YOU ARE HERE / WHY I HATE SATURN
by Kyle Baker (1990:WHY〜 1999:YOU〜 Vertigo/DC Comics)



個人的に1999年に読んだコミックのベストをあげるとすると、その候補の筆頭にあげられるのが、カイル・ベイカーによるこの2冊。以前、ダークホースから出た"Instant Piano"というアングラ系アンソロジーで見て以来、注目していたベイカーですが、やっとまとまった作品が読めた。

宝石強盗を繰り返すギャングの一員だったという過去を持つ主人公ノエルだが、現在は足を洗い、バイオレンスシーンが人気のイラストレーターとして成功、ニューヨークで暮らしている。そんな彼の元に、田舎の避暑地で知りあった純真無垢なフィアンセがやってくる。彼女はノエルの過去を全く知らない。必死にとりつくろおうとするノエルだが、そんな折りも折り、妻の死をノエルの責任と信じ、復讐を誓う殺人鬼が保釈され、二人の前に現れる…というのが"You are Here"のストーリー。
ストーリーは非常にシンプルだが、ベイカーの魅力はなんといってもそのキャラクターにある。伝統的なカトゥーン・キャラを現代的に洗練した感じの絵だが、とにかくその表情の豊かさがすばらしい。こんな絵が描けるようになりたいもんだ。また絵コンテ風にダイアローグや効果音を全てフレーム外に書くというスタイルもユニーク。いつかマネしたいなぁ(笑)。

逆に"Why I Hate Saturn"はシナリオに重点を置いた作品。ニューヨークに暮らすアングラ雑誌のコラムニスト、アンの元に突然妹が訪ねてくる。彼女は自分が土星のレーザー・アストロガールズの女王で、現在敵の追跡を受けていると言い出した…。モノクロのラフな絵で、いかにもアングラな雰囲気が伝わってくる作品だが、こちらの魅力はアンと別れたボーイフレンドのリックがクラブで交わす会話や彼女のモノローグ。僕の乏しい英語力でもそのカッコ良さは十分伝わってくる。

クラブのカウンターに座り、現代社会の男女関係を取り巻く状況についてひとしきり議論を交わした後でポツリとアンが言う。
「降参だわ、リック。男達がみんなあなたみたいだったらいいのに…。ところで新しい彼女とはうまくいってる?」
「わからないな。多分そうだと思うよ」
「ケンカしたの?」
「ケンカのしようもないさ。僕には始めっから彼女の言ってることなんて一言も判らないんだ。…どうして女はみんな君のようじゃないんだろう?」

オマケ:

"Instant Piano" vol.2に掲載された"Be an UNDERGROUND CARTOONIST!"(アングラマンガ家になろう!)という短編。
「貧乏がなんだ!君は芸術のために描いてるんだ!(金は悪魔のワナだ!)」「自分がいかに飲んだくれか、そして酔うと面白いヤツかを描け!(そうすればみんな君に酒をおごってくれるぜ!)」「自分と似たようなオタクがカワイイ女の子をゲットする話ばかり描きまくれ!(そうすりゃ自分そっくりのオタク野郎のとりまきが集まること請け合いだ!)」
…といった為になる教訓がいっぱい(笑)。

(1999/11/03)