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3. 「吹奏楽」について考える(3) 



 今回は「音楽のジャンル」という観点から「吹奏楽」について考えてみたいと思います。

 皆さんは“音楽のジャンル”とパッと言われたときにどのような分類を思い浮かべるでしょうか。「器楽と合唱」「西洋音楽と民族音楽」「ロック,パンク,フュージョン,演歌」「オリジナルとアレンジ」などいろいろなジャンル分けが考えられますが,そのなかでも「クラシックとポピュラー」というのは大きな分類のひとつとして,多くの人が思い浮かべるものではないでしょうか。

 クラシック音楽とは,今さら説明の必要もないと思いますが“西洋を主とした芸術音楽”のことですね。グレゴリオ聖歌などに代表される中世の宗教音楽や宮廷音楽に端を発し,ルネサンス音楽,バロック音楽と時代を下るにつれて次第に発展してきました。その後も,古典派,ロマン派,国民楽派,印象派,現代音楽と大まかに分類されますが(詳しい説明は音楽史に関するサイトや専門書を参照してください)各時代ごとに,新たな作曲技法の開拓や楽器の発明によって,また,美術など他文化の影響や社会情勢なども反映しながら発展してきた,一連の系譜に属する芸術音楽がクラシック音楽です。
 吹奏楽自体も,軍楽隊が駐屯先などで慰問演奏や宣撫演奏を行う際に,管楽器を中心とした編成で芸術音楽=クラシック音楽を演奏できるように,編成を発展・充実させてきたことはすでに述べたとおりです。そのような意味では,吹奏楽自体もクラシック音楽の系譜に含まれるということができるでしょう。

 一方,ポピュラー音楽は,その範囲が幅広く定義することが難しいのですが(音楽に限らず,大きな集合ほど定義が難しいものです)クラシック音楽以外の大衆音楽”とでも言えましょう。ジャズやロック,ダンスミュージック,J-Popなどの流行歌,演歌などを言います。ポピュラー音楽の歴史は比較的浅く,近代市民社会の成熟に加え,20世紀に入ってレコードやCD,放送技術などの発展,庶民も含めた“大衆”が音楽を楽しめるようになって急速に発展したものといえます。

 「ポピュラー音楽」という括り自体が曖昧なため,その起源を見出すのも簡単ではないのですが,成立の経緯として見逃せないものの一つに,ジャズの発明ということが挙げられましょう。ジャズは19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカ南部,西洋音楽とアフリカ音楽が組み合わさることにより発祥しました。ジャズの歴史についても,詳細は専門書等に譲りたい思いますが,初期のジャズは,ダンス・ミュージックやマーチングバンド(=吹奏楽)の影響を大きく受けています。吹奏楽の影響は,編成において顕著で,初期のニューオーリンズジャズやディキシーランドジャズ,大編成のビッグバンドなど,管楽器とドラムスという編成は,管楽合奏という意味でそのまま「吹奏楽」ということもできます。これは,前回までに述べた吹奏楽の“豊富な機動性”という特長に加えて,発音や音の切りなどの音形をはっきり出せるという管楽器の特性が,リズムを重視するジャズの音楽的要求に適していたといえます。
 その後,電子楽器やシンセサイザーなどの楽器の発達や,様々なスタイルの確立によって,現在に至るまで多様な発展を見せることになるのは皆さんご存じのとおりです。いずれにせよ,ポピュラー音楽の黎明期において非常に大きな地位を占めていたジャズ,その演奏スタイルが吹奏楽から多大な影響を受けて発展したものであるということは,注目に値する事実と言えるでしょう。

 このように「クラシックとポピュラー」という音楽ジャンルの視点から「吹奏楽」を捉え直してみると,吹奏楽は,クラシックとポピュラー,どちらにも遠からぬ位置にあることがお分かりいただけると思います。
 これは,同じ大編成の合奏体である「管弦楽」「ビッグバンド」「吹奏楽」を比較してみてもシンプルに理解できることでしょう。
 管弦楽で演奏されるクラシック音楽は,その豊潤な響きといい豊かな色彩感といい,大変豊かな芸術性を
持ち合わせていますが,反面,ジャズやポップス,特にタイトなリズムや強いパンチを要求される曲種においては,音楽の魅力を十分に表現できないでしょう。
 一方,ビッグバンドにおいては,ジャズはもちろんのこと,ラテンやロックなどポピュラー全般において,豊富な表現力を有する反面,クラシック音楽(そのままのスタイルで)演奏するには,様々な面で不都合が生じてしまいます。

 その点,吹奏楽クラシック音楽を演奏する場合は,オリジナルである管弦楽の表現力には及ばないまでも,「主よ人の望みの喜びよ」(J.S.バッハ)から「ダフニスとクロエ」(M.ラヴェル)まで,ほとんどの楽曲を,原曲のイメージを“大きくは”損なわずに演奏することができます。ビッグバンドでの「ダフニス〜」などは,発想を大きく転換しなければ演奏不可能ですよね。
 一方,ポピュラーについても同様のことが言えます。吹奏楽で演奏される「シング・シング・シング」(B.グッドマン楽団/ジャズ),「オーメンズ・オブ・ラブ」(T-SQUARE/フュージョン),ディープパープルのメドレー(ロック)など,いずれもしばしば演奏されると同時に一定の音楽的評価も得ています。もちろん,管弦楽でもポピュラーを演奏することはときどき行われてますし,バラード系など曲によっては管弦楽の特長を発揮することができます。とはいえ,各楽器が最大でも2〜3本になってしまうオーケストラの管セクションでは,テンション(和音における9度以上の構成音。高い緊張感や近代的な響きを出すことができる)が含まれたコードの各音を均質に響かせるのは難しいですし,弦楽器群などリズムの切れなども甘くなってしまいます。全体の音量も管楽合奏に比べて小さいため,リズムセクションやPAの音量も制約を受けてしまうでしょう。このように,ポピュラー音楽を総合的に考えると,演奏効果の面からも吹奏楽に軍配が上がることは,両者の演奏を比較すれば容易に伺い知ることができます。

 少々長くなってしまいましたが,まとめたいと思います。「クラシックとポピュラー」という音楽のジャンルから考察してみると,吹奏楽は(専門性ではそれぞれ管弦楽やビッグバンドなどに劣るものの)どちらにも一定水準まで対応しうるユーティリティ・プレーヤーであると結論づけることができるでしょう。
 このことは,できるだけ多種多様な音楽に触れることを志向するスクールバンドの現場においても大きなアドバンテージとなります。生徒個々の音楽的アイデンティティの確立時期にクラシック,ポピュラーそれぞれの音楽の入り口を経験できることは,音楽的財産として貴重なものとなることでしょう。また,ひとつの媒体で多様な種類の音楽を演奏できるという特性は,“コンビニ文化””幕の内弁当文化”などと評価される日本人の国民性にもマッチするように思います。
 クラシックとポピュラーどちらにも対応しうる音楽的キャパシティーの広さ。これも吹奏楽の大きな特長のひとつでしょう。

 次回は,ここまで考察してきたことを総合して,「吹奏楽」の特性をまとめてみたいと思います。