見直されるRNA
Further Look at RNA



今RNAが熱い。「DNAの遺伝情報をRNAに転写し、RNAはタンパク質に翻訳される」これが40年以上も生物学を支配し続けたセントラルドグマである。ここではRNAの役割はDNAの情報を運びタンパク質の合成をお手伝いする受動的な仲介役であった。勿論これはRNAの重要な役割であることに違いないが、RNAには実はもう一つの重要な役割があるらしいことが分かってきたのである。

人ゲノムもほとんど解読され、ヒトの全遺伝子(ここで言う遺伝子とはタンパク質をコードしているDNAのことであることに注意されたい。従来は遺伝子という言葉はそのように使われて来た)は2〜3万と推定される現在であるが、ここ何十年も生物学者を悩ませ続けた問題がある。それはタンパク質をコードするDNAは全DNAのたった2%程度なのである。それが大海に浮かぶ島のようにのように点々と散らばっている。あとのDNAは一体何のためにあるのだろう?学者は答えに窮してこれをがらくたDNA(Junk DNA)と呼ぶようになった。でもそんな大きな無駄を抱えていては人は進化によって淘汰されてしまう筈だ。

発見のきっかけはひょんなところにあった。オランダのある植物学者がペチュニアの花の紫の色素を濃くしようとして色素の遺伝子のコピーを過剰に導入したところ、逆に色の抜けた白い斑のある花が出来た。この奇妙な現象が最初のきっかけとなってここ数年の間に小さな二重鎖RNA分子がもとになって遺伝子の発現を抑制するRNA干渉(RNA Interference, RNAi)のメカニズムが次第に明らかにされるようになった。がらくたDNAはなんとこのRNAをコードしているらしい。この目の前の事実に気がつくのに長い時間がかかったことになる。

DNA→RNA→タンパク質という図式で遺伝情報が発現されるのだが、発生、分化、成長の各段階で2万といわれる遺伝子は適時適所で順序良く発現されなければならない。実はこの遺伝子の発現をコントロールしているのがジャンクDNAからつくられる小さなRNAによるRNA干渉らしい。microRNAとかsiRNAと呼ばれる小さなRNAは細胞質で遺伝情報を運ぶメッセンジャーRNA (mRNA)を切断することによりタンパク質への翻訳を阻害する。RNAがRNAを調節しているのである。(翻訳レベル遺伝子サイレンシング translational gene silencing

さらに最近に至ってこのRNAには細胞核のDNAに作用してDNA情報をRNAに写す転写レベルの阻害を示すことも次第に明らかにされて来ている。RNAがDNAを沈黙させているのである。(転写レベル遺伝子サイレンシング transcriptional gene silencing

ある時期のある組織、例えば血液幹細胞から赤血球や白血球が出来る場合を考えよう。そこで発現されるDNAは2万とあるDNAのごく一部である。他の大部分のDNAはRNA干渉の作用で沈黙させられているのである。遺伝子の発現の制御は生物の多様性、個体の統一性を説明する上で大変重要であることが分る。がらくたと思われていた大部分のDNAはこの重要な情報を持っていると考えられる。ジャンクDNAはがらくたどころか進化の過程で大切に保存されてきた一里塚の集積なのである。これはもう立派な遺伝子と言ってよい。タンパク質でなく遺伝子発現制御機能をもつRNAをコードする遺伝子である。

ヒトは80兆という細胞から出来ている。その一個一個がすべて同じDNAを持っている。でも組織によって、また発生や成長の時期によって発現されるDNAは異なる。これを調節するのは大変に微妙で複雑な仕事であるに違いない。今、RNA干渉という調節の担い手に気がついて生物学はまた新たに大きなジャンプをするだろう。

RNA干渉には様々な応用も期待される。これを利用して特定の遺伝子を不活性化すればその遺伝子の機能を調べられる。また癌をはじめ多くの病気が遺伝子の異常によることが分っている。RNA干渉をうまく利用すれば特定の悪役遺伝子を黙らせることが出来るかもしれない。様々な期待がこの研究に拍車をかけている。

For several decades, DNA→ RNA→ Protein scheme, so-called "Central Dogma" prevailed the basis of biology. In this scheme, RNA plays only a passive role to transcript DNA and translate into protein. These several years, scientists disclosed that another important role of RNA. Small RNA molecules derived from so-called junk DNA interfere with mRNA→protein translation process breaking mRNA resulting in inhibition of gene expression. Furthermore, some of the small RNAs silence DNA expression at the transriptional level (RNA interference, gene silencing). These findings account the role of junk DNA that remained unknown for long time. RNA interference is a strong tool for elucidation of function of specific gene. In addition, development of a new type of medicine silencing evil genes would be possible.

Uploaded January 15, 2005; revised January 17, 2005


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