ワシントン・ポストのサイト(http://www.washingtonpost.com)に掲載された2001年11月6日付けの記事(Henry Kissinger, Where Do We Go From Here? 河内謙策訳)


 

われわれはどこへ行くのか

 

ヘンリー・キッシンジャー

 


 タリバンに対する戦争にはずみがつくにしたがって、戦争を将来に対する展望の中に位置づけることが重要になってくる。ブッシュ大統領は、戦争の目標がテロリズムを支持する国家の破壊にあると述べている。その目新しさのために、新しい戦争においては、その戦争の勝利を明確に定義することが可能である。

 テロリストたちは無慈悲であるが、その人数は限られている。彼らは、ある領域を恒久的に支配すると言うわけではない。もし彼らの行動がすべての国の軍隊によって妨害され、またすべての国が彼らの滞在を認めないと言うのであれば、彼らはアウトローになって、しだいしだいに生きるだけで精一杯になる。もし彼らがある国の一部を奪い取ろうとしたとしても、アフガニスタンとコロンビアでそうであったように、軍事作戦によって彼らを追い詰めることが可能である。テロリズムに対する戦略の鍵は、彼らの安息の地をなくすることである。

 彼らの安息の地が生じる理由は様々である。ある国においては、国内法あるいは憲法の規制によって、彼らが犯罪を犯さない限り彼らを監視することができない。あるいは、ドイツにおいてそうであり、ある程度まではアメリカにおいてそうであったように、表面上は国内的な情報なので、他の国に情報を伝えることができないというときもある。これらの状況の改善は、順調に進められている。

 しかし、安息の地が生じる圧倒的な理由は、政府がテロリストの掲げる目標のいくつかに賛成するがゆえに、彼らを見て見ぬふりをすることである。アフガニスタンでそうであったし、ある程度まではイランやシリアや最近までのパキスタンでそうであった。表面上一般的にはアメリカに協力的な国においても、サウジアラビアがそうであるように、時々はテロリストが受入国の政府を直接的に攻撃しない限り暗黙の取引をするのである。

 本気のテロリストに対する攻撃は、この結びつきを断ち切る。多数のテロリスト受入国政府は、9月11日以前にこれらの政府が知ろうとしていた以上のものを知るにいたる。テロリズムに対する攻撃は、安全保障上の協力を改善し、資金の流れに介入し、テロリストの通信を妨害する。そしてテロリストに安息の地を提供してきた国々に圧力を、場合によっては軍事的圧力を加えて服従させるのである。

 9月11日のアメリカに対する攻撃の直後、ブッシュ政権は既に分かっているテロリストのセンターに対して直ちに軍事的攻撃を加えるよう主張する議論を拒否した。その代わり、コーリン・パウエル国務長官はアフガニスタンに対する軍事的攻撃を正当化する世界的な同盟を巧みに作り上げてきた。アフガニスタンこそは、国際テロリズムの象徴である

 オサマ・ビン・ラディンに安息の地を与えてきた点で最も悪名高い国なのである。

 しかしながらアフガニスタンに対する戦略には、2つのリスクがある。一番目のリスクは、人跡未踏の地形の複雑さと混乱した政治的システムが国際テロリズムを活動不能にするという目標から国際的同盟をそらせることになるかもしれないということである。ビン・ラディンと彼の組織を除去するということは象徴的な意味を持つものであるが、それは世界的な規模での継続的で休むことのない仕事の開始であるに過ぎない。二番目の難問は、アフガニスタンに対する協力を、われわれの目指している課題に合致しているものとして扱い、必要な次の局面を避けるアリバイとして利用するという誘惑を警戒することである。

 これこそが、アフガニスタンに対する軍事行動を、タリバンを粉砕し、ビン・ラディンのネットワークを解体することに限定すべき理由なのである。アメリカの軍事力を国家の構築とか国全体の鎮圧に利用するということは、旧ソ連が徐々に力が尽きていったことに比すべき苦境にわれわれを巻き込むことになる。世間一般の通念によればアフガニスタンを統治していくために広範な同盟を作り上げることが望ましいとされるが、歴史的な経験に照らせばそうとはいえない。ありそうな、たぶん最適な結果は、カブールの政府が限られた地域を支配し、他の様々な地域において部族自治が実施されるというものである。

 本質的な事業は、国連の保護の下におかれるべきであり、アメリカと他の先進工業国が気前のよい経済的援助をなすべきである。われわれが連絡する勢力は、アフガニスタンの隣国(イラクを除く)、インド、アメリカと軍事的作戦に参加したNATO諸国により構成されるべきである。こうすることにより、イランがテロリズムに対する支持を撤回して国際的システムに再度参加していくことが可能になるのである。

 アメリカのテロリズムに反対する戦略にとっての決定的な局面が、アフガニスタンに対する軍事的攻撃が弱まり、アフガニスタン外が焦点になるにしたがって始まることになるであろう。その時、それまでの同盟は緊張にさらされることになるであろう。

 国際的な同盟の参加者は参加の程度を自由に選ぶことができるという公式によって、これまでのところは、長期的な目標の問題が避けられてきた。アラカルトの同盟を管理するということは、同盟の参加者がテロリズムに反対すること以外に少しのことを要求したにすぎないのでうまくいってきた。これまでの同盟が引き続き有用であるかどうかは、その次の局面で、同盟参加者の義務がどのようになるかにより決まるであろう。国際的な同盟は船団にたとえることもできるが、この船団は進行のスピードを一番遅い船に合わせるべきであろうか、それとも船団のうちの何隻かは独自に進行することも出来るようにすべきであろうか。もし前者であれば、国際的同盟の努力は、次第に、国連のイラクに対する視察を駄目にし、その制裁を破滅寸前まで追い込んだのと同じ最小公分母の妥協により限定されるようになるであろう。代わりに、国際的同盟は共通の目標に向かって進むが事前の取り決めにより独自の行動を、場合によってはアメリカだけが独自の行動をとることを認めるというように構想することも出来る。

 国際的同盟のありうる形を最も広い範囲で議論するものは、言い換えると国際的同盟における拒否権を議論するものは、しばしば湾岸戦争の経験を引用する。しかし、非常に大きな差異がある。湾岸戦争は、サウジアラビアを脅かした明白な侵略により引き金が引かれたが、その時にサウジアラビアの安全はアメリカ大統領に決定的に依存していたのである。アメリカは、夏の暑さが大規模な地上作戦を不可能にする前の数ヶ月のうちにサダムの冒険をやめさせることを決意した。同盟の構築の企てがなされる前に、数十万の軍隊が派遣された。アメリカが必要ならば単独ででも行動をすることが明白であったので、同盟に参加することが最も効果的な手段になったのである。

 現在の同盟の進む方向は、もっとあいまいである。ブッシュ大統領は、しばしば、そして力強く、アフガニスタン問題を超えてテロリズムに対する闘いを発展させると言明している。やがて彼は、一般的な言明を特殊な提案により補わなければならなくなるだろう。同盟の範囲が問題の核心であるが、それも明らかになるであろう。テロリストの安息の地を作り上げていることに関係する問題、たとえば資金の流れを断ち切るためにどのような手段を採るべきかとか、同盟に従わない場合にどのような制裁を課すのかとか、どのような方法でだれにより軍事力が行使されるべきか、ということについては、不同意を表明する国が出てくるかもしれない。

 湾岸戦争においては、アメリカに対し単独主義をとらないようにという圧力が同盟関係を固めるのに役立ったが、今回の反テロリズム戦争においては、アメリカの決意とそれに匹敵する同盟国の決意とが必要である。生物兵器がテロリストの手に渡っていると思われるだけに強固な戦略が重要になってくる。予防のための行動は、絶対に必要である。生物兵器に関連する設備を所有し、かつてそのような設備を使用していたと判明している国は、それらの国にとっては義務的で、厳格で包括的な国際的検査を受けることになるであろう。イラクは、長い間近隣諸国を生物兵器や化学兵器で脅してきたが、このような国際的検査をとりわけ厳格に実施しなければならない。

 強固な政策が国際的に支持される条件は存在する。アメリカに対する攻撃は、大国間において、並外れた利害の一致を作り出した。東南アジアからヨーロッパの縁までの間に存在する、あいまいで攻撃を受けやすいグループに所属したいという国はない。独自に抵抗するという方法は、ほとんど存在しない。NATO諸国は、冷戦後において大西洋の安全保障のうえで必要かどうかという議論をやめることにした。われわれのアジアの同盟者である日本と韓国は、われわれと確信を共有している。インドは、国内のイスラム原理主義に深く脅かされてきたが、われわれと共通のコースをはずれることにより失うものは大きい。

 ロシアは、その南部においてイスラム地域と隣接しているがゆえに、共通の利害を感じている。中国は、同国の西部において同様の利害を有しているとともに、北京で行われる2008年のオリンピックまでには国際テロリズムを根絶したいと考えている。逆説的に言えば、いままで説明がなされないで来た地球社会という感覚をテロリズムが呼び覚ましたのである。

 イスラム世界においては、態度はもっとあいまいである。多くのイスラム諸国においては、原理主義に深い関心を有しているものの、世論に押されて彼らに対する支持を明言できないでいる。わずかのイスラム諸国が、テロリストのアジェンダにある程度の支持を与えている。サウジアラビアやエジプトのようなアメリカの古くからの友人に対するアメリカの分別ある態度は、適切なものである。それらの国のリーダーは、国内の必要が彼らに妥協を強いると言うことをよく知っている。ブッシュ政権は、彼らが国内の状況を克服するように助け、情報の共有と資金の流れのコントロールを改善すべきである。しかしブッシュ政権のなすべき努力がこれらの国の政府を蝕むようなことがあってはならない。なぜなら、短期的に見れば、状況はわれわれの利益とこれらの国の人民にとって悪くなるだろうからである。

 しかしながら、われわれの採るべき政策には限界がある。同盟参加国のメディアがテロリズムを擁護したり弁護したりした場合には、これに反対する理由は存在しない。

 これらのことは、とりわけイランに当てはまる。地政学では、アメリカーイラン関係の改善が議論されている。イランが反テロリズム同盟に参加するためには、国務省と超党派のブレーマー代表団の報告書が述べているように、前提条件として国際テロリズムの支援をリードしてきたというこれまでの役割を放棄する必要がある。北大西洋諸国は、共通の危険を理解しており、共通の目標を新しく定義しなければならない。かつてわれわれの敵対者であったロシア、中国との関係について言えば、冷戦の痕跡の清算以上のものに発展させていくことができるし、ロシアについては帝国解体後の、中国については大国になりつつある現在の状況に応じた新しい役割を見つける必要がある。インドも世界の重要なプレーヤーとして登場しつつある。テロリズムに対する闘いにおいてかなり重要な勝利を収めた後に、というのはその時点であればテロリストに対する譲歩と見られないからであるが、中東のピース・プロセスは早急に再開されるべきである。これらの見通しが消え去ることのないようにしなければならない。なぜなら、人に広まるものは、本当に必要になるときには尻込みするものだからである。

[以上]


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