これらの諸国との戦争がアフガニスタンに対する現在の戦争より、より費用がかかり、より危険であることは明らかであるから、アメリカの人民は「言われている脅威は、どれくらい現実的なものであるか、われわれは、本当に”悪の枢軸”に直面しているのか。」と問うべきである。
まず最初に”枢軸“という概念を検討してみよう。その言葉は、国家間の提携によって、個々の国を合計したよりも重大な危険が引き起こされる、国家の同盟や連合を意味する。
イラン、イラク、北朝鮮のリーダーたちが、他の国のリーダーたちと同様に、アメリカに対する反感と恐怖を抱いていることは間違いない。しかし、問題になっている三か国がアメリカに対して一緒に戦争をするとか軍事的に協力するとかいうことを共謀した形跡は一切無い。CIAもそのような証拠を発見することが出来ない以上、ブッシュ大統領は、その言葉の削除を余儀なくされるであろう、と言われている。
これらの諸国は団結しているというより、どちらかと言えば、ばらばらである。とりわけ、イランとイラクは互いに敵意を抱いてきた長い歴史を有する。1980年から1988年まで、彼らは互いの都市にミサイルを撃ち込んだり、互いの軍隊を化学兵器で攻撃したりしてきたのである。彼らは、今日も敵対している。イランは、イラクの内部の武装した反政府勢力と関係を持っている。この二つの国を枢軸と呼ぶのは、まったく馬鹿げていることである。
北朝鮮は、イランやイラクと同盟関係には無い。これまで知られている限りでは、北朝鮮は、二つの国に対する弾道ミサイルの部品の供給者であった。これは厄介なことであるが、アメリカの専門家のほとんどは、北朝鮮がこのようなことを行う主要な動機は政治的な連帯を求めるためというより現金を獲得するためであると見ている(北朝鮮には、その外に輸出できるものがほとんど無い)。そのうえ、ピョンヤンは、ミサイル技術を、イランやイラクよりも我々の同盟国であるパキスタンにより多く売却しているのである。
では、同盟の問題を別にして、それぞれの国の脅威についてみてみることにしよう。
ここでは、ブッシュに少し有利な点があるかもしれない。これらの3カ国は、すべて、核兵器と弾道ミサイルの開発で知られており、また、化学兵器を所有しているからである。この脅威は注目に値する。しかしながら、これらの脅威の程度とそれに対抗する方法については、ワシントンで様々な議論がある。
かつてイラクは、核兵器、化学兵器、生物兵器、弾道ミサイルという大量破壊兵器(WMD)の開発という点で、三カ国のうちで一番進んでいた。しかし、1991年の湾岸戦争とその後の国連による武器の破壊により、これらを生産する大部分の施設は根こそぎにされたのである。残っているのは、国連の査察がなされなかった間(国連の査察は1998年に中止された。)に作られた小さな試験的な施設であると推測される。WMDをより大規模に生産しようとするイラクの試みは、アメリカの衛星や偵察機により探知され、爆弾とミサイルにより徹底的に破壊されたのである。
イラクに対する上空からの偵察が継続されるかぎり、イラクのWMDの危険は比較的小さいものと思われる。そして、多くの専門家の意見によると、この小さくなった脅威を完全になくするには、コーリン・パウエル国務長官により提案されているような”スマートな制裁”を課して、国連の査察要員の再入国をイラクに認めさせることなのである。
北朝鮮はイラクについで大量破壊兵器を生産する能力を持っている。同国もまた、過去、核兵器を開発しようとしてきた。しかし、そのプログラムは1994年のアメリカとの協定により廃止された。多くの報告によっても北朝鮮は協定を忠実に守っていると言われている。現時点の我々の最大の心配は、北朝鮮の弾道ミサイルの開発である。その開発は、1990年代に、ゆっくりと、しかし着実になされてきた。
しかし、ロシアと中国からの圧力の下で、ピョンヤンは、1999年に、アメリカが相互に関心がある問題について北朝鮮との交渉に応じている限りは、実際の配置のためには必須条件である長距離ミサイルの実験を中止したのである。こうして、北朝鮮のミサイルの脅威を封じ込める最良の方法として、この交渉を継続することが、ワシントンの多数意見であり、韓国を含む大多数のアメリカの同盟国の意見なのである。
イランは大量破壊兵器の開発という点では、一番遅れている。経済的困難により軍事費の削減を余儀なくされたし、また、外国との交易および投資にたいする要望が核施設に対する国際的査察を受け入れさせて来た。しかし、このような事情は、テヘランが限られた秘密の基地で核兵器を開発することまでやめさせることは出来なかった。とはいえ、多数の専門家は、イランが核兵器を大量生産することが出来るようになるまでには、まだ年月がかかると見ている。
イランでは、少数の人々が弾道ミサイルの開発に携わっている。資金の不足が、そのペースを遅くしている。イランは、改革勢力と改革に反対する勢力とに分かれており、多数の専門家、とりわけヨーロッパの専門家たちは、イランの脅威を小さくする一番の方法は、ハタミ大統領やその他の改革勢力が国を解放するのを支持することであると考えている。
我々が直面しているのは、重大な問題を持ち、多くの制限を課された三つのばらばらの国である。それらの国を”悪の枢軸“と呼ぶことが難しいにしても、大統領が触れなかったインドやパキスタンと同様に大量破壊兵器の拡散の脅威があることは間違いない。それゆえ、アメリカは、その脅威を小さくする処置をとるべきなのである。
しかし、戦争に訴えないでこのことを達成する多くの方法がある。実際、戦争を始めるぞといって脅かすことにより、大統領は、朝鮮半島での南北の対話やイラクにスマートな制裁を課すような彼らの大量破壊兵器を抑制する努力に水をかけたのである。大統領のとんでもない言葉は、世界をより安全な場所にしたいというアメリカの努力を助けるどころか妨げたのである。
[以上]
もしブッシュ政権がきつい言葉や慇懃な無視によって北朝鮮を押さえつけることが出来ると考えているとすれば、彼らはまったく誤っている。様々な事件の合流により、今後12ヶ月の間、我々は北朝鮮との間で危険な縁に立つことになる。アメリカと北朝鮮との1994年の協定は来るべき月日に重大な段階を迎え、それにより北朝鮮の意向が明らかになるであろう。アメリカは北朝鮮との間の協定を改定すべきか、それとも破棄すべきかという論争が始まることになるであろう。今年末の韓国の大統領選挙の野党の候補は、金大中の太陽政策に対する厳しい見解を明らかにしている。日本と北朝鮮との国交正常化のための話し合いは、雪解けのチャンスが無いまま2000年の冬から凍結されている。一方、ピョンヤンの東京に対する攻撃の口調は日ごとに激しくなっている。最後に北朝鮮が自ら課したミサイル実験のモラトリアムは、今年で終わることになろう。
これらの動向と北朝鮮が今回のテロリズムに対する戦争の第2段階の目標になるかもしれないというブッシュの言明を重ね合わせて考えてみると、私には、北朝鮮が慇懃な無視の政策に脅かされて屈服するというようには考えられない。北朝鮮は、誰もその存在に注意を払わないときに最も攻撃的になる。アメリカは、アメリカが現在アメリカ本土を狙っている国際的なテロリストのネットワークに対する戦争を遂行しているのと同じような危機を北東アジアで必要とはしていないのである。
ブッシュ大統領は、今回のアジアの旅行において、再び関与政策を主張すべきである。私は、ブッシュ政権の多数の高官が北朝鮮を嫌っており、ピョンヤンの意向を心から信じていないということを知っている(私は、彼らとこの問題について会話をしたことがある)。
しかし、ブッシュ政権の高官たちにとってハト派的とかナイーブに見える政策も、タカ派的政策になりうるのである。
第一に、関与政策は明日の懲罰のための連合を作る最も現実的な政策である。アメリカが北朝鮮を抑圧するための必要前提条件は、問題を非対決的な形で解決するために努力したが、それも限界であるという地域的なコンセンサスを作り上げることである。このコンセンサスがなければ、如何なる形でなされる抑圧も有効ではない。1994年のときは、中国からの抵抗があっただけでなく(中国は安全保障理事会で拒否権を行使するかもしれなかった)、アメリカの同盟国である日本からも抵抗があった、すなわち北朝鮮の在日組織が北朝鮮に送金することを抑制することについて日本は乗り気ではなかったのである。
第二に、関与政策は懲罰するという脅しをより説得的なものにする。たとえば、数十年にわたる貿易の禁止からは、禁止される側の態度の肯定的な変化は期待しにくい。しかしながら、制裁は別にして、北朝鮮に新しい機会の下では如何にうるものが少ないかをよく分からせてから、元の状態に戻るかどうかを鞭として利用するならば、北朝鮮の行動に変化を引き起こすことも可能であろう。アメリカが、懲罰を効果的にするために、ピョンヤンに対して、まず最初に獲得物を与える必要があるのである。今日のにんじんが明日の効果的な鞭になるのである。
第三に、北朝鮮に対する関与政策とミサイル・ディフェンスは両立しないものではない。ブッシュの朝鮮政策についてアジアでたびたび聞かれる言葉は、ブッシュ政権は里子とミサイル・ディフェンスを婚約させるつもりは無い、という言葉である。これは、よく考え抜かれた批判でないにもかかわらず、ポピュラーである。関与政策は強固な防衛能力に支えられたときに、また目標とされているものに対して関与政策は強者の選択であり弱者の便宜ではないと伝えられたときにもっとも効果的である。この意味においてミサイル・ディフェンスは、関与政策と矛盾するというより関与政策を高めるものである。
北朝鮮の支配体制は、卑しむべきものである。支配体制が民衆を餓死させていること、牛のために子供の売買がなされていること、アメリカが擁護している価値に反する様々な語られていない行為がなされている。それゆえブッシュ政権の高官たちは、関与政策が変化する北朝鮮の意向に信を置こうとすることを嫌っている。しかし、今後12ヶ月の間、東アジアに危機をもたらすことは、アメリカの利益にはならないはずである。さらに、関与政策がブッシュ政権の顧問たちの信念にぴったりだという”タカ派的な理論的根拠“もある。これらの人々は出口の戦略がなければ関与政策は効果的でないと考えるであろうが、関与政策こそ出口の戦略なのである。
[以上]
以前には無かったことであるが、アメリカは、かつて中途半端であったイラクと決着をつけたくてうずうずしている。イラクは、ブッシュ大統領の言う“悪の枢軸”から最も脅威を与えているものとして選び出された国である。彼の意図するところがどうであれ、障害がなんであれ、今回のゲームの名前は明白である、それは”支配体制の交替”以外にない。しかし、このゲームがどのようになされるかということについては、まだはっきりしない点も多い。パウエル将軍は議会に対し、ブッシュ大統領は”あらゆる選択肢“を検討している、と述べた。
イラクについての優れた専門家であり、かつて国連の武器査察官の議長代理であったチャールズ・デルファアーは次のように語っている。「ブッシュ政権はイラク問題を、うまく取り扱うというのではなく解決するという決意をしたということだろう。そして彼らは、そのために軍事力を利用したいのだろう。しかし、詳細は練り上げられる必要があろう。」
様々なシナリオが伝わってくる。サダム・フセインに対する反乱を扇動するというのもあれば、イラクの基地を爆撃するというのもあれば、1991年にやり残した仕事をやり遂げるために米軍10万以上を派遣するという案もある。
パウエル将軍は議会で次のように語った、「我々は、イラクにおいて支配体制の交替がなされるものと強く信じている。そして我々は民主的で代議政体のイラクが、国際社会の家族の輪の中に復帰してくる日を強く待ち望んでいる。」フセイン打倒について国際的な支援が無いことを認めて、彼は「アメリカ単独でそれをやらなければならないかもしれない」と述べた。そして彼は、イラクの対話の申し入れについては、そっけなくこう答えた、「イラクを1998年に追い出された査察官たちは「我々の条件を譲ることができないのであるから、話し合いはきわめて短いものになるだろう。」
国連の外交官たちは、イラクの高官とコフィ・アナン国連事務総長の会談が事態を打開するかどうかについては懐疑的である。彼らは、過去同じようなことが試みられたものの、さしたる成果が上がらなかったことに気づいているからである。
しかし、イラクに対する軍事行動の是非についてなされてきた論争についてのワシントンの答えについての議論はまだ無い。国家安全保障会議に近い筋の者はこう語っている、
「論争の決着はついていない。もしイラクが、我々が一撃をくわえようとしていると考えるのならば、それはそれで結構だ。しかし、ワシントンでは言葉と現実の間に差があるからね。」
国家安全保障会議にとってもっとも差し迫った課題は、昨日からジュネーブで始まった、昨年11月に合意されたイラクに対する新しい制裁についてのロシアとアメリカの外交官レベルでの交渉である。合意は、その時は当を得たものであったが、今ではアメリカは武器査察官たちに対してこれが最後だと言いたくなるであろう。もしイラクが依然として拒否するならば、次に来るのは軍事行動ということになろう。
しかし、ワシントンに対する国際的な支持は、少なくとも世論のレベルにおいては極めてわずかだろう。フランスの外相ヒューベルト・べドリーヌは、”悪の枢軸“というブッシュ大統領の発言を軽蔑し、公の席上で「単純な」アメリカの外交政策を非難した。イラクへの侵攻ということになれば必須の基地を有するサウディ・アラビアもまた反対のシグナルを送っている。
[以上]