リンダ林道探検隊が行く!
番外「沢登りスペシャル」


はじめに
「リンダ林道探検隊が行く」というのは、かつてお洒落な四駆雑誌として知られた『4WD-EX』に連載されていた、イラストのキャラクター達と写真が合体した一風変わった人気の林道紀行でありました。記録係・倉田はその執筆者の一人であったため、今回の山行をリンダ隊が行ったならばという設定で綴ってみたいと思います。当時の関係者の皆さん、営利目的ではないのでご了承ください。

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すみ放以外の登場人物
・リンダ隊長
  フランス帰りの大阪人。思い込みが激しくわがままな性格で、いつも皆を振り回す。
・照男(てるお)
  写真担当。やさしく気がきく性格が災いし、いつもリンダ隊長の尻拭いをするハメに。
・フローレンス
  素直で従順。隊長を尊敬しているようにも思える、リンダ隊のマスコット的存在。
・ジェームス
  クールでここ一番で頼りになることもたまにある、照男の仲良し。

9月11日(土)、リンダ林道探検隊一行の姿は奥秩父に向かうミニバンの車中にあった。
久々の林道探検かと思いきやさにあらず、目的は沢登りである。
思い返すこと1カ月半前。北海道の東端「羅臼」町に友人を訪ねたリンダ隊長は滝が温泉になっている「カムイワッカ」に登り、沢に登ることの面白さを知ったのであった。
東京に戻ったリンダ隊長は、さっそく隊員たちに山行指令を出した。
「沢登りに出かけるざんす」
とはいっても、隊員たちは林道を走ることはあっても、沢に登った経験などまるでない。
パニックを起こしかけている隊員たちをリンダ隊長は一喝した。
「すみ放に連れてってもらうさかい、心配いらん」
てなわけで、一同意気揚々と出掛けてきたわけである。

目指す滝川というトコは奥秩父にあり、中央道を勝沼ICで降りたのちに、ぶどう狩り園が連なる国道140号線を北上。
全長6kmにおよぶ雁坂トンネルを出たあたりにある。
トンネルを抜けると左手に「出合いの広場」という地元の資料館があり、その駐車場にクルマを置かせていただき、沢支度を開始。

「わては鮎足袋ゆうのしかあらへん」
得意げにいうリンダ隊長。呆れ返る一同。
しかし、すみ放の下山隊長・斉藤氏が、なんとリンダ隊の装備も用意してくれている。
「どや」
ザックを背負ってますます得意げのリンダ隊長。ますます呆れる一同。
見上げた空は完全な曇りで、沢日和とはとてもいえないが、ともあれ、リンダ隊初の沢登りのスタートである。

今回リンダ隊を引率してくれるのは、前述の下山隊長・斉藤氏、すみ放の幹部候補生・河西さん、そして、すみ放の兄弟グループみたいな「カヌ沈隊」の力持ち・深町氏である。
「沢に着くまで、3時間ぐらい山道を行くよ」と斉藤氏。
クルマを降りて薮を抜ければすぐに沢があると思っていたリンダ隊一同。
誰より動揺したのはリンダ隊長であるが、
「あ、当たり前やろ。道路の脇に沢なんてあらへん。さあ歩くざんす」
そんな素振りを見せぬよう誰にともなく激を飛ばすのであった。
しかし、3時間の山道は辛かった。
急斜面を縫うようにアップダウンをする山道は、道幅にしてせいぜい50cmにも満たない。
しかも谷側は、バランスでも崩して落ちようものならどこまで転げ落ちるか検討すらつかない深さなのである。
何度か小休止をはさみながら、ひたすら進む一行。
途中何かを見つけては「見てくる」といいながらすっ飛んでいってしまう河西さん。
ビール1ダース、日本酒1升をはじめ、食料一切が入った巨大なザックを
浮き袋でも背負っているかのごとく顔色一つ変えずに担ぐ深町氏。
そのザックを「いつでも交替して持つよ」とヘラヘラうそぶく斉藤氏。

歩きに歩き、ここを降りれば沢という場所で一行を待っていたのは、急斜面が果てしなく続くガレ場であった。
「ここを降りるんやったら、わては引き返す」
そう言いたいリンダ隊長であったが、見れば照男もジェームスも、さらにはフローレンスまで、すみ放に続きすでに果敢に降りはじめているではないか。
不承不承、歩を進めるリンダ隊長。しかも唯一持参した鮎足袋が妙にきつく、足の指が丸まった状態でやけに痛い。下りはさらに指先に力が掛かるため、いっそう痛い。
そこから先は記憶がなく、気付くとガレ場を降りきっていた。
「なんや、もう着いてもうたんか」
足を引きずりながらも、余裕の表情をつくるリンダ隊長。失笑をこらえる一同。
しかし、何はともあれついに沢に着いたのである。

●  「ここから沢を15分ほど登ると広くていい幕場があるんだよ」と斉藤氏。
「はて、3時間も山歩きして、沢は15分ざんすか?」とは言えないほど疲れ果てたリンダ隊長。
川上から完全装備の釣り師が一人やってきて、釣り上げたという30cm大のイワナを見せつつ、すみ放隊と情報交換。
もう3時近いというのに、あの釣り師はあの山道を帰るんだろうかと思いつつ、先を急ぐべく沢に入れば、カムイワッカのようななだらかな感じではなく、水流に勢いがある。
膝下ぐらいの深さの場所も流れが強く、ヘタすると流されそうなほどだ。
「あんたら、深いとこもあるさかい用心せなあかんで」
照男たちに向かってそう叫んだのと同時に、痛くて力の入らない鮎足袋の指先がツルリと滑り、リンダ隊長は一気に胸元まで沈みかけてしまった。
慌てふためくその姿は、またも皆の失笑をかったが、「大丈夫、大丈夫」と呆れ顔の河西さんがザックの端を掴んで引き上げてくれ、九死に一生を得たリンダ隊長であった。

幕場についてまずリンダ隊長がしたかったことは鮎足袋を脱ぐことであった。
ふと見れば誰かが捨てていった「コカ・コーラ」と書かれた赤いサンダル。
摘まみ上げたフローレンスからサンダルをひったくり、沢で洗って素早く履いてしまうリンダ隊長に、またも皆呆れ顔。
そうこうしているうちに、斉藤氏と河西さんの手でタープが張られ、深町氏が抱えきれぬほどの薪をどこからともなく運んできた。
やがて盛大な焚火が燃え上がり、かなり遅めの昼食となったにゅう麺を啜り、さらにその勢いに任せてかなり早めの宴会に突入する。
メインはにゅう麺のスープをベースに発展させたつくね鍋と豚ロースの味噌漬け焼きなど。
仕込み、調理は斉藤氏がすべて担当し、その手慣れた感じは、焚火宴会人というラベルを貼ってどっかに並べておきたいほどである。

ビール10本、日本酒1升が瞬く間になくなり、深町氏と河西さんの合コンいつやる?などの相談話しで盛り上がっているうち、いつしか身体は横たわっていく。
しかし、横にはなっても雨がポツポツ落ちてきて顔に当たり、気になって寝ていられない。
リンダ隊はすごすごとタープ下に移動したが、すみ放の面々は顔がタープでできているのか微動だにしない。
そのうちに雨の中で寝てはいられないと思ったのか、斉藤氏、河西さんもタープ下に移動。
「深町く〜ん。雨だ起きろよ〜」と叫ぶ斉藤氏の声を聞きつつ、いつしか泥のように眠るリンダ隊であった。

翌朝、快晴。
昨夜斉藤氏が炊いたのに誰も手をつけていなかったごはんで、おじやと雑炊を作ることに。
深町氏とリンダ隊はおじや派、斉藤氏と河西さんは雑炊派。
二つの違いがよくわからなかったが、「おじやは煮込む。雑炊はごはんにスープをかける。オレはお茶漬けみたいにサラッとした感じのが好きなんだよね」
と斉藤氏はわがままをおっしゃる。
では、ってんで鍋に残ってる昨日のスープとゴハンを半分に分ける。
「うどん余ってるけど食う?」
斉藤氏の言葉に「食う!食う!」を連呼する深町氏とリンダ隊。

あとは下山するだけなので、食後は皆のんびり過ごす。
「プレゼンで今週は二日徹夜があって、辛かったっす」
という深町氏は焚火の前でまた一眠り。河西さんもタープの下へ潜り込む。
リンダ隊は斉藤氏に連れられ、フライフィッシングに挑戦するもまるであたりはない。
「あかん、なんも釣れへん。ここ死の川なんやないやろか」
リンダ隊長のぼやきとは裏腹に、斉藤氏は小さなイワナを釣り上げたりしている様子であった。
焚火の中で燃えカスになっていたアルミやゴミなどを拾い集め、昨日の沢と雨で乾ききらなかった服をつけ、そろそろ出発準備開始。
空を見上げれば木々の向こうに真っ青な空が広がる。
「どや、ええ天気ざんす」
まるで晴天が自分の手柄であるかのようなリンダ隊長。皆はもう歩き始めている。

深町氏がトップ、その後に河西さん、リンダ隊と続き、斉藤氏がしんがりを歩く。
沢のどこを歩けばいいのかまるでわからないリンダ隊は、河西さんが歩いたとおりにトレースしていく。
水量は昨日よりいくぶん減っているとのことで、今度はリンダ隊長もつっ転がったりすることなく進んでいく。
ところが昨日のガレ場登りがまことにキツイ。
ちと登っては休み、ちと登っては休みを繰り返すリンダ隊。
深町氏と河西さんがぐんぐん進み、しんがりを務める斉藤氏はあほんだらというようなお顔でリンダ隊一同を眺めていらっしゃる。
「このガレ場は、山登りでいうところの、どのぐらいのレベルざんすか?」
「う〜ん、中の上ぐらいかなあ」と斉藤氏。
「なるほど〜。そやさかい少々キツイなあ思ったざんす。わては中の中ぐらいのレベルやさかい」
腕も靴も下の下であるとは、とても言えないリンダ隊長。
足の指は相変わらず丸まった状態で、下山メインゆえさらに痛い。
結局、林道まで出たところでおもむろに鮎足袋を脱ぎ捨てコカ・コーラサンダルを履くリンダ隊長であった。

昨夜クルマを止めた出合いの広場に戻った一行は、手早く着替えを済ませつつ、山行のシメとして「ほったらかし温泉」に向かうことに。
クルマで30分ほど南下したところにあるのだが、林道をどんどん進んでいくのでよほどの秘湯かと思いきや、観光バスはいるは、バイクはいるは、マイカーも山ほどいるはで、一大観光地化しているではないか。
一行はどうも裏道から上がってきたようである。
早速ビールを一杯。つまみは「揚げ玉子」というもので、早い話が衣のついた柔らかめの茹で玉子である。
肝心の温泉はというと、これが甲府盆地を眼下に見下ろす素晴らしい眺望を誇る。
一行が着いたのは夕方なのでまだまだ明るいが、温泉自体は夜10時頃までやっているようなので、夜来れば最高の夜景が堪能できると思われる。
「どうだった?沢は」と問う斉藤氏。
「沢ゆうより登山やないの」
そう愚痴りたいリンダ隊長であったが、厚くもてなしていただいた、すみ放の面々にひたすら感謝の念を抱くリンダ隊であった。 (完)