ウルグァイのエスタンシアについて
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大根田 智(栃木県宇都宮家畜保健衛生所)
(ウルグァイ獣医研究所強化計画専門家 派遣期間 1996年10月〜1998年9月)

ここウルグァイでは,単に「農場」といえば,米作でも畑作農場でもなく「肉牛農場;エスタンシア」をさします。(これに対して乳用牛農場は「タンボ」です。)エスタンシアはその規模により,「エスタンシア・グランデ」とか,「エスタンシア・チコ」と呼ばれます。それより小さい農場は特に「チャクラ」と言って区別していますが,この「チャクラ」には週末を過ごすための個人所有の小さな農場と言った意味合いもあるようです。エスタンシアについての表を参照してください。
ウルグァイにおける農場規模別家畜飼養頭数
(Uruguay DI.CD.SE調べ1996)
|
<500 |
500 <1000 |
1000 -<2500 |
2500 -<5000 |
5000=< |
(ha) | |
|
規模別戸数 |
42,207 |
4,140 |
2,905 |
765 |
210 |
戸 |
|
占有農地面積 |
4,567 |
2,919 |
4,452 |
2,588 |
1,546 |
千 ha |
|
うち自然草地 |
3,584 |
2,430 |
3,694 |
2,148 |
1,283 |
千 ha |
|
牛飼養頭数* |
3,329 |
1,919 |
2,844 |
1,627 |
893 |
千頭 |
|
羊飼養頭数 |
6,443 |
3,787 |
5,237 |
2,823 |
1,401 |
千頭 |
|
飼養頭数/ ha |
||||||
|
牛 |
0.73 |
0.66 |
0.64 |
0.63 |
0.58 |
頭 |
|
羊 |
1.41 |
1.30 |
1.18 |
1.10 |
0.91 |
頭 |
|
飼養頭数 /1戸 |
||||||
|
牛 |
79 |
464 |
979 |
2,127 |
4,254 |
頭 |
|
羊 |
153 |
915 |
1,803 |
3,690 |
6,670 |
頭 |
*:「牛」には乳用牛,肉用牛ともに含む
さて,ウルグァイの内陸部は,広大なパンパ草原を牧柵で区切った個人所有のエスタンシアが,行けども行けども続きます。その所有者は専業農家であったり,企業であったり,中央や地方の有力者などの上流階級の人たちであったりします。専業農家の場合は,肉牛の繁殖肥育のみでなくブリーダーを兼ねていたり複数の農場を家族が別個に管理していたりすることが多いようです。一方,上流階級の人たちの場合,週末や夏場の2-3ヶ月のバケーションをここに来て過ごすための優雅な別荘としても利用しています。
所有者はいずれであっても、エスタンシアでの家畜の世話は、実際は農場主に雇われた「ガウチョ」と呼ばれる誇り高いカーボーイ(牧童)たちが、住み込んで生活しながら作業にあたっています。こちらでは肉用牛はほとんどが丸3年(雌は4年)の「放し飼い」で、飼養管理といっても1-2ヶ月齢での去勢と焼烙(焼き印)、耳切り、脱角、ワクチン接種等の作業は、牧場の一角にある検査用のパドックに追い込み、1頭ずつ保定しながら行います。以前はお祭り行事(シェーラ)として、これらのすべてを1日で実施していったそうですが、今は牛へのストレスが多過ぎるとのことで、何回かに分けてやっているようです。
ところで、こちらで飼養される肉用牛がヘレホード種が主体なのは、脂肪ののらない赤身肉がウルグァイ人に好まれているためだそうで、この点、アンガス種が多い隣国のアルゼンチンとは少々異なるようです。品種改良や、肥育期間、増体重の調整についても、赤身肉の産肉性を重視しながら研究を進めているとのことですが、実際の農場では、自然草地の一部にイタリアンなどの直播き改良草地を設けて、肥育末期の数ヶ月を放ち、出荷に向けた増体(まさに単なる増体)のために食べさせる、といったこともやっているようです。
この1〜2年は、ウルグァイの内陸部では干ばつのため草生が悪く、種付けが遅れたり、肥育期間が平年に比べて延びてしまうなどかなりの打撃を受けているようです。
一方、エスタンシアでは例外なくといってよいほど羊を混牧飼養しており、実際のガウチョたちにとって、牛に手間がかからない分、これらの羊の世話が1日の仕事のようです。羊の飼養数が多いのは勿論、その食性から言ってもこまめな草地のローテーションが必要ですし、同じ品種(こちらではメルリン種―コリデールとメリノーの中間種―が一般的です。でも肉用、羊毛用、そしてその雌系、雄系といった具合に群別管理をしなければなりません。また、内・外部寄生虫駆除のために定期的な薬浴や駆虫も必須です。そして何よりも、羊はガウチョたちの毎日の食料となるのですから面倒を見るのは当然です。
このほか、エスタンシアの家畜として,すべての牧場に欠かせないもの,それは馬と犬です。各農場では使役用の馬を数頭から十数頭必ず飼っており,それはそれは大切に扱っています。馬はガウチョたちの通常の「足」であり,家畜集めの道具であって,都会の「車」以上の生活必需品です。マントを羽織ってこちら特有の「マテ茶」を片手に馬にまたがれば,ガウチョたちは何日も馬から下りることなくても大丈夫かもしれません。そして犬,主人の行くところにいつも足元にまとわりついている彼らは言うまでもなく,終日生活をともにする家族の一員です。もしかしたら犬を家畜というとガウチョたちからけげんな顔をされるかもしれません。
このようなエスタンシアの形態は過去100年以上にわたり変わることがなかったようです。そしてこれから何十年も同じような気がします。【畜産技術 ,1998年4月号,32-33(畜産技術協会)より転載)】