唐松谷
(奥多摩 日原川)  '02/6/16(日)  曇りのち晴れ 河西・斉藤   記=斉藤


梅雨の合間を縫って日原林道に車を走らせる。
助手席に座る河西のナビゲーションでは、そろそろ小雲取山山頂に着く頃だが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「カワニシ・・・・・・そりゃ登山道だろ?どうやって車で山頂まで行くんだよっ!おまけに見る方向ギャクじゃねえか!」
今月末のカヌ沈山行に備え、練習を兼ね日帰りの沢に向かっているのだが、河西には読図の課題も加えておこう。(こやつはMSCCとの豆焼沢山行で8の字を結べないどころかエイト環を取り出す失態も演じている。)トオガク沢参照

唐松谷へのアプローチはナビがヘボでも林道脇に富田新道の看板があるので間違えることはない。
車をおき身支度を済ませる。仰ぎ見る空は曇り空、ただ快方に向かう明るさはある。いずれにしてもここまで来たのでとにかく行けるところまで行く事にする。

山道を降りていくと日原川本流にかかる吊り橋に着く。橋の左手に見える4m滝(F1)が唐松谷の出合だ。
橋を渡り、そのF1の上から入渓する。いまひとつパッとしない空模様に鬱蒼と茂る木々が重なり薄暗い出合だ。ちょっと気が重いが河西に叱咤されながら登攀具をつけ遡行を開始する。

今回は河西と二人だけの山行だ。相棒の渡部はここのところ仕事が忙しく顔をだせない。
川原の石はどれも昨日の雨に濡れたままなのかどれも湿っぽく黒い。ところどころに赤いラジオラリア岩が散見され、さながら海苔弁に梅干の趣きだ。

今回は練習山行なので、できるだけ河西を先頭に水線通しに進む。気温、水温は比較的高かった。
河西の課題は飛び石の着地とビミョーなヘツリ時のフリクションの効かせ方、および高巻きトラバースのスピードアップ。
私は飲酒時における体力の温存と腹回りの贅肉解消。
なんて書くと、さも私が沢の上級者のようだが、そんなことはなく技術も向学心も無い私はずうっと初心者なのだ。
ただ、長く登っている分、山に教えてもらったことが多いのと“危ないことはしちゃならぬ”の戒めを守ってきただけだ。

天気はともあれ沢はまんべんなく高度を上げ、結構楽しめる。何個かの小さな滝の先に野陣の滝が見えてきた。想像よりは小さく感じた。
1段目には左側上部に残置ピンがある、ホールドはしっかりしてるが、最後の一越がちょっとヤラシそうだ。
ザイルを出しながらしばし思案。ついでにウィスキー。
めずらしく河西が私の差し出すウィスキーを呑む。滝の飛沫があたってさみ〜のだ。
とにかく登ってみましょと河西にビレイを任せ、ザイルを引く。初ビレイに河西も緊張してるが、私はもっと緊張する。落ちるつもりは無いが、落ちたら止まらんだろうなぁ。
慎重によじ登り、半身を上に出したところで2段目を覗き見る。高さはないがヌラヌラしていてこっちの方がヤラシそうだが、とにかく登りきって河西を確保する。
トップロープとは言え、河西の登りっぷりはよく、心配するほどのこともなかった。1段目の落ち口をまたぎ、小さな釜を回り込み2段目も左側を直登、3段目は記憶に無いくらいなので、あっさりと登ったのだろう。
野陣の滝を越えると、ところどころ沢も開け明るい曇り空?から薄日が差し込む。

ちょっとした滝で直登と巻きをジャンケンで決める。ジャンケンの弱い河西は水線突破でビショビショだ。
なにやら「トリャ〜!」とか「コンニャロ!」とか「ほう〜と〜う!」などと叫んでいる。ウィスキーの肴には最高だ。(フフ、すみ放流はキビちいのよ)

そんなことしてる間に2段15m滝が現れる。1段目からして直登不可能な滝だ。左岸上部に大きな岩盤がかぶさっているが、巻きはその上を行く。手前のザレから登り、落ち口のレベルでトラバースするが、岩盤のまわりは小さく巻こうと試みた形跡か、行き止まりの踏み跡が何個かあるだけだ。結局この大岩を乗越さないとこの滝は巻けない。
岩の頭に乗るとすぐに落ち口への窪がある。落ちると痛いので、お助け紐を木にかけて慎重に降りる。

巻き終わりしばらく行った明るい川原で昼飯にする。お湯を沸かしお手軽カップラーメンをすする。河西は煮卵入りナンタラカンタラとかいう複雑なカップラーメンを食べていた。

体も温まりテンションを上げ出発。小さなゴルジュを抜けしばらく行くと3段7mのお出ましだ。
3段目がツルツルで登攀意欲は湧かない、と言うか無理だ。右岸を3つまとめて巻いたところがイモリ沢の出合だった。

イモリ沢を分けいくつかの小滝を越えていくと釣師がいた。
全体に白い服装と白い帽子をかぶっていたので修行僧かと思いドキッとした。(そんなものいるわけないのだが、それゆえに)

こちらの存在を知らせるようにビナをガチャつかせながら近づき、話し掛けてみると気さくなおじさんだった。
釣果はチビ岩魚が数匹だけで、全部リリースしているらしい。面白いのは釣りをしていながら「ホントは海が好きなんだよね」なんて言ってる。「カミサンが山好きでね」と指差す上流で奥さんがペコリと頭を下げている。
快く先行を許してくれたおじさんに礼を言い、数十メートル先にいる奥さんともちょっと世間話。
立ち姿に凛としたものがあり、50過ぎには見えない若々しいチャーミングな人だった。
中国の諺で「一時幸せになりたければ酒を呑め、 3日幸せになりたかったら結婚をしろ。 一生幸せになりたかったら釣りをしろ」と言うのがあったが(本読めとか豚食えとかもあったかな?)、結婚も一生の幸せにしてしまった、うらやましいご夫婦だった。

気持ちのいい人に出会うと、気分がいい。これがギラギラした釣師だと最悪なのだが、なんとなく足取りも軽くなる。
そこから先は穏やかな渓相で、倒木のパズルを超えると平瀬が現れる。平らな川底に道のように水が流れ気持ちのいいところだ。のんびりと登って行くと左岸に登山道の石積みが見えてくる。

本日の遡行はここまで。小雲取山はこんど車で行こう。なっ?河西。
穏やかな川原で登攀具をはずし、よく整備された唐松林道を下山する。小一時間ほどで吊り橋に着く。

しかし、最近は他会の山行にお邪魔するばかりで会の活動がままならない。
河西がいなければ今シーズンはまだ一回しか行っていないことになる。渡部の早い復帰を望む。

吊り橋を渡り、林道への山道を登る。この急登が一番の核心部かもしれない。折りしも梅雨の合間の青空からまぶしい日差しが照りつける。いっせいに鳴きだすゲンキンなセミの声に「もうすぐ夏なのだな」と汗をぬぐい一歩一歩確かめるように林道へ向かった。


8:30 車発/9:00 唐松谷出合発/9:40 野陣の滝/11:00 2段15m巻き終了/12:00 小さな川原で昼食/13:00 同発/ゴルジュを抜けると穏やかな渓相
/13:15 3段7m右岸を巻き降りるとイモリ谷出合/14:30 左岸に石積みの登山道/15:50 車着