※注意※ この先は、色々と目も当てられないくらい独自解釈及び俺設定に満ちています。 そういうのが嫌と感じる賢明なあなた、読まないことをお薦めします。 それでも読んでくれるぜというチャレンジャーで勇気ある方々、読んだら遠慮なく がんがん言いたいことを言って下さって結構です。

































〜BGM〜 あのエンディングテーマ(以後の台詞からどのテーマか判らない方、ごめんなさい)







空が赤く染まり、虫の声が野っ原から子供たちに別れの言葉を送る、そんな優しい黄昏の時間のこと。穏やかな笑顔を浮かべた半人の神獣に手を引かれ、子供達が帰りの道を辿っていた。 その口からは、音程のろくにない、ハーモニーも考えていない、けれど陽気な歌声が流れていた。

「熊の子見ていた かくれんぼ…」
「…夕焼けこやけで またあした またあした…」
「…おいしいおやつにほかほかごはん 子供のかえりを待ってるだろな…」

歌声が、年経てふしくれ立ったぶなの木の葉をかさりと揺らした。半人の神獣はそちらをふと 仰いだが、やがて、はてと首をかしげて、子供たちと共に立ち去って行った。 そして、先ほどの賑やかさの後での寂しさが立ち込め始めたころ、木の葉の中から、がさりと 一人の鬼が顔を出した。瓢箪を片手にもう片手で太い枝を支えにし、その鬼、萃香は子供たちの去った方角をじっと見つめて小さく歌った。

「…ぼくもかえろ おうちへかえろ…か」

ふとほろ苦い笑みをこぼすと、彼女はぐいと瓢箪を呷った。その脳裏には、過ぎた日の思い出が色鮮やかに蘇ってきていた。



それは、遠い昔の話。

「あの人間達の顔ったらなかったよ。やっぱり父様は強いねえ!」

人に化けて混じりこんだ村祭りの相撲大会で勝ち取った三俵の米と共に、大きな肩に軽々とかつがれながら、萃香はしっかりと父にしがみついていた。父の肩はとても広くて逞しくて、 そしてあたたかだった。

「はは、そう暴れると米が落ちてしまうぞ。なに、最近の人間はすっかりなまっておるから、 運動にもならぬわ」
「なら、今度私が父様の好敵手になったげるよ!いつまでも子供のまんまじゃないからね!」
「はははっ、それは楽しみよな」

その太い腕と大きな背中にはまだまだ乗っていたかったけれど、喜ぶ顔を見たい気持ちは もっと強かった。萃香にも、そんな大好きな父がいた。



それは、いくらか昔の話。

「鬼は内、鬼は内…おっと、もうおいででしたか」
「ご主人、約定通りまた参りましたよ。周りは追い出された鬼で一杯だと言うのに、あなたは まことに変わり者ですね」
「ほっほっほ、腹を割れる呑み友達が、皆先に冥界の花見の場所取りに行きおりましてな。 そちらの招待が来るまでろくにうまい酒が呑めそうにありませんので、話に聞く鬼との宴会を 試してみたかったのですよ」
「ああ、そういう訳でしたか。で、お酒の味はいかほどでした?」
「言わずとも知れましょう。この老骨にはもう嘘をつくほどの我が身かわいさもありませんからな。 まことを見逃すあなた達ではないはず」
「ふふ、違いありませぬ」

楽しそうに杯を交わす母と人間を横目に、萃香は自分も胸の奥に酒の熱さを感じながら酒の肴を支度していた。 鬼と人との宴がどんなものかを目にして、彼女にも少しだけ、鬼がどうして損な生き方を黙って耐えているのかが分かる気がした。萃香にも、そんな大好きな母がいた。 それは、そんなに昔でもない話。



それは、ちょっとだけ昔の話。

「じゃあ、行ってらっしゃい」
「ええ。たぶん、もう会えないと思いますが…しかし」

堅い声で言いかけた、その生真面目そうな青年の言葉を遮って萃香は言った。

「ううん、あなたはきっとまた帰る。ね、母様」
「その通り。この地を愛してくれたあなたには、この地からの招きがある。例え体をなくしたとしても、その心は還ってこの地と一体になりましょう」
「…ありがとうございます。最後の思い出にとこの山に来て、本当によかった。 これで、もはや思い残しもなく戦争に参れます。愛するものの何一つとも離れることはないと 判ったのですから。それに…」

青年は、萃香の顔をちらりと窺うと、晴れやかな笑顔で続けた。

「あなたは、幼い頃の私が憧れたままでした。あなたはどこまでも曇りがなく、どこまでも強 い。こんな美しいものを見せられたからには、死ぬことなど怖くなくなりました。 それよりも、私が醜くなり果ててその美しさを裏切ることのほうがよほど怖い」

そう言うと、彼は一度最敬礼をし、踵を返して歩き出した。 萃香はどこまでも陽気な笑顔で手を振りながら、その背をじっと見送り、いつまでも見送った。 そして、どこまでも陽気な笑顔のまま、いつしか涙を流していた。 そんな彼女の頭を、母は黙って撫でていた。 父は何も言わず、ただ杯を傾けていた。 そんな父と母と人が、萃香は大好きだった。



「今、どうしてるかなぁ。みんな…」

無理に笑顔を作って、彼女はもうひと口酒を呷った。 尊敬する父と母、そして陽気な鬼の里の仲間たちと別れて、彼女もけして寂しくないわけはない。しかし、耐えなければならなかった。それは、彼女が自分から歩み出した道だったから。 いくら性格的に異端児とはいえ鬼たる萃香、ただの気まぐれで幻想郷に来られるわけではない。 そもそも、幻想郷に鬼はいてはならぬという古い約束があり、当然それを破らねば彼女は幻想郷にいられないのだ。

その約束は拘束ではなく願いであったことを、彼女は知っていた。 鬼と人との絆が薄れ、それどころか人がかつての自分たちさえ忘れ始めたそんな時代のこと。 鬼はこのまま完全な幻想になってはならぬと、日の国そのものたる鬼はけして現世から失われてはならぬと、そんな願いを込めた約束が交わされた。 だから、幻想郷にかつていた鬼たちは皆、進んで出て行ったのだ。けして平和過ぎたからばかりではなかった。そう知っていながら、彼女 は約束を破った。それは、あまりにも悲しく重い罪だった。 しかし、それでも彼女はそうせずにはいられなかったのだ。

「それじゃ、行って来るね。…ごめん、皆。鬼が約束を破るなんて、鬼全部の恥なのに」

その日、現世に繋がって存在する鬼の隠れ里を彼女は旅立とうとしていた。 そして、彼女のしようとしていることを知りながら、里の皆は見送りに来てくれていた。

「お主を止められぬ我らもまた、お主と同じことを望んでいるのだろうて。ならば、我らも 同じ罪を甘んじて受けよう」

手ひどい裏切りで現世の数少ない社を壊されたばかりで、まだ床から起き上がることも出来ない はずの鬼の長老までが、若長の肩を借りて彼女を見送ってくれていた。

「しかし、掟は掟。二度と里に入れるわけには行きませぬ。それでもよいのですね…萃香」

ただ静かに見つめる萃香の父の横で、母がそう尋ねた。

「鬼に二言はあんまりないよ。私は、これから幻想の鬼になりに行く。今までありがとう、母様。 それに父様も、里の皆も」

はっきりと答えて、彼女は陽気に笑って歩き出した。 しかし、現世への門を一つくぐるごとに、そんな彼女の胸は、たくさんの家族に囲まれて暮らし た鬼の里での思い出に打ちのめされた。 何度打ちのめされても慣れることはなく、むしろ一度ごとに強くなるその打撃の中で、それでも 彼女は笑っていた。ここで自分の選択を嘆いてしまっては、それを否定せずに送り出してくれた 里の皆に顔向けが出来なかったからだ。

鬼は、けして失われてはならぬ。しかし、鬼どころかその記憶さえも衰退するばかりであった。 だから、萃香は鬼の一部、すなわち自分を幻想郷に入れ、「幻想の中の鬼」を創り上げたのだ。それは何故か?人は皆、幻想を追うからだ。 人はいつだって幻想の中に失われて初めて大事なものに気づき、遅まきながらそれを取り戻そ うとあがく。だが、人の力はときに、本当に幻想を現実に引っ張り戻す。その力に彼女は賭けた。 彼女が現世から失われることで、人に彼女を、鬼とその体現していた誠とを思い出させるのだ。

幻想になれば、きっと人は無責任にも追い求めてくれる。そして、いつかは鬼と人との関係さ え取り戻してくれる。かつて見たかけがえのない宴会のために、そして鬼の仲間にもう一度心から笑ってもらうために、彼女は己の全てを捨てて、現世から繋がっているはずの幻想郷を目指した。 そんな萃香を、幻想郷の黒幕たる八雲紫は結界の中に誘ってくれた。拍子抜けするほどにあっさりと。それどころか友人にさえなってくれた。幻想の鬼としての萃香を、彼女は認めてくれたのだ。 それがどうしてだったのかは、なにぶん彼女のこと、断言までは出来ないが、判る気はした。

「…にしても、どうしてこうまで思い出すもんだかね。今さら」

子供たちの歌など、今まで何度でも聞いたはずだ。なのに、どうして今日に限って、昔のことをこうまで生々しく思い出してしまうのか。

「おうちにかえろ…たって、帰れる家なんかもうないのにね」
「あら、家はなくなったりしないわよ。どんな生き物だってなくせない、古い古い境界なんだから」
「紫。やなとこに出てくるね、相変わらず」

どこまで見聞きしていたのだろうか。頭上からにゅっと現れた友人に、萃香は胡乱げな視線を 向けた。

「お褒め頂きまして」
「褒めてない褒めてない。いやまあ、ひょっとしたら褒めてるかも知れないけど」
「ひどいわ萃香ったら、よよよ」
「褒めてないって言われて悲しいのか、それとも褒められたから悲しいのか。あんたの場合どっちか判らないよね」
「まあ、それはそれとして」

紫は、懐から古風な和紙の書状を取り出した。

「今日に限ってそう思ったの、これが届いたのが原因じゃないかしら。虫の知らせかな…いや、 鬼の知らせ、になるのかしらね」

言い終わるよりも早く、萃香はその書状をひったくって慌しく開いていた。 それは、鬼の里からの手紙だった。

「紫…あんた、これ」

「手紙を運ぶくらいは別に、ね。別に、受け取りに行って受け取ったわけでもないし。偶然隙間に紛れ込んだのよ。もしかしたら誰かが隙間に着くような場所に落としたのかも知れないけど」

「でも、届けてくれたんでしょ?ありがとう」
「んー…まあ、ね」

輝くような笑顔で礼を言われて、さしもの紫も言葉に詰まった。まったく、正直の固まりは嘘の固まりにとって手ごわいものだ。そうしている間にも萃香は書状を読み進め、見る見るその目には涙が浮かんで来た。 と、彼女は書状を大事そうに脇に置くと、いきなり、瓢箪の酒を自分の顔にばしゃんとぶっかけた。

「あ、ごまかしはいけないんじゃないのー?」

にやにやと言う紫に、平然たる調子で萃香は答えた。

「私は酒を顔に浴びただけ。どう見るかは見る人の勝手。別に嘘もごまかしもないよ?」
「ずいぶんずるいわねえ」
「嘘をつくのとずるいのは全然別のことでしょ」
「違いないわね」

ぽたぽたと垂れる滴が紙に落ちないように注意しながら、彼女は書状を再び読み進めた。 たくさんの鬼が文を書いていたが、どれもこれも記憶の中のままの、変わらない書き手が窺えるもの ばかりだった。 読んでいると彼女の胸はとても熱くて、そしてとても涼やかになった。

「…こっちから行けないと、案外向こうから来てくれるものよ。家ってね」
「…そうね」

萃香が短くぽつりと答え、それきり沈黙が落ちた。 やがて、沈黙を破ったのは紫だった。

「…だから、いつかはね」
「…ん」 「ぼくもかえろ おうちへかえろ♪よ」
「ふふ…でんぐり返るのはいいけど、ばいばいはしたくないな。 楽しい連中、こっちにも沢山いるもの」
「友達を連れて帰っていけないって法はないでしょ」
「違いないわね」

それから、二人の少女の笑い声が、まだ金色の残る明るい夜空にどこまでも曇りなく響き渡って行った。













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萃夢想本編萃香編の
「ほらね。幾ら鬼が幻想郷を見捨ててから長い時間が経ったとしても……本当に忘れ去られてるなんて」
「鬼?鬼なんてもうとっくに居ないわよ。そんな嘘で誤魔化しても駄目」
より、かつては鬼は幻想郷にいたと推測

同魔理沙編の
「鬼なんて幻想郷に居る訳無いだろ?そういう約束じゃないか!」
より、何らかの約束によって鬼は幻想郷から閉め出されたと推測

疎と密の能力を「八力(大自然が動き活動する力のこと)」のうち「解力」「凝力」と関連づけ、東方における鬼は元々妖怪よりもっと根源的なものだと推測

幻想郷にはおらず、現世の人にも忘れられていながら両者のことを知っていることから、鬼は両者に接点のある別の異界に隠れ里を構えているものと推測

以上の勝手な四点の解釈にもとづき、紫がイレギュラーを幻想郷に入れてくれた理由と、萃香が幻想郷に来た理由を考えてみました。ちなみに、あの歌を使ったのは聞いている際にだいたいの構想が出来たからで、それほど深い意味はありません…でした。最初は。なお、あくまで「こんなんもありかな」という感じの解釈ですので、他の方々の幻想郷を否定する意図は全くありませんのでどうかご了承ください。