サンドマン第5巻「ドリームカントリー」私的注釈

第1話:カリオペ
●5ページ目:ヘリコーン山はギリシャ神話でアポロとミューズ達の住処とされる山。
●6ページ目:ギリシャ神話でカリオペはゼウスとムネモシュネ(記憶の女神)の娘で叙事詩の女神。姉妹にクレイオ(歴史)、エウテルペ(叙情詩)、メルポメネ(悲劇)、テルプシコレ(合唱舞踏)、エラト(恋愛詩)、ポリュヒムニア(聖歌)、ウラニア(天文)、タレイア(喜劇)がいる。
●8ページ目:乱雑なマードックの仕事場のモデルはゲイマン自身の仕事場らしい。
●9ページ目:登場する3人の女神、メレテ(瞑想)、ムネメ(記憶)、アイオデ(頌歌)は9人のミューズ以前に詩の女神とされていた存在。カリオペが彼女らを「母」と呼んでいるのはそのため。
●10ページ目:ドリームとカリオペの間に生まれた息子、オルフェウスの物語は後に短編"The Song of Orpheus"で語られる。オルフェウスはドリーム自身の運命にも大きな影響を与えることになる。
●24ページ目:主人公のリチャード・マードックが真に開放されるのは最終話の"The Wake"でのこと。
 
第2話:千匹の猫の夢
いかにもダーク・ファンタジーっぽい小篇で、好きな話です。
小猫の飼い主達の様子からするとほぼ現代の話と思われますが、ドリームは1916年から1987年までロデリックとアレックスのバーガス親子によって幽閉されていたので、シャム猫がドリームと出会ったのはそれ以前ということになります。化け猫ですね(笑)。
夢が世界を変えてしまうという話には、アーシュラ・K・ルグィンの「天のろくろ」がありました。サンリオ以来、今も絶版なんでしょうか?
 
第3話:真夏の夜の夢
1564年に生まれたシェークスピアは1582年にアン・ハザウェイと結婚。1583年に長女スザンナ、1585年にハムネットとジュディスの双子が生まれる。サンドマン最終話"Tempest"は娘のスザンナをめぐる話。
●6ページ目:オベロンがドリームを「形象者」と呼んでいるが、原文は"Shaper"。これはドリームのラテン名"Morpheus"の英語への直訳。
●15ページ目:オベロンは非常に長身に描かれているが、元々のケルト神話ではフェアリーは長身痩躯が定番。ティンカー・ベルの様なフェアリーのイメージはキリスト教と土着宗教との混合の結果生じたものらしい。
●16ページ目:「契約は半分完了」。ドールズハウス第4章「運のいい男」(日本語版第4巻)の中でシェイクスピアは劇作家としての成功の代償としてドリームのために2本の劇を書く契約を交わした。もうひとつの劇「テンペスト」についてはサンドマンシリーズの最終話で語られます。
タイタニアがハムネットにリンゴをあげているが、妖精から贈り物をもらってしまうと妖精界に留まらなければならないという掟がある。ゲイマン原作による"Book of Magic"でも、タイタニアから放られた鍵を受け取ってしまった主人公ティモシー・ハンターはこの掟に縛られそうになるが、「世界卵」をタイタニアに贈り返すことによって、妖精界から帰ることができた。
 
第4話:ファサード
主人公のウラニア・"レイニー"・ブラックウェルは1967年にDCコミック"Metamorpho"10号に初登場したキャラクター。元秘密諜報部員だった彼女は「ラーの宝玉」と呼ばれる隕石が放つ放射線によりスーパー・ヒロイン、エレメンタル・ガールに変身した(シリーズの主人公レックス・メイソン=メタモルフォ(右図参照。ダサ…)も同じ)。エレメンタル・ガールは自分の身体を構成する元素や形を自由に変換する能力を持つ。しかしシリーズの人気は上がらず、エレメンタル・ガールはすぐに姿を消し"Metamorpho"も終了した。今回登場する昔の同僚、デラはゲイマンのオリジナルらしい。
それにしてもゲイマンはアメリカ人でも探すのに苦労するマイナー・キャラを使うのが好きですね。
●16ページ目:この時点ではまだアーティストによってデスの最終イメージが固定されていなくて、ドリンゲンバーグ版で描かれていた目の下の渦巻きメーキャップは無し。絶対あるほうがいい(笑)。
●18ページ目:「自殺に痛みはない…」という歌は映画「M*A*S*H」で流れていたもの。
●24ページ目:「またお会いしましょう」デスのキメ文句ですね。
●「ファサード」についてのゲイマンのコメントの訳は"Sandman Companion"のページに掲載してあります。

DC版"THE SANDMAN: DREAM COUNTRY"では、巻末にニール・ゲイマンによる"Calliope"のタイプ原稿(39ページ)が収録されています。ゲイマンとケリー・ジョーンズの書き込みも再現されていてなかなか面白いのですが、以前読んだインタビューの中でクリス・バチャロが「ゲイマンはアーティストに非常に細かく画面を指定してくると聞いていたので、ビビッた。」というようなことを答えていました。原稿の一部を訳してみると…
「8ページ:3コマ目
ここで我々は彼(マードック)の仕事場に降りてくる。1ページ目と同じ。彼はイスに座ってタバコをふかしていて、横にはワープロが置いてある。彼は満足している様に気だるい笑みを浮かべながら、その足を机の上に載せている。タバコの煙が上に向かって漂っている。彼は裸足で、ジーンズとシャツを着ているだけだ。」

これに参考資料としてゲイマン自身の仕事場の写真が貼付されている訳だから、確かになかなかのもの。

(1999/06/06, 06/28)
解説内容は以下のサイトからの情報を参考にしています。
Sandman FAQ
(http://www.holycow.com/dreaming/lore/sandfaq0.html)

Sandman Annotations
(http://theory.lcs.mit.edu/~wald/sandman-index.html)