ウルグァイのニャンドウ(ダチョウ)の飼育について



6月13日にウルグァイ第2の都市サルト市(Salto 人口約8万人)から北へ70km行ったところにあるニャンドウ(ダチョウ)の"BAT-IANA"飼育場を見学しました。
Salto
餌をついばむニャンドウ
ウルグァイでは郊外を車で走っていると牧場の牛や羊などに混じって時々野生のニャンドゥ(Ñandú 南米産ダチョウ)が餌をついばんでいるのを見かけることがあります。警戒心が強く車が止まったり,人が降りるとあっという間に遠くへ行ってしまいます。

ダチョウから生産される皮,肉,羽根および卵はすべて利用できるばかりでなくその質も高いこと,しかも食性が草食で飼料効率も高いことから,有望な家畜として,世界各国で注目され,最近日本でも沖縄から北海道まで各地に続々導入されて,農業関係者,食料関係者はいうに及ばず一般の人々にも,大変関心が高いとのことです。特に,英国で端を発したいわゆる“狂牛病”の発生以来,牛以外の肉でしかも牛に近い風味のダチョウの肉は世界的にも注目されてきました。

アメリカ,ヨーロッパ,オーストラリア,日本で飼育されているダチョウの多くはアフリカ産の大型ダチョウ(背丈2.5m)です。日本では南アフリカや北アメリカから雛で輸入されて繁殖されているようです。野生のニャンドウ(Rhea americana,Greater Rhea背丈約1.5m)はウルグァイのほかブラジル南部からパラグァイ,ボリビア,アルゼンティンと広範囲に見かけることができます。ペルー,ボリビア,チリやアルゼンティン南部にはさらに小さいレア(Lesser Rhea,背丈1.10m)がいます。今は各国とも野生のニャンドウやレアの捕獲は禁止しています。各牧場では牛や羊に害を与えることもなく,むしろヘビやネズミを食べてくれるので歓迎され,追い出したりすることもなく自然にまかされています。ニャンドウは減少動物としてその利用は人工飼育したものだけが認められています。ニャンドウの繁殖,飼育場はウルグァイで17ヶ所,ブラジルに4ヶ所とアルゼンティンに3ヶ所あるそうです。

ダチョウ(オーストリッチOstrich)の飼育の歴史は南アフリカで約250年前からはじまり,もっぱら英国王室やヨーロッパの上流貴族の間で帽子などの装飾用にもてはやされました。近年までアフリカ諸国は輸出を禁止していました。オーストリッチ皮革製品の独占が理由との憶測もあります。アメリカやオーストラリアでは10年前から爆発的に有力産業としてダチョウ牧場が増加しました。日本でダチョウの商業的な飼育がはじまったのは1990年にはいってからで,産業動物として認知されていないダチョウの飼育は,飼養管理技術を含め,生産物の加工,利用技術,生産物の消費予測等不透明なことが多くあり,多くの飼育者は試行錯誤で飼育しています。ウルグァイのニャンドウ飼育も同じような状況で成書もなく手探りでやってきたとのことです。

そこで"BAT-IANA"飼育場でニャンドウの生産ついて見学しながら聞き取ったことをもとに整理してみました。
Egg
ニャンドウの卵,鶏の卵の10個分

《人工孵化》
自然に生育しているニャンドウが10月中旬から2月初旬まで産卵するのに対して,人工飼育したものは8月から3月と長くなります。メスは18ヶ月から産卵しはじめ,初年度は20〜25個産卵しますが,翌年からは40〜50個生みます。ニャンドウの寿命は30年といわれていますが,約11年間は卵を産み続けるそうです。この飼育場では380羽の繁殖用メスが生む卵を毎日採取していますが,1998年は7000個採取し,1999年は12000個を予定しています。 ニャンドウの卵は平均600〜700g(大きさ139x92mm)で,アフリカダチョウの卵の平均が1.5kg(大きさ151x126mm)に比べて重さは約半分になります。500g以下のものは人工孵化には不向きで食用にまわし,卵の殻は未受精卵とともにエッグアートの材料に輸出されます。採取した卵は付着した糞などを取り除くために生ぬるい温水で洗いベビー用タオルで拭き,細菌などの胚への感染を予防します。人工孵卵器の温度は38℃,湿度は48%に設定して,3時間ごとに転卵します。3〜5日ごとに卵の重量を測定し,順調に発育していれば12〜14%まで減少するそうです。さらに1週間に一度は人工光線による検卵を行い,特にクチバシの位置を確認して上に向くように置きます。14日目で発育が確認できないものは処分してしまいます。孵化まで38日間かかりますが,35日目で保温された出産室に移します。厚い殻をヒナが口で穴をあけだすと人が手伝って10分くらいで出してやります。野生では12時間くらいかかるようです。38.5日たってもヒヨコ自ら穴をあけないものは人が殻を割ってやります。孵化後は臍にあたる部分をヨードチンキなどで1日3回消毒します。
Egg
孵卵器に入れられた卵の中では
胚が日ごとに発育し誕生を待つ

《ヒヨコの時期》
40日目くらいまでのヒヨコの時期は自分で温度をコントロールできないので28〜32℃に保温用の電球などを使い保温してやります。はじめの40日で20%位が死亡します。孵化率は普通は80%ですので,100個の卵から60羽生育するのを目安としています。1998年は孵化率が90%と好調でした。孵化後3日間は水も餌もいりません。餌付けには一工夫が必要です。ダチョウの仲間は好奇心が強いので餌のなかにキラキラ光るものをいれると餌を突っつきはじめるヒヨコがいます。これにつられてほかのヒヨコも食べるようになります。

《保育期》
孵化後40日後で800gくらいで屋外に日よけがあり,夜は簡単な小屋のあるところに200羽単位で移し,保育します。餌は体重の8%くらいを目途にやります。餌をやり過ぎると足が体重を支えられなくなりO脚になってしまいます。2ヶ月半くらいで10kgになり3ヶ月後には体重別に何種類かに分けて飼育場に移します。2ヶ月でオス、メスの鑑定ができるようになります。

《飼育期から成鳥へ》
ほぼ体重別に200羽単位で,この時期からは完全な屋外で飼育します。餌は6ヶ月までの発育用,肥育用,さらに成鳥の繁殖用の餌などを自家用に調整したぺレット状の餌に青刈りの牧草などをやります。
4ヶ月で15kg位になりこの頃から駆虫剤やフィラリア予防薬を定期的に投与します。
繁殖用に残すものと肥育用とに選別します。管理は6名の従業員でやっており,現在は2600羽がいますが,最盛期は4600羽いました。肥育用はオス,メスともに出荷時は40kgおよそ14ヶ月を目標にします。
繁殖用のパドックは見ることができませんでしたが,オス2羽にメス5羽で1家族を構成します。

《ニャンドウの活用》
1羽のニャンドウを育てる経費は人工孵化,飼育から屠場での処理まで約125ドルかかります。餌代は70ドルです。肉の値段は1kgで17ドルで,14kgとれます。生の皮は50ドル,すね(脚)の皮は2本で50ドルです。羽根は長い羽根などあわせて20ドル,その他油や肝臓,心臓などをすべてを合わすとおおよそ500ドルになるそうです。肉質は牛肉に似た赤身で柔らかく,低脂肪,良質低コレステロール,低カロリーといいことづくめです。一部がウルグァイの大統領官邸用やプンタデルエステの高級ホテルに納入されるほか,ほとんどがヨーロッパなどへ輸出されています。
皮は塩水に漬けたのち冷凍されてフランスやイタリアに輸出され,加工されます。オーストリッチ革として,ハンドバッグ,帽子やブーツなどの高級品になります。

羽根はこれまで帽子などの装飾用のほか,長い羽根はほとんどがリオデジャネイロなどで行われるカーニバルの踊り子さんの飾りに利用されていました。最近は短い羽根はコンピュータなどの小さなハタキ(ダスター)に用いられています。静電気が発生しにくく重宝されています。飼育中のニャンドウの長い羽根は鋏で切り取って利用され,また翌年も生え変わり利用されます。マツ毛は筆の材料になります。

《医療や医薬品へ》
ダチョウの仲間の足の腱は長く,強靭なので人の腱の代用に利用されています。角膜を利用する研究や脳で生産する物質がアルツハイマー病や他の痴呆症に有効かどうかも研究がなされています。脂肪は化粧品の材料として使われています。
Nandu
ラクダのように第3のまぶた瞬膜があり,マツ毛は
長く筆の材料に,人への角膜移植も研究中です

《産業的利用と将来性》
ダチョウの産業的な面を考えると,家畜としての特性は,生育,繁殖性が非常に高いことが注目されます。飼料効率もアフリカダチョウで牛の5対1に対して,2対1と優れています。草食性で敢えて穀物飼料,濃厚飼料を与える必要がなく,チモシー,ルーサンやアルファルファーなどの牧草で十分だそうです。

人工飼育したニャンドウはおとなしく人にすりよってきたりします。4ヶ月でほとんど鳴かなくなり喧嘩などはほとんどしません。また,糞はやや水分を含んでいますが,鶏のような強い臭いはありません。ダチョウの仲間は腸が長く完全消化されていくので臭いがないとのことです。さらに,"BAT-IANA"飼育場では気になるようなハエの発生もなく養鶏場や養豚場とは違い,静かでさわやかな感じを受けました。

世界的に畜産用に飼育されているダチョウ(Ostrich) の品種はアフリカン・ブラック(家畜用改良種),ブルー・ネック(南アフリカダチョウ),レッド・ネック(北アフリカダチョウ)が主なものです。ここに紹介したニャンドウとアフリカ系のダチョウと飼育条件や経済効果などを比較したものは見当たりません。大きさの点などを考慮すると日本の飼養環境ではニャンドウも検討する価値があるように思いました。カナダやイギリスでこのニャンドウはアフリカ系のダチョウと同じような長所を備えながら,サイズが小さく,扱いやすいうえに,経費も余りかからないことを挙げて,飼育しているところがあります。また,危険動物として分類されていないことも強調しています。 パンパの鶏と称しています。
Nandu
たくさんいても静かで糞の臭いも感じない

1997年日本家禽学会秋季大会で「シンポジュウム “ダチョウは家畜になれるか”」のなかで「ダチョウ産業が日本に創出され,定着することになれば,水田の減反により耕作が放棄された水田の有効活用(水田はよいダチョウ飼育場になり,ダチョウの飼料の生産の場になる)になり,輸入飼料に依存しない畜産物の生産が可能になる。また,消費者にとっては消費財の選択肢を広げることになり,より豊かな消費生活を保証することになる。」と提案されています。

今後の日本における産業動物としてのダチョウのなかに南米のニャンドウとりわけウルグァイ産が加わり,日本で会えることを期待します。

以上


(井上忠恕,1999/6/20記)

追加情報:日本のダチョウ(アフリカン・ブラックー家畜用改良種)の飼養頭羽数(農林水産省畜産局家畜生産課2000年7月現在)


主な関連リンクサイト
  1. ダチョウ王国へようこそ! !
  2. 世界最大の鳥だちょうについて
  3. (有)日本エミュ(Japan Emu Co., Ltd.)

 

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Last update:June 20, 1999