更新日 : 2002年 2月14日
尺八雑話(8) 「着物(4)」
袴を穿(は)く時、床からの高さが難しい。
あまり高く穿くとと、ミニスカートではあるまいしと思われるのも癪である。かといって、あまり低くすると自分の足で踏みつけてえらい事になる。
ある演奏会でいよいよ、本番、例によって、目が釣りあがって袴の高さどころの話ではない。どこのホールだか忘れたが、舞台に上がるのに、三、四段の階段があった。
あわてて、上がろうとしたとき、ビリビリという音が耳に飛び込んだ。足元を見ると、足は最上段にあるのに袴の裾はまだ、一段目にある。
周りに居た、同じ曲の出演者から、「あらま」といった、同情と絶望の混じったような声が聞こえた。
やっと、我に帰って、良く事態を観察すると、横の割れ目を中心に見事に袴が裂けてぶら下がっている。あっと思ったが、失われた時は戻らない。
と、その時である。小生の人生で二度とあるまいと思う程の幸運に巡り遇った。
後ろから階段を上ろうとしていた人が、ちょっとお待ちなさい。自分は呉服を扱っている者だがと言って、実に手際よく応急措置をしてくれたのである。
まるで、アラジンの不思議なランプを擦って、呉服屋を呼んだような話ではないか。
どんな措置だか詳しくは忘れたが、垂れている布地を手繰り上げて帯に巻き込んでくれたような記憶がある。
その時の言葉は今でも良く覚えている。
「これで駄目ならお諦めなさい。気をつけて・・」
舞台はひたすら袴の無事を祈っているうちに終わった。
世の中に夢のような話があるなら、ランプを擦って、素晴らしい演奏を一度はしてみたいものである。ただし、ランプを擦って宗家を呼んでも、「自分で吹くのはいいが、あなたに化けるわけにはいかない」と断られるかもしれない。
はかまさけ ごふくやのかお ありがたき
蛙