THE SANDMAN: Worlds' End
(1994 Vertigo / DC Comics)

「世界の果て」に建つ宿屋Worlds' Endに嵐を避けるために集まった旅人達が、嵐が過ぎるまでの間の時間潰しに、順番に物語を語っていくという、チョーサーの「カンタベリー物語」に習った形式の短編集です。

Worlds' End: Sequences at the Inn
職場の同僚のシャーレーンと共に車でシカゴに向かう途中、6月なのに突然降り始めた雪の中、路上に跳び出してきた見たこともない巨大な動物を避けようとして、ブラントは事故を起こしてしまう。
雪の中を傷ついたシャーレーンを抱えてさまようブラントは、言葉を話すハリネズミの導きで、闇の中にぽつんと建つ一軒の宿屋にたどり着く。 そのWorlds' Endという名の宿屋にはさまざまな場所、時間、世界から、多くの旅人達がこの時空を揺るがす嵐、リアリティー・ストームを逃れて集まっていた。
意識を取り戻したシャーレーンと共にブラントは、嵐が過ぎるまでの時間を、ケンタウロス、フェアリーといった不可思議な旅人達と、順に互いの物語を語りながら過ごすことになる。

A Tale of Two Cities
「…おそらく都市とは生き物なのだろう。都市は結局それぞれのパーソナリティを持っているのだ。…だから都市がパーソナリティを持つとしたら、魂だって持っているかもしれない。夢を見るのかもしれない…」
自分の住む巨大な都市が見る夢の中に迷い込み捕らわれた男の話。
ゲイマンがラブクラフトに影響されて書いたというだけあって、コズミック・ホラー的な色合いもある、幻想文学風の地味に怖い話です。

Cluracan's Tale
女王の命により妖精界の大使として派遣されたクルラカンが語る物語。
かつてはその世界で最も栄えた都市のひとつであったオーレリアは、政治と宗教権力を一手に握る堕落した皇帝により荒れ果てていた。他の大使達の面前で皇帝を侮辱したクルラカンは妖精の魔力をうばう鉄の鎖につながれ、地下牢に捕らわれてしまうが…。

Hob's Leviathan
ジムと名乗る19世紀末の船乗りの若者が語る物語。
13歳で家を飛び出し船乗りとなったジムは、ボンベイからリバプールに向かう商船シー・ウイッチ号に乗り込むことになる。そしてその船にはホブ・ガドリングと名乗る不思議な男も乗船しており、ジムはホブ担当のボーイとなった。
やがてシー・ウイッチ号は大洋の真ん中で伝説の驚異に遭遇することになる。

The Golden Boy
別の歴史をたどったアメリカからやって来た中国人風の男が語る、国民の理想を具現化したような資質をそなえて生まれ、18歳でアメリカ合衆国大統領となった若者、プレッツ・リッカードの物語。
彼は在任中にアメリカが抱える難問を次々と解決し、やがて任期が終わりホワイトハウスを去るが…。
多重世界のアメリカを舞台に70年代アメリカン・ドリームへの郷愁も込められた寓話。ゲイマンが政治的なテーマを物語に持ち込むのはめずらしい。

Cerements
死者達を葬り弔うことを専業とする都市、ネクロポリス・リサージュからやって来た若者ペトレファクスが語る物語。
大学の授業中、新しい土地、新しい世界を旅したいと夢想していたペトレファクスは、教授から罰として、その日の夕方から山で行われる鳥葬を手伝いに行くことを命じられる。
すでに到着していた三人の男達を手伝い、鳥葬による遺体の処分が終わると、弔いの仕上げとして彼らは山中で一夜を明かすことになる。
そして火を囲みながら三人の男達は順に死者と弔いにまつわる不思議な話をペトレファクスに聞かせていく…。
この話中話の一部として、かつてエンドレス達の一人が死に、その弔いのために兄弟達がネクロポリスを訪れたことが語られます。

Worlds' End
旅人達の物語と共に時は進み、やがてリアリティー・ストームが最高潮に達した時、突然空の様子が一変する。そしてWorlds' Endの窓から旅人達が見たものは、音もなく夜空を進んでいく巨大な葬列の姿だった…。
いよいよクライマックスに入るサンドマンの物語の予告編といったところでしょうか。

(2004/04/28)