オットセイの繁殖地ロボス島(Isla de Lobos)と
海洋動物救助のボランティアグループ

(Last updated 1 April, 2000)

柏崎 佳人:

国際協力事業団ウルグァイ獣医研究所強化計画長期専門家

(派遣期間:99年3〜)


モンテビデオからラプラタ河沿いに東へ約140キロ,一時間半ほど車を走らせると南米でも有数のリゾート地,プンタ・デル・エステ(Punta del Este)に到着します(地図参照)。お金持ちのアルゼンチニアンの豪華な別荘が建ち並び,ほとんどアルゼンティンの領土と化しているこの街の大西洋の沖合い,10km程のところにロボス島(Isla de Lobos)が浮かんでいます。イギリス軍の侵略時(1806年)には多くの囚人が水も食料もないこの島に連れてこられたそうです。現在ではオットセイとトドの繁殖地として知られており,農牧省と海軍によって保護,管理されています。
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港の桟橋でさばき,捨てられる魚を
目当ての大きなトドを囲む人々
島には駐在するスタッフの宿泊施設と南米で2番目に高い燈台の他には特別な施設はなく,約30万頭のオットセイがこの小さな島を中心に点在するさらに小さい島や岩礁地帯の海岸沿いに棲んでいます。

この島へ渡るには,認可を受けたPunta del Esteの旅行会社の船をチャーターする以外に方法がありません。島に人が上陸するにはいろいろの制限があります。1日に上陸できる人数が決めてあり,出産シーズンなどは神経質になっている動物を驚かせないように上陸は禁止されます。その様な時の見物は船から島を一周しながらになります。 週末はかなり混み合うそうで私たちも事前に予約を入れ,当日は約10人程のグループで出かけました。港の桟橋のまわりにも漁船から捨てられる魚を目当てにオットセイや大きなトドがうろついており,こんな町中の港でも野生の海洋動物が見られるのかと少々驚きました。 船が港を出ると島はもうすぐ近くに見えるのですが,思ったよりも遠いらしく約一時間ほど大西洋の荒波にゆられてようやく到着しました。島の桟橋のまわりの磯には所狭しとオットセイが寝そべっており,海の中からも沢山の大きなつぶらな瞳が突然の来訪者を見つめていました。波が高くて船が桟橋に直接は接岸できず,いったんゴムボートに移ってからの上陸となりました。
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大西洋に浮かぶ灯台のあるロボス島(Isla de Lobos)

島のほとんどは繁殖保護地になっているため,自由に散策できるわけではありません。駐在するスタッフのひとりに付き添われ,桟橋に隣接する浜で観察後,燈台の展望デッキから観察しました。オットセイのメスとオスではその生息地に棲み分けがされているようで,桟橋の左側の磯には主にメスと子供達が陣取り,右側の浜にはオスが群れていました。背景にはPunta del Esteのリゾートマンションのビル群が眺められ,あんなに人の賑やかなリゾート地の近くでもこんなに沢山の動物が繁殖できるのかと感心しました。燈台の上からは島の全体が見渡せます。島の中は何もない荒れ地ですが,海岸には無数の黒い固まりが寝そべっており,海の中でもうごめいているのが観察できました。トドはPunta del Esteの港で見かけ,その大きさに圧倒されたものの,ここではすさまじい数のオットセイに目を奪われドドがどこにいるかわかりませんでした。

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ロボス島から眺められるPunta del Esteの
リゾートマンション群
海洋哺乳動物鰭脚類の基礎知識

さてここで鰭脚(あしひれ)を持つ海洋哺乳動物についておさらいをしておきたいと思います。いったいどの位の人がアシカとオットセイとアザラシとトドとセイウチの違いを説明できるでしょうか。これらの海洋哺乳動物は鰭脚上科(superfamily Pinnipedia)に属し,更に3つのグループ(family)に分類されます。ひとつめはアシカの仲間(family Otariidae)です。英語でeared sealsと言われるとおり,外部に突き出た耳を持っています。アシカとはこのグループの総称名らしく(筆者の推測で,定かではありませんのであしからず),オットセイ(fur seals)とトド(sea lions)がこのグループの主役達です。次のグループはいわゆるアザラシで,英語名はtrue sealsですからほんまもんのアザラシ達がここに属します。ウルグアイの近くのアルゼンティンに生息する非常に大きなゾウアザラシもこのグループの一員で,外部から耳が見えないのが特徴です。第三のグループはセイウチ(walruses)の仲間です。やはり外部に耳を持たないのですが,大きな牙があるのが他の2グループと異なる特徴です。この他に泳ぎ方にもグループによって違いが見られます。主な特徴を次の表にまとめたので,脳の記憶領域に余剰のある方は頭の中にしまっていただいて,何かの機会に友達に自慢して下さい。

Order Carnivora, superfamily Pinnipedia
  アシカ

(オットセイ,トド等)

アザラシ セイウチ
英語名(学名) Eared seals(Otariidae) True seals(Phocidae) Walruses(Odobenidae)
外部の耳 あり なし なし
尻尾 小さいのがある 小さいのがある なし
なし なし あり
後ろの鰭(フリッパー) 前方に動かして歩くことが出来る 前方に動かせない 前方に動かして歩くことが出来る
前部フリッパー 体重をサポートできる 歩くときは腹部で跳びはねて進む 体重をサポートできる
泳ぎ方 主に前部フリッパーで推進力をうむ 後部フリッパーを左右に回す 主に後部フリッパーで推進力をうむ
(詳しくはhttp://ourworld.compuserve.com/homepages/jaap/Pinniped.htmを参照)

ウルグアイのオットセイとトド

このロボス島で繁殖しているオットセイの英名はSouth American fur seal(学名はArctocephalus australis)と言います。南アメリカの大西洋岸はブラジル南部からアルゼンティンの最南端,ティエラ諸島にかけて,太平洋岸はペルーのリマを北限に生息しています。その他にフォークランド諸島にも繁殖地がありますが,そこのオットセイは大陸側のとは少し異なる亜種だということです。オスはだいたい2メートル位まで成長し,体重は160キロ前後になります。一方メスはかなり小さく,体長は1.5メートルですが体重は50キロ程しかありません。子供は出産時で3キロから5キロ程度です。メスは3才で成熟しますが,オスは7年もかかります。妊娠率は82%,妊娠期間は1年,哺乳期間は6〜12ヶ月,寿命はまだわかっていないそうです。フォークランド諸島に2万頭程度がいるそうですが,やはり最大の繁殖地はこのロボス島で,30万頭前後が保護されています。
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親子で寝そべって
日向ぼっこのオットセイたち

トドは英語名をSouthern sea lionと言い,学名はOtaria byronia(又はOtaria flavescens ),生息地は大西洋岸で南緯23度(リオデジャネイロ近辺)以南,太平洋岸は南緯4度が北限です。オスは平均して体長2.6メートル,体重が300キロ,メスは体長2メートル,150キロにまで成長します。出産時の子供でさえ体長が80センチ,体重は10から15キロもあるそうです。やはりメスの方が成熟するのは早く4年間,オスは5〜6年かかります。妊娠期間は1年,哺乳期間は6〜12ヶ月,寿命は約20年です。オットセイと同じ地域に生息するものの,相互に干渉しあったり競合したりする事は稀で,共生関係が成り立っているとのこと,ロボス島でもうまく生活を共にしているのでしょう。少し古いのですが1982年の調査では南米全体で約30万頭が生息していると推定され,そのうちの10%(3万頭)程度がウルグアイにいるそうです。

ピリアポリスの海洋動物レスキュー・ボランティア

話は少々飛びますが,我々の仲間数人で時折釣りに出かけます。場所はPunta del Esteのひとつ手前のピリアポリスという若干小さめのリゾート地です。ここにも観光シーズンはブエノスアイレスからの高速フェリーが就航しており,なかなか落ち着いた良い雰囲気の街並みです。ここの桟橋から投げ釣りを楽しみに出かけるのですが,私には実際に釣果を楽しめるのは非常に稀で多くは餌代の元も取れずに帰路につきます。この付近は地理上はラプラタ河で,汽水域なのですが,風向きなどのせいか海水が入り込んでくるときもあります。従って,海の魚が釣れたり,河の魚が釣れるときもあります。そこにオットセイが餌の魚を追ってきたのか,釣り人の目前をゆうゆうと横切って行く姿を見ることもあります。そんなとある土曜日,いつもの桟橋で手応えが全くなく,場所を変えようと街からもう少し離れたところに良さそうな磯を見つけて糸を垂れました。しかしやはりここでも反応が無く,あきらめて竿を畳み帰路につきました。車を走らせて間もなく,ピリアポリスのビーチを通りかかったところ,何やら黒い二頭の物体が浜辺でじゃれあっているではないですか。後続車の迷惑も顧みずすぐに車を停めてビーチへ下りて行きました。その黒く蠢く物体の正体は子供のオットセイでした。最もその時はオットセイとアザラシの区別がつかずにアザラシだアザラシだと騒いだのですが。そのビーチの一角は,弱ったり,親にはぐれて死にかけている海洋動物を保護するボランティアグループの活動基地となっており,その二頭のベィビーオットセイも親にはぐれてさまよっていたところを救われて,そこで育てられているとの事でした。やはり近くのロボス島にあんなに大きなコロニーがあるのですから,何かしらの事故に遭ったり病気になったりしてはぐれてしまう子供も多い事でしょう。彼らはしばらく水の中でじゃれ合うように仲良く遊んでいたのですが,そのグループの人がオットセイの鳴き声をまねして呼ぶと,ちゃんと浜辺へ戻って来るではないですか。二頭は餌をもらってからしばらくは,見物に集まってきた人たちに愛嬌を振りまいていました。その他にも具合の悪そうな若いオットセイが一頭と,ペンギンが十数頭ばかり保護されていました。このあたりは南からの冷たいマゼラン海流の関係でラプラタ河に迷い込んでくるペンギンがいます。稀にクジラさえもモンテビデオあたりまで入り込んできて新聞やTVを賑わせます。空軍のヘリコプターがクジラの救出のため吊り上げ安全な海域まで移動させたこともありました。

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海洋動物レスキュー・
ボランティアの救護センター
それから数ヶ月後,もう一度その浜へ出かけてみました。いつも通りアタリさえも全くない釣果ゼロの典型的な日で,昼前に早々と竿を畳んであの二頭のベィビーオットセイのその後を見ようと思い立ったわけです。浜に降り立ってみたら,おやおやいるではないですか。あの時と変わりなく愛くるしい瞳をくるくるさせて餌をもらっていました。ところがあまり成長していない様子でしたので尋ねてみたところ,あの数ヶ月前にいた二頭はとっくの昔に野生に帰しており,このベィビーオットセイ達はつい最近保護された別のオットセイとのこと,ああそうかと納得した次第です。実はその時は全部で三頭の子供がおり,僕以上に食欲旺盛で何とか餌をもらおうと世話をしている方の後を追いかけて歩いていました。前回いた具合の悪そうな若いオットセイは,やはり同じところで同じように具合悪そうにしていました。その他にもう一頭病気の子供がいて,獣医なんだから看てみろと言われてこわごわ観察してみたところ,後ろのフリッパーが炎症か何かで腫れているのがわかりました。かといってどんな治療をしたら良いのかもわからず,体温を測ってもオットセイの正常体温が何度位なのかも知らず,無知は無害どころかそれ以下だなあと恥じ入った次第です。
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救護センターで給餌中の子供のオットセイ
そのボランティアグループの名前はRescates de Fauna Marina(海洋動物のレスキュー)で,中心になっている人はSr. Richard Tesore(リチャード・テソレ),かわいいベビーオットセイ達につきまとわれていたご本人です。餌代等にかかる経費はすべて自前で賄っているとの事,オットセイは一日にかなりの量の魚を食べるので大変だとこぼしていました。リチャードさんが5年前にこの活動を始めてから見よう見まねで海洋動物の世話をしてきたのだそうで,今でこそ経験から得た知識で何とかやっているが最初は大変だったそです。現在抱える問題点はやはり資金が足りない事と,情報(専門的な本や文献等)がなかなか手に入りにくい事だと言います。また活動する人にしても,土曜,日曜はそれなりにボランティアの人々が助けてくれるのだそうですが,平日はほとんどリチャードさんひとりで動物たちの面倒を見ているそうです。僕も獣医の端くれで小さい頃から海洋動物に興味があり,今でも機会があればその行動や繁殖に関する勉強をしてみたいと思っていたのでできればお手伝いをしたいのですが,ピリアポリスはモンテビデオから車で1時間半くらいかかるためになかなか平日に仕事が終わってから出かけるのは大変です。しかし何か別の形で,または資金集めや情報集めの点で,自分にも手伝える事があるのではないかと色々思案を巡らせてはいるものの,なかなか良い案も浮かんできていません。リチャードさんから戴いたセグロイルカの歯をいつでも目につく机の前に置いて,この事を忘れぬ様に心がけてはいるのですが。まあとりあえずはコミュニケーションのために,スペイン語の勉強にいそしむ事に致します。
(2000年3月記)

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豊富な餌の魚を探しながら戯れるオットセイたち



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