大三本沢 (会津 叶津川)

'93/9/18曇りのち雨・19晴     渡部・斉藤


途中、シカやらタヌキやらウサギやらイタチやらわけのわからないモノやらが、ヘッドライトを横切った。山の神々と動物たち、そして魑魅魍魎の時間帯。深夜3時に到着した。

2万5千地図と道が合わず現在位置もわからない。
真っ暗な林道脇に車を止め、闇を肴に、とにかく入山祝い。

9月18日
朝一番で現在地確認。
福島国体開催に向け現代の八十里越えを作っているのか?道はそうとう先までのびているようだ。

 チンタラ9時に出発。釣師が多いのでしばらく杣道を行く。
ときおり
小雨が降るが、気温も高く快適だった。
そぼ降る雨に竿を出す気もおきず、黙々と遡行を続けた。
これと言って大きな滝はないが、丸っとした釜にツルツルの滝が多く、結構てこずる。

途中にあった、小川のようなまっすぐな瀬。晴れていれば綺麗なんだろうなぁ。

中流部に幕場適地も少なく、いつのまにか、まわりは源頭の様相。
3時過ぎから、沛然たる雨足となり、小さい川原はすべて水没。足元のアザミも水中花となっている。
増水し小さな釜の通過も難しくなってきた。時間だけが過ぎる。

不本意ながら小さなヤセ尾根に攀じ登りビバークの体勢にはいる。
出来るだけ平らなところを選んで、ネマガリ竹を切り払い、ツェルトを張る。
冷たい雨に打たれて、寒気が襲う。このまま寝ると疲労凍死しそう。

なんとか寝床をこさえ、ツェルトの中で着替えれば人心地つく。が、思ったより傾斜があり、ズリズリと谷に落ちそうで油断できない。
火も使えず、あまった握り飯を食って寝た。

夜半、雨足はさらに強くなった。ツェルトをたたく雨音に混じり歌声が聞こえてきた。
「あぁんんこぉ〜〜ツバキぃはぁ〜〜♪あんこぉぉ〜〜ツバキは♪」
浅草岳山頂から「アンコ椿は恋の花」が聞こえてくる。オバサンが熱唱してるのだ。
そんなわけないが、ホントに聞こえるので、そうゆうのに弱い渡部に話して楽しんだ。

9月19日
 まんじりともしない夜を明かし、ツェルトから這い出ると、雨はやんでいた。
代わりに視界3メートルほどの濃いガスに包まれている。
悲惨な夜ではあったが、それゆえこんな状況でもホッとする。

サッサと撤収し沢筋に戻り、浅草岳山頂を目指す。
源頭部に入っているものの、小さな滝が数個続き、やがて強烈なヤブとなった。
ときおりガスの切れ間から稜線がのぞくが、ヤブに阻まれ、遅々として進まない。

一時間半ほど漕いだだろうか、孫悟空よろしく、お釈迦様の手のひらで絶望的な気分になったとき、人の声が聞こえてきた。
「また幻聴か?」といぶかるワタベだが、しばらく漕ぐとあっけなく登山道に出た。
都はるみじゃなかったが、ハイカーの声だった。

浅草岳山頂は、未だガスに包まれているが、かなり山頂近いところに出たようだ。
眺望もきかないだろうと、山頂を背に避難小屋への道を降りた(単に疲れていたせいもある)
池塘をちりばめた湿原を縫うように木道がのびている。
途中にある天狗の遊び場を経由し避難小屋についた。

小さいながらも綺麗な小屋で一服し、昨夜の鬱憤晴らしに、ありったけの食料と酒で宴会をする。

知らぬ間に天気も回復してきた。開け放った扉から青空が広がり、草原が銀色に波打つ。
ゆったりした気分で夕べの惨事を肴に酒を呑み、跡片付けをしていると、山頂の方からひとりの登山者が降りてきた。
どこかで見た人だ。

斉「ワタベ。ほら、あの、ほれ、なんだっけ?あの人」(あんまりよく知らない)
渡「うんうん。そうそう。あの。ホレ。。そのぅ」(ど忘れ)
『こんちは〜。沢登ってきたの?』
渡「はい、昨日から大三本沢を」(緊張)
『ゆうべの雨大変だったでしょう』
渡「いや〜も〜大変でした」(緊張しまくり・汗)
斉「あの〜 もしかして〜その〜F瀬N夫さんでは」(大きな勘違い)
『ちがうよ!俺はF瀬じゃねえよ』(やや怒・苦笑)
渡「あっ!T桑さん!T桑さんですよねえ。T桑さん」(やっと思い出す。フォロー、汗、フォロー)

沢ビギナーの私は沢界の重鎮T氏に見事失礼なことを言ってしまった・・・スミマセンでした。(ってF瀬N夫さんにも失礼か?)

T氏は気さくにいろいろと話をしてくれた。
『どこらへんに出たの?』
「けっこう山頂付近に」
『ここのヤブきついからね。まっすぐ漕ぐの大変だよ。普通は左に流されて天狗の遊び場の下辺りに出るんだけどねえ・・・・・君ら、うますぎだね』
「そ、そうですか」(喜)
・・・単にルーファンが悪いだけなのだが。なんとなく褒められたようで、うれしかった。
T桑さんは市民ハイクの下見に来たそうだ。
しばらく話をして、我々は先に小屋を後にした。
憧れの浦和浪漫山岳会代表 高桑信一さま。お会いできて光栄でした。

天気はすっかり回復し、汗がふき出す。昨日の雨がうらめしい。
何回か登山道を横切る小三本沢で休み休み進むうちに、高桑さんに追い抜かれた。
渓流タビのその足運びはさすが年季を感じさせる。
かっこいい。

ぶなの森に夏の名残の蝉時雨。

3時過ぎに叶津川沿いの林道に出た。

ジャンケンに負けた渡部が空身で車の回収に向かったが、思ったより早く戻ってきた。
途中、高桑さんの車とすれ違い、乗せてもらったそうだ。

沢での天気は悪かったし、都はるみにも会えなかったけど、高桑さんに会えたのはうれしかった。