SABRIEL, LIRAEL, ABHORSEN (OLD KINGDOM TRILOGY)
by Garth Nix (1995, 2001, 2003 HarperTrophy )

魔法原理が支配する国Old Kingdomと近代科学が支配する第一次大戦前後のイギリスをモデルとしたようなAncelstierreという、二つの国を舞台にしたファンタジーシリーズ三部作。
隣接するそれぞれの国では相手の国の基本原理は働かなくなるため、近代兵器が働かなくなる国境地帯を警備するAncelstierre側の兵士は銃で武装しながら同時に魔術師としての訓練を受けていたり、風がOld Kingdom側から吹いている時にはAncelstierreでも魔術の働きが強まるなどといった設定がユニークです。

第1部"SABRIEL"は、Old Kingdomでアブホーセンと呼ばれる死霊使いを父にもつ18才の娘、サブリエルが強力な死霊の虜になった父と王国を救うために、ただ一人王家の血筋を受け継ぐ王子と共に、現世によみがえろうとする死霊の王と戦うというストーリー。ストーリー構造自体は陳腐とさえ言えるくらいファンタジーの基本パターンをふまえたものですが、足下を流れる水が訪れるものを忘却の果てに押し流そうとする、7層からなる死の世界や、7種類のベルで死霊と戦うアブホーセンといった設定が物語を魅力的なものにしています。

第2部"LIRAEL"と第3部"ABHORSEN"は"SABRIEL"から約20年後のOld Kingdomが舞台となります。
物語の前半にあたる"LIRAEL"は、予知能力をもつクライアー族でありながら、成長しても予知能力に目覚めることができない疎外感に苦しむ孤児の少女リラエルが主人公。太古に封印された究極の破滅の存在が今解き放されようとしており、それを防ぐできるのは彼女だけだという予言を受けたリラエルは、親友である魔術犬とサブリエルの息子であり王子であるサメスと共に世界の破滅を阻止するための旅に出る。世界を救うための旅が同時にリラエル自身のアイデンティティーを求める旅でもあるという、第1部よりもさらにヤングアダルト性を強くしたストーリーです。
様々な苦難を乗り越えながら、リラエルが自分の出生の秘密と真の使命を知るところまでが第2部のお話。

第2部がキャラクターの成長の物語だったのに対して、第3部ではいよいよ強力な敵との直接対決となる、エンターテイメント性の強いストーリーになります。登場人物や世界観に絡んだ謎が全て解き明かされる結末については伏せますが、「主人公の成長とそれに伴う別れの喪失感とせつなさ」というヤングアダルトものの定石をふまえたラストシーンには分っていてもやはり泣けました。それぞれの登場人物達の前に開かれた明るい未来を予感させて終わるエピローグも、非常にさわやかな読後感を受けます。

シリーズは「サブリエル - 冥界の扉」、「ライラエル - 氷の迷宮」、「アブホーセン - 聖賢の絆」のタイトルで主婦の友社から翻訳が出ています。

また2005年に"Across the Wall"と題された、ガース・ニクスのファンタジー短編集が刊行されましたが、副題に"A Tale of the Abhorsen and Other Stories"とあるように、冒頭を「アブホーセン」の続編となる短篇が飾っています。

(2003/03/16, 2005/09/11増補)