1999年大統領候補者の選挙



後藤信男:

国際協力事業団ウルグァイ獣医研究所強化計画短期専門家

(派遣期間:97年1〜7月,99年4〜6月)


4月はじめに1年10ヶ月ぶりにモンテビデオを再訪しました。あちらこちらに新しい中層のビルができてはいるものの,街の様子は以前と余り変わっていませんでした。しかし,何かの選挙の宣伝カーやビラ配りなどで騒がしく落ち着かない感じがしました。そこで,例によって森美津子嬢にいろいろこの国の政治や選挙のことを解説してもらいました。以下その概要です。因みに彼女は前回の訪ウの時は共和国大学の学生でしたが今も学生の身分です。この国では既に報告しましたように10年くらい在学するのは当たり前になっています。

今回の選挙は,今年の10月の最終日曜日(10月31日)に行われる予定の大統領(任期5年)の直接選挙のための各党の候補者を選ぶためのものです。ウルグァイは三権分立の共和国制でコロラド党(Colorado)とブランコ党(Nacional,国民党ともいう)という二大保守政党が,軍事政権時代(1976〜1985)を除き,それぞれ政権を取っています。ところが最近は拡大戦線党(Frente Amplio,Encuentro Progresistaともいう)という左翼的な党が都市部で勢力を伸ばしており,特に都市のモンテビデオではAranaという市長が前任のVazquezに続いてこの党から選出されるほどになっています。軍事政権から民主政権になって15年経ち,その間の歴代の大統領はコロラド党のSanguinetti(1985-1989),ブランコ党のLacalle(1990-1994),2度目のSanguinetti(1995-現在)と続いています。得票数からすれば当初は拡大戦線党の候補者の方がいつも多いのですが,過半数までは取れず,決選投票で保守党の票がいずれかの保守党候補者に集まってしまうのです。また,連続再選の立候補は禁止されていますので,現大統領のSanguinettiは1期おいて第2次政権とういうことになります。私どもからすれば大統領選出のための直接選挙ならいざ知らず,各党の大統領候補者を選ぶのに一般の人々に何でこんなに宣伝しなければならないのかと思われます。候補者によっては独自のテーマソングにのせてテレビ放送もしています。各党の党員が内輪で選べば良いのではないかと思いましたが,次のような仕組みになっていることがわかりました。

いろいろなところにさまざまに工夫された
候補者のビラが張られる

まず,各党派から複数の候補者が出ます。有権者は党員でもない一般の人々で,それらに予め配られるビラには各候補者を推薦する多くの人の名前が印刷されています。推薦者には序列があって上位の人は殆ど元大統領とか国会議員でその派閥のボスとかブレインともいうべき人達です。この序列には重要な意味があるので後でまた述べます。今回の候補者選挙ではコロラド党からBatlle, Hierroおよびその他,ブランコ党からはLacalle, Ramirez.Volonteら5名,拡大戦線党からVazquezとAstoriの2名が立候補しました。その他小政党からもいわゆる泡沫候補者が多く立候補しましたが,それらのことはここでは割愛しました。投票は4月の最終日曜日(25日)に行われました。日本では考えられないことですが,投票当日でも各候補者の宣伝カーが走り回っていました。El Observador紙(1999年4月27日付け,最終確定票ではない)によれば主要政党別の選挙の結果は次の通りでした。

得票率53.7%,得票数(主要政党別)

 

コロラド党

ブランコ党

拡大戦線党

Batlle.........261,246

Lacalle.........177,616

Vazquez.........320,620

Hierro.........208,093

Ramirez.........118,632

Astori...........68,052

 

Volonte..........40,015

 
 

Ramos............29,332

 
 

Garcia............2,587

.............473,981

................368,172

................389,144

まず投票率ですが,今回の選挙は任意投票ですから53.7%はかなり高く,アメリカの大統領選挙でも50%そこそこです。本番の大統領選挙では有権者は全員投票する義務があります。党全体の得票率はコロラド党が全得票数の37.4%,ブランコ党が29.1%,拡大戦線党が30.7%で,各県別に見ればブランコ党が11県で,コロラド党が7県で,拡大戦線党が1県でトップを占めています。拡大戦線党の1県は勿論モンテビデオです。ブランコ党が多くの県で他党を押さえながら総得票数が少ないのは,首都のモンテビデオの得票数が少ないからです。

カラフルな横断幕も見られる。数字は候補者名簿番号

何しろ,ウルグァイの総人口約330万人のうち首都で半数にも及ぶ135万人を占めています。各候補者の県別得票数によれば左翼的な拡大戦線党のVazquezはモンテビデオやその周辺のカネローネスおよび中都市パイサンドゥなど労働者の多い県で多くの票を得ているのが特徴的です。コロラド党上位2名も同じ傾向が見られますが,Vazquezより地方で強いようです。ブランコ党候補者については上記の通りです。この選挙はあくまでも各党の大統領候補者を選ぶものであって,得票数がそのまま本番に反映するものではありません。
たとえば拡大戦線党のVazquezはその党の大統領候補者になるのは明らかですからかなりの人が他の党の候補者に投票した可能性もあります。決選投票はVazquezとBatlleとの一騎討ちになるとの見方があります。その結果,コロラド党の1位のBatlleと2位のHierroはこの選挙後,Batlleが大統領になった場合はHierroが副大統領のなるということで提携したと,地元のテレビは伝えています。
Batlleは建国以来,綿々と続く名門政治家の流れをくむ政治家です。Batlleの選挙結果は2期目の現Sanguinetti大統領の評価が試されることになります。しかし,この第二次Sanguinetti政権はコロラド党とブランコ党の連立政権ですので微妙なところです。また,ブランコ党のLacalleは大統領経験の優位性を保てるかどうかにかかっています。更にVazquezはモンテビデオ以外の地方の票の伸びに希望を託しています。

共和国大学法学部の卒業生からは歴代の大統領を
多く出している

これらの有力候補者はいずれもDr(ドクトール)です。BatlleとLacalleは共和国大学の法学部出身でDr(ドクトール)を付けて言われますが,これは医学,歯学,獣医学を卒業した人と共に法学(弁護士コース)を卒業した人には皆このように呼ばれます。また,Vazquezは医師で前モンテビデオ市長です。

投票の仕方は,前述のビラ(各党の大統領候補者名とその推薦者リスト)を予め有権者に配り,有権者はそれぞれを検討した上で投票所に行きます。そこで住所,氏名,IDなどをチェックされた後,封筒を貰い,その中に予め入手した選ぼうとする候補者のビラあるいは投票所に用意してあるビラを入れて投票箱に入れます。したがって,日本の投票用紙に当たるものはこの封筒になります。選挙管理委員会もあります。ここの研究所は国立ですから公務員である職員は選挙事務などに選挙前から投票後まで相当数が動員されました。

国会議事堂内の上院議場。ここに座る
議員も大統領選挙に左右されます

国会は上院(30人)と下院(90人)からなっていて,議員は来る10月31日(日)の大統領選挙の時に推薦者となっている人から選ばれます。仮に,A候補者が20万票とったとすると下院は3万票につき1名,上院は6万票につき1名選出される(3万票とか6万票という数字は例えです)ので,推薦者の中から下院6名,上院3名が序列順に当選することになります。いわば比例代表制で確かフランスと同じ方式だと思います。この方式だと国会のボスなど力のある人はいつも議員になることができ少々問題があるかもしれません。また,各県から万遍なく議員が選出されるか否かも問題になります。このように,推薦者の序列は日本と同じように大きな意味を持っています。各県の知事と県会議員も選挙もほぼ同じ仕組みになっています。

一説にはこの選挙費用だけで750万ドルかかったといわれ,決戦投票まであれば後2回のこのようなことが繰り返されることになり,経済にも影響するのではと危ぶむ声も聞かれます。何はともあれ,街中を旗や垂れ幕で飾った100台以上の車を連ねてクラクションを鳴らし続け,ビラを所構わずまき散らしていた大統領候補者の選挙は終わり街はやっともとの静けさにひとまず戻りました。
(1999年5月1日記す)

郊外の空き地には大きなものも掲げられます。
1ヶ所で3,000ドルもかかるものあるようです

 

 

 

 

 

『追加』大統領選挙の結果(10月31日)

党(候補者)

得票数

得票率

拡大戦線(Tabaré Vázquez

832,169

28.23

コロラド党(Jorge Batlle

684,235

31.43

国民党(Luis A. Lacalle

467,121

21.46

新空間(Rafael Michelini

94,574

4.34

市民連合(Luis Pieri

5,012

0.23