病気・障害の子どもが登場する文学作品
文学に見る障害者像「秘密の花園」 ノーマライゼーション、第23巻第11号、p31-33、日本障害者リハビリテーション協会 2003年11月
/1911年発行の児童文学を、病気の不正確な知識と不安によって行動が制限されて障害者となる事例とし、障害の克服と援助について論じた。
全文
文学に見る障害者像 ジュゼッペ・ポンティッジャ著
「家の鍵 ―明日、生まれ変わる」秘密の花園」 ノーマライゼーション、第26巻第10号、p55-57、日本障害者リハビリテーション協会 2006年10月
/誕生の時、鉗子による脳の傷と酸素欠乏で脳性麻痺となったパオロ、デパートに出かけると父親フリジェリオは彼に寄り添ってエスカレーターに乗り、街の中では距離をおいて離れて歩く。生まれた時の医師・同僚・祖父母の言葉、就学時の校長との交渉・病院での訓練とカウンセリング、その時々の自分の感情を短い格言のような表現でつないでいく。美術学校教授の自分の人生、三〇年の家庭生活の中で、障害の息子からの逃避・絶望があった。しかし、パオロを神との仲介者と感じるようになり、助けを彼に求めるようになる。壁に寄りかかって歩いているパオロの姿を見ながら、パオロがいない人生を想像する。しかし「考えることはできない」、「この人生をあきらめることは決してできない」と結ぶ。苦悩から受容へ、自身の再生の物語である。
全文
大江健三郎、人生の親戚
新潮文庫版、12ページ
当時、僕の長男は三軒茶屋近くの、青鳥養護学校という障害児施設の高等部にいた。
現実にある学校名が登場し、現実味を覚える。養護学校の修学旅行に、広島の原爆資料館に行くか安芸の宮島に行くか、そういった議論が出てくる。養護学校の修学旅行について真剣に語る場面が6ページにわたって描かれている。また、障害児と演奏会に行くと、トイレに出やすい場所に座るという、障害児の親のとても具体的な行動が描かれる。大江自身の体験が元になっていると思われる。この後、どのようなことが出てくるか。
横谷順子「きみの声 ぼくの指 私と手話で話そうよ!」1〜4、講談社、2003年
夏木るるは生まれた時から耳が聴こえない。中学まではろう学校、普通高校に進学して、先生になろうと大学へ。普通中学とろう学校で体育の教育実習をして、どっちの先生になろうか・・・で終わる物語。初めての聞こえる世界=普通高校での不安を友達が支えてくれる。学校とは、そういった人との出会いがあり、将来の夢を作り出す場として描いている。聞こえない娘と父、聞こえない自分と聞こえない男性・聞こえる男性との恋愛などをサラリと描く。周りには聞こえる弟と聞こえない兄との関係、ろう学校における口話教育と手話による教育の確執、日本手話と日本語対応手話、フリースクールで手話を教える活動など、現代的な話題を盛り込んでいる。作者は、手話も口話も、でも手話で教える立場にある。まず手話を教える、との考えに立つ。
元気で活動的な夏木るるは、進学した高校、大学、教育実習で行った中学までも変えてしまう魅力ある少女である。ろう者が話せるようになることが、自分のためになるはずだ、と語るろう学校教師を設定し、実習で手話を使うるるについてその是非を論議する教師たちを描いて居る。るるの、口話を学んで声を出す学びの中で、手話を使わないようにと先生に手を縛られる経験も描いている。
父は、口話では娘の気持ちを理解しきれない限界を感じて、手話を娘と一緒に習い始める(母親がいない設定)場面がある。ろう教育や聴覚障害者の世界を知らない者にとっては、ろう者が手話と出会うことはごく普通のことのように思っているが、聴覚障害の子を持つ親、そしてその聴覚障害の子にとって、手話との出会いはそう簡単なことではないことがよく伝わってくる。学園、恋愛、友情、親子、兄弟といった少女漫画によくある世界の中で、聴覚障害者とその家族の苦悩と、苦悩の中から次の人生を選んでいく様子を、柔らかな線で描いている。
ライフ・ライン〜医療少年院・看護師と院生との絆〜、江川晴(案)、美村あきの(画)、秋田書店、@2005年、A2006年
出版社 / 著者からの内容紹介
罪を犯し、そのうえ心や体に病を抱える少年少女を収容し更正する施設・医療少年院。そんな施設に赴任した看護師・夏川凛子は、以前の病院との違いに戸惑うが、法務教官と協力し、更正に携わるこの職場の魅力に次第にひかれ…!?
○江川著「医療少年院物語」を漫画化。「身体障害・精神障害の疑いのある者に対し専門的な治療を行っているH医療少年院」を舞台にしている。医療少年院には、総務的な仕事をする庶務課、教育・処遇を担当する教務課、医務課があるという。教務課は「保安・矯正教育」を行い、法務教官が担当する。医療と教育が行われていることになる。この漫画は看護師の視点から描かれ、看護によって教育を行う身体的・精神的なベース作りが行われ、看護が他者とのコミュニケーションの練習の場となっている様子が描かれている。夏川看護師の看護による子どもの変容が描かれているが、法務教官の役割や活動の記載が少ない。主人公が看護師だから、当然とも言えるが。登場する少年は医療少年院に入る前、罪を犯す前に教育が必要であったと思われる子どもたちであり、またその親が子どもとの関わり方、生きていく上での価値観の持ち方などを教育される必要がある大人であった。人が生活していく上では、様々な困難と喜びがあり、それはそれぞれ小さなことも大きなこともあることを知り、困難を回避したり受け入れて生活する方法を教育される必要があるのではないか。罪を犯した子どもは、具体的な問題を持っている分、それに対する関わり方、教育方法があるのだろう。この漫画は看護の視点で描かれている。教育の視点では、医療少年院はどのように描かれるのだろうか。
米谷ふみ子
サンデー・ドライブ 集英社 2003 K
「遠来の客」の10数年後、毎日曜日にケン(脳障害)がいる州立病院へ行く夫婦。語りは母親。障害児と親の小説は、「個人的な体験」の大江、「明日生まれ変わる」のポンティッジャ、「車椅子の詩」の水上など父親が多い。母の視点で、障害の子と生きる辛さと、自分の身を分けた子を思う気持ち、強さも弱さも見せている。これまでの養育を振り返って、社会に向かって叫んで知らせたいことを所々に入れながら、70才前後の老夫婦が息子に会いに出かけるサンデー・ドライブを描いている。それを続けるのは、2才で言葉を発しなくなったケンが最後までしゃべっていたのが「カードライブ」であったから、ケンが病院でアビューズされていないか確かめるため。
エレナ・ポーター
少女パレアナ 角川文庫 K
杉村正彦
ちゃんちいの青春夢模様 1993年 日本図書刊行会 K
脳性麻痺の私と姉、小学校・養護学校、結婚をめぐる物語
打海文三
時には懺悔を 1994年 角川書店 K
子どもができない明野夫婦が病院で赤ん坊を誘拐したら
二分脊椎・水頭症であった。その子の母親の存在、殺人事件の発生、探偵の捜査。重症心身障害児が重要な登場人物となる探偵小説。
さとうまきこ
わたしの秘密の花園 1994年 偕成社
小三の少女、
喘息、昭和32年の物語
沢木耕太郎
檀 1995年
檀一雄未亡人が語る、という形式。次郎が昭和30年頃の夏に
日本脳炎にかかり9年間家にいて秋津療育園に入り、昭和39年冬に死亡。檀が書く「火宅の人」の中の次郎との関わりについて「私は、実際のそのような情景を見たことがない」と語る。
長野まゆみ
海猫宿舎 光文社文庫 K
数年前の隕石落下が原因で健康にすぐれない子どもが増えた。
アレルギーの子どもが療養しながら学ぶ「第二十一児童療養所」。近未来のファンタジー。
世界の中心で愛を叫ぶ
高校2年生のアキ。
再生不良性貧血、白血病。一番心配なのは「病気のせいで性格が悪くなってしまうことかも」。「わたしの病気にも理由があるはずだわ」とささやく。
米谷ふみ子
遠来の客 1985年「過越しの祭」新潮社集録 K
アメリカで作家のアルと暮らす道子。次男ケン13歳は
自閉症を思わせる脳障害児。身体が道子より大きくなり、施設に入所し、初めての帰宅を迎える。道子、アル、兄のジョン。それぞれの心境。
米谷ふみ子
過越しの祭 1985年 新潮社 芥川賞 K
日本の因習をきらって自由を求めて来たアメリカ。ユダヤ人の夫とその家族社会にある因習。次男のケンは
脳障害児。言葉や社会のルールが分からないケンと、ユダヤのルールとヘブライ語が分からないミチ。
宮原昭夫
誰かが触った 1972年 河出書房新社 芥川賞 K
らい病の療養所内にある学校で学ぶ子どもたちと2人の教師。感染力が弱く、治る病気であり、隔離の必要性がないことを作中で指摘。
宮原昭夫
松林の向こう 「誰かが触った」1972年新潮社所収 K
子どもたちは学童疎開に行き、町から子どもの姿がなくなったが、病身で疎開に加われなかった
病身でみそっかすの数人は、学校の1つの教室で机を一列並べている。
皮膚が青い子、脳性麻痺の子。空襲が始まり、カーキ色の少年が松林の向こうに歩いていく。
宮原昭夫
シジフォスの勲章 河出書房新社 2002年 K
養護学校を卒業する
重度障害児。卒後の行き場所がない中、親と地域の協力者で作業所作りを行なう。養護学校義務化後、1980年頃。
ポール・フライシュマン
マインズ・アイ あすなろ書房 2001年 K
16歳のコートニーは落馬により
第一腰椎が切れて下肢障害、ノースダコダの療養所で暮らす。同室の老婦人エルヴァが、想像のイタリア旅行に誘う。最初気乗りしなかったコートニーが、次第に旅を楽しむようになり、また旅で辛い思いもする。
ジュゼッペ・ポンティッジャ,武田秀一訳「明日、生まれ変わる」2001、KKベストセラーズ K
作者は1934年イタリア生まれ、障害のある息子を持った経験が下敷きとなった小説
息子パオロは10代後半の脳性麻痺、子どもから大人になろうとしている。父はパオロが生まれてから今までの出来事を断片的に、順序バラバラに書く。自分のこと、家族のこと、職場のことを織り交ぜて書く。障害の息子と歩む人生、それしか道はなく、それを受け入れる。子どもが年齢を重ねて、障害を持ちながら自分で生きていくようになって、書くことができるようになった小説家。
医師の言葉への反応に注目した。
*今村明美訳、
「家の鍵−明日、生まれ変わる」集英社文庫2006年、これは上記と同一作である
