BATMAN: The Long Halloween
by Jeph Loeb & Tim Sale (1998 DC Comics)

ストーリー:
ゴッサム・シティの裏社会を支配するマフィア組織「ローマン・エンパイア」の長、カーマイン・ファルコーネの甥の結婚式の夜、カーマインの犯罪の証拠をつかむため書斎に忍び込んだバットマンはキャットウーマンと鉢合わせする。
キャットウーマンの目的は不明ながら、ファルコーネ・ファミリーの裏帳簿を入手したバットマンは警察署長ジム・ゴードンと長年ファルコーネの犯罪を追及してきた地方検事ハーヴェイ・デントと共に、「我々は法を曲げるかもしれない。しかし決して法を破りはしない」という相互の誓いの元、カーマインを法の裁きの元に引きだすべく行動を開始した。
しかしハロウィーンの夜、カーマインの甥ジョニー・ビーティーが何者かに射殺されて事件は始まった。残されたものは22口径のピストルとサイレンサー代わりに使われたほ乳ビンの乳首、そしてハロウィーンのカボチャ頭。

依然その意図の知れないキャットウーマンからの情報により、バットマンとデントはファルコーネ・ファミリーが隠していた現金(ゴッサムシティバンクを利用してマネーロンダリングを試みたが、新頭取に就任したブルース・ウェインによって阻止された)を灰にして、ファルコーネに大きなダメージを与えたが、その報復にデントは自宅を爆破され、彼自身は奇跡的に無傷だったが妻ジルダは重傷を負うことになる。

ファルコーネとの関係は決して認めず、やがてファルコーネの力により保釈となった爆破実行犯達だったが、感謝祭の夜に彼らもまた全員射殺されてしまう。現場には銃と乳首と秋の収穫のデコレーション。こうしてバットマン達だけではなく暗黒街の帝王カーマイン・ファルコーネ、さらには「ゴッサムシティに狂人は二人いらない」とアーカム・アサイラムを逃走したジョーカーも加わり「ホリディ」と呼ばれることになった謎の殺人者の追跡が始まった。
しかしクリスマスの夜にカーマインの腹心ミロスが、そしてニューイヤー・イブにはカーマイン自身の息子アルバートが殺されていく…。


オリジナル・バットマンの編集者であったアーチー・グッドウィンの「『バットマン・イヤー・ワン』の世界を舞台にしたギャングものをフィルム・ノワールの雰囲気で再現させたい」という意図から始まった企画を、作者のジェフ・ローとティム・セイルが見事に実現しています。
特に「誰がホリディなのか?」という謎を中心に展開する、ローのハードボイルド・ミステリタッチのストーリー(最後の最後に用意された真犯人の意外さも含めて)がすばらしい。
ハーヴェイ・デントがトゥー・フェイスとなった過程を妻との関係なども含めて描いているあたりはアラン・ムーアの傑作「キリング・ジョーク」を思い出させますが、ローはあくまでエンターテイメント性を主眼において物語を進めています。
精神病院のガラス越しにカレンダーマンがホリディの「プロファイル」をバットマンに教えるあたりは明らかに「羊たちの沈黙」のレクター博士を意識しているし、クライマックスでは有名な悪役達が(あんまり意味もなく(^_^;)勢ぞろいするというサービスもあり。

また物語の中でブルース・ウェインとセリーナ・カイルの変態カップルもいい味だしてるんですが、普段あれだけ親密にしているのに、夜のビルの屋上で格闘しても相手の正体に気づかないというのは「キャッツアイ」以上の不自然さ(笑)。

キャットウーマンの動機がいまひとつはっきりしないし、純粋にミステリとして読んだ場合、最後の真犯人のつじつま合わせにやや難点が残る気もしますが、エンターテイメントとしてレベルの高い、370ページにおよぶ読みごたえ十分の大作です。翻訳希望。

最後になりましたがティム・セイルの絵もフランク・ミラー風(ダークナイトじゃなくSinCityの)でなかなかカッコ良いです。ただしキャットウーマンがややゴツ過ぎるのとヒゲがついてる点はマイナス。耳が丸かったらネズミ女だよ(笑)。

(2000/05/06; 2004/03/13)