桑沢デザイン塾 描き文字の世界
第4回

桑沢デザイン塾 描き文字の世界
第4回
講師:
平野甲賀 Koga Hirano
グラフィックデザイナー
1938年京城(現ソウル)生まれ。武蔵野美術大学視覚デザイン科卒業。在学中の60年に日宣美展で特選受賞。高島屋宣伝部を経て、フリーランス。劇団黒色テントや水牛楽団などと関わり、ポスターや舞台美術を手がける。また、64年からは晶文社の本の装幀を手がけ、同社のイメージを決定づけた。

 渋谷の街はもうすっかり冬。この講義に通ったのももう3ヶ月前である。当時はまだ秋。桑沢デザイン研究所は、原宿駅から徒歩7分ほど。代々木公園の方にある。

平野氏

 ふつうのよいおじいさんという感じである。肌が綺麗そうである。写真ではかぶっていないが、当日は毛糸の帽子をかぶっていた気がする。
 こういう、噺家でない人の話は、聞いていると面白いが、聞いた後に思い返そうとすると、なかなか思い出せない。ストーリーが途切れ途切れだからであろう。起承転結があったりなかったり、あっても非常に短い。そもそも3ヶ月前の話である。とったメモの意味も良く覚えていない。

氏の文字

 イラストレーターで、実際に文字をつくる時のようなことをしてくれた。スケッチブックに鉛筆で書いた下書きをスキャンして、ベジェでなぞる。最後にオブジェクトを全部合成して、完成。15分。下書きができるようになるまで、40年、か。

 その仕事の多くが、装幀である。そもそもが装幀家なのかもしれない。著名な作家の装幀、文字関係の書籍の装幀。いわゆる大御所というやつか。筒井康隆や椎名誠の本の装幀も、ヒラギノをつくった字游工房が限定制作した本の装幀も彼である。彼の装幀は、文字ありきである。まずオリジナルの文字があり、色、構成はその次。
 それから、神楽坂にあるシアターイワトのグラフィック制作も多い。

シアターイワトのグラフィック

 第3回の講師である川畑直道とともに、描き文字に関するいくつかの講演、連載を行っている。川畑氏は、メディアへの露出こそ少ないものの、グラフィックデザイナー兼、戦前戦後の日本タイポグラフィにおける研究者として、多くの貴重資料の収集をしたり、原弘、河野鷹思、山名文夫などの当時のデザイナーに関する研究を行っている人です。彼は平野氏の講義にも聴講者として来場していて、質疑応答をしたりしていた。「あなたの作っているコウガグロテスクというフォント(平野氏がこれまでに書いた文字をフォント化したもの)は、あなたの文字に対する制作姿勢からいうと、全く矛盾していると思うが、どう思うか」というようなことを本人に聞いていた。

 平野氏はきっと絵が上手い。レタリングも上手い。ピカソのような人である。「私は、書(道)に憎しみを抱いている。字が上手い人が憎い」といっていたが、「普通に文字を書くと、明朝やゴシックに似てしまう。だから奇形字を書く。正しい文字は書きたくない、」とも言っていた。

 そして、これはタイプフェイスデザイナー、ブックデザイナー、グラフィックデザイナー、アートディレクター、カリグラファー、タイポグラファー、皆口をそろえて言うことなのだが、
「タイポグラフィは、リズム」だそうだ。