「百科事典 Encylopedia」
『科学革命の百科事典』におけるアン・ブレアの記述を紹介します。
「百科事典 Encyclopedia = Encyclopaedia」という用語は、16世紀にはじめて使われたが、内容的に「百科事典」的な書物はそれ以前にも存在した。
もっとも有名なのは、プリニウスの『自然誌 Historia Naturalis (博物学)』だが、中世にもその種のものは数多く作成された(代表的なのは次のもの。Vincent de Beauvais (1190?-1264?) = Vincent of Beauvais, Speculum maius (Bibliotheca mundi seu Speculi maioris Vincentii Burgundi)『大きな鏡』。13世紀に執筆され、1624年までに6回印刷された。1624年の版では約2000頁の大冊となっていた。)
ルネサンスの時代に、新しい知識の爆発的増加があった。1.人文主義者による古代のテキストの発見。2.新世界の発見。3.自然現象に対する新しい関心。4.新しい活版印刷術による出版物の増加と普及。
さらに、古い統一は、キリスト教においても、スコラ哲学においても破れつつあった。そうした状況で、16世紀の学徒は、古い知と新しい知のコンパクトな概要を必要とした。
そうした需要に応えるものとして、一方では、もと「知の円環」を意味したギリシャ語から1500年前後に造語された「 Encyclopaedia」的なもの、すなわちばらばらに見える知識の統一性を示すもの、あるいはペトルス・ラムスの方法のようにひとつのシェーマによってすべての知識を整理するものが出現してきた。
もう一方では、"Encyclopaedia" とは名付けられなかったが、浩瀚な参考書群、すなわち、劇場 Theatrum、宝庫 Thesaurus、体系 Systema、森 Sylva などの名前をもつものが出現した。このジャンルには、古くからあるものとしては、アルファベット順に並べられているが、厳密には言語的な説明にとどまならない Ambrogio Calepino, Dictionarium,1502 のような、辞書 Dictionarium が含まれる。新しいものとしては、コンラート・ゲスネルの『万有文庫 Bibliotheca universalis』(1545) のようなビブリオグラフィー、テオドール・ツヴィンガーの『人生劇場 Theatrum humanae vitae』(1565) のようなコモンプレイス・ブック、またアルドロヴァンディやジョンストンのような自然誌の特定の分野に関する百科事典的書物がある。
"Encyclopaedia" と名乗るものでは、アルシュテットのEncyclopaedia(1630) が哲学的組織的図式と個々の学術分野の詳細な紹介を兼ねるものとして特筆される。
こうした百科事典的著作は、科学史における豊かでほとんど手付かずの資料である。
→まったくアン・ブレアの言うとおりです。豊かでほとんど未開拓のジャンルです。
(参考文献:アン・ブレアは次の3点を上げています。
Robert Collison, Encyclopedias: Their History Throughout the Ages, New York, 1964
Frank Kafker (ed.), Notable Encyclopedias of the Seventeenth and Eighteenth Centuries, Oxford: Voltaire Foundation, 1981.
L. Loemker, Struggle for Synthesis, Cambridge, M.A.: Harvard University Press, 1972
私が持っていて読んだことがあるのは、最後のレムカーのライプニッツ研究だけです。)さて、Loci Communes というタイトルの書物を捜索してみましょう。
こうした書物は、職業上のアンチョコ(手引き、マニュアル)の意味を持ちます。大学を基盤とする知的世界において、専門職は、まずは神学、医学、法学です。(大学の3上級学部)。
神学においてもっとも成功したその種の書物は、メランヒトンによるものです。
Melanchthon, Philipp, 1497-1560
Loci communes rerum theologicarum seu hypotyposes theologicae
Wittenberg, 1521
カソリック側の同様の書物としては、スペイン人ドミニコ会士カノーによるものがあった。
Cano, M
Epitome locorum theologicorum,
Cologne, 1602
次の書物のタイトルは、主旨を端的に語っています。
Labata, F.
Apparatus concionatorum seu loci communes ad conciones ordine alphabetico digesti ... Cum triplici indice
Lyons, 1615
ラバタ『説教師の道具、あるいはアルファベット順に整理された説教のためのロキ・コムーネス(コモンプレイス)』ぐらいでよいでしょうか。
自分が仮に中世やルネサンスの時代に神学部を出て、聖職者になったと想像してみます。そうすると、この種の本のありがたさは、たぶんすぐに理解できると思います。
もし仮に医者になったとして、あるいは法律家になったとしても、やはりこの種のアンチョコは欲しいと思います。
手元にちょうどよい2次文献がないので、検索をかけたものから適当に選んでいくつか医学のコモンプレイス本を挙げておきましょう。
Valleriola, Francois, 1504-1580
Loci medicinae communes, tribus libris digesti : quibus accessit appendix, universa complectens ea, quae ad totius operis integritatem deesse videbantur
Lugduni : Apud haeredes Sebastiani Gryphii, 1562
Brunfels, Otto
Theses seu communes loci, totius rei medicae : Item. De usu pharmacorum, deq[ue] artificio suppressam aluum ciendi, liber
Argentorati : Excudebat G. Ulricher, 1532
Joannes Munterus編の次のものを含むようです。
Alexandri Benedicti ... Sententiae medicinales.
Sententiarum medicinalium Arnoldi Neocomensis de morborum curationibus, Liber primus.
Sententiarum medicinalium Arnoldi Neocomensis de singulorum moroborum remedijs, & methodo curandi eos, Liber secundus.
Arnoldi Nouicomensis De morbis uestigandis, Regulae.
Eiusdem Arnoldi De curatione Febrium, Regulae quadraginta
Bolduan, Paulus
Bibliotheca philosophica :
sive: Elenchus scriptorum philosophicorum atqve philologicorum illustrium, qvi philosophiam ejusq;
partee aut omnes aut praecipuas, quovis tempore idiomaté
ve usque in annum praesentem Redemptionis M. DC. XIV descripserunt, illustrarunt & exornarunt, secundum artes & disciplinas, tum liberales tum Mechanicas earumque titulos & locos communes, autorumque nomina ordine alphabetico digesta.
Acceserunt graecae latinaeqvu lingvarum tum profarum tum ligatarum autores classici, illorum aetates atq; interpretes, ac inde extructa variarum linguarum lexica, loci communes, apophthegmata, colloquia, phrases &c.
additis ubivis loco, tempore & forma impressionis. Universis et singulis omnium artium & scientiarum studiosis, ad studia sua commodius formanda, masimè utilis & pernecessarius
Jenae : apud Joannem Weidneru, impensis haeredum Th. Schureri, 1616
次には、アルシュテットのもの。
Alsted, Johann Heinrich, 1588-1638
Methodus ss. theologiae in sex libros tributa.
In quorum
I. Theologia naturalis.
II. Theologia Catechetica.
III. Theologia Didactica, seu loci communes.
IIII. Sotirologia seu scholae tentationum, & casus conscientiae.
V. Prophetica, ubi rhetorica & biographia ecclesiastica.
VI. Theologia acroamatica
Offenbachi : Typis Michaelis Fabritii, impensis; Antonii Hummii, 1611
Alsted, Johann Heinrich, 1588-1638
Triumphus Bibliorum Sacrorum seu Encyclopaedia Biblica exhibens triumphum philosophiae, iurisprudentiae, & medicinae sacrae, itemq[ue] sacrosanctae theologiae ... ex Scriptura V. & N.T. colliguntur.
Francofurti : apud Bartholomaeum Schmidt : Anno 1625
アルシュテットの百科事典についてのおさらい。
Alsted, Johann Heinrich, 1588-1638
Johannis-Henrici Alstedii Encyclopaedia septem tomis distincta :
I. Praecognita disciplinarum, libris quatuor.
II. Philologia, libris sex.
III. Philosophia theoretica, libris decem.
IV. Philosophia practica, libris quatuor.
V. Tres superiores facultates, libris tribus.
VI. Arte mechanicae, libris tribus.
VII. Farragines disciplinarum, libris quinque
Serie praeceptorum, regularum, & commentariorum perpetua.
Insertis passim tabulis compendiis, lemmatibus marginalibus, lexicis, controversiis, figuris, florilegiis, locis communibus, & indicibus; ita quidem, ut hoc volumen, seconda cura limatum & auctum, possit esse instar bibliothecae instructissimae
Herborn, 1630
→ヨウの論文ですが、科学技術百科として、チェンバーズの『シクロパエディア』(1728)は3番目とあります。
1番目は、1690年ハーグで3巻本として出版された『万有辞書』、
2番目が、ハリスの『レキシコン・テクニクム』(1704)です。さて1番目のものに関して私はほとんど知識がない。調べてみました。
Furetière, Antoine, 1619-1688
Dictionaire universel, contenant generalement tous les mots francois tant vieux que modernes, et les termes de toutes les sciences et des arts
A La Haye et a Rotterdam : Chez Arnout & Reinier Leers, 1690
筑波大が、この1690年版をもっています。その後の版をもっている図書館もわずかですが、国内に存在します。
リプリントがあります。(Geneve : Slatkine Reprints, 1970)こちらは、さすがに国内でも20館が所蔵しています。
邦語での研究論文はないようです。
→フュルティエールの『万有辞書』については、ウェブにいくらか有用な情報がありました。これをもとにイエズス会が『トレヴー辞典』を編纂し、1704年に出版しています。
→『トレヴー辞典』と繋がるのであれば、非常に興味深い。
『トレヴー辞典』邦語の研究論文を調べてみました。次の1点が見つかりました。
平賀裕子
「『トレヴー辞典』との比較に見られる『百科全書』の新しさ : 「中国」という項目を通して」
『Lilia candida : フランス語フランス文学論集』(白百合女子大学)27(1997): 34-52
帰宅すると、次の本が届いていました。
John Harris
Lexicon technicum: Or, An universal English dictionary of arts and sciences
London, 1704; Reprinted by Johnson, 1966
大きなフォリオの2巻本です。初版をジョンソンリプリントがリプリントしたものです。[フュルティエールの『万有辞書』]
サイニーでは、邦語先行研究なし。[『トレヴー辞典』]
サイニーでは、次の1点のみ。
平賀裕子「『トレヴー辞典』との比較に見られる『百科全書』の新しさ : 「中国」という項目を通して」『Lilia candida : フランス語フランス文学論集』(白百合女子大学)27(1997): 34-52[チェンバーズ『シクロパエディア』]
サイニーでは今のところ、下の鷲見氏の一点のみ。
鷲見洋一「『百科全書』 第一趣意書の重要性 : チェンバーズ問題解明のために」『藝文研究』(慶応義塾大学芸文学会)77(1999): 334-318*[ジョン・ハリス『レキシコン・テクニクム』]
なしか? (私は見つけることができませんでした。)その他の辞書に関しても、日本語の先行研究がないかどうかは網羅的に調べるつもりにしています。
しかし、現時点では、中世・ルネサンスの百科辞典から、18世紀初頭のハリスやチェンバーズ、そして、18世紀の金字塔『百科全書』までをしっかり追いかけた研究はどうもないようだ、という見通しを得るに至りました。
18世紀フランスが生んだ辞書・事典の金字塔『百科全書』に関しては、邦語でも研究は相当数あります。
[ツェードラー『学術大百科事典』 Universal Lexicon aller Wissenschafften und Künste ]
次の2点のようです。宮島光志; 船木祝; 御子柴善之; 中澤武; 中澤孝子
「ドイツ啓蒙主義の日本像に関する各種文献の翻訳(前編) : 「人間性の探求」と「異文化理解」の事例研究のために」
『福井大学医学部研究雑誌』5(1/2)(2004): 43-62大橋渉
「『ツェドラ-百科事典』と項目「日本」について」
『和光大学人文学部紀要』通号20 (1985): 299-319
[トーマス・ダイチ『英語辞典』 A new general English dictionary ]
なしか。(私は見つけることができませんでした。)
[モレリ『歴史大事典』 Le grand dictionnaire historique ]
なしか。(私は見つけることができませんでした。)
[コルネイユ『技芸学芸辞典』 Dictionnaire des arts et des sciences ]
なしか。(私は見つけることができませんでした。)
[Gianfrancesco Pivat Nuovo dizionario ]
Nii にまったくなし。
[サヴァリ『総合商業事典』 ]
なし。
[ショメル『日用百科事典』(家政辞典): Chomel, Noel, 1633-1712, Dictionnaire oeconomique, contenant divers moyens d'augmenter et conserver son bien, et meme sa sante1709 ]
これは、そのオランダ語訳から、『厚生新編』が編まれたという経緯があり、その点に関する邦語の先行研究はあります。
菅野陽
「『ショメール』オランダ語版」
『日本洋学史研究III』(創元社,1974) : 71-112Besineau,Jacques; 佐藤,文樹; 伊東,正受 訳
「フランス文化と蘭学--ショメル著「家事辞典」の邦訳」
『ソフィア』 23(1)(1974/05): 79-98矢部一郎
「「ショメ-ル百科」(「厚生新編」)・「植学啓原」・「植学独語」の関連」
『日本医史学雑誌』 21(4)(1975/10): 317-330徳元琴代; 福田豊彦; 道家達将
「ノエル・ショメ-ル原著デ・シャルモット訳補 大槻玄沢・宇田川玄真訳校「厚生新編、諸薬蒸留法・諸薬蒸留法之二」--「厚生新編」第三十二巻と思われる未刊行稿本(史料紹介)」
『東京工業大学人文論叢』通号3 (1977): 1-21森川甫
「「厚生新篇」の原著者,ノエル・ショメルについて」
『関西学院大学社会学部紀要』通号40 (1980/03): 611-621『厚生新編』に関しては、まとまった研究書が出版されています。
杉本つとむ編著
『江戸時代西洋百科事典 : 『厚生新編』の研究』
雄山閣出版, 1998
次の論文のコピー。
Richard Yeo, "Ephraim Chambers's Cyclopaedia(1728) and the tradition of commonplaces", JHI, 57(1996): 157-75
帰宅すると、アマゾンより次の書物が届いていました。
寺田 元一
『「編集知」の世紀一八世紀フランスにおける「市民的公共圏」と『百科全書』』
日本評論社、2003
→目次は次の通りです。
序論 「啓蒙」から「編集知」へ
第1章 「市民的公共圏」―サロン、カフェ、劇場
第2章 情報・出版文化
第3章 「汎智」から「編集知」へ
第4章 「辞典戦争」の中の「編集知」
第5章 ヴェンチャー、「ギャルソン」、『百科全書』
第6章 「『百科全書』戦争」
第7章 『百科全書』の「編集知」
第8章 ダランベールの「体系知」
第9章 クロスレファレンス
第10章 『百科全書』の「人間」ネットワーク、その綻びと新たな回復の試み
第3章のもととなった論文は、「一七世紀百科全書主義(汎智)から一八世紀『百科全書』(編集知)へ」『唯物論研究年誌』(青木書店)第2号(1997): 278-310 、第8章のもととなったのは、「エピステモローグ、ダランベール」『一橋論叢』第99巻第6号 (1988): 80-100 とあります。
→3章、4章を読みました。これがいまのところ、『百科全書』以前のフランスにおけるさまざまな百科事典的辞書のもっともよい総覧と言えるようです。
ただし、16世紀、17世紀との繋がりの把握は弱い。97頁から、大きなフランス語辞典の出版史を訳しておきます。
1690:フュルティエール『万有辞書』、フォリオで3巻
1694:『アカデミー辞典』、フォリオで2巻
1701:バナージュ・ド・ボーヴァル編『フュルティエール万有辞書』、フォリオで3巻
1704:(イエズス会)『トレヴー辞典』
1708:バナージュ・ド・ボーヴァル編『フュルティエール万有辞書』、フォリオで3巻
1718:『アカデミー辞典』第2版、フォリオで2巻
1721:『トレヴー辞典』第2版、フォリオで5巻
1727:Brutel編『フュルティエール万有辞書』、フォリオで4巻
1732:『トレヴー辞典』第3版
1740:『アカデミー辞典』第3版
77頁から、18世紀の大事典。
1674:モレリ『歴史大事典』
1694:コルネイユ『学芸事典』
1709:ショメル『農業経済事典』
1723-30:サヴァリ『総合商業事典』
→私はこれまで寺田さんの文章をきちんと読んだことはありませんでした。しかし、何か関係するところがあるな、と思っていました。おお、学部の先輩でした。今、授業をしている、科学史・科学哲学の先輩です。おそらく、4年上。大学院は、一橋に行かれているので、私とは同じキャンパスで重なっている時間はないようです。
ですが、大森荘蔵・廣松渉という2人の哲学者に教えを受け、村上陽一郎氏に教えを受けたという点では、共通します。学部3年生のときに、心身問題に関する「大森荘蔵・廣松渉」合同ゼミに出席したとあります。ああ、そういうの、やっていたんだ。ちびどもが寝付いたあと、すこし仕事をしています。外は雨。先週の金曜日も、駒場からの帰りすこし雨がちらつきました。先週は結局傘をささずにすみました。今週は、西荻駅をでたところで、傘をカバンから出しました。本格的な雨降りです。
[初期近代の科学技術(技芸学芸)事典]
せっかく手元にハリスがあることですから、ハリスの序文を読んでみました。
類似の辞書・事典との差異を説明しています。まず、それをリストアップしましょう。Stephanus Chauvin
Lexicon rationale sive Thesaurus philosophicus
Rotterdam, 1692; Leeuwarden, 1713『アカデミー辞典』
Grand Dictionaire Des Arts & Sciences, par M. de l'Academie Francoise
フュルティエール『万有辞書』
Mr. Furetiere's Dictionary
Jacques Ozanam, 1640-1717
Dictionnaire mathématique
1691Bartolomeo Castelli,
Lexicon medicum Graeco-Latinum
Messina, 1598,
& many other editions.さて、ハリスは、The Chymical and Physical Dictionaries of Johnson, Castellus and Blanchardと書いています。
カステルスは、上のギリシャ語-ラテン語医学辞典でまちがいないでしょう。
しかし、ジョンソンとブランシャールの辞書がわかりません。何を指すのでしょうか? ウェブでいろいろ調べてみましたが、これというのに辿り着きません。
どこかで聞いた、あるいは見たうすい記憶があるのですが、それも思い出すことができません。
わかる方がいらしたら、是非、お教え下さい。
→07.10.22 化学辞書であれば、クロスランドにあるかもと思い、クロスランドの『化学の言語の歴史的研究』を本棚から探し出しました。
あった!ありました。
W. Johnson, Lexicon Chymicum... editio ultima, Frankfurt & Leipzig, 1678
ハリスは、その後、辞書ではなく、最新の専門書に直接依拠したと書きます。これこれの分野に関しては、誰それの著作によったと記します。
ニュートン、フック、ハリー、ボイル等々の名前と著作を挙げていきます。ハリスの辞典ですが、(昔ごく一部を図書館で調べたときとは違い)手元においてよく見ていると、予想していたのと違う点があります。
まず、2巻組ですが、1巻が A-M、2巻がL-Z というふうに予想していたら、両巻ともに、A-Z の構成でした。
ごく一部を抽出してみましょう。Lを見ます。
第1巻のLは、Label; Labia Leporina; Labial; Laborant; Laboratory; Labyrinth; Lac Lunae; Lacertus; Lachrymale punctum; Lachrymae ...
第2巻のLは、Label; Lacerta; Laches; Lachrymatories; Lada; Lada; Lafordswick; Laga; Lagedayum; Lagen,...第1巻の最終項目は、Zymosis.
第2巻の最終項目は、Zoperus. それから、出版社の "A Catalogue of Books" が2頁あり、その後にいろんなおまけがついています。
まず、対数表 "A Table of Logarithms, for Numbers increasing orderly from 1 to 10000, with their Differences. Whereby the Logarithm of any Number under 100000 may be readily taken." 本文にはページがついていませんが、この付表には1から始めるページがついています。44頁まで。それから、対数の説明が10頁ついています。(An Account of the Origine, Nature, Construction, Uses, and Application of the preceeding Tables of Logarithms).次に三角関数の数表 "A Table of Natural and Artificial Sines, Tangents, and Secants to every Degree and Minute of the Quadrant, The Radius of the Artificial being 10,0000000, and of the Natural, 10,000,000." これが120頁。
次には、動脈と静脈の図があって、その説明が8頁。
次には、帆船の外面図と内面図(構造図)があって、その名称が1頁。
次には、新しく作られたローリーの六分儀 "The Description of a New Sextant, lately made for the Observatory in Trinity-College, Cambridge, By Mr. John Rowley"
そして、最後に、両巻をカバーするアルファベット順の索引。
これは、技芸・学芸の分野毎に、テクニカルターム(専門用語、技術用語)をアルファベット順に並べています。この部分は、相当に有用です。以下は、分野だけ列挙します。Navigation and Sea-Terms. 航海と航海用語(海事用語)
Mathematical and Philosophical Instruments, and Practical Mathematicks. 数学的道具・自然哲学的道具&実践数学
Arithmetick and Algebra. 数論と代数学
Natural Philosophy and Physicks. 自然哲学と自然学(物理学)
Geography and Chronology. 地理学と年代学
Chymystry. 化学
Heraldry. 紋章学
Architecture. 建築
History, Antient Custum, & c. 歴史、古代の風習他。
Anatomy. 解剖学
Agriculture and Hortulane Terms. 農業と庭園用語
Opticks and Perspective. 光学
Botany, Natural History, and Meteorology, & c. 植物学、自然誌、気象学
Law, Common, Civil and Canon. コモンロー、市民法、教会法
Grammar, Rhetorick, Poetry, & c. 文法、修辞学、詩学
Mechanicks, Staticks, & c. 機械学、静力学
Conicks. 円錐曲線論
Dialling. 日時計製作法
Chyrurgery, Pharmacy and Names of Diseases. 外科学、薬学、病名
Musick. 音楽
Geometry. 幾何学
Fortification, Gunnery, and Art Military. 築城術、砲術、軍事用語
Logick, Metaphysicks and Ethicks. 論理学、形而上学、倫理学
ごく一部記載例を。
第1巻に "Hydrostaticks " の項があります。22頁!を占めています。
次のように始まります。「流体静力学は、流体の重さと平衡に関わる静力学の一部である。それはまた、物体の比重を定め、他の有用な理論を導き出すために、水または他の適当な液体中で物体の重さを計る術を含む。」
そして、ほとんどボイルの要約 (Hydrostacical Paradoxes) のような文章がほぼ22頁続きます。
第2巻は、先行研究の列挙が有用です。たとえば、"Physicks, or Natural Philosophy." の項目では、「読者に自然の真にして有用な知識を与えるこの主題に関するもっとも卓越した書物は次のものである。」として、ニュートンから始まり、ボレリ、ウォリス、ボイル、キール、ディットン、チェイン、フック、レイ、ウッドワード、ライプニッツ、ホイヘンス、マリオット、ガリレオ、等を経て、・・・・グリマルディに至る33点の出版物を挙げています。(なかには、『(王立協会)哲学紀要』や『Acta Eruditorum Lipsiae』のような雑誌も含みます。)
おおきいちびを除き、6時。おおきいちびは6時半。一応晴れ。[ジョンソンの化学辞書]
10月20日からの続き。
ハリスが掲げる、The Chymical and Physical Dictionaries of Johnson, Castellus and Blanchardですが、ジョンソンの化学辞書はわかりました。
M. Crosland, Historical Studies in the Language of Chemistry, New York, 1962 に記載がありました。
W. Johnson, Lexicon Chymicum... editio ultima, Frankfurt & Leipzig, 1678
さて、クロスランドは、フランクフルトとライプチヒで出版された最終版を挙げています。初版等の情報も欲しい。調べてみました。
EEBO が3つの版を収納しています。William Johnson, fl. 1652-1678
Lexicon chymicum
London, 1652, 1657,1660フルタイトルは、次の通り。
Lexicon Chymicum. Cum Obscuriorum Verborum, Et Rerum Hermeticarum, Tum Phrasium Paracelsicarum, In Scriptis ejus: Et aliorum Chymicorum, passim occurrentium, planam explicationem continens.ジョンソンでドイツ人ということもあまりないだろうと思ったら、案の定でした。ウィリアム・ジョンソンのものでした。この英訳は、すでに自分で製本して手元においています。
残るは、ブランシャール。わかる方、いらしたら、是非、連絡をお願いします。
→大学に出たときに、検索をかけてすぐにわかりました。ブランシャールをフランス人だと思いこんでいて、すごくへたくそな検索を20日はしたことが判明しました。ハリスが言及する文献は、次のものです。S. Blancard
The physical dictionary
2nd edition, London, 1693もともとは、次のラテン語です。Blanchard's physical dictionaryはその英訳でした。
Blankaart, Steven, 1650-1702
Lexicon novum medicum Graeco-Latinum
1690ゼーラント出身ですから、オランダ人でした。発音は、ステヴェン・ブランカートでよいのでしょうか。→九大のミヒェルさんは、ステフェン・ブランカルトと表記されています。
おお、その、ブランカルト(ブランカート)は、日本とも関係があります。舶来された西洋解剖学書にブランカルト(ブランカート)のものがあり、その図が、永田善吉『内象銅版図』(1808)に採録されたとあります。こういう繋がりは予想していませんでした。
→
ハリスの表記、The Chymical and Physical Dictionaries of Johnson, Castellus and Blanchard (ジョンソン、カステルス、ブランチャードの化学と医学の辞典)ですが、調査結果をまとめておきましょう。
これは、『ジョンソンの化学辞書』『カステルスの医学辞書』『ブランカールトの医学辞書』という3つの辞書を指しています。ここで注意しておきたいことは、"physical" の用法・意味です。現在の英語で、"Chemical and Physical" とあれば、「化学と物理の」ということです。しかし、この時代に、"physics"=物理学という用法はできあがっていません。下の、ハリスの技芸学芸の専門分野の列挙にあるように、"physics"は、自然哲学のほぼ同意語です。(リーダーズ英和辞典は、それを、「((古))自然科学」としていますが、厳密に歴史的に言えば、ミスリーディングな訳語です。(現在の自然科学に当たる、ということであれば、そういうことです。)
ここのハリスの用法での"physical" は、「自然科学」の他に"physic" の古い意味として挙げられている、「医術、医業」の方です。"physician" と言った場合の"physic"の意味に通じる方です。→205対33
ここで、"Lexicon medicum" というのに、どうして"Medical Dictionary" とはしないのだろう?という疑問が生じました。
17世紀の文献を読んでいても、確かに、あまり "medical" の語に出会わない。
EEBPO の著作名で検索をかけてみました。
Physical: Medical= 205: 33
という結果になりました。"medical" という言葉を使わないわけではありませんが、圧倒的に "physical" を使うことが多いことがわかりました。
Richard Yeo
Encyclopaedic Visions: Scientific Dictionaries and Enlightenment Culture
Cambridge, 2001→1点、ヨウ氏は非常に興味深い書誌の転記ミスを犯しています。p.302.
Ann Blair, 'Practices of Bookish Natural Philosophy', in Nicholas Jardine and Marina Frasca-Spada (eds.), Books and the Sciences in History, Cambridge: Cambridge University Press, 2000, pp.69-89.
これはただしくは、次です。
Ann Blair, 'Annotating and indexing Natural Philosophy', in Nicholas Jardine and Marina Frasca-Spada (eds.), Books and the Sciences in History, Cambridge: Cambridge University Press, 2000, pp.69-89.
この転記ミスの原因ですが、ひとつの可能性としては、もともとの原稿では、ヨウ氏のようになっていた可能性を考えることができます。
(ヨウ氏もこの本に論文を書いています。計画のときから誰がどういうテーマで書くかは知っていて、アン・ブレアさんが途中でタイトルを変更した可能性を考えることができます。)
実際に手元にある書物を写して、この転記ミスは、ありえないでしょう。どこかの段階でこの形があったと考えるべきだと思われます。
ヨウ氏の『百科辞典的ビジョン』が来たことですし、気になっていた点を整理していきます。
技芸学芸辞典(科学技術辞典)の前史。
1.難語辞典
Robert Cawdrey
A Table Alphabeticall of Hard Usual Words
London: E. Weaver, 1604Thomas Bount,
Glossographia: or a Dictionary, Interpreting all such Hard Words...now used in our refined English Tongue
London, 1656Edward Phillips,
A New Worlde of English Words or, A General Dictionary Containing the Interpretations of such hard words as are derived from other Languages
London, 1658最初のコードリーの『難語アルファベットテーブル』ですが、E-Text of Cawdrey' Table Alphabeticalll が簡単にゲットできます。(リプリントもあります)。タイトルを拾うと、次のようになります。
ATable Alphabeticall, conteyning and teaching the true writing, and vnderstanding of hard vsuall English wordes, borrowed from the Hebrew, Greeke, Latine, or French. &c.
とくに、ヘブライ語、ギリシャ語、ラテン語、フランス語という外来語に由来する英語の難語の辞典です。教育的場面でのこの必要性は多言を要さないでしょう。フィリップスの辞書は、もっとはっきりしています。
The new world of English words, or, A general dictionary containing the interpretations of such hard words as are derived from other languages, whether Hebrew, Arabick, Syriack, Greek, Latin, Italian, French, Spanish, British, Dutch, Saxon, &c., their etymologies, and perfect definitions : together with all those terms that relate to the arts and sciences...
ヘブライ語、アラビア語、シリア語、ギリシャ語、ラテン語、イタリア語、フランス語、スペイン語、ブリテン語、オランダ語、ゲルマン語に由来する難語の他に、技芸・学芸の専門用語を含む、とあります。それだけではなく、
to which are added the significations of proper names, mythology, and poetical fiction, historical relations, geographical descriptions of most countries and cities of the world, especially of those three nations, wherein their chiefest antiquities, battles, and other most memorable passages are mentioned
つまり、固有名詞も、地理学的情報も、歴史的情報も含みます。これは、明らかに、百科事典的な方向性をもつ辞書と位置づけることができます。
2.専門用語・術語辞典/専門辞典
数学(ex. Ozanam's Dictionnaire Mathématique)、(自然)哲学(ex. Chauvin's Lexicon Rationale)、化学、医学、解剖学、建築等々の専門辞典、あるいは専門用語・専門術語辞典。
とくに初学者向けには、こうした辞書の必要性は言うまでもないことです。3.百科辞典/技芸・学芸辞典
"Dictionary of Arts and Sciences" と称する辞書・辞典の一群です。
もちろん、代表的には、英語圏では、Encyclopaedia Britannica; or, a dictionary of arts and sciences、そしてフランス語圏では金字塔Encyclopédie, ou dictionnaire raisonné des sciences, des arts et des métiersですが、ハリスやチェンバーズの辞書等、"Dictionary of Arts and Sciences"の分野に所属する辞書は、実は数多い。
英語の辞書学に関しては、さすがに、信頼できるサイトがすぐに見つかります。以下に、カナダのトロント大学のものを2つマークしておきます。
The Early Modern English Dictionaries Database (EMEDD)
Lexicons of Early Modern English (LEME)
→このサイトは、ほんとうによくできています。みっけものです。
Lexicons
では、1480年出版のThe Discripcion of Britayne から、1702年出版のEnglish Dictionaryまで157点の辞書がリストアップされています。これはありがたい。
また、私におなじみのアコスタの『インディアスの自然文化誌』(英訳、1604)から、"A Table of the most remarkable things contained in this Naturall and Morall Historie of the Indies" を抽出していくれています。こういうのも新鮮です。
またプリニウスの英訳: Pliny's Hsitory of World(1601) から"A brief catalogue of the words of arts.." を抽出してくれています。こういう情報も有用です。
つまり、巻末に付されているグロッサリーも拾ってくれているわけです。貴重な仕事です。→せっかくリストがあるので、カウントしてみました。
難語辞典:105点/157点
医学辞典:14点/157点
薬草名辞典:8点/157点
数学:8点/157点
航海と海:6点/157点
→ただし、化学の辞典は、ほとんど取り上げられていません。
[百科辞典の歴史]
いろいろ間に合わないのですが、次の本から重要なポイントをすこしだけ紹介しておきましょう。
Frank A. Kafker (ed.), Notable encyclopedias of the seventeenth and eighteenth centuries : nine predecessors of the Encyclopedie, Oxford : Voltaire Foundation, 1981
著者は、序で、リン・ソーンダイク ( Lynn Thorndike, "The Encyclopédie and the history of science", Isis 6(1924), p.361) を引いています。
「百科辞典は、科学と文明の歴史においておそらくもっとも重要なモニュメントであろう。」それなのに、一部の例外を除き、ほとんど研究されていない。
「百科辞典は、情報提供の意図で、非常に豊かな専門的知識を包含しており、その他の文書より少なくとも故意にミスリーディングなところはすくない、それだけではなく、当時の人間の関心の全領域をカバーしようとしている。」
さらに次のように付言できよう。その時代の思想や信念だけではなく、本の取引、政治的生活、社会構造を照らし出すことがあるのである。まったくその通りです。
Frank A. Kafker (ed.)
Notable encyclopedias of the seventeenth and eighteenth centuries : nine predecessors of the Encyclopedie
Oxford : Voltaire Foundation, 1981
これは、『百科全書』につながる9つの辞典を取り上げたものです。次の9点。
Louis Moreri's Grand dictionnaire historique
Antoine Furetiere's Dictionnaire universel
Thomas Corneille's Dictionnaire des arts et des sciences
Pierre Bayle's Dictionnaire historique et critique
John Harris's Lexicon technicum
Ephraim Chambers' Cyclopaedia
Thomas Dyche's New general English dictionary
Zedler's Universal lexicon
Gianfrancesco Pivati's Nuovo dizionario