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ミステリ中心の感想文のページです。


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INDEX

海外編

アントニイ・バークリー/『毒入りチョコレート事件』

マイ・シューヴァル、ペール・ヴァールー/『ロゼアンナ』『蒸発した男』『バルコニーの男』

エドガー・アラン・ポー/『黒猫』

コリン・デクスター/『ウッドストック行最終バス』

アイラ・レヴィン/『死の接吻』

ピーター・ラヴゼイ/『苦い林檎酒』

国内編

我孫子武丸/『まほろ市シリーズ』

鮎川哲也/『偽りの墳墓』

有栖川有栖/『まほろ市シリーズ』『ペルシャ猫の謎』『マレー鉄道の謎』『幽霊刑事』 暗い宿

太田忠司/『レンテンローズ』『紅の悲劇』

乙一/『GOTH』

上遠野浩平/『あなたは虚人と星に舞う』

京極夏彦/『陰摩羅鬼の瑕』

霧舎巧/『五月はピンクと水色の恋のアリバイ崩し』

桐野夏生/『OUT』 『グロテスク』

鯨統一郎/『タイムスリップ明治維新』

倉知淳/『まほろ市シリーズ』

古処誠二/分岐点

黒田研二/『ふたり探偵』『笑殺魔』

小峰元/『アルキメデスは手を汚さない』 『ソクラテス最期の弁明』

近藤史恵/『青葉の頃は終わった』 『スタバトマーテル』

篠田節子/『家鳴り』

殊能将之/『シキミ/ムロ』

清涼院流水/『ユウ―日本国民全員参加テレビ新企画』『秘密屋 赤/白』『トップラン@〜E』『トップランド2001天使エピソード1』

高田崇史/『試験に敗けないパズル』

柄刀一/『殺意は砂糖の右側に』『幽霊船が消えるまで』『殺意は幽霊館から』『ifの迷宮』『3000年の密室』『400年の遺言』『アリア系銀河鉄道』『奇蹟審問官アーサー―神の手の不可能殺人―』

西尾維新/『クビキリサイクル  青色サヴァンと戯言遣い』

西澤保彦/『ファンタズム』 『神のロジック  人間のマジック』

法月綸太郎/『謎解きが終ったら』『法月綸太郎の功績』

東野圭吾/『秘密』『悪意』

麻耶雄崇/『まほろ市シリーズ』

光原百合/『遠い約束』

森博嗣/『朽ちる散る落ちる』

若竹七海/『悪いうさぎ』 『心のなかの冷たい何か』

渡辺容子/『薔薇恋』


題名まほろ市シリーズ
著者倉知淳・我孫子武丸・麻耶雄崇・有栖川有栖
出版社祥伝社
価格400円
出版年月2002
感想4人の新本格作家による架空の「まほろ市」を舞台にした中篇4作です。

それぞれの作家の味が出ていて、出来、不出来もなく、高レベルのアンソロジーだと思います。私は春夏秋冬の順番で読んだけど、どこから読んでもOKだし、好きな作家のだけ読んでも大丈夫です。

50円玉20枚の謎という企画が過去にありましたね。倉知淳がそこでいい成績を残してデビューしたのだと記憶していますが、謎を共有するのは、ミステリーにおいては難しいのではないかと思います。その点、架空の場所、というのは、だいたいいつでも場所は架空なんだし、必ずしも場所に話を絡める必要もないので、アンソロジーとしては楽で、高レベルのものが出来やすい気がします。

倉知淳 まほろ市の殺人 春 『無節操な死体』
冒頭からいきなり謎が出てきます。この作家得意の日常の謎レベルの謎です。が、それが解決しないうちに、主人公の彼女の(彼女に対するノロケの描写は不必要だと思うんだけどなぁ)友達が、バラバラ殺人に関係していると思われ・・・?という内容です。探偵役としてかわいらしくて賢い男のコが出てくるのは作者のオハコですね。事件そのものの解決よりも、登場人物(とその向こうの読者)にすっきりさせる、日常の謎の発展系のような話で、4作中、最も後味のよいさわやかなお話です。(でも一応バラバラ殺人なんだけどね・・・)

我孫子武丸 夏 『夏に散る花』
青春小説のような爽やかなタイトルですが、滑り出しも青春映画のような爽やかさです。しかしそれだけでは退屈だし、明らかな謎の提示も行われていますが・・。ミステリーというよりはホラーではないだろうか。何気ない日常だとばかり思っていた主人公だがいつのまにか恐怖に片足をとられていたという話。後味あまりいいほうではないですね・・・。ホラーとして秀逸かというとそうでもない。作者にしては中途半端なレベルの物語だったような気がしますが、そこはプロですから、中篇としてちゃんと読ませるレベルの物語ですよ。

麻耶雄崇 秋 『闇雲A子と憂鬱刑事』

タイトルからしてわけわからないですね。闇雲A子は売れっ子のミステリー作家。美人だが派手で気が強く最近まほろ市を騒がしている連続殺人事件を解決して見せるとテレビなどでいきまいている。確かにこの連続殺人には警察も手を焼いており、捜査に参加するというA子を無視もできない警察が、通称昼行灯、憂鬱刑事などと言われる天城刑事をお供に付けたのだった。しかしその後も連続殺人は続いていく。被害者の特徴は、そばに何かが置いてあること(犬のぬいぐるみや材木など)。そして、左の耳が焼かれていることだった。捜査に参加するA子の周りでも被害者が出始め、天城刑事も苦しむが・・・。
というストーリー。こうしてみるとすごくミステリーらしい話だが。麻耶雄崇がそれで済む訳がない。連続殺人の目的に気がつけば、犯人は自ずとわかりますが、あまり考えないで読んでると驚くでしょう。しかしこれは、フーダニットのミステリーなわけではない。麻耶らしい、不条理な世界の物語です・・・・。

有栖川有栖 冬 『蜃気楼に手を振る』
まほろ市には蜃気楼が現れます。主人公は小さい頃、蜃気楼を見に行きます。そこで母親から「蜃気楼に手を振ってはいけない。蜃気楼の向こうの国に連れて行かれてしまうよ」と言われた。年月は過ぎ、会社員となった主人公だが、ある日、思いがけなく大金を手に入れると・・・。
一つの犯罪とそれが追い詰められていく過程を描いたもので、厳密にはミステリーとは言えないかもしれない。サスペンスかな。しかし、大きなトリックはある。が、ものすごーくオーソドックスなものだけど。マジックミラー?すげーヒントですこれ。

さて、まほろ市地図を片手に謎解き。
まほろ市;これは、まほろば、とかそういう意味だから、このままでいいか。
土井留市:コナン・ドイル シャーロックホームズの産みの親。
九陰市:エラリー・クイーン。国名シリーズとか、Yの悲劇とか。
駄陰市:ヴァン・ダイン。グリーン家殺人事件とか。
知須田山:チェスタートン。えっと・・・隅の老人だっけな?
本陣(駅):横溝の代表作『本陣殺人事件』
鮎川:言わずと知れた鮎川哲也。
宇陀見町:大下宇陀留のことかな・・・?
網州(駅):モーリス・ルブラン?ルパンの産みの親。
芦茂町:アイザック・アシモフかな?SFの大家だよね。
江戸川スーパー:江戸川乱歩でしょう。怪しげなもの売ってそう・・・
舞乱島:これもモーリス・ルブランだと思うんだけどね。
加亜市:ディクソン・カー。密室の王様。
破目戸町:ダシール・ハメット。ハードボイルドの人。
涙香町:黒岩涙香。乱歩の前に外国のミステリーを翻案した人。

これ以上はもうちょっと、わからなかったです。

題名幽霊刑事
著者有栖川有栖
出版社講談社
価格1000-1500円
出版年月2002
感想ずっと気になっていた有栖川作品でした。ノベルズ落ちしたので購入。そしたらブックオフでハードカバー100円で見つけてちょっとショック。

それはともかく。

物語は文字通り幽霊になった刑事のお話です。突然上司に殺され、気がつくと幽霊になっていた神崎達也は、恋人や母親に会いに行くものの、彼らには達也の姿も見えず、声も聞こえなかった。失意の達也が勤め先に行くと祖母がイタコだという同僚の早川だけが達也の姿を見、声を聞くことができた。達也は早川に協力を求め、迷宮入りしかけている達也の事件を調べ始める。その最中に犯人の上司が密室状況で死ぬ。凶器も現場にはなく、不可能犯罪と思われたが・・・。同僚たちの不審な動きに疑問を感じながら、調査を進めていくうちに、同僚の思いがけない犯罪が露見する。 さて、達也殺しを指示し、経堂課長を殺したのは誰?

・・・という、幽霊の部分を除いてみると普通の推理小説ですわ。幽霊が刑事だからって怪談なわけでもゴーストハンターするわけでもありません。

神崎達也刑事が幽霊になることによって、便利になって、普通なら手に入れられない証拠をおさえたりするわけでもない。むしろ、同僚がいない隙に部屋に無断で入っても部屋は真っ暗で、電気をつけることもできないのでただ眺めるだけという不自由さ。同僚の早川も、あくまで協力者なのですから、自分の思い通りに動いてくれる訳でもない。早川にしか見えないから誰かに話し掛けることもできない。おまけに、ずっと監視しておくと言ったそばで目を離した隙に経堂課長は殺される。はっきり言って全く役に立ちません。

でも、凄く便利な能力があって、それで事件を解決されたらはっきり言って読者はつまんない。その能力が作品の全てに渡って関係しているんならいいけど、解決のために作ったな、という設定じゃ、それはご都合主義というものだし。

さて、誰が犯人でしょう?の、これはフーダニットのミステリになるのかな。私は密かに○×さんがアヤシイと思ってたけど外した・・。ミスディレクションだったのだなぁ。全ての謎に解決がついて、ハッピーエンドといかないのは、達也が幽霊だから。達也の元恋人の須磨子とのラストは思わず涙ぐんでしまいました。幽霊になった切なさを思わず共感してしまう、主人公の心理描写も必読です。

題名ペルシャ猫の謎
著者有栖川有栖
出版社講談社
価格500-600円
出版年月2002
感想『国名シリーズ』の6弾にあたる短編集。再読のような気もがするが、記憶が曖昧(をい)。

『切り裂きジャックを待ちながら』のトリックははっきり言って誰でも見破ることができる。犯人も、作品の中で検討はされているものの、一人しか示していないようだ。だからといってこの作品が面白くないかといったら、とんでもない。ハウダニットでもフーダニットでもないとすれば、この作品は、名づけるならファイダニットだろうか。なぜ、そんなことをしたのか?という動機。
動機を推理するという意味なのではない。物語の中心が動機だということ。しかしこれは多くの人に理解できる種類のものではないかもしれない。だからこれは一つの作品なのだ。舞台と言ってもいい。演出家、脚本化の思想が全て受け入れられなくてもすばらしい舞台はある。終わった後、惜しみない拍手を送ろう。そこで「動機が弱い」「理解できない」なんて言うのは野暮なことでっせ。
『わらう月』も平凡な作品ではない。語り手はとある犯罪の犯人のアリバイを偽称している女性。彼女は小さい頃祖母に「お月様が見てる」と言われたことで、月が怖かった。その月を利用したアリバイトリックを作成したのに火村に見破られる。やっぱり月には嘘はつけないのだ、と感じる。この物語の主人公は女性でもなく、火村でもなく「月」なのではないか。月は、くだらないことで喧々囂々する人間たちを冷ややかな視線で照らしていたのではないか、とそんな風に感じる。作品の中の誰のものか分からない視線。それはきっと「月」の視線だ。
『暗号を撒く男』は、私がやはり女性だろうか、今一つぴんとこなかった作品。これは、火村ものというより、有栖川有栖のノンシリーズの『山伏地蔵坊』シリーズの短編のモチーフでもよかったんじゃないかな。なんとなく、地蔵坊の口から語ってほしかった。つまり、リアリティがないってことだけど。絵空事として聞くぶんには面白い。
『赤い帽子』は、この短編集の中で最も読み応えがあって面白い作品でした。これには火村もアリスも登場せず、単なる警察小説といえばそうなのですが。しかし、これは非常にマイナーな媒体で発表されたものなので仕方ないのでしょうけど。一人の刑事が犯人を追い詰めていく展開ですが、決して派手なものではなく、むしろ地味。でも刑事と犯人との見えない心理戦は息を詰めて見守ってしまいます。頑張れ、森下恵一刑事!(笑)
表題作『ペルシャ猫の謎』は、賛否両論あるでしょう。私は・・・肯定はできないなぁ。ただ、作者の新しい試みだったのでしょう。ほかでもなく有栖川有栖がこれをやるということに、非常に意味があることなのでしょうね。
残りの短編は、火村とアリスのおまけストーリでしょうね。ファンサービスかな?

題名マレー鉄道の謎
著者有栖川有栖
出版社講談社
価格800-1000円
出版年月2002
感想国名シリーズの長編。もうずいぶん前からタイトルの予告だけはあったそうです。周囲が期待で見守る中の出版、といったところでしょうか。短編も多く書いている作者ですが、やはり真髄は長編でしょう。ミステリ作家の中のミステリ作家というべき作者がさて、今度はどのような長編か。・・・答えは、密室。

やっぱり密室かぁ、と、苦笑してしまいますね。飽きたりがっかりしたのではなく、作者の密室にかける想いを改めて感じたような。

タイトルを見ると時刻表もののようですが内容は全く違います。誤解して購入してしまった人もいたのではないかしら。

鉄道が関係するのは僅かに、冒頭で大規模な鉄道事故が起こるところだけ。しかも時間的に火村やアリスたちの時間軸よりずっと過去。勿論全く無関係ではないのですが、オリエント急行のように火村とアリスが電車に乗っている最中に事件が起こり、解決するという訳でもないし。

つうことで、これを鉄道、時刻表ものだと誤解している人は改めましょう(笑)。

さて、事件はマレー半島で起こります。火村とアリスがどうしてそんなところにいるのかといえば、大学時代の同級生で友人の大龍がオーナーのホテルに招待されたからだ。のんびりと休暇を楽しもうかと思っていたのだが、日本人とワンフーという地元民のけんかの場面を目撃した翌日、ワンフーが密室のトレーラーハウスで死んでいた。現場は鍵こそかからないものの、窓という窓、ドアというドアにテープで目張りがしてある目張り密室だったのだ。しかもそのトレーラーハウスの持ち主の家で女中をしているシャリファはワンフーの妹にあたる。はたして被害者ワンフーは、いかにして殺されたのか?その謎もとけないうちにワンフーのけんかの相手津久井航も死体で発見される。長期滞在できない火村とアリスはなんとか予定の滞在時間の間で事件を解決しようと試みる。

非常にインターナショナルな作品ですね。マレー半島の様子がよく分かります。ちょっと行ってみたくなります。火村は英語が堪能なのだがアリスはなんとかかんとか。地の文はアリスだからアリスが聞き取れなかった単語は、×××(聞き取り不能)とされるところが面白い。そこは小説なのだから、アニメのようにいきなり数か国語を話すように書いてしまってもいいのに。でもそのことですごくリアルになったけど。火村とアリスの漫才も相変わらずですわ。

密室の謎も勿論最後に解けます。これは、前例があるトリックなのだろうか?少なくとも私は初見。有栖川有栖が密室と銘打って出すだけのことあるトリックです。その動機も、割と最近分かりづらい動機を書いてきた作者ですが、分かりやすかったでしょう。非常に悲しい、ラストでした。

火村ものはどうしてもこう・・・やりきれなさが残りますね。

それはともかく、非常に高いクオリティの推理小説です。綾辻や法月が全く長編を書かなくなってしまった今、有栖川しか読むものはないと言っても過言ではない。これを読まずして日本の推理小説は語れなくてよ♪少なくとも今年のこのミスの上位に食い込むんじゃないかな。

題名レンテンローズ
著者太田忠司
出版社富士見書房
価格-500円
出版年月2002
感想割と最近に刊行された『富士見ミステリー文庫』です。いわゆる少年少女向け小説のミステリー版。(この作家はもともとそうだけど)文章が平易で、複雑な薀蓄をたれる人もいないしもロジックもない。ついでに、殺人は起きますが、ファンタジー色が強いので血生臭い話では全くない。ファンタジーいうよりはゴシックメルヘン(そんな言葉があるかは別として)という雰囲気。
表題作の他に書き下ろし『裁く十字架』(裁きの十字架の方がかっこよくないか?)が収録されている。

ストーリーは、それぞれ、高校生の片方は女子、片方は男子が主人公。それぞれ多少の悩み事がある。そんなある日、ある一軒の花屋を見つける。誘われるように入ると、そこには頼りなげな青年と大きなインコがいた。青年は客でもない主人公にハーブティーをふるまう。そのお茶は不思議と気持ちを落ち着かせてくれる。やがて殺人が起き、主人公は世間で片付けられた結末に納得できない。そんなある日、主人公は再び花屋に行く。悩み事を話すと青年はアドバイスをくれる。そのことから殺人事件の真相に気づいた主人公が犯人を追い詰めると、犯人は逆上。自分の身に危険が迫る。すると、いきなりアヤシイ人(?)が現れる・・・・。と、ここから先はファンタジーの世界へ。と、事件は解決し、主人公は平穏な心を取り戻す。・・・という趣旨かな。

ただし、『レンテンローズ』と『裁く十字架』ではラストの趣はずいぶん違います。雑誌掲載と書き下ろしということで何か制約があったのかもしれないけど。私は『裁く十字架』の方が好きです。いくらファンタジーの色合いがあっても『レンテンローズ』のラストはやってはけない、アンフェアでしょう。ただ、希望的なのは確か。どちらを取るかでしょうかね。でも、後味は悪いかもしれないけど『裁く十字架』のラストの方が綺麗だと思う。

この作品、少年少女向けではありますが、太田忠司は実力のある作家ですので、安心して読めます。難しい推理小説に辟易している方、いいのではないでしょうか。

しかし、この年齢でこれを読むとイラストが恥ずかしい。電車で読むにはかなり勇気が。関係ないがこれを読んでいる私の目の前では大学生らしい男の子が『暗夜行路』を読んでいた!すみません負けました。(勝負してどうする)
でもね・・・。花屋の店長とインコの会話は漫才ってなってるけど、一つも面白くないよ・・?これに笑えない私はもう少年少女ではないということか?(そもそも少年であったことなどないが)

題名紅の悲劇
著者太田忠司
出版社祥伝社
価格800-1000円
出版年月2002
感想太田忠司の『悲劇』シリーズの最新刊になります。この作者は他には、講談社ノベルズで『新宿少年探偵団』や、徳間書店で『事件』シリーズもあります。一番人気の高いのは徳間のシリーズじゃないかと思いますが、こちらもなかなか、本格推理のシリーズです。

作家の霞田志郎と、妹で漫画家の千鶴は共に独身でふたり暮し。志郎は探偵の才能があり、たびたび警察に協力を要請されて、事件を解決してきた。今回も、たまたま訪れた日舞の発表会場で事件が起こり、志郎たちはまきこまれてゆく。謎の男爵も登場し、連続殺人へと発展していくが・・・・。

正直なところ、志郎が探偵うんぬんで悩んだり周りが心配したりする茶番はやめて欲しい。志郎は事件を解決するために配置された探偵役であり、事件は志郎が悩もうが沈もうが起こるのだ。推理小説に対して、死を軽んじた物語だというつもりではない。ただ、推理小説が事件が起こり、それを解決する物語として成立しているのであれば、そこで登場人物がそのことについていちいち悩むのは読者にとってはうざったいだけなのだ。これを挿入することによって登場人物に血が通うと思っているのであればそれは間違いだと思う。演出程度に書きこむなら別としても、ちょっと、うざったさを感じる。

それ意外は、十分本格的な推理小説です。男爵の行動は、アンフェアだと思わないでもないけど、シリーズのレギュラーキャラクターだから仕方がないか。

今後は、もう少し志郎が悩むことなく事件がスマートに解決して欲しいなと思います。

題名GOTH
著者乙一
出版社角川書店
価格1800円
出版年月2002
感想乙一最新刊。タイトルは「ゴス」と読みます。装丁も素敵な本。

こういうの、オムニバス形式っていうのかな。6つの短編から成り、レギュラーは二人、どちらも高校生。森野夜と、「僕」。

簡単に言ってしまえば、異常な事件を描いたホラー・ミステリーか。世間を騒がせている6つの殺人事件が登場し、それに関わってしまった「僕」と森野の物語。一応ミステリーのような形式はとっているのでミステリーといっても差し支えはないような気もするが、ミステリーだと思って読むには、少し異常過ぎる物語かもしれない。

ミステリーの形式をわざと取り入れてはいるが、逆にそのことによって、物語の構成、着地点を見失わせている感じがします。読み終えると、天地がひっくり返っているような、自分の価値観が正反対になってしまったような。そんな印象を受けます。

抽象的な言い方しかできませんが、ホラーが嫌いでなければ、ちょっとこの不思議な物語の世界に入ってみて欲しいと思います。あ、あとネガティブな世界が大好きな人(笑)

題名OUT
著者桐野夏生
出版社講談社
価格1800円
出版年月1997
感想数年前にドラマ化して話題になった作品(私は見ていなかったが)。作者は江戸川乱歩賞を受賞してデビューしたんじゃなかったかな?『顔に降りかかる雨』などの「村野ミロシリーズ」は私も好きで読んでいます。あと、異色作と言われている女子プロレスの世界を描いた『ファイアボール・ブルース』とか。

この作者の作品は、ミステリーとかサスペンスとか言われているけど、この作家にこそ、京極夏彦の提唱している「一作家一ジャンル」を適用したいです。一貫して作者が描きたいのは女性の姿。しかも、一般的に知られている女性像(男性から見たもの、同姓から見たもの含む)ではなく、一人の 個性的な個人としての女性。女性であることは、たまたまそうなったという意味でしかないと思うのです。

さて、OUTです。あらすじは、夜勤で弁当工場に勤める主婦たち、主人公の雅子、見栄っ張りで借金の絶えない邦子、良妻賢母であるにもかかわらず夫の放蕩に苦しんでいる弥生、義理の母の介護に疲れきっているヨシエ。彼女らは、それぞれの事情を抱えて弁当工場で勤務していた。ある日、弥生が夫を絞殺してしまった。弥生の夫健司は、貯金を使い果たし、一人のホステスに入れ揚げていたのだ。殺害の直後、電話で相談を受けた雅子は、健司の死体を自宅に持ち帰り、解体して、ヨシエ、邦子と手分けして捨てるよう指示する。しかし、邦子の担当分から発覚し、身元が判明したが、犯人である弥生にはバラバラにするアリバイがなく、警察は、健司と前日にトラブルのあったカジノのオーナー、佐竹を逮捕する。佐竹には女を殺した前科があり、それは、快楽殺人と解釈されていた。佐竹は、出所以来女を抱けなくなっていた。
証拠不充分で釈放された佐竹だが、カジノは摘発され、前科も露見して歌舞伎町に居場所がなくなった佐竹は健司を殺した真犯人をつきとめようと決心する。 一方弥生や雅子の犯罪は露見しなかったが、借金を棒引きするとの甘言に邦子が乗り、健司をバラバラにしたことを、街金の十文字彬に話してしまう。十文字と雅子は雅子が信用金庫に勤めていた時の顔見知りだった。十文字は雅子に死体をバラバラにして捨てるビジネスしないかと持ちかけ、雅子もそれを受ける。
佐竹は巧妙に、雅子たちに罠を張っていった。死体処理の仕事の二つ目に弥生の遺体を依頼し、雅子と十文字を恐怖に陥れる。佐竹はいつか復讐より、雅子という女に興味をもち始めていた。雅子は佐竹に負けまいと反撃するがついに捕まってしまう。殺されかけたが逆に佐竹を殺す。しかし雅子は魂の半分を無くしたような気になり、全てを捨てて旅立つ決意をした。

う〜ん。こうあらすじだけを書いてしまうと、正直訳が分からない(笑)。どうして、単なる職場の同僚である弥生のために雅子は危険を犯したのか。元々信用金庫に勤めていたような雅子がどうして夜弁当工場で働くのか。十文字に秘密を知られたとはいえ、死体処理の仕事など、どうしてしようと思ったのか。佐竹に殺されそうになりながらも、佐竹を亡くして空虚になったのはなぜなのか。佐竹の抱える闇と雅子が引き寄せられたようになったのは何なのか。

これはもう、読んでくれとしか言いようがない。私は、最後に、雅子のことを好きになったカズオに抱きしめられて暖かくなった心を凍らせて闇に向かう雅子が、悲しく、恐ろしいと感じました。

雅子はいつでも孤独だった。家でも、職場でも。それは、自らが築いた壁によるものだった。そのように生きてきた者は闇に惹かれ、そして寄せてしまうものなのだろうか。

映画化するようですが、原作にどこまで忠実になるか。しかし、忠実だったとしても雅子の、佐竹の圧倒的な闇を描ききることができるのか。正直に言えば不安。

とにかくこの作家は文章が凄いと思うの。例えば、冒頭。

「《帰りたい。》この匂いを嗅ぐとこの言葉が思い浮かぶ。どこに帰りたくてそんな言葉が生まれるのかわからなかった。」・・・これはまるで『魔性の子』の広瀬のようではありませんか。

「絶望がもうひとつの世界を望んだのだ。(中略)雅子は孤独のまっただ中にいた。」、雅子が弥生の手助けをした動機を自覚したところ。自覚したところでもう遅いのだけれど。

「カズオにやんわりと抱き締められた。(中略)懐かしく、優しく、心の中のほぐれなかった芯が少しずつ解けていく気がした。(中略)「行くから」」
私の好きなシーンです。カズオに想われて安らぎながらも佐竹の元へ行く雅子は一体何なのだろう?

とにかく、読んで圧倒されてください。

題名ふたり探偵
著者黒田研二
出版社講談社
価格1000円
出版年月2002
感想メフィスト賞受賞作家黒田研二の最新作です。コンスタントに新刊の出る非常に珍しい人種の方ですね。しかもどれも遜色のない出来で。
今回はトラベルミステリを依頼されて書いたものとのこと。よく考えるとトラベルミステリではないのだけれど、舞台が鉄道の中ということと、鉄道警察隊が出てきているところでまあいいんじゃないかと。
物語は非常に面白く、演出も凝ってる。西沢保彦ほどオオゲサではないにせよ、かなり面白い。ミステリとしても面白いし、トラベルミステリだと思って敬遠していると勿体無いと思います。はっきり言ってトラベルミステリではないと思うし・・・。でも、カシオペアは確かに乗ってみたいです。
フェア・アンフェアで言えばちょっと、アンフェアかな?ミスディレクションにひっかかったか?でも、手がかりはあれではちょっと、少ないよね。

題名笑殺魔
著者黒田研二
出版社講談社
価格1000円
出版年月2002
感想今月は、講談社ノベルズの新刊が出揃って、何から読むか迷いましたが、ついに最後の一冊になってしまいました。そういう意味ではトリ、女なら和田アキ子、男なら北島三郎だ。

さて、黒田研二氏の紹介はいまさら省きましょう。メフィスト賞を受賞して、コンスタントに、他社からも新刊を発表している、メフィスト賞受賞作家にしては珍しい方です。つまり、他社が欲しがるほどの実力があるということですね。

今回は、出発点の講談社ノベルズに帰ってきて、そして初めてのシリーズものだとか。タイトルは他社では既にあるものの、このレーベルで初めての奇抜なもの。おいおい本当に笑顔で殺す魔物の話かいやまさか、と思わせておいて、実は本当に!?というお話。主人公は、非常に情けない営業マン。営業先の幼稚園で保母になった大学の後輩と再会する。

シリーズものということもあり、これまで同ノベルズから出していたシリーズとは打って変わって、文体も軽妙、登場人物のキャラも立っていて、ギャグ度は作者にしては低めだがなかなか効いている。

ストーリーは、登場人物が出揃ったところで、誘拐事件が起こる。しかしこの誘拐事件は何もかも奇妙で、巻き込まれながらも奇妙な印象を拭えない主人公だが・・・。

ここから先は、伏せよう。でも、単なる奇妙な誘拐事件で、これはしかし人が誰も死なない、日常の謎系の小説だったのか?と思いきや、残りのページ数が3分の1をきったところで話は急展開。ジェットコースターロマンスだ(ロマンスはなかったかなそういえば)。

犯人はちょっと、二時間ドラマ的な唐突さを感じたが、これはフーダニットというよりはハウダニットなのだろうから、まぁいいかな。動機もちょっと、苦しいし、説明もちょっと、苦しいところがある気がしたが、最後の最後で明かされる真実とカタルシスは推理小説の醍醐味で、その勢いの渦に巻き込まれて気づかなかったことにしましょう。欠点と言えるほどのこともないし、そこを無理に調節して勢いをなくすよりはずっと、いいのです。

ラストは意外にも必ずしも後味がいいとは言えません。でも、シリーズものということもあり、全ての謎が明かされたわけではないので、読み終えてからも早くも次作を期待してしまいます。

作者はもともとこういう作風なのかな?今までの講談社ノベルズのシリーズと、どちらなんだろう?でも欲張りな読者としては両方、書いていって欲しいのである。

題名アルキメデスは手を汚さない
著者小峰元
出版社講談社
価格500円以下
出版年月
感想乱歩賞を受賞した作品。ずっと前から気になってはいたものの、『有栖の乱読』に出てきたのをきっかけに読みました。

読み始めたらとても古い作品であることにびっくり。まぁ、有栖川有栖が大学生の頃に同級生が読んでいたものなのだから無理もないのですが。学生が学生帽をかぶって、連合赤軍とか学生運動がまだ遠い昔のことではなかった時代です。

事件は、一人の女生徒が子宮外妊娠で死んでしまった葬式から始まります。父親は激怒し、結局娘が口をつぐんだままで府不明だった父親を探そうとやっきになります。そのうち、女生徒のいたクラスで弁当に農薬が入れられるという事件が起こる。被害者は弁当の持ち主ではなく、柳生隆保という生徒。弁当の持ち主は内藤という生徒で、内藤は、女生徒の父親が建てたマンションのために、直接的な原因ではないにせよ、祖母を亡くしていた。そして、隆保の家で、隆保の姉の恋人(妻子あり)の死体が発見される。隆保の母親の幾代が犯行を自供するものの、警察は隆保も関わっているに違いないと捜査を進める。しかし隆保には修学旅行の船旅というアリバイがあった。

ハウダニットのミステリーになるのかな。昔の作品とはいえ、多少風俗が違うくらいで、今でも充分面白いです。刑事が高校生を相手にして、「最近の若いやつらはわからん」と嘆くところなど、今とどこが違いましょう。

文章がとても軽くて上手ですらすら読めます。冒頭、女生徒の葬式から場面は始まるのですが、最初の文章。『雪国』なら「トンネルを〜」にあたる文章は

葬式は、ほどほどに厳粛で、ほどほどに盛大でほどほどに湿っぽかった。

ですよ。面白いでしょう?このように魅力的な文章で魅力的なヒーロー、柳生隆保を生き生きと描いているのです。

物事を主張しようとするとき、その論旨を唱えるだけでなく、正反対の理論を展開して、それを否定することで説得力を与えるやりかたがありますね。この作品もそうです。柳生隆保はかっこいいヒーローではありますが、作者は決して美しき悪徳を肯定したのではないのです。作者は、「悪ぶる若者たち。君達は正しいつもりでも本当は間違っているんだよ」と言いたかったのでしょう。そのために悪のヒーローを作り、それを最大限に魅力的に描いたのでしょう。

正直、読んでいる最中は隆保をかっこいい!と思いました。でも読後に考えることはやっぱり、悪いことは言い換えても悪いこと。決してかっこよくはないのだということでした。