「セッテ、遅――い!」

 即座に怒鳴り返すと、通信先から申し訳なさそうな声が返ってきた。声音だけで、頭を下げているのが伝わってくるようだ。

『申し訳ありません。回収ポイントの設定に手間取りました。お二人とも、そのまま直進して下さい。二〇〇メートル進んだ先、進行方向の上方七〇度に砲撃をお願いします』

「うわ、まだ二〇〇メートルもあるの!?

 うっは、と引き攣った笑いを漏らす金髪の少女の頭を、兎のぬいぐるみがポンポン、と叩く。ドンマイ、と右手でガッツポーズを作るが、頭の上では見えるはずもないのだが、主には伝わったらしい。

「うん頑張るよ、クリス! なにしろ今は一蓮托生〜!」

 やけっぱちな泣き笑いと共に絶叫する彼女に、相棒が注意を喚起する。

「ヴィヴィオ! あれ!」

 言われて振り向いた先に。彼女達と同様、ぴょんぴょんと落石を回避しながら失踪する影が二つ、あった。

「あー!? あの人達!」

 素っ頓狂な声に、向こうも気が付いたらしい。ちらりと視線を向けて、あんぐりと口を開けた。

「ぬあー!? この尻尾コンビ!? またお前らかぁ!?

「おねーちゃん達、また会ったね〜♪」

 片方は、彼女達より幾分年上の青年。背中に、巨大な太刀を背負っており、美少女と見紛うかのような顔立ちをしている。もう一人は、銀髪の少女。自分の脚ではなく、背中に生えた三対の金色の羽を震わせ飛行している。

「あんたたちこそ最近性懲りもなく人の邪魔して!」

「うっさいわ、小娘ども! 邪魔してんのはそっちだろうが!」

「小娘って……そんなちっちゃい子連れてる貴方にだけは言われたくないんだけど!?

「あははー、おねーちゃん達、おもしろーい♪」

 場違いな口喧嘩(?)を繰り広げながらも、崩れ落ちる迷宮を疾走する四人。直撃しそうな崩落物は、それぞれの刃が、不可思議な力が粉砕してゆく。表情と裏腹に、その動きにはまだまだ余裕が見て取れる。

「え? 何、クリス?」

 金髪の少女が、頭をぺしぺしと叩くぬいぐるみに促され、首を上げる。どうやら、目的地に到着するようだ。

「セッテ、どれぐらい抜けばいいの!?

『一〇メートルもいりません。岩盤は崩落の影響で脆くなっていて、強度はD以下に落ちています』

「それなら……!」

 たっ、と床を蹴り、宙を舞う。金のサイドテールが、ふわりとなびく。ぐっと引き絞った右の拳に、虹の輝きが集中していく。同時に、眼前に広がるのは三角形の魔法陣。

「ディバインバスター! モードB!」

 魔法陣の中心に拳を叩き付けた瞬間。

 虹色の砲撃が、迸る!

 爆音と轟音を伴って、光が瓦礫ごと天井をぶち抜く。その先に広がるのは、雲一つ無い星空だ。

「さっすが、ヴィヴィオ!」

「相変わらず訳のわかんねー技使う嬢ちゃんだな!」

「でも、出口できたよー?」

 口々に言いながら、たった今出来たばかりの非常口に向かう四人。しかし、最初の一歩で気が付いた。

 洞窟全体に広がる轟音と振動。それが、一気に大きくなったことに。

「ちょ……なに、これ!?

「ええと……やっちゃった?」

自分で放った砲撃の手応えで、多少は結果を予測していたのか。金髪少女の引き攣った声に。兎のぬいぐるみが、コクコクと頷く。

同時に。

一気に、洞窟が崩壊し始めた!

「「ひゃああああっ!?」」

 悲鳴を上げる彼女達に向けて、銀髪の少女が気楽に手を振ってきた。

「おねーちゃん達、ありがとねー。おかげで、わたしもテレポート出来るようになったから〜♪」

「ち、今日はここまでだ! 今度邪魔したら、嫁に行けなくしてやるからな!」

 捨て台詞を残して、向こう側の二人が、ふっと消えてしまった。それを見て、少女達の顔に色んな感情がごっちゃになった、複雑そうな表情が浮かぶ。

「うっわ、HGS能力者、狡い〜!」

「ああもう、こっちの魔法少女は物壊すぐらいしかできないのに、向こうはなんて便利なの!?

「雫ちゃん、さすがにヴィヴィオも傷つくよ、それ!?

『お嬢様方。どうでもいいのですが、急がないと死にますよ?』

「「セッテに言われなくても分かってる!!」」

 綺麗に声をハモらせて。少女達は、まるで光の矢のように加速した。

 

 

 

 

「……で、アンデスの遺跡一つを、山ごと粉砕したってワケ……?」

 報告書の束をばさり、とデスクに投げ出して。ブロンドの美女が深い溜息を吐いた。

「ええと……まさか、お宝取ったら、遺跡が崩壊するとは夢にも思わず……」

「一応、トラップの有無は確認したんですよ? ねー、クリス?」

 彼女の前で、正座している二人は、おどおどとそんなことを言うと。

 バァン!とデスクを両手でブッ叩いて、美女が身を乗り出した。叩いた拍子にコーヒーカップが横に倒れるが、幸い中身は空だったので、放置。構わずに、怒鳴り声を上げる。

「あんたらねぇ!? 後援者の都合も考えなさいよ!? 最近、アタックした遺跡の八割ぶっ壊してたら、いい加減ICPOにでも指名手配されかねないわよ!?

「いや〜……。そこはそれ、ハーリーさんの手腕で……」

「言われないでもやってるわよ!? これで私があんたらと繋がってるなんてバレた日には、こっちも破滅なんだから!」

「ハーリーさん、そんなに怒ると身体に悪いよ?」

「だ・れ・の・せ・い・よ! 答えてみなさい、トレジャーハンター・高町ヴィヴィオに月村雫!!

 うへぇ、と舌を出して項垂れる彼女達は、今では揃いの制服姿だった。日本の、海鳴市にある私立風芽丘学園の制服。いくつものバリエーションが存在するのが売りの制服だが、二人ともブレザータイプ。違いはリボンかタイか、ぐらいである。

ちなみに……ここは、日本ではない。ロンドンにある、世界的企業グループ『バスティーユ』の本社ビル。その最上階にある会長室である。

「まあまあ、ハーリー。二人だって悪気があったわけでは……」

「迅は黙ってなさい! もしも悪気があったら、二穴攻めでヒーヒー言わせるところよ!」

 取りなそうとした、がっちりとした体格の男性は、一括されて、首を竦めてすごすごと引き下がってしまった。

ちなみに。先程から怒鳴り散らしているブロンド美女が、『バスティーユ』の創始者にして、現総帥、ハーリー・S・バスティーユ。大学の頃に立ち上げた製薬会社を、僅か十数年で世界のトップにまで持ってきた傑物だ。彼女に完全に尻に敷かれているのが、夫であり、仕事上でもパートナーの陣内迅と言う。

「全く、あんたらが忍の娘と姪っ子じゃなかったら、容赦なく放り出してたところなんだから!」

 ガルルル!と牙を剥く様は、外見とかけ離れて非常に子供っぽい。世間一般では怜悧で有能な美人会長として通っているだけに、この姿を初めて見た人は一様に度肝を抜かれるという。

「「……ごめんなさい……」」

 しかし、相手にシュンと項垂れてしまうと、彼女もその矛先を鈍らせてしまう。基本的に、身内には甘くて優しい人物なのだ。

「……それで、今回の成果は?」

「ご依頼の品は、どうにか確保出来ました」

 問われて答えたのは、正座している二人の少女――黒い方が月村雫、金色の方が高町ヴィヴィオ――の、更に後ろに控えていたメイドだった。着ているのは確かにメイド服だが、頭に付けているのは何故かヘッドドレスではなく、幅の拾い鉢金だったりするが。

「そう。セッテが言うのなら間違いないわね」

「えー。なんでハーリーさん、セッテの言うことは無条件で信用するのー?」

「だって、セッテは嘘吐かないもん」

 茶目っ気のある顔で片目を瞑り、メイド――セッテに微笑みかけるが、彼女は小さく頷くだけだ。

「ノエルもそうだけど、ほんとに月村家のメイドは優秀よね」

「……私は、正確にはヴィヴィオお嬢様……聖王陛下に仕える騎士です」

 当然のように答えるセッテの声には、真剣そのものだ。冗談を言っているわけではない。今時、騎士を名乗る人物など、欧州の宗教絡みか王室関係者ぐらいだろうと思っていたのだが……いる所にはいるらしい。

「ま、こっちのはさっきの報告書でも確認したわ。アティも大満足でしょ、あれなら。……それよりも、あんた達の捜し物の方よ」

 問われて。

雫は、心配そうに、ヴィヴィオの横顔を覗き見る。

そこにあったのは。

無表情に近い……しかし、僅かに焦りと、悔しさを滲ませる、苦い苦い表情だった。

 

 

高町ヴィヴィオ。兵器として生み出され、殺戮の宿命を背負わされた聖王。

しかし、彼女は、高町なのはと出会い、平穏なる日常へと辿り着いた。

優しい人々に囲まれ、出自がどうであれ、どんな人手も心優しき日々が得られる、ということを体現していた少女。

彼女が、何故ミッドチルダを離れ、地球で宝探しなどという非日常的なことに身を晒しているのか。

その理由を語るには、少々時を遡らねばならない。

 

 

 

 

 三つの遺産。

魔封の鏡、生命の珠、降魔剣。

世界に散りし封印を集めよ。

 さもなくば、復活する冥王により、世界は滅ぶ。

 

 かつて、カリム・グラシアの予言書の著書(プロフェーティン・シュリフテン)に現れた、直接的で、不可解な予言。

 JS事件を解決した時空管理局の実験部隊・機動六課は、その後ファンダヴェーレにて魔封の鏡を、地球の日本・学園都市にて生命の珠を回収することに成功した。

 そして、残る最後の一つ、降魔剣は。

 なんと、魔封の鏡と同じ日本の……とある地方都市の、骨董店に転がっていたのだ。

 

 

「毎度ありがとうございました〜♪」

 ニッコニコの笑顔で見送る女の子に、負けないぐらいの笑顔で手を振り返し、なのはは改めて看板を見上げる。

 『五月雨堂』と書かれた看板は、何かの拍子で叩き割られたのか、修繕の後が見て取れる。色々と騒々しい店だったが、仕事は確か。個人的な好みとしてはメカメカしい物が好きななのはでも、純粋に興味を引かれる物が幾つかあった。

「今度、連休取れたら、ヴィヴィオ連れてこようか?」

「良いね。それに、八神家のみんなも喜びそう」

 並んで歩くフェイトに微笑み返しながら、丁寧に梱包された細長い包みを見下ろす。

「……でも、なんでまたこんなところに降魔剣が……」

 機動六課が捜していた最後の古代遺産(ロストロギア)は、ひょんな事から見つかった。なのはが、姉の美由希と電話していた時に、今捜している剣の話をぽろりと出してしまったのだ。本来ならば守秘義務、とかが発生する所だが、刀剣マニアの姉は、思いもよらぬ情報をもたらしてくれた。

 曰く、

『えーと……それとよく似たの……ついこの前、見かけたよ?』

 と。

「で、実際に確認したらあるんだもんねー。お姉ちゃんや那美さんのネットワーク、侮れないよ……」

「マニアを舐めちゃいけないね」

 くすくすと笑い合う。そもそも、機動六課設立以来、二人でこうして連れ立って歩くなど、殆ど無かった。それだけに、少し昔に戻ったような気分で、あれこれ話が弾む。

家族のこと、二人の『娘』のこと、友達、同僚、部下、後輩、昨日のご飯、今日の夕食、今日の出来事、録画した番組の内容等々……。帰還時間には、余裕があるからこそ出来る無駄話。たまに、こうした『心の補給』をするからこそ、日々の雑務に、激しい激闘にと向かっていける。

「でも、ほんとに不思議だよね。行方知れずのロストロギアが、二つ続けて日本にあるなんて」

「そうだね……。考えてみれば、この前のファンダヴェーレも直結してるのはこの世界だったし……」

「うーん……。ただの偶然かな? そのあたりを突き詰めると、予言の解明に繋がるかもね」

 当然の疑問と、それに対する考察。しかし、その結論は二人だけではなかなか出てくる物ではない。

「まあ、難しい話はフェイトちゃんやはやてちゃん担当、ということで」

「あはは……なのはも考えても良いんだよ?」

「わたしは子供達のことで手一杯だもん♪」

 脳裏に浮かぶのは、初めてじっくりと育て上げている四人の弟子。『手塩にかけて』という言葉がしっくりと来る。兄や父の心境が最近よく分かるようになってきた。

そして、大事な愛娘。彼女とこれからどんな親子になっていくのか。その未来が楽しみで仕方ない。

「……いいなぁ……。私もヴィヴィオやエリオやキャロともっと遊びたい……」

「フェイトちゃん、ヴィヴィオはともかく、エリオ達とは遊んでいるわけじゃ……」

「分かってるって」

 笑い合いながら歩く昼下がり。とりあえず、これで『予言』の示す危機は回避出来た。

 そう、思っていたのだ。

 

 

 この日。

 二人が抱いた疑問は、当然上層部でも懸案事項とされたのだが。その結果が出る前に、機動六課は試用期間を終え、組織は解体された。

 数年を経て、成就されることのない予言に、阻止は成されたと判断され、かの案件は封されることになる。

 

 以後、時は流れ。

なのはの生徒達は、それぞれの場所でそれぞれの道を歩み。

なのは達も、自分達の道を歩み続けた。

 たまに交差する先で再会を喜び、共闘し、哀しみを支え合って。

そしてまた、人生という旅を続けてゆく。

 スバルとティアナが、イクスやマリアージュと出会い。

 ヴィヴィオが母親達と同じく『友』と出会い。

 そして、幾つかの大きな戦いを経て。

 

 

 

 

 そして、その時は訪れた。

 

 

 

 

 

 

「教官! 非戦闘員の退避、完了しました!」

「了解! みんなもあまり近付きすぎないで! 保管庫周辺に陣形敷いて、弾幕張って! そっちの指揮はキックスくんとムラノさんに委譲!」

「はい! 高町教官も、お気を付けて!」

 報告に来た教え子の一人を見送る。魔力波が攪乱されているこの戦場では、念話は使えない。機械式の無線も同様に攪乱されているため、報告は直接接触か目視による信号しかない。

 周囲に人影がなくなったのを確認してから、エクシードモードの白いスカートを翻して振り返った。ガシャコン!とカートリッジをロードし、砲撃モードのレイジングハートを油断無く構える。目の前に立ち上るのは、黒い靄。光すら飲み込む、正体不明の暗黒物質を前に、なのはの頬を汗が伝わり落ちてゆく。

「まったく……時空管理局本局への襲撃なんて、スカリエッティ以来だよ……ね!」

 アクセルシューターを八斉射。ブラスターのギアは既にセカンドだ。この状態で更にカートリッジを使用して魔力ブーストを掛けた射撃は、既に砲撃と同等の威力を持っている。桜色の閃光が夜闇を貫き、黒い靄を薙いでゆく。攻性魔力に弾かれて、靄は千々に消し飛んだ。相手が魔法的な存在なのは間違いない。

 しかし、幾ら吹き飛ばして払っても。

「……やっぱり、きりがないか!」

 即座に空間が黒い靄で満たされてしまう。恐るべき再生力だ。そして、あの靄に振れたものはあらゆる魔力を吸い尽くされてしまう。魔力が無いものは、その生命力を代替物として搾取される。つまり、触れたが最後、死あるのみ。

(……一体、何人が巻き込まれたんだろう……)

 歯噛みしながらも、立て続けに弾幕を張り、靄の拡大を防ぐ。彼女が異変を察知し、いち早く出撃しても、既に犠牲者は出た後だ。その数も、今はまだ正確に把握出来ていない。ただ、なのはも部下の一人が靄に飲み込まれ、あっという間に白骨化したのを目撃している。

「よくも……ボンゴくんを!」

 戦場に身を置いていれば、敵や味方の死に立ち会うこともある。しかし、なのはは無駄に命を散らすことがないように、若者達を鍛え上げる教導官だ。だからこそ、教え子が何も出来ずに死んでしまうことなど、許せるはずもない。

「たまたま動けるのが、わたしとその教導している部隊だけだった、って理由で死なせたんじゃ……わたしのいる意味がない!」

 今度はカートリッジを二発ロード。レイジングハートの前にスフィアを展開。ミッドチルダ式の魔法陣の前に、アレンジでベルカ式の魔法陣も重ねる。

「ディバイン・ソード!」

 愛弟子・スバルの砲撃にヒントを得た、中距離戦用の砲撃。一定距離まで伸びた魔力砲を保持、そのまま横に薙ぐ。その様は、長大な剣のようだ。

「根刮ぎ、吹き飛ばす!」

 真っ黒に塗り潰された画用紙に、消しゴムを走らせるようになのはの砲剣が走る。軌跡はそのまま靄を切り裂き、消滅させていった。

 しかし。その軌跡が。

 ガキン!という音と共に。受け止められた

「……たまたま、ではないんですよ?」

 魔力の砲の塊とも言える刀身を受け止められたことと。その言葉の内容に、なのはは言葉を失った。

「……どういう、事? そして、貴方は、何?」

 黒い靄は、魔力を、命を奪う。触れたものは、例外なく、有象無象の区別無く。

 だというのに。そいつは、靄の中で悠然と笑っている。なのはの砲撃を、右手一本で支えながら。

「なるほど、弾消しに特化させた範囲攻撃ですね。しかし、こんなものでは私に届きませんよ。そうでしょう、高町なのは?」

 バギン、と。なのはの砲撃が砕かれた。まるで、ガラスのように、粉々に。同時に、なのはの構成術式も崩壊し、長大なる砲撃剣は跡形もなく消失する。砕いたのは、女の細腕。指先には、全てを切り裂くような、かぎ爪が見えた。しかし、そこまでだ。残りは、黒い靄で覆われている。その姿は、影。

 間違いなく、こいつが犯人だ。

 そして、もう一つ分かったことがある。

 相手の狙いは――――自分。高町なのはだ。

「……つまり、わたしがここに来るのを見計らって事を起こしたと言うこと?」

 探るような問いかけに、影は楽しそうに笑う。

「くすくす。少し違いますね。別に、ここでなくても良かったのです。星辰さえ揃えば、どこであろうとも

「……?」

 訝しげに眉を顰めるのを確認したのか。影は、実に楽しそうに言葉を続ける。

「そうですね。本来ならば、九年前のあの時。珠と鏡に魔力が満ちた時点で起こすことも可能だった。妙な横槍が入らなければ、ね。しかし、神器に頼らずとも、時が来れば目覚めてしまう。貴方は、そういう存在なのだから。でも、それだけでは不十分なんです。より、完璧な形で蘇ってもらわねば。如何なる妨害も無駄と思える、完全無欠の復活劇を遂げなければ、ならないのです」

「……何を、言っているの……」

「聞かずとも、分かっているのでしょう? 内なる、大いなる存在を。金色なる混沌を」

「………………」

 沈黙。

 九年前。機動六課が活動していた時期。拘わった事件は幾つかある。最も大きなものはJS事件だが……それ以外に、関わったものと言えば。

 カリムが突発的に下した予言を元に集めた、三つのロストロギア。三つを揃えれば、世界を救えると伝えられた、予言。その通りにロストロギアを集め、その後は何も起こらなかった。

 否。

 起こっていたのだ。なのはの身には、確かに変調が

「星辰は満ち。この地には、貴方の魔力を満たした神器と、『鍵』まで揃っている。こうして此処で貴方と相見えたことこそ、運命」

 恭しく頭を垂れる影を覆う、黒い靄が。

「なればこそ、望ましい完璧な形での復活が可能」

ゆらりと解けてゆく。

「遠大すぎる計画とは思いましたが……此処まで見事に嵌るとは」

ぱらりと落ちた芥子色の髪。その奥の、白い顔に。

「自然開封に加えてブースト。寧ろ、かつてない強固さでの顕現となりましょう」

なのはは、見覚えがあった。

「こうなれば、後は些末事です」

直接会ったことはないけれども。

「なにしろ」

その素顔を、見たことは。

「あなたは、存在自体が『滅び』なのだから」

確かに、ある。

「そんな……あなたは、死んだはずの…………」

 消え入りそうな歴戦の空戦魔導師の言葉を、力強い声で覆いながら。女は、妖艶に微笑む。

「新たなる我が主の命により、お迎えに上がりました。星辰を砕く者(スターライトブレイカー)よ」

 刹那。

  

 女の背後から、影の腕が無数に飛びかかってきた。避ける余地など一切存在しない、瞬きの業。

 それが。

 高町なのはが、この世界で見た、最後の光景だった。

 

 

「なんや……これ……」

 時空管理局本局に襲撃者。その報を聞いて、一番最初に援軍に駆け付けたのは、八神はやて捜査司令と、その手勢だった。

だが、彼女達が到着した時、全てが終わっていた。

《酷い……》

 ユニゾンしているリインフォースUが、掠れる声を漏らす。見ただけで絶句するような光景が、そこにあった。

 ロストロギア保管区域が、根こそぎ、クレーターと化している。まるで、アイスクリームをスプーンで掬い取った後のように、綺麗な円形が、冗談のように本局を抉り取っているのだ。

「現地の部隊は?」

 補佐官として付いてきたシグナムの問いに、情報を取り纏めていたオペレーターが答える。

『敵は指揮系統を真っ先に破壊。これにより、司令部に死傷者多数発生、機能が麻痺しました。これに代わり、現地で指揮を執ったのは……教導部隊を率いていた、高町なのは三佐です』

「な!? そ、それで、高町三佐は!?

 思わぬ名前に、はやての血の気が引く。彼女と、高町なのは、フェイト・T・ハラオウンの三人の関係は、時空管理局でも有名だ。それ故に、オペレーターは沈痛な声で報告せざるを得なかった。

「……敵勢力と共に……消失しました……」

 声も、ない。

呆然とする彼女達の眼下で、救出部隊が活動を開始していた。しかし、何一つ残っていないこのクレーターで、何を救出するというのか。

クレーターの端で、呆然と佇む女性魔導師の姿には、見覚えがある。いや、見間違えようがない。このクラナガンで災害が起きたのだ。彼女が……スバル・ナカジマが出動しないはずがない。

誰かの盾となり、命を救う。その為に力を磨いてきた、ストライカー。それが、その力を振るう余地もないところで、絶望を突きつけられている。

《はやてちゃん……》

「……シグナム。出来る限りデータを集めるよう指示。周辺に警戒網。次元跳躍の痕跡も追って」

 リインフォースUの泣きそうな声を振り切り、冷徹とも言える、的確な指示を下す、主に。

シグナムは、小さく頷くだけだった。

彼女の口元を、噛み切った唇から溢れ出した鮮血が汚していることなど、見なくたって分かるのだ。



登場作品リスト

とらいあんぐるハート
 とらいあんぐるハート2
 とらいあんぐるハート3
 とらいあんぐるハートラブラブおもちゃ箱
 とらいあんぐるハートリリカルおもちゃ箱

 魔法少女リリカルなのは
 魔法少女リリカルなのはA‘s
 魔法少女リリカルなのはStrikerS
 StrikerSサウンドステージX
 魔法少女リリカルなのはvivid


 せんせいがおしえてあげる
 わんことくらそう


 東方project
 ロストユニバース
 おとぎ銃士赤ずきん
 ナイトウィザード
 とある魔術の禁書目録
 斬魔大聖デモンベイン
 セブン=フォートレス
 スレイヤーズ!
 魔法少女プリティサミー
 月姫
 錬金3級 まじかる?ぽか〜ん


魔法少女リリカルなのはThe MOVIE 1ST



クロスオーバーシリーズ、最終巻。
最後らしく、ド派手に行きます!

資金調達失敗して、分冊の予定を一冊にまとめたり。
修羅場中にPC壊れて合えなく〆切り突破、印刷所変えたり。
なんかもう、呪われてんじゃないか、と思われるこの一冊、1年越しでようやく完成です……。

表紙は水科寿隆さん、デザインを本山葵さん。
挿絵イラストは竹峰旭彦さん。
色々無茶言って頑張ってもらいましたー。

フルカラーカバー/260P/新書サイズ/頒布価格700円
コミックマーケット78 3日目 東ヨ-31b 矢鴨食堂 にて頒布予定!


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