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先日,そのショーに同じJICAプロジェクトチームのYさんと行ってきました。Yさんはモンテビデオにもう2年半滞在していてずっとショーを見たいと思っていたのですが,ショーが夜の11時頃から始まり3時頃に終わるので今まで誰も一緒に行ってくれなかったそうです。前述したように丁度私も見物したいと思っていたのでこれ幸いと2人で出かけました。「ベチョの家」があるところは下町で昔はもっとにぎわっていた所でしたが,現在は寂れて治安もあまりよくありません。Yさんは勿論自家用車をもっていますが,路上駐車は危険ということでタクシーで行きました。ウルグァイでは有名な店ですから運転手はその場所をよく知っています。夜10時半でしたがその辺りには人や車が全く通らず回りの家も真暗で気のせいか無気味に感じました。1カ所若者が4〜5人かたまっていましたがとても近づく気はしませんでした。
「ベチョの家」はなんの変哲もない普通の家屋でした。しかし,小さな扉をあけると中には既に数人の人がカウンターの前でタバコの煙を吐き出しながらお酒を飲んでいました。中は2階まで吹き抜けになっており,1,2階とも壁という壁には古い写真とかポスターなどがぎっしりと貼ってあります。当然ながらロドリゲスに関するものが圧倒的に多く,彼と一緒に写っている家の内部はまさに今のものと同じでした。もちろん,あれから内部を改造したのですが階段やカウンターの位置など基本的な構造は全く同じです。まさに何十年も前にロドリゲスがここでピアノを弾いていたのに間違いはありません。ポスターは何といってもラ・クンパルシータを中心とするリサイタルのポスターが一番多いようですが,興味があるのは大正時代の風俗を思い出すような幅広の帽子,長いドレスをまとい,カールした髪の毛をした女の人のポスターです。色も今みたいに鮮明ではなく同じ赤でも一寸違います。後日,このようなポスターを入手したくてフェリア(骨董市)を探索しました。フェリアには何のために使うのか理解できないもの,たとえば古い水道栓とか安物のビン,錆びた鉄筋,なかには誰が使ったかわからない入れ歯まであらゆるものを売っている店が沢山あるのですが欲しいポスターはとうとう見つかりませんでした。 さて,タンゴショーですが10時半からの予定が11時すぎから始まりました。お客は観光客としてメキシコから2名(男女),アルゼンティンから4名(男2,女2)それに日本の私どもだけであとの数名は地元の常連客のようでした。50畳位の部屋の壁ぎわに小さなテーブルと2コの椅子が7〜8組おいてあり,その机の上にお客の国の小さな国旗が立ててあるのでどこの国からきたか分かります。アルゼンティンのタンゴショーではピアノ,バンドネオン2名,ギター,バイオリン2名,バスからなるオルケスタが出演するのですが,ここではバンドネオンとギター各1名計2名で一寸がっかりしました。 ご存知の方も多いと思いますが,バンドネオンとは鍵盤のないボタン式の小型のアコーデオンでやや金属的な音を出す楽器で,ドイツの職人が作ったものが,何かのルートでアルゼンティンに伝えられと言われているようです。バンドネオンはタンゴの花形楽器です。和音を奏でることができ,メロディーも弾けるこのバンドネオンは,やがてギターの座をうばい,タンゴの主役楽器として成長していったのです。
バンドネオンが「ばけもの」(duende)や「悪魔」(diable)と呼ばわりされたり,不幸の象徴みたいに言われる理由はこんなところにあるのかもしれません。 バンドネオン演奏家というとアルゼンティンなどでもたびたび演奏したことのある日本人で藤沢嵐子と名を馳せた早川真平や京谷弘司などは有名です。
日本でもそうだと思いますが,このようなショーでは真打ちは最後の方にでます。ここでも,最初は司会者兼歌い手の若い男性,2番目に中年の男性がそれぞれ3〜4曲のタンゴを歌いました。前座といえども素晴らしい音声の持ち主でした。カップルによるタンゴのダンスが2〜3曲あり,その後,客の中で踊れる人は夫婦で踊ったりダンサーと踊ったり実に楽しそうでした。
2拍子とは,音楽的に言えば「1小節の中に2つの拍子(リズム)が存在するリズム形式」とでもいうことになるのでしょうが,もっと分かりやすく言うなら,今耳にするポピュラー音楽の元祖に当たるリズムだということです。 ミロンガとは,ヨーロッパで生まれたハバネラというリズムをベースに,ラテンアメリカ的な要素を強く加えたリズムで,「チャッチャ,チャッチャ」というとてもリズミカルなリズム形をしています。一度聴いたら忘れないそのリズムは,まさにラテンのリズムで,タンゴを単なる2ビートあるいは4ビートの音楽にとどまらせない多様性を音楽に与えています。タンゴでもミロンガをベースにした曲は多く存在します。有名なところでは「ミロンガ・センチメンタル」や「エル・エスキナーソ」などがミロンガベースの曲です。 「ラテン音楽」というと,サルサやマンボ,ルンバなどを思い浮かべるかと思いますが,これらはブラジルを中心に中南米の国々で広く演奏されているジャンルの音楽です。しかし,いわゆるアルゼンティンタンゴを中心としたタンゴという音楽は,どうもこのラテン音楽の中に入れていいものかどうなのか,迷ってしまうところが大いにあります。それというのも,タンゴの持つリズムの特色と,一般のラテン音楽が持つリズムの特色がかなり異なっているからなのです。 音楽としてのアルゼンチンタンゴより抜粋
翌日の夜,他のタンゴバーにも行きましたが,やはり最後に登場したのはこの体格のよい方でした。この方は私達のことを覚えていて握手を求めてきました。このバーは,店の名前はソロカバーナといって,セントロ(中心街)にあって昼間はおいしいコーヒーと軽食をだしている大きな店です。広さは「ベチョの家」の10倍以上あり舞台もあります。やはり吹き抜けの2階だてで,2階の三方から舞台を見ることができます。舞台の上には数個の椅子が置いてあったのでフルバンドのタンゴが聞けると楽しみにしていたのですが伴奏はやはりギターとバンドネオンの2人だけでした。
(1999年7月記)
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