1. 「吹奏楽」について考える(1)
編曲にしても楽譜浄書にしても,私は普段「吹奏楽」というものを題材に仕事をしています。また,日本各地で1万を超える団体が「吹奏楽部」「吹奏楽団」を名乗っています。普段,何気なく接していてイメージも(割と)明確な「吹奏楽」,それは一体どのようなモノなのかというのを私なりに少々掘り下げて考察してみたいと思います。
音楽之友社から刊行されている『新音楽辞典』では,吹奏楽は次のような定義がなされています。
すいそうがく 吹奏楽 band〔英〕 Blasorchester〔独〕 harmonie〔仏〕 banda〔伊〕日本で吹奏楽と称しているものは,木管,金管楽器を主体とし,これに打楽器を加えた合奏をさしている。10名から50名に至る大小種々の団体があって,楽器の編成も種々雑多である。もっとも完備した吹奏楽団は,もっとも完備した軍楽隊と同様な編成をもっている。また,吹奏楽団をブラス・バンドともいっているが,ヨーロッパでは木管楽器(サクソフォーンを例外として)の加わらないものをブラス・バンドといっている。
これだけでは,ちょっと分かりづらいですね。ではここで,吹奏楽の歴史的な経緯をざっとおさらいしてみたいと思います。
吹奏楽のそのそのもの歴史は軍隊用の音楽,すなわち軍楽に由来します。軍楽隊の歴史は,古くギリシャにまでさかのぼるのですが,前線で兵士の士気を鼓舞するという軍楽隊の第一の目的に優れていたのがトルコの軍楽隊でした(トルコ軍楽に影響を受けて作曲されたのが,有名な「トルコ行進曲」です)。西欧諸国もトルコの影響を受けながら18世紀後半には,オーボエ,ファゴット,クラリネット,ホルンなどの管楽器に加え,シンバル,トライアングル,グロッケンシュピール,クレスントなどが加えられて近代軍楽隊の基礎が固まりました。
18世紀後半というと,ちょうどモーツァルトなどが活躍していた時代ですので,当然管弦楽(オーケストラ)の編成もほとんど確立していました。しかし,各地を転々とし,野外でも演奏するという軍楽隊の性格上,頑丈で音の大きな楽器が好まれた結果,弦楽器は採用されず管楽器と打楽器とからなる編成が成立したのです。19世紀初頭にナポレオンがフランス歩兵連隊に配属した軍楽隊の編成は,ピッコロ1,ソプラニーノ・クラリネット1,クラリネット16,ファゴット4,セルパン2,トランペット2,バス・トランペット2,ホルン1,トロンボーン3,小太鼓2,大太鼓1,トライアングル1,シンバル2対,クレスント2の合計40人からなる編成でした。この時代は,まだサクソフォーンやユーフォニアム,テューバなどは発明されてないことを考えると,楽器の種類も規模も,本質的には今日の吹奏楽とほとんど変わりないことにお気づきいただけるでしょう。現代の吹奏楽編成は軍楽隊を直接の出自としているということが歴史的事実からもお分かりになると思います。
さて,その軍楽隊ですが,軍隊はいつでも戦争ばかりをしているわけではなく,時に占領先などでにらみをきかせるということも当然行われました。その際には,自軍の兵隊や現地の住民に戦闘的なものでない「美しく優しい曲」,つまり芸術音楽を聴かせるということも求められました。こうして,管弦楽曲の弦楽器の部分を管楽器に振り分けて演奏するための,現在のシンフォニック・バンドのような形が次第にできあがってきました。テレビやラジオはおろか,レコードすらほとんど普及していない時代に,管弦楽が出向けないような地方でも,軍楽隊(=吹奏楽)によって,大編成の合奏による芸術音楽が(完全な形でないながらも)聴けるようになった意義は大きなものだったと想像できます。
その後,軍楽隊の芸術性も次第に向上していき,その代表的なものとしては,フランス共和国親衛隊のギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団が挙げられましょう。一方,吹奏楽形態が軍楽隊から独立した形で商業的成功を収めたものとしては,アメリカのスーザ・バンドが広く知られています。
さて,1ページがあまり長くなると,読みづらいサイトになってしまうので(もう十分長いですか?笑),今回はこのくらいで一区切りにしたいと思います。
次回は,このような歴史的経緯を踏まえた上で,吹奏楽の特性をさらに掘り下げてみたいと思います。
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