障害者・病者が登場する文学作品

「海辺のカフカ」村上春樹、2002年
連休に「海辺のカフカ」(上)を読む。19日(日)、上巻読了。読み始めた動機は、登場人物の旅するナカタさんが知的障害であることを、8月半ばに知らされたことにある。二つの物語が同時進行する、とも聞いた。
ナカタさんは、9歳の時の事故(?)で知的障害となった。都知事からの補助でつつましく生活している。物語の主人公は田村カフカ、15歳。ナカタさんはもう一人の主人公。
田村少年と関わる重要な登場人物の大島さんは、血友病で性同一障害のゲイである。
ナカタさんの知的障害、大島さんの血友病・性同一障害からは、今のところ文学に現れた障害者像を語りにくい。田村少年の物語を支える人物に、障害や病を伴わせなくてはならなかったか、についてはやがて語れるかもしれない。上巻を読んで、そう思う。


太宰治「正義と微笑」1942年(新潮文庫「パンドラの匣」所収)
旧制中学生芹川進の大学進学、劇団入団、俳優一年目の日記。青年期のおかしみを伴う苦悩や他者批判、成長の物語。母親がカリエスで自宅療養しており、姉、女中、家庭看護婦で世話する様子、千葉の療養所へ移る様子が描かれている。結核だから恐ろしい病気なのに、進も姉・兄も病気に対してさほど恐れている様子がない。また、父親がいない(進が年少時に死亡、結核を想像させる)家庭なのに、兄は大学中退して小説を書き、女中・家庭看護婦を雇う経済状況にあるが、昭和十年代にそういった家庭が違和感なく描かれる時代であったのだろうか。カリエス患者を抱える家庭を描く小説、としても読める。また太宰とキリスト教、小説や演劇に対する考えなどを知ることができる。2009.1.18
太宰治「パンドラの匣」1945年 
「健康道場」と称する結核療養所。雲雀というあだ名の「僕」と、助手と呼ぶ看護婦の「竹さん」「マア坊」の恋愛の話し。小説的には、軽妙な語りと、二人の看護婦の描き方の変化がおもしろい。昭和20年頃の結核療養所内における生活と医療、「疑似恋愛」が描かれている。
療養所内の疑似恋愛という点、入所者の間の人間関係という点で、大江健三郎の「他人の足」と共通する所がある。
「希望」という言葉がどのように表現され、「絶望」=病とどのように闘い、あるいは和解しているか、といった視点で読み直す必要がある。
また、貴重な結核医療史の資料としての意義のある小説である。2009.1.7
アンドレ・ジッド「田園交響楽」1919年 50才
1890年代、牧師が盲目で言葉もなり少女ジェルトリュードを引き取って養育する。聾唖の祖母に育てられ、その祖母が死んだためである。感覚教育から始めて、言葉を覚え、オルガンを弾くようになる。牧師はやがてジェルトリュードを愛するようになる。妻は苦悩し、息子もジェルトリュードを愛するようになる。開眼手術が成功するとジェルトリュードは息子を愛している自分に気づき、牧師とその妻を苦しめていることに気づく。そして自殺する。牧師の信仰と愛の問題、キリスト教の信教とカソリックの問題が分らないと理解不能。ただ障害者も皆と同じように、「人生に苦しみたい」という思いのみ心に残った。2007.4.28

重兼房子「やまあいの煙」1979年、52才
芥川賞受賞作。敏夫は町の火葬場職員。老人施設の理学療法士正子のことを愛している。火葬場に息子の棺を運ぶ老婆。息子は「思春期になると発病し、性欲の抑制が利かない病気」であった。なぜこれが芥川賞なのか。2007.4.28

日本文学のなかの障害者像 近・現代篇 明石書店 2002
/花田春兆編。
p12-16分担筆。福沢諭吉著「かたはむすめ」をもとに、福沢及び明治初期社会の障害者観を論じた。  広告HP   取り上げられている文学作品


文学に見る障害者像「悪童日記」三部作 ノーマライゼーション、第24巻第12号、p-、日本障害者リハビリテーション協会 2004年12月
/ハンガリー出身アゴダ・クリストフ作。第二次世界大戦以降のソビエト共産党下のハンガリーにおける人間の生き方を描くにあたり、障害者と家族・社会の関わりをベースにした作品。  全文


真保裕一 奇跡の人 1997年 角川書店 K
主人公相馬克己22才で交通事故、脳挫傷・全身打撲、記憶を失う。歩行、認知の訓練と学習を行う。記憶にない自分探しの過程で展開するミステリー小説。

文学に見る障害者像 長い日曜日 ノーマライゼーション、第26巻第4号、p-、日本障害者リハビリテーション協会 2004年12月
/セバスチャン・ジャプリゾ著。 行動する女性障害者が主人公の小説..。物語は第一次世界大戦中の一九一七年、ドイツ軍とフランス軍が対峙するフランス北部の塹壕から始まる。この戦場で、銃で自分の手を撃ち、その怪我・障害による除隊を図った五人のフランス兵が処刑される。その中の一人マネクの婚約者マチルドは彼の死を信じられず、そこで起きたすべてを知りたくて調査を始め、生存者がいるという噂の真偽を確かめていく。 全文


パウロ・コエーリョ ベロニカは死ぬことにした 2001年 角川書店 K
  作者は1947年ブラジル、リオディジャネイロ生まれ。24才のベロニカが睡眠薬自殺、精神病院で意識を回復する。薬の影響で心臓が弱って余命一週間と言われる。注射治療をするがたしかに心臓の動きがおかしい。病院内で出会う人たちとの交流によって、生きていく意志が生まれてくる。実は、意志が実験的に心臓の動きを調節する注射を打ち、死を再認識する中でどう生きるかを考えさせる治療を行い、それが成功する。入院中の3人の患者とベロニカを含めて4人が自分の精神の病を語る。
 作中に作者は、自身が3回精神病院に入院していることを書く章を挿入している。自身の体験を元に書かれたものと推測できる。親との係わり、性的な葛藤が病の背景としてかたられている。