THE SANDMAN COMPANION
by Hy Bender (1999 Vertigo / DC Comics)

本のタイトル(日本語に訳すなら「サンドマンの手引き」?)が示すとおり、サンドマンシリーズ全75巻+αについて、ニール・ゲイマンへのインタビューを中心に構成されたオフィシャル解説書。ハードカヴァー274ページ。
ゲイマンの経歴やサンドマンシリーズを開始するまでのいきさつ、ゲイマンへのインタビューで明かされる物語の意図や設定の細部、エンドレスを始めとする魅力的なキャラクター達が生まれるまでのエピソードなどが満載の、サンドマンフアン必読の書です。

サンドマンを読んでいて驚かされるのが物語全体での整合性というか、事件や登場人物の伏線が数年前に書かれた一見関係ないようなエピソード中で既に張られていたりすることですが、その辺の苦労話や「カリオペー」でスランプに陥る作家を描いたゲイマン自身のスランプ対策。またデスのキャラクターは初期には男性だったけれども、一般に考えられる「死」のキャラクターの外見上の特徴を列挙していったらドリームそっくりになってしまったので、裏をかいて現在のデスのキャラクターができたという話など、非常に面白いエピソードが載っています。

またサンドマン本編についても、一度読んだときには気づかなかったような画面の隅っこに描かれたキャラクターの裏話までゲイマン自身が説明しているので、いちいち各ページを確認しながら読んだら倍楽しめました。倍時間がかかりましたが(笑)。"The Wake"でデスが赤い服を着ていた訳もわかったし。
個人的に一つ残念だったのは、結局「スカーフェイス」・アリアノーラの素性がはっきりしなかったこと。ぜひ彼女を巡るエピソードを書いて欲しいなあ。

当たり前ですがネタバレだらけなので、できればサンドマンシリーズを全部(少なくとも"The Kindly Ones"と"The Wake"は)読み終わった後で読むことをお奨めします。


第20話「ファサード」についてのインタビュー
(日本語版サンドマン5巻「ドリームカントリー」収録)

ハイ・ベンダー(以下、HB):
「ファサード」はどんなふうにして思いついたんだい?

ニール・ゲイマン(以下、NG):
あれは僕の頭に浮かんだいくつかのイメージから生まれたんだ。一つは堅くなってはがれ落ちた多くの顔と共に部屋で暮らす女のイメージ。その女は顔を灰皿として使っているんだ。僕はそのイメージを、本質的には自殺願望がありながら不死の人物、死にたいのにそれができない人物というアイデアと結びつけたんだよ。

HB: なんでその役としてエレメントガールを選んだのかな?

NG: エレメントガールは完全に忘れられたDCコミックのヒーローだった。彼女は、どんなチョイ役のキャラクターでもほとんど網羅している"Who's Who in the DC Universe book"にすら載っていなかったんだ。
ウラニア・ブラックウェルはDCコミックの歴史の狭間に落ち込んでしまっていたので、僕がカレンに電話して「エレメントガールを殺しちゃってもかまわないかな?」って聞いたら、カレンの答は「誰ですって?伝説のスーパーヒーローの一人なの?」(笑)。それからDCコミックの整合性管理担当者に確認して「いいわよ。必要なら彼女を殺しても問題ないわ」と言ったんだ。

HB: もしもっと知られているキャラクターだったら、そんな簡単にはいかなかったろうね。だけど、それだけが理由じゃないんだろ?

NG: もちろんだよ。僕は子供の頃読んだ「メタモルフォ」に登場したエレメントガールが好きで、よく覚えてたんだ。メタモルフォ自身は常に自己憐憫にひたっているフリークとして描かれていて、いつもこんなことばかり言ってるんだぜ。「彼女はオレを好きになったはずだ…オレがこんなに醜くさえなければ」(笑)。同時に彼は常にそういう態度から抜け出して、大抵は気高いスーパーヒーローらしく行動していたけどね。
僕は彼のネガティブな姿勢をもう一歩進めて、それを彼のかつての助手役に当てはめてみたらどうなるか考えてみた。もし彼女があんなにすばらしいスーパーパワーを持っているのに、アパートの一室にちぢこまっているとしたら?
また彼女が自分が宇宙で最もパワフルな存在であることを幸運なこととは思わずに、できるなら捨て去ってしまいたいおぞましいことだと考えているとしたら?そして毎月補償金の小切手を送ってくる電話の向こうの男だけが彼女と世界を結ぶ絆で、もし方法さえわかれば彼女は喜んで自殺するとしたらどうだろう?

HB: コリーン・ドランをペンシラーに選んだ理由は?

NG: コリーンの絵を見て、彼女が多くの違ったスタイルを持っていることに気がついたけれど、僕は彼女にはまだ使われていない多くの潜在能力があると思った。また彼女は表情による感情表現が非常に上手く、リアルな女性を描けたので、この話、簡単に言うなら部屋の中で孤独に生きる女の物語にはぴったりだと考えたんだ。
それに加えてマルコム・ジョーンズ3世は常に素晴らしいインカーだったけど、コリーンの絵には飛び抜けた仕事をしたよ。彼は彼女が鉛筆で描いたすべてのものを見事に表現したし、この話に必要な荒んでぼろぼろになった感じを付け加えたんだ。

HB: そのとおりだね。けれど、僕が話した中にはこのストーリー中の出来事が大嫌いだという人も何人かいたんだ。表面的な部分に限ってみると「ファサード」は自分がもうきれいじゃなくなったので自殺する女性の話としても読めるよね。

NG: あー、だけどこれは女性の美しさについての話じゃないよ。男性キャラクターの物語にだって簡単にできたんだ。
本当のところこの物語は、ただしり込みしているだけの人生を送っている人物についてのものなんだ。そいつには「君はめちゃくちゃカッコ良くてパワフルだ。何だってできるじゃないか。なのに君はワンルームのアパートに住んで、外に出るのを怖がってる」と言ってやりたいだろ。
けれどレイニーの見方からすると、彼女はもはやどう考えても人間とは言えない身体に閉じこめられているんだ。そしてマスクだらけの部屋でタバコをすってこれからの1万年を過ごさねばならないという予感に直面している。彼女にはそれから逃れる術がわからない…死ぬこと以外にはね。
自殺というエンディングには問題があるだろうか?多分そうかもしれない。僕個人はレイニーの解決法を正しいと思うのか?いや、そうは思わない。だけどそんなことはどうでもいいんだ。なぜならこのエンディングはこの物語の流れの中できちんと機能していると感じているからね。間違いないよ。

(2000/01/26)