ウルグァイ国(正式国名:ウルグァイ東方共和国)への獣医研究所強化計画協力(平成8年10月1日―平成13年9月30日)へ平成8年10月1日に赴任してから,1年を過ぎ,その間研究所における自分の協力分野(ウイルス)の業務のみならず,野外視察を多数回実施してウルグァイの畜産の一端を見聞してきました。見聞してきたものを今後に漸次報告していくつもりですが,今回は当国の畜産の概要と現在実施中の獣医研究所強化計画を要約して紹介します。
ウルグァイ国の概要
ウルグァイ国は南半球の南緯30〜35度,西経53〜59度の間に位置し,アルゼンチンとブラジルに挟まれるようにして大西洋に面しています。国土の広さは約17万6千平方キロメートルで日本のおよそ半分です。
人口は約315万人(96年度調査)でスペイン系とイタリア系が主体ですが,インディオの割合はほぼ皆無です。夏期は12月から3月で気温は22〜30℃,平均23℃ですが,40℃を越える日もまれにあります。
冬期は6月から9月で気温は2〜13℃ですが,内陸部では0℃以下になることもあります。雨量は首都モンテビデオで年平均千ミリ程度です。国土を眺めますと岩山が約33%を占めますが,最高地点で海抜513メートルです。その他はなだらかな丘陵地帯で国土全体では平均海抜117メートルです。湿地帯が約5%あり米作に利用され,また,林業向きの地帯が約13%ある他は草原地帯が広がっています。土地利用形態(96年度統計)では約80%が自然草地で,改良及び施肥草地は約10%,残りは飼料作付け,果樹,野菜,人工造林等で占められています。ウルグァイはかつては戦争特需の恩恵で畜産物輸出により富を築き「南米のスイス」と呼ばれたこともありましたが,1955年以降の景気は下降気味となり80年代後半の国民一人あたりのGDPは日本の約12分の1でした。その後,経済は徐々に回復し1996年のGDPは約5900米国ドルに達しました。
畜産の概要
国の紋章には天秤,牛,馬とモンテビデオとよばれた丘から成る4つのシンボルが刻まれています。天秤は平等と正義を,牛は豊かさを,馬は自由を,丘は防御と力を表しています。牛と馬がシンボルであるように地勢の利を生かした牧畜業が発展してきましたが,近年の国内総生産ではサービス業がおよそ6割を占める一方で,農牧水産業は1割強と低下しています。しかしながら,輸出額の約8割は農牧産品と同加工品で占められ農牧国として位置づけられるでしょう。その畜産は牛と羊が主体で近年の飼育頭数では牛が一千万頭前後,羊は二千万頭前後(表ー1)です。畜産物輸出では牛肉と羊毛が主要産品で次に皮革及び皮革製品等があげられます。酪農部門も近年成長していますが,目立つほどには至っていません。
南米版カウボーイ(ガウチョ)
飼育品種をみますと肉牛ではヘレフォードが大部分を占め残りはアンガス及び交雑種です。乳牛では90%強をホルスタイン種が占め残りはジャージー種等です。羊はコリデール種が主体(約70%)で,その他はポールワース種とメリーノ種等です。飼育形態は大部分が自然草地での通年放牧で牛と羊の混放(牛1対羊3)が一般的にみられ,南米のカウボーイ(通称:ガウチョ)がその世話をしています。一方,フィードロット方式による肉牛肥育は一部で実施されているのみです。酪農における利用面積は平均150haで,その約半分は改良草地で残りが自然草地です。搾乳時にミルキングパーラが利用され配合飼料が与えられる以外は放牧されます。概観してこの国の畜産の特徴は,国土全体が大牧場といえる地勢を利用し,自然放牧を主体として肉牛,綿羊等の飼養が過去,現在そして未来にわたり可能であることです。さらに改良草地を増やしながら穀類に依存しない牧草中心の畜産を推進できる点が同国の強みです。生産面から眺めますと1996年における牛肉の総生産は約42万トンで,その内約21万トンが輸出され輸出総額は約3億米ドルに達し,また同年の主な輸出先(シェア別)はEU諸国(英,蘭,独,伊等)25%,ブラジル21%,米国19%,イスラエル17%,チリ4%,その他13%とされています。羊毛の1996年の輸出額は約3億5千万米ドルで最大の輸出先は中国です。
酪農家にはミルキングパーラーが普及

酪農では1996年の牛乳生産量が約10億リットルあり,その内約7億3千万リットルが加工用に供されています。一方,養豚は規模,頭数共に産業的にはマイナーです。養鶏業は90%近くが首都近郊に集中して,その中には種鶏場と養鶏場を一貫経営する大養鶏産業も数社出現していますが,牛や羊の地位には遠く及びません。しかし,鶏卵や鶏肉への需要増大により発展する可能性も否定できません。ウルグァイの国民一人あたりの近年の年間消費肉量は牛肉が70Kg前後で羊,豚及び鶏の各肉を総計すると100Kg前後です。馬の頭数は豚よりも多く一部は乗馬用としてEU諸国へ輸出され,また,馬肉がEU諸国の他に日本へも輸出されています。
馬も欧州に乗用馬として頻繁に輸出される
プロジェクト技術協力
畜産大国ウルグァイにおいて最大の脅威は口蹄疫でした。口蹄疫の撲滅を目指して財政,人力の大半を注いだ結果,1990年以降発生報告もなくなり,94年6月からはワクチン接種を中止し摘発淘汰法が布告され,95年からは米国にも牛肉を輸出できるようになり97年には日本もウルグァイを口蹄疫清浄国として承認するなど実りある成果が達成できた反面,他の家畜伝染病についての迅速かつ正確な診断技術及びその研究体制が立ち後れてしまいました。さらに近年の経済事情の悪化により自力で立て直すことが難しくなりウルグァイ政府は家畜衛生研究局に対する日本の技術協力を仰いできたしだいです。かような背景を表わすかのようにプロジェクトの表題も「獣医研究所強化計画」となりました。その協力分野と主要内容は以下のとおりです。
1. 分野:病理,細菌,ウイルス,生物資源。
2.主要内容
1) 病理:組織学的診断,マイコトキシン中毒の診断。
臨床病理:感染症に起因する繁殖障害,トキソプラズマ感染症の診断技術の改善。
2)
細菌:微生物感染症(特に抗酸菌感染症,ブルセラ病)の診断,繁殖障害の診断(特に,カンピロバクター,マイコプラズマ,トリコモナス,レプトスピラ)技術の改善。
3)ウイルス:口蹄疫以外の各家畜のウイルス感染症の診断技術の改善。
4)生物資源:マウス,モルモット,ウサギ等実験小動物の繁殖維持及び生産技術の向上。
プロジェクトサイトの獣医研究所の全景
プロジェクトサイトである家畜衛生研究局(DILAVE)はモンテビデオ郊外の国道8号線沿いに位置し,敷地は約300x400mです。1980年代後半に自力で建設したもので2階建て研究棟(60x12が2棟,病理部(21x28m),ウイルス部(19x13m),実験動物舎(12x21m),感染動物舎(12x21m)等があり付帯施設として職員食堂,研修生用の宿舎,倉庫,牛舎,綿羊舎,変電設備,自家発電機,ボイラー室等も備えています。職員は総計で約180名に登り技術スタッフは30代以上で協力分野のカウンターパート(C/P)は全員が共和国大学卒です。
C/Pの経歴によれば,ほぼ全員が欧州諸国,米国及び近隣諸国へ短期,長期にわたり留学,技術研修等の豊富な経験を有していますし,南北米諸国や欧州諸国と常日頃から交流してセミナー等が頻繁に衛生研究局で行われています。かようにプロジェクト目標達成にむけての人材等のベースは強固です。
しかし,ハードの面で既存の機器類の老朽化,器具類の不足,実験動物の維持体制の不備,さらに新しい診断技術実践に必要な機材等の欠如など多くの問題を抱えています。そのため,リーダー、調整員を含め計5人の長期専門家が派遣され,さらに2年間で1億円近くの機材供与が行われています。日本での研修も98年度までに5名のスタッフが受けています。いろいろな問題点が専門家により指摘され,今後もされていくと思われますが,目標に向い一歩一歩あゆんでいるところです。
以上
表―1 近年のウルグァイ国の主要家畜頭羽数