米子沢 (巻機山)

'93/10/11 晴     渡部・斉藤


上部のゴルジュ帯の入口にある6m滝を登るとはっきりした道がある。この道はかつて遭難救出の際に切り開かれたもので主稜線に通じている。この道は利用しないこと。(日本登山大系「南会津・越後の山」より)

ヤブを漕ぎ始めて、かれこれ1時間になるが、その主稜線はまだ見えない。
先月、只見の大三本沢で沢界の重鎮高桑氏に「ヤブ漕ぎがうまい」と褒められた?から、漕いでいるわけではない。

渡部と私は越後の名山「巻機山」にかかるこれまた名渓「米子沢」に登っている。

前夜、雨の中、巻機山登山口の駐車スペースで山の神にお神酒をささげたのがよかったのか、雨もあがり秋らしい青空が広がっている。

入渓点で8月のヒッツゴー沢にいたパーティーと会った。世間というか沢の世界は意外に狭い。

そのほか数パーティーが入渓していて、紅葉真っ盛りの米子沢はさすがに人気が高い。

駐車場手前の橋から入り、堰堤を3・4個越えると沢らしくなってくる。
前方にナメ沢の大きな滝が見える。大きなスラブには色とりどりの木々が映え、まるでパレットのようだ。

堰堤を越えきったところで、身支度をする。渡部はめずらしくタビに草鞋。

雨上がりのスラブ沢は、微妙なフリクションを要求してくる。
紅葉を愛でながらも、慎重に進む。

9時過ぎに、やたら滑りやすい3段40メーターを高巻き、その後は小滝の連続。
トップを交代で登るが、お互い相棒の足元にハラハラさせられる。とにかく滑りやすく、事故が多いのもうなずける。

12mスダレ上の滝を左側から越えると、ゴルジュが現れる。
左岸に巻き道が見え、なんの考えもなしに踏み込んだ。運命の分かれ道・・

出来るだけ小さく巻いたが、どんどん高みに登ってしまった。途中懸垂下降の跡があったが、空中懸垂のうえ、とても降りる気になれない高さだ。(たぶんこの工作をした人も降りなかったと思う。)
気づいた時には後の祭りだった。
ヤブの切れ間から、はるか眼下に今日登るはずの大ナメが見えた。

「静かだ・・・」「ヤブの中は静かだ」
ハイ松のヤブは漕ぐというより乗らないと前に進めない。
まるでサルだ。でも、サルじゃないから時々ハイ松の隙間を踏み抜き、ニッチモサッチも行かなくなる。二人して踏み抜くとなかなか抜け出せない。密ヤブの中で精魂尽き果て、渡部が「...秘密基地」とつぶやくのが可笑しかった。

1時間のヤブ漕ぎで小さな草原に出て、また1時間ヤブを漕ぐ。
やっと飛び出た登山道。当たり前だが、帰り道は米子沢を挟んだ遥か彼方の尾根にある。
水も汲んでないので、ビールで喉を潤し、言葉もないまま登山道を歩きはじめた。

「なんでこんなに登ったり下ったりするんだろう」「もうちょっと水平にならんもんか」
ブツクサいいながら巻機山ピークに着いたのは4時過ぎだった。(実際は巻機山という三角点はない、でも途中ニセ巻機山なんて紛らわしいものまである)

3倍ほどにも伸びた自分の影に追われるように登山道を駆け下りた。
ところどころに池塘のある綺麗な山だ。もう誰もいない山。ほんの4、5時間前は紅葉見物の登山者が沢山いただろうに。

駆け下りる我々に、沈み急ぐ秋の日が見事な夕焼けを見せてくれた。競うように全山のモミジが紅を放ち、山際がわからなくなるくらいだ。

やがて日は沈み完全にナイトハイクになってしまった。
ヘッデンで足元を拾いながら黙々と下山していると、先の方で火が揺らめいている。
きつね火?ひとだま??。
近づいてみると、松明だった。

男女5名のパーティー。
事情を聞くと、紅葉狩りに来て帰りが遅れたらしい。
あきれたことに誰もライトを持っていない。(酒瓶は沢山もってるのに...)
バーナーの白ガスで松明を作り下山しているが、心底困っているという。
(見りゃわかるっちゅうに・・・)

仕方ないので前後に付いてアホパーティーを誘導する。
女の子が数十センチの段差も尻を落としながら進んでいる。完全にバテてる。
8時前にやっと駐車場にたどり着いた。ホントに疲れ果てた。

行程のほとんどはヤブの中。アホパーティーのご案内までして。
帰りの関越道も全山紅葉の巻機山みたいにテールランプの列がどこまでも続いていた・・・
まさに一日千秋の山行、深夜帰宅。