おぢいさんとネロは村で一軒だけの牛乳運び屋でした。何時も、どんな時でも、村人から石を投げられようとも牛乳を隣村のバタ−屋に運びに行くのです。毎日毎日、飽きもせずに太陽の昇る前に運びました。それに耐えうるだけの精神が在ったのでしょうか、それとも現状を把握するだけの知能が無かったからでしょうか。おぢいさんはもう、身体がボロボロでした。年を取り過ぎたのもありましたが、身体の臓器を売っては生活費に充てていました。片目は眼帯で覆われ、足はびっこを引いて、枯れ木のように痩せ衰えながら毎日を暮らしていました。事実、おぢいさんの身体は代用品で出来ていました。その臓器の殆どが村長さんの身体の中に入っていました。角膜、水晶体、腎臓と肺が片方、膵臓と肝臓は半分、胃、腸三分の一、股関節は作り物、膝関節は両方作り物、最後に脳下垂体も在りませんでした。全部売ってしまったのです。今では村長さんとおぢいさんの蛋白質組成がおおまかに観て似通ってきています。でも家は貧乏でした。ゴキブリ、南京虫、家壁蝨はとうにネロの家から姿を消していました。ペンペン草も生えない赤くなるような極貧生活に負けて両親はトイチ協会で三界の珍味を売り捌きに行ったきり音信不通になってしまいました。
「ね、ネロや、今日は牛の乳が少ないでの、少し小川の方へいぐだ!。」おぢいさんはげほげほげほむせながらへろへろへろとそこいらの木っ端ででっち上げられた歪んだ、酒に酔って作られたゲ−ジツ家クマさんのこさえた様なリヤカ−を引いて、後ろから押しているネロに言ました。
「でも、じゅるじゅる、どうするの?。」鼻水を啜り上げながら袖がてかてかの服で鼻をなすりました。
「こうするんだへへへへへっ。」空のミルク缶に半分空けて小川の中にそのカンカンを突っ込んだのです。牛乳の水割り一丁出来上がりッ!。
「でも〜ばれたらたいへんだよ〜。」鼻を再びなすりました。半透明な粘脹物がほっぺにのの字を描いたのです。
「そうおもって、これを入れるんだ。」昨日死んだばかりの隣の雌豚の脂肪と菜種油を混ぜたものを流し込んだのです。これで脂肪分を測定されても騙し通せるだろう。次の事など知った事では無い!。
「でも、少し生臭いよ。」当たり前だろうよ!、血抜きのしていない死んだ豚の油だ。生臭さの極地!。
「気のせいじゃ!そうじゃそうに決まっておる!。」二缶目に取り掛かった。ナゼ、隣村まで朝早く太陽の昇る前に動くのかと言うと盗乳だからです。盗み乳を毎日繰り返し、この村では売りさばけないから隣村まで売りさばきに行くのです。
ここまでなったおぢいさんはもうお国が習い定めし見まごう事無き不具者の烙印、いや、全ての社会的義務をお国の力で捩じ曲げ反故にして税金を逆に頂ける水戸のインゴジジイの捻り出す印篭の様なキ印手帳を受け取ることが出来るのですが、日光が決して差し込まないじめじめした所に生息している半端者がこの村にいる事になるとネロの為にはならないし、隣村のバタ−屋がヤバ者の運んできた牛乳を受け取らないし、半壊者の臓器では売ることも出来ないし、第一に村八分が怖かったのです。
村の人々はそんな彼らのことを見て見ぬ振りをしました。不良モンが出来ると国の役人が村に入り込んで、その壊れモンの面倒を看るからです。ただでさせ胡散臭いこの村がもっときな臭くなるのを嫌っているからです。他人がこの境界線を跨ぐことは彼らにとって一番の迷惑なのです。
一軒の民家に入りました。此処もお国の目を盗んで作っている密造バタ−屋なのです。お国で認めた施設で作らないと売ることは出来ないのですが、その分高くなってしまいます。それで闇で作って売りさばいているのです。
「誰にも付けられていないだろうな!ほい!今日の分!。」裏で適当に作られたメチルのたっぷり入った密造酒で肝硬変になっているチュウキの親父はぷるっている震える手で金を取り出して渡しました。でも握っている力が悪いのでそれを床に蒔いてしまいました。
「へ!そう付けられません!。」げほげほげほと咳き込みながら曲がらない関節を金のために思いきり曲げて拾いました。
激痛に耐えながら、精一杯の笑顔を見せて金を拾いました。未だ空に星が残っているようでした。軽くなったリヤカ−を思いきり漕いで何食わぬ顔をして家に戻りました。
ネロは学校に行きました。先生方の圧力団体である荷教祖がしっかり完全管理している学校でした。時間に遅れると人が居ようが居るまいが鋼鉄製の重たい扉を力の限りに締めるのです。食べるものをあまり食べていないネロはいつもゆっくり歩いて、慌てて飛び込んでくる成金の子供に突き飛ばされていつもぎりぎりで地面に這い蹲りながら入るのでした。この前は滑って危うく頭が潰されるところでした。その代わりに頭の髪の毛が半分持っていかれました。でも父兄会の御偉方の餓鬼は何も言われずに自由に遅刻早退をすることが出来ました。
授業は何もやりません、始業のベルが鳴っていい加減してやってきて、先生はただ教科書をぼそぼそぼそと一人で棒読みして黒板に読めない字で何やら書き殴ってベルが鳴るとすぐに消えてしまうのでした。先生は絶対授業中は生徒達の方へ視線を向けることはありませんでした。
そんなときは何時もネロが殴る蹴るをされているのでした。鋭く尖った鉛筆で顔を突きまくられ中で芯が折れて北斗七星のホクロが出来ました。肩が凝っているだろうとコンパスの針の方で肩を突き破られてしまいました。でも、ネロは為すが侭でした。給食費をまともに払い込めない、銀行口座すら持てない人間には人権がないんだそうです。先生がそう言いました。皆の可愛い可愛いイタブリペットなのだそうです。でも、黙殺されるよりもマシなのだそうです。そうウシミツ君から言われました。彼のお父さんの職業は墓掘り職人です。まだ自分達の所は土葬です。御葬式が過ぎた後に絶対似合わないダブダブな綺麗な服を着ていることが多いのです。その後必ず墓が埋め直された後があるそうです。
休み時間になりました。誰も遊び相手が何時もいないので今日は久しぶりに屋上へ上がることにしました。
上にあがると村の父兄会の餓鬼共が丸くなって煙草を燻らしていました。でも煙草の臭いとは少し違っていました。
「おめえ!見たな!。」どこを向いているのか解からない視線を持つハルキンが興奮してネロを捕まえました。回りにいた連中は視線の定まらない目でラリラリラリと手を叩いて喜びました。銜えていた葉っぱを嫌がるネロに銜えさせて思いきり吸い込ませました。突然辺りが極彩色の世界になりました。
「おい!起きろ!。」その声で突然目が醒めました。視線が定まりません。声も残響が激しくてよく聞こえません。やっと視線が定まりました。
「こ!これは!極上もんだ!来い!。」煙草を嗅ぐとネロの襟首を掴んで体育教官室へ連れ込んでしまいました。後ろで怪しげな雑貨屋コ−ナ−リバ−に屯しているハルキン一味がにやにやにやしていました。
その日の夜遅く顔中ぼこぼこぼこになったネロがガニ股でびっこを引きながら家へ帰ってきました。先生は燃え残りの煙草を吸いながら女装して身体中を掻き毟り、ネロを力の限り苛め尽くした、いえ、キスマークと歯形、奥歯で特に股のあいだの袋をごりごりごりされた、その姿でした。
「ネロや、どうした、今日は遅かったのう、その蒼い顔の隈取り、へへへえひひへひへひえひへいへいへいえへいへいひえへいへえひへいへえいひへえひええいえっひ。」おぢいさんは脳軟化で大笑いして喜びました。身体を海老のように反って転げて喜びを身体で表現しました。
「(沈黙)」ネロは何か頭の中で炸ました。盗んできたガソリンを軍隊が忘れていったコ−ルマンスト−ブに注ぎ込んで灯かりを少し上げました。
絵を描くためです。鉛筆が勿体無いので火を点けて炭になった木片で木の板切れに絵を描き始めました。ぐりぐりぐろと絵を描きました。絵を描くのが好きでした。でも今日は少しだけ運びが速くて凄い上手く描けそうな気がしました。出来上がったその作品は何かこう、どう言うか、この、え〜っとそう!、二日酔のダリがピカソのフリをして棟方シコウ作品を模写したような作品でした。
この村では夜が速いので、ネロは月明かりを頼りにしてみんなが寝静まったころに外に出ました。外に置いてある薪を料理するときに使うためです。街の中をうろつきました。外に置いてある薪を誰にも言わないで貰って来るのです。時々おぢさん達が足早に未亡人の家へ入っていくの見ることがありましたが、その時は良くお金を握らせてくれました。そのお金でその夜のことは全て忘れてしまいました。でもそんな事は稀です。
薪を抱えているときに誰か見覚えのある陰がありました。村長の娘でした。
「あら、ネロぢゃない?」「はあ、今晩わ。そこで何を?」その時村長の娘は何かを思い付いたらしく自分の下履きを脱いで笑ってネロの頭に被せました。そして次に。
「ギュイヤ〜痴漢!!!」
声を限りに叫びました。家々の灯かりが点りました。
数分後ネロは留置場に身体中が蒼アザの塊となって転がっていました。半分千切れそうな両耳が痺れています。鼻は軟骨が見事に砕け無くなりました。鼻の中に指を突っ込まれました。ごりっと言う音がして鼻血は滝のように流れました。村の人が全員寄ってたかって集まって殴る蹴るの人間パンチキック状態にしてくれました。中には良い事しやがってと羨ましがる声を聞きました。人から羨ましがられるのは気分が良かったでした。でも呼吸する度に折れた肋骨が痛みました。指の筋も思いきり伸ばされて上手く動かなくなりました。アキレス腱も決められて変な音もしました。そして今凄く痛いです。電気按摩を掛けられた股間の痛みはもう有りません、いえ、感覚が。
「お前、どうしてあんなことをするんだ!人生が辛くなったのか?それとも貧乏が敵なのか?身分世襲の世の中を打ち砕く鉄槌を捜し求めていたのか?自分自身が超越する存在だと思ったのか?毛も生え揃わないのが大好きなのか!。」
駐在さんが鍵を空けて入ってきました。目の色が何か違いました。手の甲に白い粉を少しだけ載せてはその粉を思いきり吸い込みました。
男の子が大好きな駐在さんと村の人から噂されている人でした。
ネロは夜更けに尻を押さえて内股でとぼとぼと家に歩いて帰りました。その帰った道程は落ちている血で良く解かりました。
その時暗がりから二つの冷たい刺す様な冷たい瞳がそれを見ていたのでした。煙草を吸っている紫煙だけが暗がりから出ていました。その煙草が火が点いたまま外に投げ捨てられました。その暗がりから大きな身体のあちこちが禿げたよぼよぼの土佐犬が出てきました。相当年のようでした。
犬はネロの後を追いかけました。後ろを振り向こうとすると地面にひれ伏して木の切り株の様な振りをしました。
この犬は忍犬で、痴呆症で自分は人間の何処かの偉い王子様で悪い家来に魔法を掛けられて今の姿になってしまっていると思い込んでいる、おつむの中がイッてしまっている危ないはぐれ忍犬なのでした。カムイとはぐれて途方にくれていたのでした。
犬を見たおぢいさんは何を思ったのか大きなスコップで犬のこめかみを打ち抜こうとしました。大きく振り回しましたが犬はそれをちらりと見てすんでの所で攻撃を躱して勢い余って転げたおぢいさんを横目に扉に片手を付きながら煙草に火を点けて思いきり紫煙を吐き出して火が点いたままの煙草をおぢいさんに投げ着けました。
おぢいさんは喜びの声を挙げて地面に悶え喜びました。身体で嬉しさを表現しました。身体を包んでいる栄養チュ−ブが少し燃えて栄養液が漏れました。
「すぺつなずで暮らした男の友人の隣人の親戚の隣に住んでいた奴の同級生だったわしを手玉に取るとは!置いてやる!。」おぢいさんが悟ったように言いました。
ネロは思いきり嬉しそうに叫びました!。
「盗乳するとき楽になるね!」
急いで盗乳しに行きました。力を入れると尻の穴から血が漏れてしまいそうでしたが、犬が舐めてくれるので一安心でした。
おぢいさんが牛の乳を搾り終わりました。
「さ、長居は無用だ。」その時ゲブッというゲップの音を聞きました。見ると犬がお腹ぱんぱんでひっくり返っていました。その横に空の牛乳缶が転がっていました。
「しょうがないな!」おぢいさんは寝転がっている幸福そうな犬に近寄り缶を口にあてがって犬の咽喉の奥へ思いきり指を差し込みました。
「ぐをえ〜」だくだくと白い液体が出てきました。犬は寝たままです。
「さ、行こう!」おぢいさんに突かれて先を急ぎました。
暫くするとぼこぼこに殴られた幸福そうだった犬が後から追いかけてきました。
「ねえ、おぢいさん、この犬の名前はどうするの。」
「そうぢゃな、ネロや、お前がつけなさい。」
「ぢゃパトラッシュ!。」犬はぐをんぐをんと違うと言いましたが、
「わあ!喜んでいる!決まりだ!。」
学校へ行きました。夕べの事で持ちきりでした。中年の先生はネロの顔を見ては歯槽膿漏の歯茎を見せてへらへらと笑いました。目は鯖の様に充血しているその目で上から下まで舐め回すようにして次に肩をぽんぽんと叩きました。そしてそのまま立ち去りました。
今日はとても変な日でした。いつもはネロを見ると嫌味と拳を振り上げる先生だったからでした。
でもそんな事は気にもしませんでした。今日は自分が大好きな図工の時間があったからでした。
今日は木を削って物を作るんだそうです。自分は一生懸命木を彫りました。段々熱中して棟方シコウの様になってしまいました。身体は海老のように曲がり、ノミで木の削れる所をよく観察しながら彫りました。
がしッ!衝撃が加わりました。何か後頭部に力が加わった様でした。
「いった〜い!なにすんのを〜」ザックリ切れた瞼から滝のように血が流れ落ちました。教室中が爆笑と悲鳴の渦に巻き込まれました。
「おい、ネロどうしたんだ。」そう言って彫り掛けの木を見ました。
「をを!しゅ−るなちょ−こく!!この混沌とした曲線と振り掛けられた朱が一層不条理な主体性を完膚なきまでに粉砕している!。混迷した現代にして此れ程の逸脱した力の存在感を凝縮して破壊した未知なる無知の無恥たる姿を指し示している。これこそがゲ−ジツだあ!。」図工の燃え上がるような爆発している先生はひろぽんで血管がぐちゃぐちゃになった腕でその作品を抱え込んで喜びました。うっすらと目には涙を浮かべていました。
でもネロは最後の言葉を聞くことが出来ませんでした。良い物を食べていないので最後まで血が止らないで自分の血の池の中で貧血で倒れました。
先生は何を思ったのか身体中を掻きむしって喜び悶えました。
「これこそが自分の命を賭けた、生命の根源と、生きることの苦痛、死ぬことの甘美な誘いを表現している!うをををを!ゲ−ジツげ−じつ!。」ネロが倒れているその回りを跳びはねながら、何処からか持ち出してきた一眼レフで転げながら連写しました。
「せ、せんせい!」恐る恐る先生へ近寄った女子は、
「煩い!瞬間芸術の極地に達している者を記録しているのだ!しかし、この切り取られた断片自体が意味を持たなければ芸術の名を辱めることになる!つまり、この行為自体が芸術なのだ!。単なる事件写真にはしないぞ!いや、させない!この行為こそが犯してはいけない神聖なモノだ!」先生は出てきた女子生徒を蹴り飛ばして連写に夢中になっていました。ネロはその池の中でぴくぴくぴくと痙攣をして口からあぶくを吐き出しました。「いったな。」全員が口を揃えて言いました。
ネロは急に目が覚めました。起きるとそこは畳の上でした。
「おう、目が覚めたか!。」畳職人の弥次郎でした。何かにやにやしていました。
そう言われてさっき切ったばかりの瞼の傷がずきずきずきと痛みました。
「おう!わりいな!温かいの縫ったことが無いんでな。どうだ!上手く縫えているだろう?おとついなんざあ隣街の馬鹿野郎がお国の財産に飛び込んでマグロになりやがってたあまったもんじゃね〜ぜ!おかげで列車が汚れるし!あの真白なアズサが真っ赤になっちまってその洗濯もさせられたんだよな!交通部の連中は根性がね−からジャッキで持ち上げて取りやがるんでえの!力の限り引き抜けってえの!洗濯もさせるんだぜ!おれは縫うのが専門だからよ!。」自慢げに鏡をネロに渡しました。
鏡をのぞき込むと盛大にタコ糸で縫い上げられたその瞼は貧相な天使が仲間内からいわれのない失敗をこの世の全てのを押しつけられて地獄へ悪魔も一緒に全員でつつき落とされて地獄の煮えたぎる鍋の縁で思いきりひっかいた様な状態でした。
「どうもあ、ありがとう」その後はネロの口から何も漏れてきませんでした。でも蕎麦を盛大に啜っているような音がしました。ネロは実際鼻水とゆだれを美味しそうに啜っていたのでした。
「おう!おれっちみたいに睨みが効いておとこまえだぜいッ!」死体臭い畳屋の弥次郎は遺族から切り突けられ、盛大に縫い上げられた顔の傷を引き攣らせながら思いきり笑いました。この人のアルバイトは法医学の解剖室の管理と後始末なんだそうです。
「お前なあ、学校の裏に捨てられていたぞ!。何したんだ。」リャンギリピ−スを銜えて死体の移り香を消そうとしました。
「おれっち死体臭いのは慣れているし、臭いで仕事があるか解かるんだよな!少し臭ってるぞネロ!」盛大に笑いました。
その口ぶりでは死にかけていることだけはたしかのようでした。仕方なくネロも笑いました。
弥次郎の手元にあった紙切れに目が行きました。死亡診断書の文字の上に斜線で消して遺体検案書と書き込まれて名前のところはネロと入っていました。死亡場所も斜線で消されて遺体発見場所となっていました。
「おうっと!おれっち次の仕事がはいっちまってんだ!おう、ゆっくりしていろよ!。」紙切れをネロに見られないようにくしゃくしゃにすると懐に突っ込んで外へ出ていきました。
「ちッ!検案書八千円取り損ねたぜ。」黒い膝まであるがびがびに汚れた髪の毛が付着したゴム長を履きながら、元の色が解からない色々なモノが付いた茶色いエプロンを着けながらそう言って溜息を吐きました。
ネロは歪んだ風景を眺めながらようやく帰りました。精神的な影響で目に写る風景は斜めに歪んで見えました。盛大に縫ってもらったお陰でもありませんでした。
でも、ネロはとても楽しかったでした。歪んだ風景が見えたことがとても嬉しかったでした。近代心象芸術学派の旗手の様な風景を楽しむことが出来ました。でも不思議に創作意欲が湧きませんでした。
近くでひっくり返っていた駄犬パトラッシュはネロの姿を見ると何処からか煙草を出してそれを一口壁に凭れながら吸ってその煙草を投げ捨てました。相変らず右腕は懐へ入れたままでした。
「やあ、パトラッシュ。ぼくねえ死にかけたんだよ。」ネロはようやく口をききました。
「ぐをん!。」吐き捨てるように啼きました。{へッ!そんな事だろうと思ったぜ。そのまま一気にあっちへ渡りゃあ気持がご機嫌いや、最高だぜ!}犬の目はその臭いを漂わせていました。
「そうか、そうなんだね!君だけだよ僕の今の気持を解かってくれるのは、パトラッシュ!」ネロは思いきり抱きつきました。
「ぐっく〜ッ!うっつうっけ〜げほっ。」抱きつき方が激しすぎたのでしょう、犬の息が詰まってしまいました。{世界中何処探してもおめえの心の中を解かる奴なんざあ居るもんかい!居たら三途の川で死人の皮の洗い張りしてやるぜ!}犬は消えかかる意識の中でそう思いました。
ネロはその犬を抱くという行為に飽きたのでしょうか、そのまま犬を地面に投げ捨てました。
「がう!」ぼろぼろの犬は一回だけ吠えました。{おめえのその根性が六文銭だぜ。}
おぢいさんは居ませんでした。裏山の痩せた土地に生える葉っぱっぱを取りにいったのでしょう。何時もおぢいさんはこの商品にだけは手を出してはいけないと言いました。それを裏で村で一軒だけ真っ当の雑貨屋の村長の家に売りに行くのでした。
一回、黙って吸おうとしました。快感が得られるんだそうです。
火を点けただけでおぢいさんに見つかってしまって嫌と言うほど殴られました。でもその時に殴られる快感を味わいました。本当に快感が得られるのに何か興奮してしまいました。
その葉っぱっぱの名前は東京の汐留にあるディスコの様な名前が付いているそうです。じゅりあなとかまりあなとか言う名前だそうです。皆はこれを吸って踊り狂うんだそうです。暗い露地裏で、狭い納屋の中で光が見えたとかいろんな人が集まってきたとか言いながらいろんなステップで踊りをするんだそうです。
ネロは何かこう、燃え上がるような感情とそれを絵に書くことが出来ないいらただしさで鬱々しました。しっかり暗くなっておぢいさんは背中に葉っぱっぱを背負って帰ってきました。
「はあ、寝とるんか。まあいい。」おぢいさんはゆっくりと奥へ入って煙草の発酵した漬け汁にそれを入れました。これで美味しく成るんだそうです。
それを見てネロは外へ出ました。
「何かこう、何というか、そう、この燃え上がるような感情の昂ぶりを、こう、何としても記録に留めないと、でも、そう、表現方法がわからな〜い!。」ふらふらと星灯かりでぼんやりと見える夜のはすっ歯の様な繁華街の裏町を歩きました。既にこの村の人々は下賎な遊びに疲れて寝静まっているのでしょう。
その時後ろから肩を叩かれました。慌てて後ろを振り向くと村長の娘が立っていました。手には火の点いた煙草を持っていました。でも臭いが少し変です。
「えへへへへえ!?ネエ〜ロオぢゃない?ど−すぃたぁのぉ。いへへ?。」何からりらりらりしていました。
「い、いえ、な、何でもありません。」ネロは逃げようとしました。
「あ〜昨日のことね〜。ぶるせら屋に売ってるの!ぱんつを!それでお母さんにパンツが無くなっているのはどうしてかと問い詰められて。うっ。」啜り泣きをしました。
「な〜んちゃって!。」きゃっきゃきゃっきゃ笑いながらネロの回りを跳びはねました。
「そうそう、私ねえ売ってきた帰りなの、そのお金でこれかっちゃった!」怪しげな臭いのする煙草をネロの鼻先に近づけてそれを思いきり鼻に押し当てました。
鈍いモノが灼け焦げる音と臭いがしました。でもネロは痛覚が麻痺していて感じませんでした。
殴る蹴るされた身体には痛覚が存在しなくなっているのでした。
「それでね〜、今日は旗日なの。それで少し漏れてたから高く買ってくれたの!。」きゃっきゃきゃっきゃ笑いながらネロの回りを跳びはねました。そして少女の下血を顔に塗りたくりました。次に
「ギュイヤ〜犯される!」
声を限りに叫びました。家々の灯かりが点りました。
数分後ネロは留置場に身体中が朱アザの塊となって転がっていました。半分千切れた両耳がタコ糸で縫われて痺れています。鼻は団子になりました。鼻の中にナイフを突っ込まれました。びっと言う音がして鼻は空を飛びました。村の人が全員寄ってたかって集まって殴る蹴るの人間パンチキック状態にしてくれました。中には処女に良い事しやがってと羨ましがる声を聞きました。人から羨ましがられるのは気分が良かったでした。でも呼吸する度に折れた胸骨が痛みました。指の筋も思いきり伸ばされて逆に動ようになりました。頸も決められて変な音もしました。そして今凄く痛いです。痛みでモノが二重に見えます。ここに運ばれる途中に顔見知りの誼で千切れた所をタコ糸で縫ってくれました。
その時の弥次郎の笑顔はとても素晴らしかったでした。でも、今日は駐在さんがいつもの人ではありませんでした。
「ねえ〜ボウヤ、何でそんなおいたをしたのを〜。私悲しくなっちゃう。でもねえ、いくら滑りがいいからって駄目よ!ちゃんとアポとってからやらなきゃ!うんと言わせるようでなきゃ!あ〜ら髪の毛が乱れてる!。」
婦警さんでした。いかにもと言うおねえさまでした。その婦警さんが入ってきました。うちポケットから鉄で出来た鋭い櫛を取り出しました。それを蛇のような舌で舐めて突然ネロの首を掴んでその櫛で髪の毛を梳かし始めました。少女の下血と自分の流した血の涙でどれがどれだかよく解からないがびがびの顔になっていました。
櫛の歯が頭の薄い皮に突き刺さりそれがぶっつりざっくりと深く入りました。次に頭の骨に当たってごりごりと耳を塞いでも聞こえる音がしました。頭の皮が捲れるような激痛がネロの身体を襲いました。
これでわり−ごはいぬぇゑ〜ぐゎのなまはげ状態になってしまいました。
ネロは夜更けに開放されました。頭の髪の毛は頭の皮と一緒に婦警さんの敷物となりました。その代わりに開放してくれました。ネロには置いてくるものはそれだけしかありませんでした。
その代わりに婦警さんから囚人の横縞帽子をもらいました。
歩いている途中で帽子が段々重たくなってきました。
それにも増して婦警さんが頭の皮を掴み取って喜んでほんの少し頭の骨に着いていた所を引き千切ってその快感にうち震えながらネロに馬乗りになって鉄の櫛を身体に何回も打ち突けてくれた所が疼き始めていました。
歩いている感じは油の切れたブリキ人形状態でした。
「そうそう、前の駐在さん、頭にニ−チェ直系のすぴろへ−たが昇ったんで病院よ!。」と帰りに婦警さんが教えてくれました。あの寒い底冷えする留置場で包んでくれた温かい身体がもう無いのだと思うと寂しかったでした。帽子は形がそのままで堅くなってきました。白と黒だったのが海老茶色と黒の模様になりました。
「ぐをん!」{ありゃ、こりゃ派手な帽子!}
「やあ、パトラッシュ、今日も大変な騒動に巻き込まれちゃった。村の駐在さんが病気で病院に入って居るんだって。」
「ぐおん!」{てめえもな!おめでてえかすだぜ!けつの穴まで手突っ込まれて尻御玉抜かれて終わりだぜ!}
「君だけだ!僕の心の中を理解できるのは!。」「ぐへッッ!け〜ッ!くくくっっ。」犬は絞め落とされて転げました。流石に殺気が無い行動に対しては忍犬と言えども反応が悪いようでした。
翌日学校へ行きました。学校中の全員が、いえ、道行く全ての人々からちらちらと見られて、視線を交わさないようにしてしげしげと観察されるのでした。
何となくその疎外感がいたたまれなく精神的な見えない圧迫となってネロを押し潰しそうになりました。でも、その状態は何処と無く不具合で注目の的となっている自分が心の奥底では羨ましく映えている存在なのだと気づいて、その圧迫感が心地好く、限り無く優しくネロを包んでいる様な感覚でした。
校内の掲示板を見るとアンデウヲンフォ−ノレ記念、近代写実印象派作風募集のはり紙がしてありました。賞金は書いてはありませんでしたが、奨学制度のあるような、好きな絵のレプリカを貰えるそうです。
「い、いいな。」ぽつりとネロは言いました。
「ぐおん!。」何処に居たのか突然、犬が壁に凭れながら煙草を銜えて一声吠えました。{ほう!ニュ−ヨ−クのシャブに溺れた性病オカマの絵書きの親玉ぢゃね−か、脳梅毒の絵が目に染みるぜ!とっとと死にやがって!あんなんぢゃ薬中の色分解版のまんまぢゃね−か。}
「そうかい!そうなんだね!僕に作品を作れって言っているんだね!解かったよ!。」思いきり抱きしめました。
「ぐ〜ぐけ〜けっけけっ。」犬はそれだけ言って静かになりました。
今日の国語の時間は絵は言葉によって伝えられるかでした。
「ムンクの叫びは凡ゆる混沌を凝縮して自分の置かれている精神世界を適確に描写しているようです。色の使い方は誰よりも独創的で色をその色として認識させない素晴らしさです。そして日本の地獄絵巻は曲線を上手に使いながら、簡単な線だけで正確に書いていないのに、黒と赤だけで先端恐怖症の人間を怖がらせるには充分な迫力を持っています。」ハルキンは授業で無理矢理読まされました。
その時始めてネロはその作品を一度でいいからこの目で見てみたいと思いました。省略されているけれども充分過ぎるほどの迫力をこの目で見てみたいと思いました。
授業が終わりました。今日の授業は先生の素振りがとても変でした。手が時々よいよいよいっと動いて瞼をしばしばしばっと瞬いて身体が震えました。授業中そればかりでした。
ネロは夕食の準備でトマトを畑から黙って分けてもらってきました。胸の前に抱えて人に見られないようにして走りました。
その時でした。石に躓いて転んでしまいました。胸のところで気持悪い片側だけ良く熟れた残りの側は未だ少し青いトマトが音を立てて盛大に潰れてしまいました。
「わ〜ど、ど、どうしよう!夕御飯が!。」でも転げたトマトの中心にある起き上がったネロの頭の中で何かが音を立てて弾けました。
薄汚れた白かったと思いたいシャツにべっとりと渾沌のお印しが点きました。これを見てネロは途轍も無く興奮しました。
「こっこっこけ〜っ!これだぁ〜!これが瞬間を永遠にする方法だ!ボクは解かったぞ!これだー!。」ネロは興奮して暗くなりかけたチンケな隙っ歯の様な目抜き通り商店街をムジナが憑いた様な格好ではしゃいで転げながら駆け抜けました。
でも村の人達は完全に無視を決め込みました。
「わ〜あれ、面白い!」子供が指を指して喜びました。
「しッ!駄目です!家の中に躍り込まれたらどうするの!。」母親は慌てて頭をひっぱたいて子供の手を捻じってネロに背中を向けさせました。
でもネロには関係がありませんでした。このうえもなく楽しく興奮した状態でした。
ネロはどうにかしてこの表現方法を確立しようとしました。学校から赤の絵の具を大量に黙って借りてきました。そして学校から帰ると誰も使っていない古ぼけた密閉性の高いでもしっかりとした手入れだけは不思議とされている内側から鍵の掛かる納屋へ飛び込みました。
中には藁が丁度人が寝るには良い様になっていて、大人の人の大きさの凹みが2つありました。
でもネロはそんな事には見向きもしませんでした。暗いので理科室から貰ってきたてのアメリカンマッチで近くにあったランタンに火を点けました。辺りが明るくなりました。
「さあ、やるぞ!。」白い壁に向かって赤の絵の具を筆でなぞりました。
「ち、違う。」ネロは手でそのナマ乾きの絵の具を手で壁にぐいぐいぐいとなじりました。
「ちがうんだ〜ちぎゃうんでゃ〜ちがうんだ−!。」ネロは何を思ったのか赤の絵の具を手にイッパイ取ってそれをムジナ憑きみたいになって白い壁に当たり散らしました。
「ちがうんだ〜ちぎゃうんでゃ〜ちがうんだ−!。」信じられない所にまで苦しみ悶えるような断末魔の雄叫びが手の形と指の食い込みによって表現されました。
それは、さながら百人の武士が兵糧攻めの末に自決した腹切りの現場の床の様でした。介錯人が存在しない、息絶えるまで激痛が永遠の時間だけ骨の髄まで味わせてくれる状態を作っているようでした。
「はあ、地獄絵なんてこのボクには見る価値もないんだな。ねえ、パトラッシュ。」ランタンをぶら下げて犬を見ました。
「ぐ、ぐ、ぐを!。」{て、てめえの描いたのがそれだ!完全にイッてるぜ!無恥の力だ!}犬は恐れ戦きました。
「そうかい、そうなんだね!ボクを正確に批評してくれるのは君だけだ。パトラッシュ。僕には抽象画は無理なんだね。」ネロが犬を絞め落とそうとした時に犬が人の気配を感じてするりと危険な身体が返り血を浴びたようなネロの身体から離れました。
忍犬の性なんでしょうか、静かに身構えました。ネロもそれに気がつきました。
見ると後ろに自分より一つ下の子供が立って茫然としていました。
「これ、人に言っちゃ駄目だよ!。」そう言ってランタンを子供に持たせて外に出ました。
子供は鬼ごっこで隠れる場所を探して入ってきたのでした。でも、一人取り残された子供はネロが何をしてたのか暗くて良く解かりませんでした。
子供はランタンを持ってネロがいた所の壁へ行きました。
「うわあああああ!ぎゃあああああ!。」壁の抽象画を見て子供は持っていたランタンを恐怖のため放り投げ捨てました。音がしてランタンが割れました。ランタンの割れた所からも怒りに満ちた朱の混沌が出現しました。
炎とそれが創る生きている子供の黒い陰がネロが作った悪戯書きを思いきり動かしました。闇と炎の中から暴れ出ました。
暫く後でだらしない笑いを浮かべた身体全部が煤けてはだけて髪の毛は爆発して服の端が灼け焦げてベルトは中途半端に腰に絡み付いている千鳥足で歩行している子供が商店街を練り歩いていました。
子供にはこんな歌が流れていました。
「壁の回りは鬼だらけ、自分の回りは鬼だらけ、ドロドロドロドロ踊っていたよ、鬼やらケモノ、魑魅魍魎、尻ふり乳ふり頭ふり、身体ふりふりしゃしゃり出て、ドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロに
今日の御飯は何だろか、骨まで食べれる赤子の肉か、それとも皮まで堅いババアが炊いたアズキママか、脂ののった生娘か、赤身の木こり野郎か、
鍋の中身はドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロ、
魚屋、肉屋、隣のカミさんもくんずほくれつ藁の中
どれが手なのか足なのか、みんな一緒に、くんずほくれつドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロ
街も役所も警察も貧民、富民もみんな一緒にドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロ
みんな一緒に鍋の中、みんなみ−んな真二つ、鍋の中には真二つ、辺りはみ−んな朱に染まる、
血の池地獄の鍋煮込み、みんなみんなまっぷたつ、みんな中では笑ってる、みんな同じまっぷたつ、みんな程よく溶け合ってドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロ
鍋を掻き回しているのは青鬼で、火を吹いているのは赤鬼で、
はしゃいでいるのは他の鬼、
中に入れてる大きなおたま、髪の毛絡んで重たそう、
ぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつ、舌も灼けそな、歯も落ちそな煮込み鍋、一口だけでは辞められぬ、
遠慮しないで冷めないうちに、腹いっぱいで眠いなら、あっちに寝床が設えて、冷めたら冷めたでお前も鍋に、足りないのならお前も鍋に、
みんなみ−んな真二つ、肉は鍋に服は火に入れる所は直ぐ近く
はなればなれにならんから、安心あんしんありがたや!
切れる包丁ありがたや!炎で焚きあげありがたや!。」よだれを垂らしてそれが糸を引きながら風に靡かせて踊り狂っていました。
大人達は燃え上がる納屋を見ながら舌打ちしていました。村で唯一の連れ込みの場所がなくなったんだそうです。でも、全てのものが焼けてしまうから安心だとも言っていました。
ネロはどうしても表現方法が解かりませんでした。
「ねえ、パトラッシュ、ボクって才能がないのかなあ。」
「ぐおっ!。」{てめえは才能の塊だよ!阿鼻叫喚が衣を着て歩いているだけだぜ。}犬は飽きれて一声叫びました。
「そうか、慰めてくれるのか。ありがとう。」思いきり抱きつきました。
犬が絞め落とされる寸前、ネロの足の下でぷちっという感覚がありました。ネロがそれに気づいて足の下を見ました。
「こっこっごえ〜っ!ごえだぁ〜!ごえが瞬間を永遠にする方法だ!ボクは解かったぞ!これだー!。これこそが真理だ〜。」ネロは興奮して暗くなりかけた名ばかりの様な目抜き通り雑貨店しかない商店街をサバトに始めて参加する事が許された成り上がりの魔女様な格好ではしゃいで転げながら駆け抜けました。
でも村の人達は完全に無視を決め込みました。そんななかで燃え上がる納屋の赤々とした炎に照らされてさながら返り血を浴びて喜び悶える小鬼が二匹商店街を踊り狂いました。
翌日、図工の先生から呼び出されました。
「お前、出すのか。そうか、出すつもりか。そうなんだ。へ−。」虚ろな目でネロを見ました。
「あ、はい!ボクはそれしか出来ませんから。頑張って作ります。でも、ボク、今のボクでは何を描いたら良いのか悩んでいるんです。」ネロは精一杯胸を張って答えました。
「お前、出すのか。そうか、出すつもりか。そうなんだ。へ−。出すんだ。」先生は虚ろな目でネロを見ました。
「はい、素晴らしいモノは出来ませんが、みんながうなずける作品は出来ます。」ネロは目を輝かせて答えました。
「お前、そうか、出すつもりか。そうなんだ。へ−。そのつもりなんだ。」虚ろな目でネロを石ころの様に見ました。
「はい!先生に喜んで頂ける作品を出したいと思います。」ネロは決意に満ちた顔で答えた。
「そうか、瞬間を捕えたのか。題材は自分の一番愛しい人か、それもいいな。お前の見たがっていたのは村の教会に有るらしいぞ。」ゆきゆきて神軍のビデオテ−プを掴んで溜息を吐きました。
「先生、題材を有難うございました。」ネロは慌てて外に飛び出しました。
「あ〜あ、どうしよう、作品は送ってやるけど。レベルがな〜。」先生は溜息を吐きました。
ネロはその足でアル中の血管がどす黒く、腫れ上がるだけ腫れ上がった元軍医の開業医の所へ行きました。この先生はゴキブリホイホイと言われている先生です。入ってみたものの、出るに出られない、干涸びたら小さくなって外に出るといった状態の先生です。だからみんなは死亡診断書を書いてもらう時にだけ先生の戸を叩きました。
「え?売り物になるかって?そうさな−脳味噌以外ならな。げひゃひゃ。」先生は値段表をネロに突き付けました。
「この状態が最高の時のだからな〜、これから栄養状態、成長度合い等々引いて行くと。こんな所かな。」電卓を叩いてそそくさと値段を出しました。その値段は厚手の巨大な模造紙一枚分ぐらいにしかなりませんでした。
でも、ネロは紙一枚欲しいだけで売ってしまいました。帰りは縫ったばかりの背中の腎臓の所が痛みました。でも、角膜は売ることが出来ません。なぜならば、絵が描けなくなるからです。今売ってきたのは片方の腎臓でした。
「わ〜白い紙、うれしいな〜。」紙に頬擦りしました。身体に着いていた汚れがグラデがかかって染みを作りました。
「白い紙の臭い!い−な−。」団子状態の鼻を擦り付けました。
「この白い紙の角度のあるところい−な−。」しげしげと尖った隅を覗き込みました。
「この白い紙の硬いところい−な−。」そう言って目を近づけました。
ごき!後ろから衝撃が加えられました。
ぶちゅ!目の中に白い紙の隅が思いきり突き刺さりました。それと同時に目の中からだくだくと血が流れ出てきました。
「おめえ、飯だつうに聞こえなかったのか!。このカスが!!。」おぢいさんが温かい笑顔で食事の出来たのを教えてくれました。
「お、おぢいさんあ、有難う!。」ネロはあまりの嬉しさに血の涙を流して喜びました。
拭っても拭っても涙は止りませんでした。自分の精神はそうではなくても、自分の身体は正直なのだと思いました。
涙が止らないのは、きっとネロがおぢいさんを一番愛しいと感じているからなのでしょう。拭っても拭っても朱に染まった風景は変わりませんでした。
「解かったこっこっごえ〜っ!ごえだぁ〜!ごえが瞬間を永遠にする題材だ!ボクは解かったぞ!これだー!。これこそが真理だ〜。」ネロが叫びました。
「良いから食え!。」おぢいさんは後頭部を思いきり殴りつけました。
ネロは黙って御飯を食べました。
「ねえ、おぢいさん。絵のモデルになってよ。」ネロは突然喋りました。
「飯の時は喋るなって!。」額に一撃が加わりました。「不味い飯がお前の口の中の餌がちらちら見え隠れすると一層不味い不味いものがそれ以上になる!。」おぢいさんは口の中にモノを思いきり頬張って叫びました。
ネロはそのお陰で顔に今日の食事の献立が付けられました。ネロは朱の涙と食べ物の残渣を拭い落としました。
実際、隣の豚の餌よりも不味かったのでした。ネロが幼いころその事を言うとおぢいさんと二人で豚の餌場を荒らしに良く行ったものでしたが、血気盛んな牡豚が三頭に増えたのでネロ達が入ってくると半狂乱状態で襲ってくるのを避けられなくなりました。おぢいさんの背中にはキバで横一文字に切り裂かれた痕が残っています。
おぢいさんに何を言っても無駄でした。おぢいさんは耳日曜日を決め込みました。その代わりに顔に拳がめり込みました。
ネロはしょうがなく、食事を終わらせました。でも、絵を描くための道具が良いのが見つかりませんでした。だから今日はおぢいさんの瞬間を白い紙に刻み付ける事が出来ませんでした。
「ねえ、パトラッシュ、閃いたんだけれど、どうしたら良いのか解からないよ。ボクって駄目なんだな。」ネロはうつ向きました。
「ぐおん!」{そこまで言うなら良いモン見つけてきてやる!}犬は外へ走り去りました。
「あ、いたたまれなくなって外に出てしまったんだね。」淋しそうな目で真っ赤な月灯かりの星空のなか、黒い犬のシルエットを追いかけました。
数時間後、犬は何か巨大なモノを運転して帰ってきました。
頭にヘルメットを被り、ホッカムリしてニッカボッカ、肩に手ぬぐいで人間みたいな格好で運転していました。
「がう!」犬は馬鹿にしたような吠え方をしました。{やっぱ!これっきゃね〜ぜ。}
「あ、ありがとう!。」後は涙に咽んで言葉になりませんでした。
ネロは犬と一緒に良く寝ているおぢいさんを家の外に目が醒めない様に気を付けて運び出しました。
「わ〜白い紙だ、こ、これに、ボクの作品が。」ネロはそれだけ言うと興奮して身体が海老反って口からアブクが漏れてしまいました。道の真ん中で肉体近代芸術を実演しました。
犬はそんな事には完全に無視を決め込んで紙に上で幸福そうに寝ている売れる所を全部売ってしまった人間の生きる残骸の様な改造人間の寝顔を見ました。嬉しい事に金がないから起きているときと同じ服です。これで服を着替えさせる手間が省けました。
「う、う、う、げ、げ、げ−じつ、げ−じつ、げ−じつ、ゲ−ジツ!。」
ネロは何かにうなされている様です。ネロはそれに飛び乗りました。
巨大な鉄の塊みたいなモノが動き始めました。それが加速をつけて走りました。
おぢいさんは寒さのために目が覚めました。そう、老人性の夜の小便で目が醒めたのです。その時風景がおかしいのに気がつきました。
「あ!?あれ?どうしたんだ?。」辛うじて石よりも柔らかいベッドと比べて少しだけ硬い綺麗に洗濯された白い床に寝ているのが解かりました。
その時闇の中から大きな暗い物体が物凄い勢いで迫ってくるのが解かりました。おぢいさんは闇の中へ視線で突きました。朧げながら迫ってくる巨大物体の姿が解かりました。巨大なロ−ドロ−ラ−でした。
「うぎゃ〜!!」次にぷちッ!。
「わ−ゲ−ジツ!これが、これがこれがボクの求めていた瞬間を永遠にする方法だ〜!いや〜ひゃっひゃっひゃっ、え−へっへっへっへっへっ、けけけっけけわはははははははははお−っほほほほほほほほほほほほほほひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ。」ネロは犬と喜び転げました。それは血の色をした月明かりのなかで鬼が踊り狂っているようでした。
ネロは踊り狂って疲れてくたくたになりながら紙を丸めました。
何かこう、興奮状態の収まりがつきませんでした。
「先生、出来ました。」作品が出来た次の日に先生に作品を渡しました。
「何だ、こんなちんけな、う、うをををを!混沌が混沌がここんとこんがうぎゃらっぴゃ〜。」完全に興奮状態でした。先生には神が降りたようです。
会場に絵が搬入されました。色々な絵が飾られました。表現をすることが不可能な近代写実主義の連中のちょんぎれた一派の作品の巣窟となってしまいました。
「いや〜今回は素ん晴らしいモンばっかしで大変うれしゅうおんもいますう。」爆発した思考回路を持つ連中がへらへら笑いながらくるくると舞ながら絵を見て回りました。その時の挨拶なんだそうです。
ネロの作った作品の前では全員が全員足を止めました。
「うををを!わゐゐゐゐゐゐゐゐ!ゑわわわわわわわわわわ!」声にならない歓喜の叫びを挙げました。題、ボクのおぢいさん。
その作品は人間の形を留めないほどで、微かに手足頭胴の出っ張りが判別出来、着ている服と人間の肉塊と化した身体組織が同時に同じ平面に表現されているのでした。平面なのに立体感と威圧感とも言える程の不気味な存在感、おぢいさんの栄養チュ−ブと関節の金属部分が蛋白質で表現されている中にあって異質でした。
「これこそが表現方法を遥かに逸脱した今世紀最後の表現方法だ。」一番の年寄りが涙を流しながらゆだれを垂らしながら叫びました。
「でも、天安門でこの芸術を見たことがあるけど、その時はあんまり綺麗に潰れていなかったから芸術性が悪かったな〜、こりゃ最高!。」
自分達の私有財産を一張羅のズボンを汚しながら床に撒き散らして喜ぶ審査委員達は、羽根扇子を振り回しながら興奮しました。
その光景は、地獄の業火で人の肉を焼いて食らって喜び狂っている赤鬼青鬼、魑魅魍魎、有象無象塵芥の化け物のサバト状態でした。
「そ−でちね〜、い−でちね−。」ぐるぐるほっぺの気持悪いチビデブがちゅっぱちゃっぷすキャンディをイッペンに7粒口に頬張って、スナック菓子の袋を抱えて出てきました。口からは爪楊枝が7つ出ているのでした。これがこの会の出資者のオ−ヂェンの槌の総支配人だそうです。
「でも、くちゃいでちね〜。リンゲルの臭いがしてまちね〜。それ、ぽい!」それだけ言って何処かへ消えました。
審査員達は何を思ったのか前より増して問題外問題外と叫びだしました。
轢き潰されてても平気な総支配人は一枚の絵を持ってきました。
「これがいいでち!。これに決定でち!。」持ってきたのは3才児が描いた様な絵でした。
「え!?」審査員達が叫びました。
「そうでち!題が気に入りまちた!。」見ると分身の術でした。
誰が見てもそれはえっちな陰陽交合の図でした。
「年令、97。完全にイッちゃってますね。」審査員の一人が読み上げました。
「そうでちか、2しゃいならよかったでちね〜。」持っていた絵を投げ捨てました。
だらしない笑いを浮かべた身体全部が煤けてはだけて髪の毛は爆発して服の端が灼け焦げてベルトは中途半端に腰に絡み付いている千鳥足で歩行している子供が審査会場に練り歩いて入ってきました。
子供にはこんな歌が踊り付きで流れていました。
「壁の回りは鬼だらけ、自分の回りは鬼だらけ、ドロドロドロドロ踊っていたよ、鬼やらケモノ、魑魅魍魎、尻ふり乳ふり頭ふり、身体ふりふりしゃしゃり出て、ドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロに
今日の御飯は何だろか、骨まで食べれる赤子の肉か、それとも皮まで堅いババアが炊いたアズキママか、脂ののった生娘か、赤身の木こり野郎か、
鍋の中身はドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロ、
魚屋、肉屋、隣のカミさんもくんずほくれつ藁の中
どれが手なのか足なのか、みんな一緒に、くんずほくれつドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロ
街も役所も警察も貧民、富民もみんな一緒にドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロ
みんな一緒に鍋の中、みんなみ−んな真二つ、鍋の中には真二つ、辺りはみ−んな朱に染まる、
血の池地獄の鍋煮込み、みんなみんなまっぷたつ、みんな中では笑ってる、みんな同じまっぷたつ、みんな程よく溶け合ってドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロ
鍋を掻き回しているのは青鬼で、火を吹いているのは赤鬼で、
はしゃいでいるのは他の鬼、
中に入れてる大きなおたま、髪の毛絡んで重たそう、
ぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつ、舌も灼けそな、歯も落ちそな煮込み鍋、一口だけでは辞められぬ、
遠慮しないで冷めないうちに、腹いっぱいで眠いなら、あっちに寝床が設えて、冷めたら冷めたでお前も鍋に、足りないのならお前も鍋に、
みんなみ−んな真二つ、肉は鍋に服は火に入れる所は直ぐ近く
はなればなれにならんから、安心あんしんありがたや!
切れる包丁ありがたや!炎で焚きあげありがたや!。」よだれを垂らしてそれが糸を引きながら風に靡かせて踊り狂っていました。
「こ、これ!そうでち!これでち!」全員が手を叩いてその乱入した餓鬼と一緒に歌を合唱して踊り狂いました。
全員の賛成の叫び声が響き渡りました。
「満場一致でこのがきんちょを最優秀賞をあげまち!。」決まったようでした。
「ねえ、パトラッシュ、落ちちゃった。」ネロは犬に抱き着こうとしました。でも犬はそう度々引っ掛かる訳ではありませんでした。瞬時にとんぼを切って逃げました。
「ぐおん!」{おめえの才能は地獄以外ぢゃ駄目だぜぃ!}
「そうか、慰めてくれるんだね!ありがとう!。」信じられない跳躍をして犬を握り絞めました。
「け〜っけっけっけっけっ、ぐほっ。」犬は絞め落とされました。
村の人達はおぢいさんが居なくなったのを何とも思っていませんでした。
川柳にありました、電話ない 行ってみたなら 溜め新聞、
溜め新聞 六日前から そのまんま、
そのまんま 中から臭い 腐乱かな?、
腐乱かな? 警察立会 扉開け、
扉開け 開けてびっくり 蛆の山、
蛆の山 法医の先生 苦笑い、
苦笑い 身寄りも遺族も 探せない、
探せない 福祉役員 焼香する、
臭いする きっと中では 腐ってる、
徴収を 収めないのが 大手振り。
人からはそんな事位にしか思われていないのでしょう。
ここの所ネロは何だか熱っぽく、風景が攀じれて見える時があります。何だかやる気が起きません。おぢいさんが絵になってしまってからは食事も満足に取る気分になれませんでした。
ネロは急に扉の外が気になりました。突然戸を開けました。
「おめ〜な〜何しやがったんだ〜。」おぢいさんが前輪で半分潰れた状態でぐちょぐちょどろ〜んとして立っていました。でも丸まって転がっているのは両輪で潰されて絵になったおぢいさんです。
ネロは慌てて扉を閉めました。でも気になって仕方がなかったのでゆっくりと戸を開けて見ました。
外では壁にコップをあてがって腰を曲げて聞き耳を立てているおぢいさんがありました。血液やら体液がじゅくじゅく染み出して地面を汚していました。漏れた脳味噌を汗でも拭うようにしてまた元の場所に戻しました。
「お、おぢいさん!。」ネロが叫びました。
「わ!おめ〜な〜!潰しやがったな!。」おぢいさんが叫びました。
その時、布教のためやってきたう゛っ教徒の一団がやってきました。ウチワ太鼓を叩きながら、褌一つで身体中の毛という毛を残らず剃っていました。
「ちわ〜っす!う゛っきょういりまへんか〜?あの〜托鉢の途中なんですけど、いいですよね?。」ムキムキな親方らしいのが身体全体を油で磨いて光っていました。
ネロは首を縦に上から下まで覗くつもりで動かしました。
「あ〜賛成してくれるんですね!私達の主旨に!全員掛かれ!。」手だけで合図すると托鉢するために家の中へ飛び込んでいきました。
「わ〜何を!。」それだけ言ったところで仁王像の様な腕がネロの鳩尾にめり込みました。
目が覚めると家も何もかも無くなっていました。おまけに半分潰れたおぢいさんまでも持っていった様でした。
でも、隠しておいたロ−ドロ−ラ−は大丈夫でした。
「ぼ、ボクはビンセントヴァンゴッホみたいに頑張るんだ!。」
翌日には地面に猫、犬の芸術作品が散乱していました。今日のみんなの話題は重たい様な大きなモノが高速で真夜中街の中を走り抜けたらしい事で、きっと宇宙人の襲来だと噂にまでなってしまいました。
やたらに今日のネロは楽しそうです。栄養状態が悪いのでスピロヘ−タがとうとう頭まで昇ったようです。
夜の街を題材を探していました。その時後ろから肩を叩かれました。慌てて後ろを振り向くと村長の娘が立っていました。手には火の点いたパイプを持っていました。でも臭いが少し変です。
「えへへへへえ!?ネエ〜ロオぢゃない?ど−すぃたぁのぉ。いへへ?。」何からりらりらりしていました。
「い、いえ、な、何でもありません。」ネロは逃げようとしました。
「あ〜前のことね〜。売ってるの!自分を!。うっ。」啜り泣きをしました。
「な〜んちゃって!。」きゃっきゃきゃっきゃ笑いながらネロの回りを跳びはねました。跳ねてゴム製品が飛び出ました。
「そうそう、私ねえ売ってきた帰りなの、そのお金でこれかっちゃった!」前回とは違う怪しげな臭いのする煙草をネロの鼻先に近づけてそれを思いきり鼻に押し当てました。赤い火の玉が鼻の穴に吸い込まれました。
鈍いモノが灼け焦げる音と臭いがしました。でもネロは痛覚が麻痺していて感じませんでした。
殴る蹴る病気に犯された頭には痛覚が存在しなくなっているのでした。
「それでね〜、今日は。」その次は
グショッ。
ロ−ドロ−ラ−が少女の背後から前方へ走り去りました。芸術作品が出現しました。題名は後ろ向きのいまどきの少女、です。
「を〜!げ−じつゲイ術!うをふぉふぉふぉふぉふぉ!。」目覚めてしまったネロは興奮状態でした。「ボ−クはま−ちのゲ−ジツ家〜あ−はっはっはっはへへへへへへへへへひひひひひひひひひひけけけけけけけけ!。」完全にイッてました。ネロには完全な多幸感の嵐が襲っていました。唯一、自分に声を掛けてくれる村長の娘を題材として瞬間を捕えた芸術の極にある状態にすることができたのでした。
次の朝、村長の娘の事で話題が持ちきりでした。
ネロは自分の作ったゲ−ジツ作品が高く評価されているのに自信を覚えました。
次は一番思い出になっている駐在さんと、建物をゲ−ジツにすることにしました。
「ボクは思い出の瞬間をそのまま永遠に止めて置きたいんだ!。」ペダルを思いきり踏み込みました。犬は蒼ざめています。目盛りは百を越えていました。速い早いはやい!。凄い勢いで奔ってゆきました。
メキメキグショッ!簡単に建物自体が粉砕されました。跡形もなく単なる平たい地べたがそこには存在しただけでした。
「あら〜?ど−したんだろう。人だったら綺麗になったのに。」ネロは綺麗に跡形が完全消滅して地面に変化してしまったその場所を見ました。
ヘリコプタ−の音がしました。ネロは慌てて隠れました。自分は匿名で芸術作品を街に陳列したかっただけなのです。
「あ!ここにあったでちねえ!完全粉砕圧縮清掃加工破壊物隠蔽型戦車の試作品がこんな所にあったでち!回収するでち!。アメリカ軍への納期に遅れたらマグロ漁船一航海2年間下働きでち!」そんな声が聞こえてヘリがフックをかけて持ち上げて行ってしまいました。
「うわあああ!ボクの表現方法が!えへへへっへ!。」持ち上げられたそれに飛び着きましたが体力が完全に無いので空中で手を放してしまいました。
グシャ!肥だめに突き刺さってしまいました。上が硬かったのであまり飛び散らないで辺りを汚しませんでした。
犬はそれを見てあまりの恐ろしさに大きな漬物石をその中へ投げ込みました。
「…」{く来るな!来るんぢゃねぇ!}どぶんどぶん後ろ足で蹴り込みました。
数時間後、体力が完全に消耗して肋骨が肺に突き刺さって咳き込んで血を吐きながら折れた足で汚れたくっさ〜い身体で匍匐前進しながら教会へ向かいました。
その時運悪く、戸締まりを忘れていました。
ネロはどろどろの身体で蛇のように開いていた戸から入りました。白い建物に汚いよごれが着きました。
「う、うわあ!こ、これが地獄絵だあ!よ、よかった、こ、この目で見ることが出来た。ねえ、パトラッシュ、ボクはこの目で見ることが出来たんだよ。」教会の回りの風景画を星灯かりで見てそう叫びました。
「ぐおん!」{蓄膿症の警察犬だろうともかげるぜ!どう見ても単なる風景画だぜ!}
「ね、ねえ、パトラッシュ。」「ぐえ〜!」犬はあまりの臭さに吐き戻しました。
「あ、駄目ぢゃねえか!。けちな奉信者が!金を納めねえといけないんだぞ!。」ちょっと足りない管理人が棒切れで突いてぐったりとしたネロを外に出しました。
どんつくどんつくどんどんつくつくどんつくどんつくどんどんつくつくどんつくどんつくどんどんつくつくどんつくどんつくどんどんつくつくどんつくどんつくどんどんつくつくどんつくどんつくどんどんつくつく。音が迫ってきました。真っ暗な闇の中から何かの一団が迫ってきました。
「う゛っきょういかがっすか!これはネロさん!を〜身体まで投げだしてくれるんですか!掛かれ!。」手で合図してネロを運びました。
全員が歌いだしました。
「壁の回りは鬼だらけ、自分の回りは鬼だらけ、ドロドロドロドロ踊っていたよ、鬼やらケモノ、魑魅魍魎、尻ふり乳ふり頭ふり、身体ふりふりしゃしゃり出て、ドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロに
今日の御飯は何だろか、骨まで食べれる赤子の肉か、それとも皮まで堅いババアが炊いたアズキママか、脂ののった生娘か、赤身の木こり野郎か、
鍋の中身はドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロ、
魚屋、肉屋、隣のカミさんもくんずほくれつ藁の中
どれが手なのか足なのか、みんな一緒に、くんずほくれつドロドロドロ
街も役所も警察も貧民、富民もみんな一緒にドロドロドロドロドロドロ
みんな一緒に鍋の中、みんなみ−んな真二つ、鍋の中には真二つ、
辺りはみ−んな朱に染まる、
血の池地獄の鍋煮込み、みんなみんなまっぷたつ、みんな中では笑ってる、みんな同じまっぷたつ、みんな程よく溶け合ってドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロ
鍋を掻き回しているのは青鬼で、火を吹いているのは赤鬼で、はしゃいでいるのは他の鬼、
中に入れてる大きなおたま、髪の毛絡んで重たそう、
ぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつ、舌も灼けそな、歯も落ちそな煮込み鍋、一口だけでは辞められぬ、
遠慮しないで冷めないうちに、腹いっぱいで眠いなら、あっちに寝床が設えて、冷めたら冷めたでお前も鍋に、足りないのならお前も鍋に、
みんなみ−んな真二つ、肉は鍋に服は火に入れる所は直ぐ近く
はなればなれにならんから、安心あんしんありがたや!切れる包丁ありがたや!炎で焚きあげありがたや!。今日の御飯は闇鍋よ!今日のお客はネロさんだ!。」
ぼ、ボクはまだ生きているし、う゛っきょうぢゃないんだ!力が抜けていく身体で、意識が抜けていく身体でそう叫ぼうとしました。
めしめし、ぶちッ!、空中でそれも相当高いところから何かがそれも巨大なモノが落ちてきました。
ぷちっ。例のロ−ドロ−ラ−が筋肉宗教集団とネロの上に降ってきました。
見事にネロも芸術になりました。
「わ〜納期が!」暗い夜空にその声だけ響き渡りました。
よかった良かった!。
(完)